BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
深夜、グレープアカデミーに在学する生徒の中の殆どが暮らしている寮は静寂で満ちていた。
生徒もポケモンも、みんなが眠りにつき一部の夜行性のポケモン達が元気に動き回っている。
シアンの宛がわれた部屋、シアンはベッドに横になり気持ち良さそうに眠っていた。
キッチンではマホイップが眠り、主人公のベッドの近くにはアブソルやグレイシアが眠っている。
ちなみに、ミュウは器用に空中に浮かびながら眠っていた。
そんな部屋の窓に揺れ動く小さな影があった。
影の正体はカルボウ、彼は生まれながらにして強さを求めていた。
特に大きな理由やきっかけがあった訳ではない。
ただ、純粋に強くなりたいと生まれながらに考えていた。
心の奥底、それこそ自身の魂とも言える根幹が叫ぶのだ。
俺は強くならなければならないのだと。
それであるにも関わらず、自身のトレーナーはポケモンバトルをしない。
いや、しないどころ拒んでいた。
自身のトレーナーは"強さ"を求めていなかった。
でも、トレーナーが従えるポケモンは一部を除いて、肌で感じられる程の強者だった。
カルボウにとって、一番強者であるソレを感じたのはグレイシア……彼女であった。
自身の叶わなかったポケモンをあっさり倒してみせた強さ、普段の気怠げな様子からは考えられない程のポケモンバトル。
カルボウはグレイシアの強さに触れた。
カルボウ自身の強さを求める強い思いが、より強く深くなった。
同時にどうして圧倒的な強さを持つグレイシアがバトルに積極的でなく、むしろ否定的な態度を貫いている理由が分からなかった。
強くなりたい。
強くなるにはどうするか?それは簡単だ、自分よりも強いヤツに挑めば良い。
あの時のような、本気のグレイシアと戦いたい。
だが、彼女はカルボウ頼みを考える様子すら見せずに一蹴する。
だからこそ、彼女が一番大切にしているらしき食べ物を奪った。
そうすれば怒りから、グレイシアとポケモンバトルする事ができるのだ。
予想通り、グレイシアは怒りの表情を浮かべた。
だが、やがてグレイシアは怒りを押さえ込むように深呼吸するといつものように伏せて眠り出したのだ。
『どうしてだっ!憎いだろ!?嫌だったろ!俺を攻撃しろよっ!戦え!戦えよ!俺とっ!』
『嫌、お断り。私は誰かさんのおかげで1日の楽しみのおやつが食べられなくてこの通り何もする気になれないわけ、おわかり?』
『どうしてだ!そんなに強いのに、どうしてバトルをしないっ!』
『………そんなことしても無駄なだけ、それにあの娘だってそんなこと望んでないんだから良いじゃない。バトルだなんて、そんな面倒な事しなくたって』
昼の一件を思い出し眼を鋭くさせたカルボウは窓の鍵を開けようと金具へと手を伸ばした。
「何処へ行くつもり」
その時だ、聞こえてきた声に振り替えればそこには窓の下へと歩いてくる先程まで寝ていた筈のグレイシアがいた。
「ここを出ていくんだよ、このトレーナーの元じゃいつまでたっても強くなることなんて出来ねぇ。だから出ていく、引き留めても無駄だ」
「別に、この娘から離れるのはお好きにどうぞ。ところでアンタさ、何でそんなに強くなりたいわけ?」
「何が言いたい」
「強さに意味なんてない、少なくとも私はそう思うわけ。」
「……何?」
カルボウは眉をひそめる。
「昔の私は、トレーナーが私をポケモンバトルに勝たせるために、強くするためだけに育てられた。勝つために必要な技を覚えて、勝つために最適な量のご飯を食べて、トレーナーの指示に従ってバトルする……そうやって“最適”だけを求められてた」
「……」
「確かに強くはなったわ……トレーナーから逃げて野生に出ても、生き抜けるくらいにはね。でも──それで満たされたかって言われたら、全然」
窓の外を見ながら、グレイシアは静かに続ける。
「強さを求めるのは勝手。否定しない………アンタがそれを欲しいなら、取りに行けばいい」
カルボウの瞳がわずかに揺れる。
「でも、勘違いしないことね。強さが全てじゃない、強さと力は違うの」
カルボウは黙って、グレイシアの言葉に耳を傾けているが、正直に言うならば分からないし、強さに意味がないと言う言葉が理解できなかった。
「……だからまぁ、何が言いたいかと言えば、勝手にすればいい。私は別にアンタが野生に出てどうなったって知らないし、止める理由もない。私は、私の意思であの娘と一緒にいる。アンタも、自分の意思で決めればいい」
そう言いながらカルボウへと背を向けて寝ていた場所へと戻っていくグレイシア。
そんな姿を横目に、カルボウは窓の鍵へ視線を戻す。
その手に、もう迷いはなかった。
窓を開ける。 夜風が部屋へ吹き込む。
高さはあるが、問題なく着地することが叶うだろう。
いざ、飛び出そうとした時。
グレイシアは背を向けたまま、言った。
「……それでも行くなら、止めないけど」
カルボウが振り返る。
グレイシアは、いつもの気怠げな顔で言った。
「戻る気があるから、戻ってくる場所くらいは、残しておいてあげる」
「ちっ」
カルボウは即座に窓枠を蹴る。
小さな炎が、強さを求め外へ。
夜の闇へと飛び出していく。
強さを求めたカルボウが旅立った瞬間だった。