BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
パティスリームクロジでカエデさんの見るなかでお菓子作りが始まった。
何でも良いから、カエデさんの前でお菓子を作り味をみてもらう。
それが、カエデさんが最初にくれた課題だった。
「何でも良いから、私に一つお菓子を作ってみて下さい。まずどれくら出来るのかを見る必要がありますから」
「わ、分かりました」
人から見られながらお菓子を作るのは、サイトウさんのお礼として作ったとき以来な気がする。
幼い頃にコルニ姉さんへのお礼としてお菓子を作ったあの日から、お菓子を作り続けてきた。
だから、きっと大丈夫。
いつも通り、いつも通りにお菓子を作れば良いんだ。
なんなら、少しだけ多めに作って今日のグレイシアのお菓子にしちゃおうかな。
そうだな………クッキーを作ろう。
薄めにして焼いてマホイップのクリームと適当な木の実をミックスしたヤツをいくつかサンドする感じの。
ベルトからモンスターボールを取り出してボタンを押す。
「マホイップ、マホイップのクリームと木の実を混ぜてクッキーで挟むお菓子を作るから、クリームの準備をお願い、ゆっくりでいいからね」
「マホ!?マ、マホイプゥ!」
見慣れない場所に現れたに少しだけ驚いた様子のマホイップだったが、いつものように頑張るねと意思を伝えるようにその小さな両手をぐっと胸元?で握るマホイップ。
それを確認して、カエデさんの用意してくれた食材で生地を作っていく。
マホイップの出してくれるクリームと合わせる木の実を選ぶ。
爽やかな感じが良いかな、柑橘系……よし、オレンの実を使おう。
少し強い甘味としては、モモンのみを細かく刻んで混ぜようかな。
これならクッキー以外の食感も楽しめるだろうし。
自由に使ってよいと呼ばれた食材から、まずモモンの実とオレンの実を選んで刻む。
オレンの実をブレンダーで食感が残らないくらいに細かくつぶしてペースト状にし、マホイップが出してくれたクリームと混ぜる。
「ポケモンと一緒に作るのね」
「は、はい。いつもこうして作ってるので……」
「いいわねぇ。何処か、あなたらしい感じがするわ」
よし、乗せるクリームはこんな感じかな。
次は常温に戻したバターと砂糖と丁寧に混ぜ合わせる。
白っぽく、ふわりと空気を含むまで。
ハンドミキサーを使うと時間短縮になるけど、なれている泡立て器を使ってかき混ぜる。
溶いた卵を少しずつ加え、生地をまとめていく。
混ぜすぎないように気をつけながら、丁寧に。
台の上で生地を伸ばし、薄く整えていく。
「……へぇ」
型抜きした生地を天板へ並べてオーブンへ入れると、ほどなくして甘い香りが厨房へ広がり始めた。
あとは、焼き上がったクッキーにさっきのクリームをサンドしていくだけ。
今の間に使ったブレンダー達を水に浸けておく。
そして少しして焼き上がったクッキーが冷めるのを待ち、出来上がったクッキーにクリームを塗って挟んでいく。
ひとつ、またひとつ。
焼き上がったクッキーに、マホイップが用意してくれたクリームと木の実のペーストを丁寧に塗っていく。
力を入れすぎれば割れてしまう。
だからこそ、塗るのではなく乗せるイメージだ。
最後の一つを重ね終えて、私は皿へと綺麗に並べた。
「ふぅ……できました」
少しだけ緊張しながら、カエデさんへ差し出す。
「では、いただきますね」
そう言ってカエデさんは一つ手に取る。 さくっ、と軽やかな音が厨房に響いた。
「……うん、美味しいわ!」
その一言に、肩に入っていた力が少しだけ抜ける。
「クッキーの焼き加減もいいし、クリームの甘さも上手にまとまってる。オレンのみの爽やかさが後味を軽くしていて、モモンのみの食感も良いアクセントね」
「よ、良かった……」
素直に褒められるのは、やっぱり嬉しい。
けれど、現実はそううまいことばかりではないと分かってる。
「──でも」
やっぱり、その言葉は続いた。
「えっ……」
「少しだけ、“優等生”すぎるかしら」
「優等生すぎる……?」
「ええ。とても丁寧で、失敗もない。 でも、“あなたのお菓子”っていう強い印象はまだ薄いの」
「……」
わたしの、お菓子………。
「誰かを喜ばせたい気持ちは、ちゃんと伝わるわ。でも、お店を開く事が夢なら“この人のお菓子が食べたい”って思わせる
お菓子の個性。
そんなこと考えたことが、なかった。
これまでポケモンも食べられる美味しいものを作る。
それだけを考えてきたから。
「ふふ、でもお菓子を作るのは丁寧なのはよいことね。これなら教えることも少なそう、お店のお手伝いも問題ない。私とお菓子作りを通して、一緒にあなたのお菓子の個性を探していきましょうね」
その言葉は、指摘なのにどこか優しかった。
「……はい」
そう答えた時だった。
「カァ……」
足元を見ると、カルボウが欠伸をしていた。 どうやら完全に退屈しているらしい。
「ごめんね、もう少し待ってて──」
そう言って頭を撫でようとすると、 カルボウはするりと私の手を避ける。
「……あ」
やっぱり少しこの子は、難しいな。
そんな様子を見ていたカエデさんが、小さく笑った。
「ふふ、その子もなかなか難しい子みたいね」
「……はい」
「でもね、ポケモンもお菓子も似ているのよ」
「え?」
「急ぎすぎると、うまくいかないのものよ。突然のきっかけが解決してくれる場合とあるけど、丁寧に時間をかけて向き合うことも大切なのかもしれないわね?」
私はカルボウと、どう向き合っていくべきなのだろうか。
そんなことを考えながら、私はカルボウの姿を見つめた。
あのあと、カエデさんとは改めて自己紹介やこれから行うことについて話し合った。
そうして寮に戻ってきた頃はちょうどおやつ時だった。
寮に戻ってくる私以外の学園の生徒達を横目に、カエデさんの元で作ったクッキーサンドを取り出す。
すると私の腰ベルトにつけていたモンスターボールが開く。
私の予想通り、現れたのはグレイシアだった。
その顔は「ちゃんとおやつを渡してくれる時まで待ってあげたんだから、早く渡してよね」というような感じの表情を浮かべている。
そして目線は作ったクッキーサンドの入ったタッパーに注がれてる。
「アハハ、本当にお菓子が好きだね。グレイシア、いいよ」
そう言いながらタッパーの蓋を開けて、グレイシアの前に置こうとした時だった。
グレイシアがタッパーへと口を下ろす前に、タッパーの姿が手から消えた。
「え?あ、あれ?」
慌てて視線を動かす、落とした筈はない
すると少し離れたソファの近くで、カルボウがタッパーを抱えていた。
「カァ!」
その表情はまるで「こいつを探してるんだろ?」と言わんばかりで、まるで勝ち誇るようにこちらを……正確にはグレイシアを見ていた。
「え、ちょっ、カルボウ!? それ、グレイシア───」
言い終わるより早く、カルボウはタッパーを傾け、自身の口へクッキーサンドへ放り込む。
勢いよく口へと入っていくクッキーサンド、止まることなくカルボウの口へと流れ込んでいく。
な、なにして?それにどうして急に?唐突な行動に困惑から固まっていた時だった、ぶるりと体が震えた。
寒い?部屋の温度はさっきまで暖房がいらないくらいにちょうど良い天気だったから冷房なんて着けていない。
「────ア゙?」
もうグレイシアの鳴き声じゃない……普通に切れたスケバンみたいな声が聞こえた。
慌てて見れば、グレイシアの顔に明らかな苛立ちの表情が浮かんでいた。
額には青筋が浮かんでいるような錯覚を覚えてしまう。
そんなグレイシアにカルボウは空になったタッパーをふりふりと振ってから捨てる。
明らかな煽りが見えた、だがグレイシアはやがてゆっくりと深呼吸すると怒りを抑えるように床に体を預けて眼を閉じる。
えっと、許してくれた……のかな。
生まれたばかりのカルボウだからと、そう言うことなのだろうか。
そんな疑問を浮かべながらタッパーを拾っていた私は、驚きと苛立ち表情を浮かべるカルボウに気付くことが無かった。