一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】   作:カウン

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ただし、事故は仕方のないものとする。


本編
至近距離で眩しいものを見てはいけない


一人のアバターが顎に手を当てて路地を歩いている。あーでもないこうでもないと呟きながら彷徨うその頭には狸の耳がぴこぴこと動いていた。

 

「でもここのプログラムは既存の技術でも再現可能……のはずですが」

 

しゃがんでポリゴンの水を掬う。その背後で尻尾も揺れる。

そんな事をしているアバターを屋根の上から見下ろす者が一人。傘を広げ、懐かしむように微笑むと、誰にも聞こえない声でそっと呟く。

 

また(・・)ヤチヨと話してあげてね、レンゲ」

 

何かが聞こえた気がして、レンゲと呼ばれたアバターは振り返る。だが、そこには誰も居ない。首を傾げながら、そのアバターは去っていく。

 

これは、本来のお話では居ないはずの少女が、自由を知らない少女から自由を貰う、そんなお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊張で呼吸が浅くなっているのがわかる。ゆっくりと顔を上げ、張り出された順位表を見て、私は安堵する。

 

「8位……これで落胆させずに済みますね」

 

なんとか両親の期待を裏切らずに済みそう。そう考えながら落ち着いて眼鏡を直した。一度だけ成績順位二桁を取ってしまった時の両親の顔を思い出して身震いする。

もう二度と、悲しませるわけには行かない。そんな決意とともに、もう一度順位表を見た。

 

8位 上條 蓮夏〈かみじょう れんげ〉

 

以前より一つ順位が上がっている。これなら安心して報告できそうだ。

そんな事を考えていると、後ろから話し声が聞こえてくる。

 

「彩葉、流石じゃん」

 

「やっぱ天才〜、そしてそのノートを見た私達も順位が上がってるね〜」

 

「それは二人が頑張ったからだよ」

 

声を聞いて、1位の名前に目を向ける。酒寄彩葉。私のクラスメイトであり、密かに対抗心を燃やしている相手だ。

文武両道、才色兼備、おまけに仲のよい友達も居ると来た……羨ましい!私も友達と出かけてみたい!

 

そんな心の叫びが届くはずもなく、3人は話しながら去っていく。くっ……きっとこの後はオシャレなカフェでティータイムと洒落込むのだろう。私は手を握り順位表を睨む。

きっと成績1位を取れれば私にも友達ができるはず!それまでの辛抱だ!

 

「っと、こんな事している場合ではないですね」

 

早く帰ってあの仮想世界の解析を進めないと……父にお手上げと言わせた、あの『ツクヨミ』と呼ばれる空間を。

3連休あるんだ。勉強もやりながら、解析が進むことを願おう。

 

 

 

 

 

家にて、勉強をしていると外が眩く光った。何かと思い窓から顔を覗かせると、そこには尾を引く流れ星が。それを見て、思いが溢れてしまう。

 

「願い、事……友達が欲しい、です」

 

そして自身で口にしたことに驚く。成績でも、未来の進路でもなく、友達。自身で発したはずの言葉に呆れつつ席に戻る。

 

(願い事が叶うなんてオカルトですから、そんなもの……)

 

 

 

 

 

 

 

(まさか何の成果も得られないとは……)

 

三連休が明けた。脳内で知らないおじさんが何の成果も得られなかった事を叫んでいる。管理AIのミニライブなどにも足を運んだが、結局分からずじまい。現代のプログラムであれ程のシステムが動く原理が分からない。

私は趣味と呼べるほどのものではないが、システムのプログラムなどを解析して、原理を理解すると言った事をよくやる。かなりの数こなしてきたはずなのだが……今回はかなりの難敵なようだ。

 

頭を抱えていると、前からピアノのきれいな音色が響く。慌てて顔を上げると酒寄さんがピアノを弾いていた

 

(そう言えば音楽の授業中でした。にしても……いい音色)

 

狂いなく、綺麗な旋律が耳に届く。クラスのみんなや先生からも、拍手が送られる。やっぱり羨ましい。そう思って聴いていたはずだったのだが、なぜかその音は淋しく聴こえた。

 

そんなこんなで放課後。靴を履き替え、校門に向かう。すると、校門付近にTシャツ1枚の女の子が猫を持ち上げていた。

 

「可愛いー!私もこういうの欲しい!」

 

天真爛漫をその身で体現したような子だな。誰かの妹だろうか。そんな事を考えながら横を通り過ぎる。

 

「うわぁ、大っきい。私の何個分だろ」

 

自身の胸元に目を向ける……後ろで聞こえたことは無視です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて私はツクヨミに来ていた。行き交う人々の間を縫って進んでいく。にしても、誰がこれ程の仮想世界を作ったのだろうか。父ほどのエンジニアならなにか手掛かりくらい掴めてもいいと思うのだが。

 

「っと、着きましたね」

 

考え事をしながら歩いていたら目的地に着いていたらしい。管理AI、月見ヤチヨが定期的に開催するこのミニライブ。今日こそは何かしら見えてくるといいのだが……。

 

周りが暗くなり、ライブが始まる。

調査とか解析とか、色々言ってはいるがこのライブ自体は好きだ。空を舞う光る魚たち、きれいな歌声、幻想的な雰囲気。こんな体験が出来るのはここならではだろう。

でも、私が求めているものではない。私が求めているのはもっと……。

 

気がつくと、ミニライブは終わっていた。ヤチヨカップ?何やら大きな催しがあるようだが、私には関係ないだろう。周りが騒がしいが、それも関係ない。さて、今日は素直に楽しんでしまったらしい。少し自身に落胆しつつ、ログアウトの準備をする。その時。

 

「ヤチヨーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

真横から突風が吹き荒れた。何事かと顔を動かすと、そこにはうさ耳のついたアバターが居た。ヤチヨカップで優勝する!と高らかに宣言するその姿に、私は目が離せなかった。

自由で溢れんばかりのエネルギー。真っ直ぐと通るきれいな声。一挙手一投足が見逃せない奔放さ。彼女の事を知りたい、追いかけたい、応援したい、そんな今まで感じたことのない欲求が、心の奥底から沸々と湧いてくるのを感じる。

これではまるで、至近距離で光を浴びてしまったような、そんなその全てに心惹かれる状況に、私は。

 

震える手でログアウトを選択し、現実に戻る。目を開き、胸に手を押し当て自身の心拍を確認する。いつもより不規則で、早い。

 

「どうしよう……忘れられません」

 

どうやら私の目に焼き付いたものは、相当眩しかったみたいです。

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