BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
1番道路を走り抜けた先にあるブラッシータウンには、沢山の人が集まっていた。
歓声とざわめきが、町の空気を震わせている。
「ぜぇ……ぜぇ…ぜぇ……もぅ、マジ無理ぃ」
肩で息をしながら、ベンチにグデーっと体を預ける。ブラッシータウンへ行く時のユウリとホップの走りに合わせて全力で走ったからか、体力を使い果たしたみたいだ。
足が、生まれたてのシキジカみたいにプルプル震えている。
お菓子作りという運動しかしていない引きこもり気味の私の体は、片道であっという間に限界を迎えたようだ。
それにしても、あんなに走ったのに息切れした様子がないユウリとホップって、体力が凄いあるんだなぁ。
いや、これがネットで噂になってたスーパーマサラ人を越えるかもしれないスーパーガラル人って奴なのかな?
私は、ホップとユウリがダンデさんと話すのをベンチに座って遠巻きに見ているだけだった。
二人が休んでて良いよと、そう言ってくれたからこうしている。
正直これでよかった、ダンデさんと会うシーンは二人にとって大切な瞬間だし私が側にいるのは変だから。
そう思いながら、空を流れていく雲を眺める。
これからユウリやホップ達はマクロコスモスの陰謀やシーソーコンビが起こす騒動に巻き込まれていく事になるのか。
遠くない未来を考えながらベンチでボーッとしていたら、いつの間にか先程まで集まっていた人たちが消えていた。
「おーい!」
「シアーン!こっちこっち!」
そして私の名前を呼ぶ声が聞こえて、顔を向けるとダンデさんと一緒にいるユウリとホップが見えた。
——やっぱり、どこか空気というか雰囲気だろうか、それが違う気がした。
すぐにベンチから立ち上がり、三人の元へ向かう。
「君が二人の話していたシアンだな、俺はダンデ!いつもホップが世話になっているな」
「い、いえ!その、お世話になっているのはコチラなので……」
どもりながらも、何とかそう話し頭を下げる。
あの有名なチャンピオンであり、前の世界では大人気だったキャラクターが目の前にいるのは、やはり緊張してしまう。
「いい友達達じゃないかホップ!」
しどろもどろになりながらも、どうにか言葉を返す。
初めて会う人というか、人と話す時はどう頑張っても声が小さくなってしまう。
そんな私の様子なんて気にならないのか、ダンデさんは気にせず笑いながらそうホップへと問いかける。
「二人とも、俺の自慢の友達なんだぞ!」
誇らしそうに、ダンデさんに……お兄さんに褒められて嬉しいのか笑顔でホップは胸を張って答えた。
「私だって、ホップもシアンも大切な友達だよ!」
「そ、その……私も」
「ハッハッハッ!本当に良い友達だな、どうかこれからもホップと仲良くしてやってくれ!」
その後、雑談をしながらゆっくり、ハロンタウンへと向かった。
ちなみにブラッシータウンからダンデさんが走って帰るのをユウリとホップが無理やり止めて一緒に帰ることにしたらしい。
そうなんだ、という驚きではなくやっぱりそうなるんだと納得した。
原作の通り、ダンデさんの方向音痴はひどいらしい。
「そうだ!今から俺の家でアニキからポケモンを貰うんだぞ、良かったらシアンも見に来ないか?」
「え、でも………私はポケモンもう持ってるし」
「そう言えば、シアンはもうポケモン持ってたよね。でも、その後バーベキューするんだよ!」
バーベキューかぁ……ちょっと引かれるかも。
家が近所と言うことで、ホップのお母さんやユウリのお母さんは少しは話せる。
「ちょっとお母さんに連絡してから決めるね」
そう言いながらスマホロトムを操作してメッセージアプリを開き、お母さんに連絡する。
するとすぐに返事が来た、お母さんは今日は私のご飯が食べられない事が残念だというメッセージと共に、楽しんでおいでというスタンプが送られてきた。
こうして、私はバーベキューに参加する事が決まったのだった。
窓の外、庭に設置されたバトルフィールドでダンデさんから貰ったポケモンと親睦を深めているユウリとホップが見えた。
ダンデさんに見守られる中、ユウリはヒバニー。ホップはサルノリと交流し、メッソンはダンデさんの肩に乗ってその場を観察しているようだった。
恐らくチュートリアルで見たようにポケモンバトルが繰り広げられているのだろう。
これからはじめてのポケモンバトルを楽しむであろうユウリとホップの姿を一瞥しつつ、まな板に乗せられた木の実や野菜を一口大に切っていく。
窓から見えた原作通りの光景に、少しだけ感動していた。
ふふ、ゲームでもあんな感じだったんだっけ。
「ふふ、外が気になる?」
「あ……その、少しだけ」
「ごめんねシアンちゃん、ご飯の準備手伝って貰っちゃって」
「いえ、大丈夫です。その…料理は、好きですから」
そう返事を返し私はバーベキューに使う食材を切る作業に戻る。
あの後ハロンタウンへと帰ってきた私はホップのお母さんとユウリのお母さんの手伝いをしていた。
流石に、当日急に参加するのに何もしないのは少しだけ気まずいから自分から手伝いを申し出た。
今、私が生きているこの世界のポケモンバトルはゲームのようにコマンドを選択すれば良いと言うものではない。
アニメに近くて細かく、的確に指示を出さなければならない。
コルニ姉さんが少しだけ見てくれたから、ポケモンバトルが全く出来ない訳ではない。
でもバトルが苦手なのだ。
「いやぁ、本当にありがとうね。思ったより早く終わっちゃったよ!」
「いえ………あの良かったら、ですけど。昨日私が作ったケーキがあるんです、その……嫌でなければでいいので食べませんか?一人じゃ食べきれないので良かったら皆さんで……」
「あら!良いの?嬉しいわぁ♪」
「料理も得意でお菓子作りも出来るなんて、シアンちゃんは良いお嫁さんに成りそうね~♪」
「ア、アハハハハハハ」
そう言って楽しそうに誉めてくるホップとユウリのお母さんにどうにかそう笑って返した。
正直、そういうのは……まだ、ちょっと想像できないかなぁ。
ケーキを取りに行くために、ホップの家を出る。
庭ではダンデさんに見守られる中、ポケモンと交流を深めているユウリとホップの姿が見えた。
ふとダンデさんの肩に乗っているメッソンが、ホップやユウリと触れ合うヒバニーとサルノリを見つめる姿が見えた。
はじめてのポケモン、もし私が……ポケモンを持っていなかったら。
ダンデさんの肩に乗るメッソン、あの子が私のもとに来た未来があったのかもしれない。
そう考えながら三人の邪魔をしないように私の家へと行こうとした時だった。
ダンデさんが突如として振り返り、その瞳に私が映った。
「うぇ!?」
「あぁ、すまない!驚かせてしまったな、ポケモントレーナー柄か、背後に気配を感じて気になってしまった」
「そ、そうなん、ですね。その、気にしないで下さい」
片手で後ろ髪を撫でながら謝罪するダンデさんにそう返事を返して家へ行こうとした時だった。
「ホップやユウリから話は聞いていた、なんでも凄く強いポケモンをゲットしてるんだって?」
ホップとユウリは一体、ダンデさんに何を伝えてるのかな?
ちょっとお話聞かせてくれないかな二人とも、なんて思うが実際私はそんなに強く言えるわけが無いんですよねぇ。
「そんなこと、ないです。私、バトル苦手ですから」
「そうなのか?少し、残念だ。二人の良いライバルになってくれるかと思ったんだがな」
そう言いながら少し残念そうな表情を浮かべるダンデさん。たぶん、ホップやユウリが言っていたポケモンはアブソルの事だろう。
考えてみれば、私の手持ちの三体で彼らに見せたことがあるのはアブソルくらいだろうし。
「ア、アハハ……私にはそんなの無理、ですから」
私はこの地方に来てから、一度もメガシンカを使っていない。
まずメガシンカを扱うことが出来るトレーナーが少数だ。
私の場合は特殊だが、コルニ姉さんの元でメガシンカを扱う方法を学んだ。
そして何故かキーストーンとアブソルがメガシンカするために必要なメガストーンを貰ってしまい、メガシンカを扱う事が出来るトレーナーの一人となってしまった。
だからこそ、隠していた。
もし、私がメガシンカ使いだと知られたらきっと目立つしポケモンバトルを挑まれる。
バトルを挑まれるだけで済むならいいが、誰かに狙われたり巻き込まれたりするのは、嫌だから。
ケーキを取ってきたあと冷蔵庫にしまってから、少しの時間が過ぎ私はみんなとのバーベキューに参加していた。
食材を焼いているのはユウリとホップのお母さんだ、私も手伝おうとしたのだけど──。
「たくさん手伝って貰ったから大丈夫よ」
「そうそう、シアンちゃんも食べなさい」
と言われ、焼くためのトングではなく焼き上がったお肉を渡されてしまい、私も食べる側に回っていた。
ふと、目の前にある肉を眺める。
私はこの世界に転生してからこうして料理に出てくる食材に関しては考えないことにしている。
お肉おいしー!と無邪気に考えることにしてる。
食用のポケモンとか、そう言うのは知らない方が幸せってよくあることだしね。
「美味しいねシアン!」
「そ、そうだね」
急に声をかけられビクリと体を震わせながら、返事を返す。
ユウリ、お願いだから急に話しかけないで……。
気弱で引きもり故のコミュ障からそんなことを思ってしまう。
串に刺さった肉を口に運びながら、チラリと横を見ればホップはサルノリとダンデさんで仲良さそうに話しているのが見えた。
ユウリは、もしかしたら家族水入らずの時間に入ることを遠慮しこっちに来たのだろうか。
そう会えば、ダンデはチャンピオンの仕事が忙しくて中々帰ってこれないんだっけ?
なら、あの仲良さそうな時間は邪魔しないようにしないとね。
「ねぇ、シアンはガラルに慣れた?」
「……うん、少しは慣れたかな。でも、やっぱりまだダイマックスには少し慣れないかな」
「元々はカントー地方に住んでたんだし、そうだよね。……明日さ、ホップと一緒にダンテさんに頼んでジムチャレンジの推薦状を貰おうと思ってるんだ」
まだ食材の刺さった串を皿の上に置いたユウリは真剣な様子でそう言った。
ゲームの展開を知っているからか、やっぱりそうなるんだと思いながらも口を開く。
「そうなんだ……そう言えば、ガラルのジムチャレンジだったよね。もう始まるんだ」
「そうなんだ。それで、さ………良かったらなんだけど、シアンも一緒にジムチャレンジしない?」
「ぅえ?」
予想外の誘いに、私は思わず食べるのも止めて固まってしまう。
応援に来てほしいとか、そういう話とかなら良いと思っていたのに、まさか一緒にジムチャレンジに行くよう誘ってくるなんて。
「バトルが苦手ならさ、ワイルドエリアでキャンプしたりするだけでもきっと楽しいよ!」
そう笑いながら話すユウリには申し訳ないけど、原作ではダンデさんが用意できるジムチャレンジの推薦状は二つ。
私がそれを受け取って原作を壊してしまうのは嫌だ。
ポケモンソード、シールドはユウリがホップと共に旅に出ることで始まる物語だから。
「えっと、ごめんねユウリ……私……止めておくよ。バトルは苦手だし急に旅なんて出られないよ……でも!その、きっと応援しに行くから!」
楽しそうにジムチャレンジや旅の魅力を語る彼女に、少し申し訳ないと思いながら私は断る。
すると、ユウリは「そっか」と少し悲しそうな表情を浮かべたあとにすぐに笑顔になって口を開いた。
「一緒にジムチャレンジ出来ないのは悲しいけど、応援は嬉しいよ!絶対に来てね!」
「う、うん!」
胸が少しだけ傷んだ。
友人に嘘をついた罪悪感。
ポケモンバトルが苦手という建前。
ジムチャレンジに参加しないという表向きの理由とは別に、ゲームでのイベントに巻き込まれたくないという自分勝手な思いで。
私は逃げる道を、選んだのだ。
友達と一緒の旅がしたかったという、純粋な願いを叶えない選択をした自分が、何故かどうしようもなく小さな人間に思えた。
ユウリの少しだけ悲しそうな、寂しそうな笑顔が、胸の奥に小さく引っかかって離れなかった。
ご愛読ありがとうございます。
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