BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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【season1】~ジムチャレンジ編~
STEP7─旅立ちの日─


ローズさんからの手紙を見た翌日、有給をもぎ取ったお母さんと私は、ジムチャレンジに参加する為に必要な物の買い物へと出掛けていた。

お母さんは、並ぶテントの素材を指で確かめコンロの火力を実際に確認し、寝袋の内側を撫でる。

その一つ一つの動作が、まるで“昔使っていた物を選び直している”みたいだった。

テントにコンロ、テーブルに寝袋……お母さんは値段を見てはブツブツと呟き、選別した物の中から私に選ばせてくれた。

お母さんが吟味して選んだ品々は全部がそれなりに値が張るものであり、前世の経験があるからか高額な買い物をしている現状に少しだけ恐怖を覚えていた。

値札を見るたびに胃がキュッとなるのに、新しい道具が増えていくたびに、ほんの少しだけ胸が高鳴ってしまう自分がいる事が不思議に感じる。

 

「お、お母さん。結構その、高いのにこんなにいいの?ジムチャレンジ期間しか使わないんだし……もっと安めの物でも」

 

「いいの。これはね、()()()()()()()()()()()()()じゃないの。シアンが無事に帰ってくるための準備なんだから」

 

商品を吟味しつつ、此方を向いたお母さんの視線は凄く優しい感じがした。

 

「シアン、あなたはこれまでの私達に我が儘を全く言わないで来たわ。誕生日だって、家族でお祝いしてくれれば良いって欲しいものは言わないし」

 

その、元就活生としましては誕生日やクリスマスに高額なものをねだるのは流石に駄目と言うか、家計を心配してしまう。

だからせめて、二人にはお祝いして貰えればそれで良いと思っていた。

お菓子のレシピはスマホロトムで検索したり図書館に行ったりすれば見られるし、ゲーム機だってスマホロトムで出来るもので満足していた。

 

「だから、今回はこれまでシアンがねだらなかった分を上乗せした予算で買ってるから問題ないの。あの人だって、シアン貯金を使うときが来た!って嬉しそうにしてたんだから、遠慮しちゃ駄目よ。むしろ、これくらいさせて欲しいわ!せっかくの晴れ舞台なんだもの」

 

その、晴れ舞台と言っても負けるためのという言葉が付くのですが………いいのかな。

 

「これぐらい問題ないわよ、さ!次のコーナー行くわよ!キャンプは何かと入り用なんだから」

 

その後、沢山のキャンプに必要な物を買い、他にも着替えやキャンプセットを入れる鞄など、入念に準備を進めた。

両手いっぱいの荷物を抱えて店を出て、アーマーガアタクシーの人に荷物を預けつつ、ふと振り返る。

夕焼けに染まる見慣れた筈のガラルの風景が、どこか知らない場所みたいに見えた。

先程まで感じていた荷物の重みが、負けるための旅が現実になろうとしている事を実感させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジムチャレンジ開催日の前日、私は大切な物を全て入れたリュックを背負い、動きやすいよう上下は黒に白いラインの入った長袖長ズボンのジャージに黒いキャスケットを被る。

出来るだけ目立たない服装をイメージして見た、これならあまり目立たない……はず。

ジムでのバトル時に着る服も普通の物にした、これで恐らく私は目立たない、と思う。

最後に、ずっと部屋の机にある引き出しにしまっていたキーストーンの付いたネックレスを首に着ける。

ネックレスの紐の先に付いたキーストーンの部分をジャージの中に着ているTシャツの中に入れて隠す。

これなら普通にチョーカーやネックレスでおしゃれしている程度に思われるだろう。

最後に腰のベルトに手持ちのモンスターボール三つを固定して準備完了だ。

最後にリュックを開き、ローズさんの名前が記入された推薦状が直ぐに出せる場所に入っていることを確認する。

ポケットに財布を入れ、スマホロトムを取り出して充電を確認する。

これから本当に旅に出る……なんか、そんな実感出来ないな。

確かゲームだとホップとユウリは駅と駅の間にウールーが通せんぼしたというアクシデントで、電車から降りてワイルドエリアを通ってジムチャレンジの開会式のあるエンジンシティへと向かう。

あれから、二人に開会式の事を話せていない私は、会うのが少し気まずいので嫌な予感がするという事で、アーマーガアタクシーでエンジンシティへと向かう事になっている。

 

「……負けるためのジムチャレンジ、少し変だけど頑張ろうね」

 

そう呟きながら腰のベルトに付いた三つのモンスターボールを軽く撫でる、それに対してそれぞれのボールが軽く動いて返してくれた。

 

「シアン、アーマーガアタクシーが来たわよー!」

 

お母さんの声が聞こえて私は荷物を持って外に出ると直ぐそばにアーマーガアタクシーの運転手?さんとアーマーガアが佇んでいた。

 

「シアン、しっかりね。もしもの時は後から連絡してくれれば良いから、まずは逃げなさい。一応ソレを使えるトレーナーはまだ少ないらしいんだから」

 

お母さんは私を抱き締め頭を撫でながら、小声で私にそう囁く。

あの日、私がシアンになってこの人たちの家族になってから。

数年が過ぎた、他の子とは違う私にこんなに真剣に向き合って寄り添ってくれた。

この人から離れたくないと思うのは、幼い心から感じた寂しさからだろう。

 

「うん……お母さん、行ってきます」

 

そう言ってアーマーガアタクシーに乗り込む、するどアーマーガアが一鳴きするとその翼を広げて飛んでいく。

空の景色を楽しむのが普通なのだろうが、少しだけ高い場所が怖い。

スマホロトムでエンジンシティに付くまでの間、時間を潰そうかな……。

 

「ん?」

 

ふと、スマホロトムのメッセージアプリのアイコンにマーカーが付いてる事に気付いた。

誰からかメッセージが来たのか不思議に思いながら、メッセージアプリを表示させる。

 

ユウリからのメッセージのようだ。

 

──────────────────────

 

〔ユウリ〕

『列車がトラブルで止まってワイルドエリアを通ってエンジンシティに行く事になっちゃった!ウールー達が駅を止めちゃっててビックリ!』

 

──────────────────────

 

そのメッセージと共に沢山のウールー達が電車の線路に溢れて電車が止まっている写真が送られてきた。

本当にゲーム通りだ。

 

──────────────────────

 

                 〔シアン〕

『そっか。大変だったね、ワイルドエリアは危険だって聞くし、気を付けてね。安全第一だよ』

 

〔ユウリ〕

『心配してくれてありがとう(*^▽^*)

ホップも一緒だし取り敢えず大丈夫だよ!』

 

──────────────────────

 

返事が返ってきたので二人が無事にエンジンシティに辿り着くことを祈り、メッセージアプリを閉じる。

取り敢えず、エンジンシティに着いた後。

そのときに駄目なら開会式の時にでも、私もジムチャレンジに参加することになったことを伝えられたら良いな。

そう思いながら私は、スマホから目を離し窓からガラルの景色を眺める。

季節的にはあっているので、イヤホンをして卒業ソングを流してみたりする。

ある意味、今日は私の旅立ちだし合っているはず。

 

ポケットモンスターソード、シールドの物語が明日から始まるんだ、私という本来存在しないイレギュラーを加えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンジンシティ。

ジムチャレンジの開会式が行われるスタジアムがある、大きな昇降機がある事が特徴的な町だ。

アーマーガアタクシーから降りた私は、寄り道せず真っ直ぐにエンジンスタジアムに向かっている。

その後の予定はスタジアムの近くにあるホテル『スボミーイン』にチェックインして、部屋に籠る。

ユウリ達にジムチャレンジ参加の件について話さないといけないと思う。

でも、私はユウリの誘いを一度、断っている。

なのに、こうしてジムチャレンジに参加するため来ているわけだ。

もし、話す前に会ったら?

そう考えるだけで少しだけ胸が苦しくなる、本当に私はストレスに弱いなぁ。

そんなことを思いながらお腹を擦り、黒いキャスケットを目深く被り直す。

エンジンシティにあるスタジアムへの道を隅っこを通るようにして向かう。

スタジアムまでの道のりには、わざマシンを売っていたり、木の実を売っているお店があってかなり賑わっている。

開会式が直ぐ目の前まで来てるからなのか、ガラル地方出身じゃない人もチラホラと見えた。

ほとんどハロンタウンから出たことが無いから少し新鮮な感じだ、と言っても昨日に旅するための荷物を揃えるために来たから、本当に新鮮か?と聞かれると少し微妙な感じだ。

そんな事を思いながら大通りからスタジアムがある道へと上がる昇降機のスイッチを押して上の道へと登る。

足元が動くという意味ならエスカレーターとかがあるが、あれと似たような感覚だ。

上に昇るとゲーム通り、目の前にはエンジンスタジアムが見えた。

スタジアムの入り口、門の前にはモンスターボールの被り物を被った男、ボールガイがいて子ども達に囲まれているのが見える。

ゲームでは気にしてなかったけど、改めてボールガイを見ると凄い変な感じだ。

可能なら好んで近付きたくはない、ゲームでは色々なアイテムを貰えるありがたい存在だったけどね。

そう言えば、ゲームではユウリとホップがスボーミインにチェックインしようとするとエール団が受付の邪魔をしてくるんだった。

ゲーム始めた最初の方に出てきたから、これまでのポケモンを思い出しコイツらが今作の敵なのかな?

そんな風に思ってたけど、実際は純粋にマリィを応援してる人達と知りビックリしたプレイヤーは恐らく私だけじゃない筈だ。

あれ?つまり私、ユウリとホップより先にチェックインしないとエール団に受付を邪魔されちゃって二人と鉢合わせになっちゃう!?

無理無理無理無理、絶対になんでここにいるの?

って感じの空気になっちゃって、私の誘い断ったのになんでここにいるの?ってなっちゃいそう。

そんな空気の中でジムチャレンジ参加について話すのは絶対に無理!

理想なのはご飯とか食べてるときに日常会話に混ぜて、『私ジムチャレンジ参加する事にしたの』なんてさらっと伝えられるのが理想だ。

まぁ、コミュ障を拗らせてる私にそんな会話出来ると思えないけど………。

もしもの時はメッセージアプリで言おう、そんなことを思いながら早足でスタジアムの中へと入り、ホールを見回す。

当たり前だが、ゲームで見た空間よりも広いエンジンスタジアムの中を見渡す。

ゲームでのマリィとユウリが始めて出会うイベントであるエール団による、スボーミインの受付妨害。

せめてエール団が受付妨害を始める前にホテルにチェックインしないと。

そう思いながら回りをキョロキョロとみていると、奥の受付にジムチャレンジ参加登録はこちらと張り紙が出ている場所が見えた。

その近くのソファや椅子には、様々なポケモントレーナーが座っているのが見えた。

しかもそんなソファには原作キャラ、マリィさんがいた。

膝に二色に別れた兎のようなポケモン、モルペコを乗せて一緒に座っているようだ。

恐らく、受付の事務処理を待っているのだろうか?

……今なら受付を使っている人がいないし、大丈夫だよね?

リュックを前に抱えるようにして持ち、推薦状をすぐに出せるようにしてから受付の人に話しかける。

いざ話しかけようとすると、下を向いて書類かなにかを確認していた人が顔を上げる。

 

「ジムチャレンジの参加ですか?」

 

「は、はい。そうですぅ」

 

ダンデさんといい、この世界の人はみんな気配を感知できるのが普通なの?怖いよぉ。

 

「でしたら、推薦状をお願いします」

 

「は、はい!」

 

誰にも見られないよう、手早くリュックから推薦状を取り出して受付のテーブルに置く、すると受付の人が「拝見します」と推薦状を確認した。

その時だった、受付の人が驚いた様子で目を大きく開ける。

 

「あなた、これローズ委員長からの推薦状じゃないの!?」

 

驚愕の声を上げる受付の人の声に、ソファに座る人たちの目線が私の方に集まったのを感じた。

最悪だ、沢山の人に目を付けられたかもしれない。

視線が痛い。

早く帰りたい、そう思いながら書類等の手続きを進める。

スタジアムでジムチャレンジする時に着るユニフォームの背番号や名前、年齢等を記入してようやく受付が終わった。

 

「これでエントリーは完了になります、ホテルスボミーインでゆっくり休んで英気を養ってください」

 

やっと終わった。

そう思いながら行きを深く吐くいてスタジアムを出ようと振り向き思わず、体が固まった。

そこには私を睨み付ける白い髪に紫色のコートを着た私やホップと同じくらいの年の男の子、ビートが立っていた。

 

「あなた、ローズ委員長からの推薦状と言うのは本当ですか」

 

「は、はい………」

 

ビート、ポケモン剣盾にて登場するライバルその3に該当するキャラだ。

最初はローズ委員長の役に立つためとジムチャレンジに参加し他の参加者の妨害工作を行ったりと様々なことを行っている。

この状態を私はジメジメ期、後半にローズ委員長から見捨てられた所をポプラさん、フェアリータイプのジムリーダーに拾われ鍛えてもらった時をキラキラ期と例えていた。

そしてジメジメ期である彼は今、ローズさんに選ばれたことを誇りに感じエリートを名乗っている時期だ。

正直、何を言われるか分かったもんじゃない。

 

「ローズ委員長に選ばれたと言うことはボクと同じようにエリートオブエリート……ポケモンバトルも強いということですね?」

 

「あ、あの………その……私、バトル苦手なんですけど」

 

「バトルが、苦手?」

 

此方を見定めるような目で見てくるビートさんにそう話すと、ビートさんはまるでマメパトが豆鉄砲を喰らったかのような表情になる。

 

「そんなバカな……ローズ委員長が推薦した人がこんな……」

 

俯きながらブツブツと呟くビートさんに対してこれは離れてスボミーインに行っちゃ駄目かな?

そんなことを考えていると腰のベルトに付けたアブソルのモンスターボールがガタガタと震え、モンスターボールを開けようとしているのが分かった。

大丈夫だとモンスターボールを撫でる、するとモンスターボールの揺れが少しだけ収まった。

取りあえずここで何か言われる前にスタジアムを出よう、私は今のところこの人とは他人の筈だし。

 

「その、ごめんなさい!急いでるので失礼します!!」

 

そう言って頭を下げて出口へと走る。

走る理由はある、気まずさもあるが早く行かないと安全にホテルスボミーインにチェックイン出来ないからだ。




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