BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
夜、パルデアの荒野を小さな炎が駆けていた。
シアンの孵化したカルボウ。
グレープアカデミーを飛び出した彼は、ただひたすらに強さを求めて進み続けていた。
たまたま目に入った野生のポケモンへ挑み、勝つ。
また次へ挑み、勝つ。
時には傷を負い、時には吹き飛ばされながらも、カルボウの瞳から闘志が消えることはない。
次々と強い戦い方や新たな技を覚えていった。
「もっとだ……もっと強い奴は居ねぇのか……」
体にはこれまでのバトルで負った幾つもの傷。
それでも、彼に休むと言う選択はない。
ただ我武者羅に、強さを求めて走り続ける。
今のカルボウの胸を満たしていたのは恐怖ではなく、勝ったことから生まれた高揚感じだった。
確実に強くなっている、あのトレーナーの元にいたら絶対に叶わなかったであろう強さの探求。
魂が歓喜しているとも思える程の強い幸福の感情、それは連勝による自分こそが強者であるという自信。
負けなかったからこそ生まれた、自分こそが絶対者だという傲慢な思いが膨れ上がる。
「ルガァ……」
低い唸り声、カルボウが振り返った先。
そこに居たのは、鋭い牙を剥くヘルガーだった。
炎を纏う黒い体。
野生で生き抜いてきた獰猛な気配。
カルボウは笑いながら身構える。
「へっ、次はアンタが相手か。いいぜ、かかってきな!」
カルボウは笑っていた。
逃げるという発想は無かった。
「来ねぇなら、こっちから行かせて貰うぜぇ!!」
強者との戦いに胸の炎が更に熱く、燃え上がっていく。
いつまでも攻撃してこないヘルガーに、カルボウが炎を纏い突撃する。
野生に出て、習得した技"ニトロチャージ"による加速でヘルガーへ迫るが、目の前のヘルガーの動きはソレより速かった。
「ガァッ!?」
小さな体が地面に何度も打ち付け土煙をあげながら転がる。
鋭く、鈍い痛み。。
それでもカルボウは立ち上がる。
自分こそが強者だ、強者となるのだ。
目の前の強者を下し、上へ。
更に上へ。
限界なんて知らない、あるわけがない。
再び突撃する先程より早くなる自分を、ヘルガーは簡単に避ける。
届かない。
どれだけ加速しても、避けられる。
蹴り飛ばされ、叩き潰される。
圧倒的な実力差。
それでもカルボウは諦めなかった。
何度倒れても立ち上がる。
既に体はフラフラと揺れているが、強くなりたいという思いが、欲望が彼を立ち上がらせる。
「こんなところでっ、こんなところで、俺は──」
そんなカルボウに、ヘルガーは口元に灼熱が集まる。
カルボウは理解した。
直撃すれば終わる。
だが、足に力が入らない。
立っているだけで限界なのだ、避けるという行動を行えないほどに疲弊していた。
ヘルガーは口を大きく開けて巨大な炎を放つ。
ヘルガーの放った"だいもんじ"を前にカルボウは足に蓄積された疲労、限界からか足に力が入らず膝をつく。
その場から逃れるのは、万が一にでもあり得なかった。
目の前に、自分を越える熱量の炎が迫る。
負ける?俺が?
信じたくないが確かに目の前へと迫る敗北に、カルボウは目を瞑りそうになった。
だが、次の瞬間。
素早い動きと共に現れたナニカがカルボウの前へと割り込んだ。
紫黒の炎が、ヘルガーの放った熱い炎を振り斬り裂く。
カルボウの目の前で“大文字”が真っ二つに斬り裂かれる。
「───っ!?」
ヘルガーの炎が宙へと霧散していくなか、現れたのは青紫色の体に、鋭く鋭利な両腕を持つポケモンだった。
自分とは同じだが色の違う炎で形成された瞳を持つ、そのポケモンは静かに現れた。
その静かさは、まるで夜そのもののようだった。
両手の鋭利なソレを静かに構え、そのポケモンはヘルガーを睨み付ける。
ヘルガーが獲物を取られた事から威嚇の咆哮をあげる、だが──。
次の瞬間には、その姿が消えていた。
「ルガァッ!?」
一閃。
気が付いたときには、奴はヘルガーの背後に立っていた。
ヘルガーの体が地面へと倒れ、その顔は戦闘不能である事を示していた。
速い。
カルボウは目で追えなかった。
だが、その動きに無駄はなく、恐ろしいほど洗練されている事が感じられた。
その場に、風だけが吹く。
カルボウは呆然とそのポケモンを見上げる。
強い、今まで見た誰よりも。
あのトレーナーのグレイシアとも違う、理想とも言えるほどの強さ。
そのまま去ろうとするポケモンに、カルボウが叫ぶ。
「待てッ!!」
その言葉に、ポケモンの足が止まった。
「あんな戦い方、初めて見た」
興奮で声が震えながらも、カルボウな言葉を紡ぐ。
「頼むっ!俺を鍛えてくれ!俺は強くなりたいんだ、今よりもっと……もっとっ!」
夜風だけが吹く、やがてそのポケモンは振り返りもせず、短く答えた。
「断る」
「はぁ!?なんでだよ!アンタ強ぇじゃねぇか!!俺はもっも強くなりたいんだよ!!」
その叫びに、ポケモンは僅かに目を細めた。
「……だからだ」
「は?」
「お前は“強さ”を求めてはいるが、その意味を、使い方を誤っている」
淡々とした声。
感情は薄く、妙に重い。
「そんな奴に教えることはない」
そう言って、ポケモンは再び歩き出す。
「待てよ!強さの意味ってなんなんだ?!」
その後をカルボウは追いかける。
「教えてくれ!俺は、俺は!!」
返事はない、それでもカルボウは叫ぶ。
「アンタみたいに強くなりたいんだ!!」
その言葉にポケモンはピクリと肩を震わせる。
「強さ、こんなもの今更……何になるというんだ」
「は?」
そのポケモンが小さく呟いた言葉を他所に、そのポケモンは再び歩きだす。
だが、カルボウは諦めずその背中を追いかける。
どれだけ無視されても。 どれだけ拒絶されても。
小さな炎は、紫黒の背中を追い続ける。
これがカルボウとソウブレイズの出会いだった。