大きな扉が重々しく開く
白銀の全身鎧に身を包んだ2人の騎士が入ってくる。
その後ろから、一人の男が静かに歩み出た。
白を基調とした法衣に、金の刺繡が施されている。
白髪交じりの髪、60代ほどだろうか
しかし背筋が真っ直ぐ伸び、その立ち姿には揺るぎのない威厳があった。
男は柔らかな笑みを浮かべ胸に手を当て、挨拶をしてくる
「お初にお目にかかります勇者さ――」
言いかけたその瞬間。
顔をあげた男と目が合った。
唖然とした顔で
「......
一瞬言葉を失い
ゆっくりと膝をついた
震える声で、言葉を絞り出す
「やはり、伝承は真実だったんだ!」
「神は、我々を見放してなどいなかった......」
その目には涙が、いまにもあふれだしそうだった。
顔の前で祈るように手を組み。
「おお、神よ......勇者様以外にも、天使様を目覚めさせてくださりありがとうございます。」
「これは啓示なのですね...これで、この世界は救われます。」
完全に自分の世界に入り込んでいる。
不意に、袖をぎゅっと握りしめられる。
「あの......これは、どういう状況なんですか?」
結が、小さく震えた声で話しかけてくる。
振り向くと、俺の背中に隠れるようにして、結が必死に涙を堪えている。
目の前の異様な光景に、泣くことさえ忘れてしまったのだろう。目元は赤くはれていた。
「俺も、わからない。」
そう答えるしかなかった。
女性の冷たい声が響く
「教皇様、自分の世界に入られるのはいいのですが」
「まずは、今この状況を勇者様方に教えて差し上げる方がいいのではないでしょうか?」
男は、はっと我に返り。
涙をぬぐいながら話し始める。
「そうですね......説明が、まだでしたよね」
「すみません」
「勇者様...それに、天使様...」
こちらをゆっくりと見てきた。
その目は、まるで救世主をみるような。
そんな目だった。
男は居住まいをただす。
「申し訳ございません、取り乱してしまいました」
「わたくしは、教皇兼この国のトップを任されている、ゼルファディアと申します、以後お見知りおきを」
ゼルファディアが、深くお辞儀をする。
女性の方に手のひらを向け。
「こちらは聖女のリアンといいます」
リアンが会釈をする。
「それでは、わたくしから勇者様方にこの世界のことを説明させていただきましょう
――」
ゼルファディアの説明が始まった。
でも、さっきの言葉が頭から離れない。
「お母さんが死んじゃ...て、頼る人も...頼れる人もいなくて」
「それで...」
「全部、どうでもよくなって......」
さっき、女性に止められ。
自分が突飛な考えになっていたことに気づいた。
少し冷静になって考える。
本当に、あの子は死にたかったのか?
それとも――
その時、ひときわ大きな声が聞こえた。
「――神殿は伝承に記された”勇者召喚”を執り行いました」
勇者召喚?
それは、ネット小説とかによくあるものだった。
そういえば、今までのことに夢中で周りのことを気にしていなかった。
周囲を見渡す。
広い空間、その中央には巨大な魔法陣。
さっきまで、ベッドだと思っていたのは棺に似た形をしていた。
だが、この場所にはあっていない人工的な気配がある。
そっか、ここは異世界なのか....
となりの結をちらりと見る。
まだ、結は話を聞いていた。
ゼルファディアが大きな手ぶりで動く。
「これは、古くから伝わる儀式。幾度となくこの世界を救ってきた手段でもあります」
「勇者様は、異世界から招かれしもの」
「それと......天使様も同様に、女神さまから遣わされたもの、それは世界の危機と同時に目覚めると言われています」
ゼルファディアが、こちらに目線を向ける。
「伝承では、天使は神の器とされています。魔王討伐の際に力を貸してくださると」
「ゆえに、女神様から力を授かりしものが、この世界を救うものとされています」
「そこで、3国のトップを招き、実力を見てもらおうと思ったわけです」
そこで気づいた。
――違う。
俺はこの子に気持ちを聞いていない。
勝手に決めつけて、勝手に殺そうとした。
この子のことを何もわかっていない。
これじゃあ、俺もこの教皇と同じだ...
自分勝手な理屈を、この子に押し付けていた。
突然、大きな声が聞こえる。
「いやです!!」
ゼルファディアが驚いて動きが止まる。
それでも、結は止まらない
「なんで、こんな見ず知らずの場所で私が、世界を助けなきゃいけないんですか!」
結がつかんでいる袖の力がより一層強くなる。
「助けてほしいのはこっちです!」
「そもそもなんで、こんな......右も左もわからない世界に呼び出されて...」
「いきなり、戦えなんて!!頭おかしいんじゃないんですか!!」
「自分たちの世界くらい、自分たちで解決してください!!」
また、涙を流す。
「なんで、私だけ......こんなことばっかり...」
結のえずく音だけが響く。
「はやく元の世界に返してください!!返せないっていうのなら、いっそ殺してください!!」
リアンは神妙な面持ちで、
だけど小さく誰にも聞こえない声呟く。
「......私が、あの時に」
ゼルファディアはあわてている。
その空気を大きな声が断ち切った。
「勇者様!!」
そこで、後ろにいた騎士が少し駆け足でこちらに向かってきた。
片膝をついて目線を合わせ、ヘルムを脱ぎ、足元に置く。
40代くらいだろうか、黒髪にどこか力強い灰色の目
その顔にはところどころ傷があり、いままでの人生を物語っているようだ。
その眼は真っ直ぐと結の方を見据えていた。
「勇者様、私は聖騎士団、団長を任されております。アムニスと申します」
アムニスが頭を下げた。
「申し訳ございません」
「私たち聖騎士団...いや、世界の者たちがふがいないばっかりに...あなたを頼ってしまって」
「それも......年端もいかない少女に、こんな......重責を」
その声は震えており、どこか怒りに満ちた声色だった
「それでも、無理を承知で言います!」
「魔王が倒されるまでの間だけでも、どうか、どうか......」
「この世界に...いて、いただけないでしょうか?」
「もちろん、帰っていただいてもかまいません。」
「ただ......いまは、この世界に希望がなく、皆が下を向いています...」
「そこに、勇者様の存在があれば...少しでもみなの希望が生まれます。」
アムニスが腰の剣を抜き、それを床に置く
さっきよりも、さらに深く頭を垂れ
「我がすべてを捧げます。だから、どうか――」
その後ろから、もう一人の騎士が走ってくる
アムニスの横に立ちヘルムを脱いだ、赤髪に緑色の目をもつ青年だ。
すぐにアムニスと同じことををする
「俺も、すべてを捧げます......だから、頼みます......」
結が口を開く。
「そんなの、ずるいじゃないですか......」
「私だって、助けてほしくて......」
「全部なくなって!それでも誰も、助けてくれなくて......」
「だから、死のうとしていたのに......こんな――」
結の涙が止めどなくあふれ出てくる。
その声は、震えていて
どこか助けを求めている声だった。
そうか――
さっき、俺はこの子を殺そうとした。
死にたいんなら、殺してやろうと。
でも違う。
この子は、死にたいんじゃない。助けてほしかったんだ......
今度こそ、間違えない。
結の手を、そっとつかんだ。
震えている。
「......いいよ」
「無理に頑張らなくてもいい......」
「戦わなくたっていい」
「逃げてもいい」
一瞬、空気が固まる。
「でも――」
少しだけ、力をこめる
「それでも君が”生きたい”って思うなら」
「その時は、俺が全部どうにかする」
「君は何もしなくてもいい」
「世界も、責任も、全部いらない」
「ただ――」
「君がどうしたいのかだけを、教えて欲しい」
ほんの一瞬だったのかもしれない。
それでも...
長い長い――時間が流れた。
結がおもむろに口を開く。
「......なな」
「なな......となら、一緒にいきます。」
アムニスが搾り出すように声を出した。
「......ありがとう、ございます」
その言葉とともに、床に一粒の涙がこぼれた。
その空気を壊すかのように、ゼルファディアが話した。
「それは、良かった......」
心底、安堵した表情をしている。
「ささ勇者様もお疲れでしょう」
リアンが静かに前に出る。
「ご案内します」
その声は冷たかったが。
結の方をちらりと見た、その目には何かが宿っていた。
そこから三人で部屋を出て
誰も話さず、白い廊下を歩いた。
そんな時、結が俺の手を握ってくる。
結が俺にだけ聞こえる声で話す。
「不安だから......部屋につくまで手、握っててもいい?」
甘えたような声が俺の耳に届く
なんと反応すればいいかわからず、ただ頷いた。
部屋の前につく
「ここがその部屋です」
リアンがそう言い
何かを唱えた後に、ガチャリと鍵が開いた音がした
リアンが先頭に立ち、中に入っていった。
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