BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP46─交差する炎─

夜、パルデアの荒野を小さな炎が駆けていた。

シアンの孵化したカルボウ。

グレープアカデミーを飛び出した彼は、ただひたすらに強さを求めて進み続けていた。

たまたま目に入った野生のポケモンへ挑み、勝つ。

また次へ挑み、勝つ。

時には傷を負い、時には吹き飛ばされながらも、カルボウの瞳から闘志が消えることはない。

次々と強い戦い方や新たな技を覚えていった。

 

「もっとだ……もっと強い奴は居ねぇのか……」

 

体にはこれまでのバトルで負った幾つもの傷。

それでも、彼に休むと言う選択はない。

ただ我武者羅に、強さを求めて走り続ける。

今のカルボウの胸を満たしていたのは恐怖ではなく、勝ったことから生まれた高揚感じだった。

確実に強くなっている、あのトレーナーの元にいたら絶対に叶わなかったであろう強さの探求。

魂が歓喜しているとも思える程の強い幸福の感情、それは連勝による自分こそが強者であるという自信。

負けなかったからこそ生まれた、自分こそが絶対者だという傲慢な思いが膨れ上がる。

 

「ルガァ……」

 

低い唸り声、カルボウが振り返った先。

そこに居たのは、鋭い牙を剥くヘルガーだった。

炎を纏う黒い体。

野生で生き抜いてきた獰猛な気配。

カルボウは笑いながら身構える。

 

「へっ、次はアンタが相手か。いいぜ、かかってきな!」

 

カルボウは笑っていた。

逃げるという発想は無かった。

 

「来ねぇなら、こっちから行かせて貰うぜぇ!!」

 

強者との戦いに胸の炎が更に熱く、燃え上がっていく。

いつまでも攻撃してこないヘルガーに、カルボウが炎を纏い突撃する。

野生に出て、習得した技"ニトロチャージ"による加速でヘルガーへ迫るが、目の前のヘルガーの動きはソレより速かった。

 

「ガァッ!?」

 

小さな体が地面に何度も打ち付け土煙をあげながら転がる。

鋭く、鈍い痛み。。

それでもカルボウは立ち上がる。

自分こそが強者だ、強者となるのだ。

目の前の強者を下し、上へ。

更に上へ。

限界なんて知らない、あるわけがない。

再び突撃する先程より早くなる自分を、ヘルガーは簡単に避ける。

届かない。

どれだけ加速しても、避けられる。

蹴り飛ばされ、叩き潰される。

圧倒的な実力差。

それでもカルボウは諦めなかった。

何度倒れても立ち上がる。

既に体はフラフラと揺れているが、強くなりたいという思いが、欲望が彼を立ち上がらせる。

 

「こんなところでっ、こんなところで、俺は──」

 

そんなカルボウに、ヘルガーは口元に灼熱が集まる。  

カルボウは理解した。

直撃すれば終わる。

だが、足に力が入らない。

立っているだけで限界なのだ、避けるという行動を行えないほどに疲弊していた。

ヘルガーは口を大きく開けて巨大な炎を放つ。

ヘルガーの放った"だいもんじ"を前にカルボウは足に蓄積された疲労、限界からか足に力が入らず膝をつく。

その場から逃れるのは、万が一にでもあり得なかった。

目の前に、自分を越える熱量の炎が迫る。

負ける?俺が?

信じたくないが確かに目の前へと迫る敗北に、カルボウは目を瞑りそうになった。

だが、次の瞬間。

素早い動きと共に現れたナニカがカルボウの前へと割り込んだ。

紫黒の炎が、ヘルガーの放った熱い炎を振り斬り裂く。

カルボウの目の前で“大文字”が真っ二つに斬り裂かれる。

 

「───っ!?」

 

ヘルガーの炎が宙へと霧散していくなか、現れたのは青紫色の体に、鋭く鋭利な両腕を持つポケモンだった。

自分とは同じだが色の違う炎で形成された瞳を持つ、そのポケモンは静かに現れた。

その静かさは、まるで夜そのもののようだった。

両手の鋭利なソレを静かに構え、そのポケモンはヘルガーを睨み付ける。

ヘルガーが獲物を取られた事から威嚇の咆哮をあげる、だが──。

次の瞬間には、その姿が消えていた。

 

「ルガァッ!?」

 

一閃。

 

気が付いたときには、奴はヘルガーの背後に立っていた。

ヘルガーの体が地面へと倒れ、その顔は戦闘不能である事を示していた。

速い。

カルボウは目で追えなかった。

だが、その動きに無駄はなく、恐ろしいほど洗練されている事が感じられた。

その場に、風だけが吹く。

カルボウは呆然とそのポケモンを見上げる。

強い、今まで見た誰よりも。

あのトレーナーのグレイシアとも違う、理想とも言えるほどの強さ。

そのまま去ろうとするポケモンに、カルボウが叫ぶ。

 

「待てッ!!」

 

その言葉に、ポケモンの足が止まった。

 

「あんな戦い方、初めて見た」

 

興奮で声が震えながらも、カルボウな言葉を紡ぐ。

 

「頼むっ!俺を鍛えてくれ!俺は強くなりたいんだ、今よりもっと……もっとっ!」

 

夜風だけが吹く、やがてそのポケモンは振り返りもせず、短く答えた。

 

「断る」

 

「はぁ!?なんでだよ!アンタ強ぇじゃねぇか!!俺はもっも強くなりたいんだよ!!」

 

その叫びに、ポケモンは僅かに目を細めた。

 

「……だからだ」

 

「は?」

 

「お前は“強さ”を求めてはいるが、その意味を、使い方を誤っている」

 

淡々とした声。

 

感情は薄く、妙に重い。

 

「そんな奴に教えることはない」

 

そう言って、ポケモンは再び歩き出す。

 

「待てよ!強さの意味ってなんなんだ?!」

 

その後をカルボウは追いかける。

 

「教えてくれ!俺は、俺は!!」

 

返事はない、それでもカルボウは叫ぶ。

 

「アンタみたいに強くなりたいんだ!!」

 

その言葉にポケモンはピクリと肩を震わせる。

 

「強さ、こんなもの今更……何になるというんだ」

 

「は?」

 

そのポケモンが小さく呟いた言葉を他所に、そのポケモンは再び歩きだす。

だが、カルボウは諦めずその背中を追いかける。

どれだけ無視されても。 どれだけ拒絶されても。

小さな炎は、紫黒の背中を追い続ける。

 

これがカルボウとソウブレイズの出会いだった。

 

 

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