BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP45─待つということ─

朝。

まだ登校している生徒が少ない時間帯。

クラベル校長は校長室にて業務をこなす傍らで学園での問題の一つについて考えていた。

スター団という、学園で馴染めなかった生徒達が集まった組織による行動。

次に転校してくる生徒へ渡すポケモンの準備。

そして、最近パルデア地方で確認され始めた、これまでとは異なる特徴を持つポケモンたちへの対応。

四天王やチャンピオンが検討し対応しているとはいえ、今後どう動くか。

間近に迫った宝探しで活動する生徒達への呼び掛け、職員への周知。

行うことは両手の指では数えられないだろう。

一息つきながらテーブルに置いているコーヒーを口に含む、その時だった。

校長室へと向かってくる足音に、コーヒーカップをソーサーへと戻した。

足音は、歩調ではない。

走っている、そしてここへ向かって走ってくると言うことは何らかの緊急の要件。

それも、重要性があるものだろうか。

そう思いながら椅子を立つと同時に、足音がゆっくりと止まる。

そしてコンコン!と扉をノックされる音が部屋へと響いた。

 

「どうぞ」

 

「し、失礼しますっ」

 

入室を促すと、ガチャリという音と共に現れたのはガラル地方から短期留学生であるシアンさんだった。

だが、様子が変だった。

急いで来たのか呼吸は荒く、制服はキッチリきられておらずボタンが掛けられていないところも見えた。

 

「シアンさん、どうかしましたか?」

 

「クラベルさん、その、えっと……私っ!」

 

最初にあった時に感じた、アカデミーにもたまにいる、何処か大人びた印象の生徒と似た雰囲気の彼女。

でも今、目の前にいる彼女は普通の子供のように慌てて、近くにいる大人に助けを求めていた。

 

「落ち着いてください。大丈夫、まずは深呼吸です。ゆっくりでいい。何があっても、順番に話してくれれば大丈夫ですよ」

 

慌てて話そうとする彼女の様子から彼女にとって、どれ程に大変なことが起こったのか予測は難しい。

 

「何かありましたか?」

 

「……いなく、なったんです。カルボウが」

 

彼女が孵化させたあの、それぞれ違う色の瞳を持つカルボウ。

あの子が、シアンさんの前から消えた。

 

「朝起きたら、閉めた筈の窓が開いてて………」

 

話を聞く限り、カルボウはシアンさんが眠った後、自ら窓を開けて外へ出たのでしょう。

“家出”――そんな単語が脳裏を過った時、同時にあるポケモンの話を思い出した。

イッシュ地方でトレーナーになる少年少女へと与えられる3体のポケモン。

草タイプのポケモン、ツタージャ。

このポケモンは、非常に賢くプライドが高い。

そのため、トレーナーが自身と会わない事などがある場合は自らトレーナーの元を離れ、“見限る”ような行動を取ることがある。

もし、あのカルボウがあのツタージャのような行動をしているのであれば、我々だけで探しだすのはかなり骨が折れそうですね。

それも、あのカルボウは見た目からして希少だからという理由で捕まえられることもあり得る。

いくらボールが登録されているとはいえ、ボールを使わずにそのまま捕まえるヤカラが出てくるだろう。

 

「話は分かりました」

 

クラベルはすぐに端末へ手を伸ばす。

 

「まずはジュンサーさんとポケモンセンターのジョーイさんへ連絡を入れましょう。特徴のあるカルボウです、保護情報が入る可能性があります」

 

「……はい!」

 

「学園側でも捜索を行います。寮監、警備員、教師陣にも情報を共有しましょう」

 

素早く連絡先を開きながら、クラベルは静かに続けた。

 

「シアンさん、カルボウの件についてはひとまず私が対応を行います。カルボウの件を一度私たち大人に預けて頂けませんか?あなたは子供であり短期留学生。カエデさんの元で学ぶのは、今しか出来ない経験の一つです。まずはそちらを優先してください」

 

「……っ」

 

不安そうに揺れる彼女の瞳を見ながら、クラベルは穏やかな声で続ける。

 

「もちろん、大切なポケモンが突然いなくなれば、すぐにでも探しに行きたいと思うのは当然です」

 

それは否定すべき感情ではない。

むしろ、ポケモンを大切に思っているからこその行動だ。

 

「ですが、人もポケモンも成長の機会は限られています。今この瞬間にしか得られない経験というものもあるのです」

 

ジムリーダーであり、自身の店を持つパティスリーのカエデの元で学ぶ時間。

パルデアで出会う人々。

今のシアンさんだからこそ見つけられるもの。

それらは、きっと彼女の未来にとって大切な“実り”になる。

 

「だからこそ、今はあなたにしか出来ないことをしてください。カルボウのことは、私達大人が責任を持って対応します」

 

彼女が、子供が安心して私達に任せて学べるように動かなくてはなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラベルさんの言葉に、私は制服の袖を握る。

私は、ポケモントレーナーだ。

ポケモントレーナーは自分の捕まえたポケモンには責任を持たないといけない。

カルボウが、私のせいで家出してしまったかもしれない。

だから、私が探しに行かなきゃ。

私が責任を持って探さなきゃ。

そんな感情とは別に、私はクラベルさんの言葉に理性が納得していた。

そうだ、大人に頼るべきだ。

私は今、短期留学でパルデアへ来ている身。

カエデさんだって、お店やジムリーダーとしての仕事等と忙しい中で時間を作ってくれている。

自分の都合で迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「……わかり、ました」

 

私は絞り出すように、そう答えた。

迷惑をかけてしまったことへの申し訳なさと、カルボウへの罪悪感にその場から動けない。

いや、動けなかった。

 

「私は即座にジュンサーさんやポケモンセンターの方々に情報を共有します。シアンさんの方でもし何か分かったらすぐに行動せず私達にも情報の共有をお願いします」

 

そんな言葉に頷いて私は、校長室を出た。

 

カルボウがいないか、学校やセルクルタウンへの道で周囲を探しながらパティスリームクロジへと向かう。

いくら見てもカルボウの姿はない、でも私はとりあえず今はカエデさんの元で勉強しなきゃと、歩みを進める、

パティスリームクロジのドアを開け、中に入るとショーケースにお菓子を並べるカエデさんの姿があった。

 

「こんにちわ」

 

「いらっしゃい………あら?」

 

挨拶をしたときカエデさんが首を傾げる。

何か疑問を覚えたのか、意図が分からずにいるとカエデさんが口を開いた。

 

「何かあった?まるで"どくどく"を受けたポケモンのような顔色よ?」

 

カエデさんの言葉に、思わずスマホロトムで自分の顔を見る。

不安そうな表情を浮かべてはいるが、そこまで酷い表情をしているだろうか。

 

「その、実は────」

 

カエデさんにカルボウが居なくなったこと、グレープアカデミーのクラベルさんがジュンサーさん捜索をお願いしていることを話した。

そして、私自身が感じていたこと……ポケモンバトルをしない私がカルボウのトレーナーに馴れない。

だから、私のせいであの子は居なくなったこと。

全てを話したあと、カエデさんは少ししてから口を開いた。

 

「思った以上に抱え込むタイプね、シアンちゃんは。」

 

「そう、ですかね」

 

「そうよ。確かに、カルボウが貴方の元から居なくなったのは心配ね……でもきっと大丈夫な気がするわ」

 

「え?」

 

「良く言うでしょ、可愛い子には旅をさせよって。人もポケモンも自分で外を見て、自分で悩んで、自分で選ぶことでしか分からないことがあるのよ。きっと、それがあの子に必要なのかもしれないわね」

 

「そう、なんでしょうか」

 

「あの子は今、自分に必要なことの為に離れたのよ。だから貴方はまずあの子が帰ってくることを信じて、今学べることに集中した方が良いわ」

 

その言葉に、胸が少しだけ締め付けられる。

カルボウが戻ってくる保証なんて、どこにもない。 もしかしたら、本当に私を見限ったのかもしれない。

 

「待つってね、何もしないことじゃないの」

 

「……」

 

「帰ってきた時に、“おかえり”って笑ってあげられるように、自分に出来ることをする時間なのよ」

 

カルボウが戻ってくる事を信じて……。

 

「……今の私に、出来ること」

 

「ええ。シアンちゃんは今、お菓子を学びにここへ来てるんでしょう?」

 

カエデさんはふわりと笑った。

 

「なら、悩みながらでも前に進みなさい。ちゃんと悩める子は、ちゃんと相手のことを考えられる子だから」

 

「……はい」

 

不安が消えたわけじゃない。

カルボウのことを考えるたび、胸の奥はざわついたままだ。

でも、待ってみようと思った。

そして待つ間に、私も私に出来ることを頑張りたい。

 

「さ、今日はシアンちゃんの作るお菓子の個性を考えつつ色々なお菓子を作っていきましょう」

 

「はい、お願いします!」

 

そんな思いを胸に、私はカエデさんと共にお菓子作りに集中することを選んだ。

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