BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
無事、エール団が妨害をする前にホテルスボミーインにチェックイン出来た私は、部屋の鍵を閉めた瞬間、ようやく息を吐いた。
とりあえず、ここなら誰にも見られない。
予期せぬ旅立ち、予期せぬ原作キャラとの会合。
精神的な疲労感が限界値だった。
眠ることはせず、ベッドに身体を預けボーッと天井を眺める。
何も考えないようにしているのに、何もしていない自分だけが、やけに浮いている気がした。
テレビを点けることもスマホロトムで動画を見ることもせず、ボーッとしていた時だった。
腰に付けたままだったベルトについたモンスターボールの一つがパカッという音を立てて開いた。
モンスターボールの開く音に視線だけをそちらへ向けると、モンスターボールから手持ちの中の一匹、グレイシアが出ていた。
グレイシアはゆっくりと此方へと向かってくると、私の身体の上に乗り胸まで来るとポスリとうつ伏せになる。
「…レイ」
撫でろとでも言うようにそう鳴いたグレイシアを頭から身体へ流れるように撫でる。
グレイシア、イーブイの進化系の一匹。
こおりのいし、というアイテムによってイーブイが進化した姿で氷タイプだ。
そんな彼女は、非常に賢い子だった。
カロスから帰った私がカントー地方で出会った子。
図書館の通り道でよく見かけて、私が作ったお菓子をあげたところ気に入ったのか、私に着いてくるようになった子だ。
そこ一帯の主だったのか、グレイシアを見ると大抵のポケモンは逃げていったのを覚えてる。
カントー地方でグレイシアは見かけない、だから野良のイーブイが落ちていた、又は捨てられたこおりのいしを拾って進化した。
もしくは、考えたくないがアニメのヒトカゲやツタージャ、ポカブのようにトレーナーに捨てられた可能性だ。
ここら辺はあまり考えないようにしている、この子をゲットして今私の元で過ごしているなら。
それが幸せなら、それでいいから。
ふと撫でられているグレイシアを見る、その表情はどこか不満げだ。
これはこれで嬉しいんだけど……と言っているような表情に私はようやく理解した。
遅いと言っている顔だったんだ。
「あぁ、ごめん。今日の分まだだったよね」
身体を起こしてリュックから取り出したのは、カラフルなアメが入った小さなタッパーのようなもの。
そこから一つ取り出して、グレイシアの口許へ運ぶと満足した様子でアメを口に含む。ついでに自分も一つ口に含む。
美味しそうに口の中でアメを転がしているグレイシアの身体を膝に乗せて撫でる。
こうして甘いものを分け合う時間だけは、どこにいても、変わらない。
グレイシアは私がゲットしてから1日に一回は甘いものを貰わないと怒るようになってしまい、甘いものを貰えないと言うことを聞かないようになってしまった。
しかも、私の手作りではなければ食べないという徹底ぶりだ。
なのでいつも簡単なベッコウアメやフルーツの果肉や果汁をいれた前世で言う所のドロップのような物を常備している。
少しだけ困っちゃったけど、お菓子作りの練習でよくお菓子を沢山作ってしまう私は、お菓子を食べてくれるグレイシアには凄く感謝していた。
「……このまま部屋に籠ってても、きっと何も変わらないよね」
アメを舐め終え、膝からグレイシアを下ろしてベッドから身体を起こす。
「せっかくだし、晩御飯……外に食べに行こうかな」
もうエール団はいないだろうし、外に出ても大丈夫のはず。
それにこれから、負けることが目的とはいえジムチャレンジを頑張る訳だし、少しくらい贅沢してもいいよね?
もしかしたら、どこかでユウリ達と会うかもしれないし………。
私、その時はちゃんと話せるかな。
部屋を出てスマホロトムで近くのお店を検索しながらエレベーターに乗る。
せっかくだし美味しいところに行こうかな。
でも、やっぱり初めて行くお店とか怖いし行き馴れたチェーン店がいいかな。
そう思いながらスマホロトムを操作しているとチン!と言う音と共にエレベーターが止まる。
扉が開くとユウリとホップがマリィさんと話している姿が見えた。
「うぇ!?」
しかも開いた出入口には逃げていくエール団の人達が見えた。
もしかして、ちょうどイベントが終わったのかな?
てかえ?私の方見てないよね?
エレベーター開いたら目の前にいるとか普通に無理、本当に無理!心の準備もなんにも整ってないよ!?
そう思いながら彼女達にバレないようにエレベーターを出て出口へ向かっていた時だった。
突如としてユウリがバッと勢いよく振り返る。
目が、あった。
瞬間、ユウリは目を煌めかせると私へと走って来た。
「あ!シアーン!!」
「ひゃあっ!」
勢い良く抱き着いてくるユウリに思わず変な声が出てしまった。
いつも急に抱きつかれたりするけど、女の子のノリってやっぱり不思議だね……。
………フシギダネだけに。
うん、絶対に誰にも言わないようにしよう。
冷たい目線はさっきのグレイシアで十分です。
ユウリに抱きつかれながら、そんなことを考えた今日この頃。
「んーやっぱりコレコレ、よい匂いで安心感が最高だよぉ……」
それ、大丈夫なやつ?
私一応今日の服はしっかり洗濯された奴着てるからいい匂いなのは柔軟剤なんだけど。
あと安心感ってあなたが言いますかあなたが、あなたより私の胸は小さいんですけど……。
「なんでここにシアンがいるんだ?開会式は明日だぞ?」
「ハッ!?なんでここにいるのシアン!?開会式は明日だよ!?」
不思議そうに首をかしげて聞いてくるホップと、ホップの言葉に私の胸元からバッと顔を上げる。
なんか、うん。
色々と覚悟とか心の準備とか思ってたけど、いっかぁ。
「じ、実は色々とあって私もジムチャレンジに参加することにしたの」
私が誘ったときは行かないって言ってたのに、どうして?
そう言われると思っていたが、ユウリの反応は全く違った。
「本当!?やったー!」
「ならお前もライバルだな!一緒に頑張ろうぜ!」
私から離れ小さくジャンプしながらガッツポーズをするユウリは、体全身で私と一緒にジムチャレンジ出来ることに喜んでいる様子だった。
そしてホップもまた、嬉しそうに笑いながら私をライバルだと話す。
「アハハ……その、私はバトル苦手だから。ライバルには成れないんじゃないかな?ジムを突破出来るか分からないし。ほ、ほら!あの子と話してたんじゃ?」
そう言って先程からぽかーんと口を開けて此方を見ているマリィさんの方を見るよう促すと、ユウリは慌てた様子でマリィさんの方を向き口を開いた。
「そうだった!ごめんねマリィ、同じ町の友達がいて驚いちゃって。紹介するね!私の友達のシアン!」
「その、シアンです……初めまして」
「う、うん。あたしはマリィ。こちらこそ初めまして……ではないわね。一方的にやけどあんたのこと知っとるし」
「え?」
流れでと話することになっちゃったけど、凄く緊張感する!
マリィさんの、一方的に知っているという言葉に脳が真っ白になる。
何処かであったっけ?
思い出すことが出来ないでいると、マリィさんが近付いてくる。
「さっきスタジアムでの色々……その、御愁傷様やったね。急に知らん人に話しかけられるとかあたしも怖なるし分かる」
そう言えばマリィさんスタジアムの受付のあるホールに居ましたね。
小声で話してくれたマリィさんに頷きながら此方も小声で返す。
「は、はい。その、ありがとうございますぅ……」
どうしようめちゃくちゃ心臓がバクバクしてる。
落ち着け、落ち着け私!
「まぁ、明日からは敵同士だし。そろそろあたしは失礼するよ」
「ぅあ!あの!!
「?」
「その、うぅ……今から晩御飯食べに行こうと思ってるんです!よ、よかったらみんなで一緒にどうですか!?」
な、ななっ、なに言ってるの私!?
コミュ障の私が、みんなでご飯!?
しかもほぼ初対面の人と!?
無理無理無理、絶対無理!
緊張して喉が通らないよぉ……。
今すぐ数分前の私に戻ってさっきの言葉を言わないようにしたいよぉ。
でも、今後はホップやユウリと仲良くなる訳だし、三人の仲が良くなるためなら。
そ、それに!この目でマリィさんとユウリの絡みが見れるかもしれない!
なら、が頑張ろう私!頑張ってマリィさんも込みでご飯を食べよう!
「見てみてホップ!あんなに内気で話すの苦手だったシアンが、自分からご飯誘ってるよ!」
「内気かどうかは分からないけど、いいことならいいな!それに、シアンが誘ってくれたんだし行くに決まってるんだぞ!」
「………ねぇ、二人とも?」
私のこと、ばかにしてない?
二人とも私の事バカにしてない?
喧嘩なら買うよ!料理の腕でね!!
ポケモン勝負?主人公に挑むとか何その無理ゲー。
「ぷっ!あっははは!面白いねあんたら、良いよ。あたしは一旦部屋に荷物を置いてくるけん、ここで待ってて。モルペコもそれで良い?」
「うらら~♪」
マリィさんの言葉に楽しそうに鳴き声を上げるモルペコ。
そういえば、モルペコってどの文字とも被らない鳴き声をしてる。
大体のポケモンはその名前の一部が鳴き声だったりするし、新鮮な感じがする。
「あ!私も行くー!ホップとマリィと一緒に荷物置いてくるから、少し待っててね!」
そう言って三人が私が乗っていたエレベーターに乗り込んで上の階に上がっていくのを見送ってから近くのソファに座る。
するとスボミーインの入り口近くに置かれた大きな剣と盾を持った像を見付け、私は銅像を間近で見ようと近寄る。
「英雄の、像」
ガラル地方に伝わる昔話には、伝説ポケモンが存在しない。
だが、これは作られた昔話だからだ。
原作をクリアした私だから知っているのだ。
遠い過去、大きな禍がガラル地方を襲った。
伝説のポケモンーー剣を持つザシアンと盾を持つザマゼンターーと共にブラックナイトを打ち倒した二人の人間は英雄と言われ、二匹のポケモンと共に像が作られた。
だが、ガラルの貴族が自分の地位を守ろうと本来なら存在した二匹の伝説のポケモンを抹消した。
そして英雄を一人として、ガラルの貴族が二匹の伝説ポケモンを無かったことにして作り上げた、偽の歴史の象徴のようなものだ。
本来の歴史を知るには、まどろみの森の奥にある場所へ行くしかない。
「………やっぱり」
ゲームであったものを現実として認識した私は、胸に渦巻くやるせなさにため息をついた。
大人は汚い、子供が純粋な分……汚い部分がより強く浮かび上がってくるのだ。
その後は戻ってきたみんなでファミレスでご飯を食べた。
皆で色々なことを話した。
賑やかにご飯を食べるの、楽しかったな。
その後でマリィさんとも連絡先を交換した。
ユウリとホップ、そして両親以外に連絡先が存在しなかったメッセージアプリが、少しだけ賑やかになった。
いよいよ明日が開会式だ、目立たずに終われればよいんだけど。
ご愛読ありがとうございます。
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