一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】   作:カウン

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但し、故意なら仕方のないものとする。


至近距離で月を見てはならない

「ついに……!来ましたよ!!」

 

「レンゲ今日うるさー」

 

「一段とギアが高いね〜」

 

そう!なんと今日が!!ヤチヨさんとかぐやいろPのコラボライブ当日なのである!!ここ最近は緊張してか、眠るまでに時間がかかったりしたが、まぁ誤差だろう!

てなことで、会場で綾紬さん、諌山さんと待ち合わせをしていた感じである。

 

「でも私も楽しみで、今日はずっとライブの事考えてた」

 

綾紬さんが目を細めながら、ライブ会場を見つめる。今回のライブはツクヨミ上空に特設ステージが作られ、そこで行われる事になっている。こんな煌びやかな所でライブが見れるなんて……なんて最高なんだ!

 

「でもチケットを2人が譲ってくれて助かったよね〜、倍率凄いことになってたよ?」

 

「本当に2人には頭が上がりません……」

 

チケットは2人が身内枠として貰っていた3枚を私達にくれたものだった。帝さんは良いのか?って酒寄さんに聞いたんだが、あの人には断られた、って話していた。一人っ子なので分からないが、恥ずかしいとかあるのだろうか。

 

「2人とも、こちらペンライトです。是非存分に振り回してください」

 

「レンゲキャラおかしくなってない?」

 

私がインベントリからペンライトを2人に渡すと、綾紬さんから辛辣な言葉が帰ってくる。

 

「おかしくもなりますよ!推しの晴れ舞台ですよ!!」

 

「ロカ……レンゲの気持ち、汲んでやりな……!」

 

同じく推しがいて、この前大衆の前で気絶をした諌山さんがフォローしてくれた。やはり持つべきものは推し仲間か……。そんな彼女がサムズアップしながらいい笑顔で言った。

 

「大丈夫、骨は拾うぜぇ」

 

「気絶したらごめんなさい!」

 

「普通謝るの先じゃない?」

 

そんな風に話しながら、ライブの開始時間まで期待で胸を膨らませて待っていた。

 

 

 

 

 

そしてついに、ライブが始まる。舞台が暗転し、昇降機の音が鳴り響く。ガコンと、昇りきった音がしてから、間を空けて、ステージとディスプレイが光り輝く。

中央にはライブ衣装を身にまとった、3人の姿も見えた。

 

「ヤオヨロ〜!みんな!生きるのどうですか〜!良い事あった?それとも泣いちゃいそう?」

 

ライブ前の口上か、ヤチヨさんがとても優しい声色で語りかけてくる。自然と言葉が引き出されるような、そんな寄り添う様な話し方に、客席からも声が上がる。

 

「よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。」

 

私は目を疑った。何故なら、今のヤチヨさんから、私が今まで生きてきて見たことの無い感情が溢れ出ていたからだ。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、全ての感情が混ざり合った、一言で言い表せない感情。私の人生経験では説明できないものが、そこにはあった。

だが、それは一瞬で霧散し、すぐにいつものヤチヨさんに戻る。

 

「この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に踊ってくれる?」

 

周りの席から歓声が上がる。でも私はさっきのヤチヨさんが引っかかってしまって、声を上げる事ができなかった。あんな混濁した様な感情を、AIが出せるのだろうか。

やけに鮮明に、脳裏に残ってしまった。

 

「〜♪」

 

そんな中始まったコラボライブ。フロアがピンクに染まり、アップテンポな曲が流れ始める。どうやら、過去に流行ったボーカロイドのリミックスカバーのようだ。

 

「えっ待ってうちの推しどちゃくそ可愛いんですけど!!!」

 

「嘘イロハ可愛すぎ……!」

 

数秒前に脳裏に残った物は、瞬時に洗い流されてしまった。最近の洗剤でも、こうはならんだろ。

 

「♫〜」

 

ヤチヨさんが選んだのか、曲のチョイスが良すぎる。かぐやさんにぴったりである。歌いながら、2人は舞うように踊って、カメラへのアピールも忘れずに行ってくれる。

 

「顔が……いいっ!!」

 

「イロハ……頑張って!」

 

横の友人もよう限界化しとる。器用に発狂しながら周りにも目を向けつつ、ペンライトを振り続ける。と言うか、あの舞台で臆せず演奏できている酒寄さんは何者なんだ私の友人すごい!

そんなステージではヤチヨさんに嫉妬したかぐやさんが酒寄さんを引っ張り、倒れるなどのアクシデントがあったものの、それすら利用し、巻き込んで虜にしてくる。

 

「♬〜」

 

「ん↓ん↘ん→!!!」

 

サビに入って光の雨が振り注ぐ、かぐやさんの美しすぎる顔面がスクリーンにアップで映され、気絶しかけるも、気合で持ち直す。だがヤチヨさんも負けていない。この場に酒寄さんが居たら泣き出すであろう可愛かっこいいダンスを披露する。

が、かぐやさんが星形のサングラスをかけ、ふざけ始めると、ヤチヨさんも同じように踊り始める。ほほ笑ましく思いつつ、ペンライトを振るう。

 

「ヘイベイビー」

 

「ア゜!」

 

隣で悲鳴が聞こえた気がするが、聞かなかったことにしてあげよう……でも正直今の酒寄さん可愛かったな。

 

「お次は新曲!いっくよ〜!」

 

その掛け声とともに舞台が暗転する。刹那の静寂、周りの息を呑むことすら聞こえる。観客の期待が高まるのに応える様に、3人に光が灯る。特徴的な電子音が流れ出し、歌声が周りを包む。

 

 「今は昔、誰もが知る物語。

   かの有名なかぐや姫はこう言った」

 

暗めのイントロから、世界に引き込まれるような歌詞。もう私の目はステージに惹きつけられて離れなかった。運命を否定する、私は私だ!まるでかぐやさんが言っているような歌詞。私には明るすぎる言葉。

 

 「ここにいるキミと私

   懐かしいような初めてのような

     そんな歌だこれは」

 

次いでヤチヨさんが歌う。何故だろう、本人が気持ちを紡ぐように歌ってるように感じる。溢れんばかりの想いを抑えて、苦しそうに歌う。なぜかそんな風に聴こえてしまう。そんなに何を抑えているんだろうか。

そんな中、遠慮するように2人の後ろで演奏する酒寄さんをかぐやさんが引っ張り、ステージ前方に連れ出す。酒寄さんの目が煌めき、口角が上がる。

 

 「キミと今見てるこの景色

   何億回思い出したろう」

 

貯めた音が爆ぜ、サビに入る。遂に3人の息がそろい、鼓動が合わさった。楽しさを分けてあげる!そんな眩しすぎる声が、心を揺さぶる。音、光、声、会場の全てが電流の様に私の身体を貫く。もう私にはステージしか見えてなかった。

 

 「そうよ私がヒロイン

   そのハートを射抜いてあげる」

 

とっくに射抜かれた筈の心がまた撃たれるのを感じた。そして心地よさとともに、視界が揺れる。あぁ、これが酩酊感。そうか、私は今、このライブに酔わされているんだ。弾けるドーパミンは止めどなく、私の脳を快楽に浸す。

 

 「名前呼んで、私は誰?

   押しも押されぬお姫様」 

 

3人が中央で舞う。サイリウムが光の波となり激しく揺れ、舞台を更に彩る。そうか、これがライブなんだ。どうやら私の脳はまだ焼けるらしい。だが、私はこれでいい。いや、これがいい!

 

 「きっと永遠だった

  逢いたいと願うまで

   そうよ私、そんなおとぎ話」

 

3人が決めポーズを取ると、割れんばかりの歓声が会場を揺らす。頬に冷たさを感じ、拭う。私は呆れた様に笑い、事実を確認した。泣いているのか、私は。感動で泣いたのなんて初めてだ。ライブが終わっても、涙は止まらない。まだ終わらないでほしい。ずっと見ていたい!そんな叶わない願いが、心に湧いては消えていく。

涙でスマコンがズレて、かぐやさんとヤチヨさんが重なって見えてしまった。慌てて元の位置に戻す。

そうしながら、幸せそうに話す2人を眺め、私も拍手を送る。

 

ふと横を見ると、二人もボロボロと涙を流していた。私は同じ気持ちなのが嬉しくなって、ついからかってしまう。

 

「やーい、泣いてますね?」

 

「うっさい……レンゲも同じくせに」

 

「そ〜だそ〜だ」

 

3人で目元を拭いながらフフッと笑う。お揃いってこんなに嬉しいんだな。そう思っていると、綾紬さんが自身の感情を口に出す。

 

「イロハめっちゃ可愛かったよね!」

 

「いやいや、かぐやさんも負けてないですよ?」

 

「まぁまぁ2人とも、ヤチヨ含めてみんな可愛かったって事で〜」

 

そう楽しげに話していると突然、空が厚い雲に覆われる。ペンライトの光で気付いていない人が殆どだが、私は何故か無性に不安を感じた。

だって、ツクヨミで雲なんて見たことなかったから。

 

心の何処かが警鐘を鳴らす。心配になり、推しに目を向けると、得体のしれないアバターに腕を掴まれていた。

 

「なに……あれ」

 

綾紬さん達も気づいたのか、奇妙なものを見るように、そのアバターを見つめる。酒寄さんが咄嗟に腕を切り落とした様だが、かぐやさんが明らかにおかしい。だってあんなにいつも笑っていた彼女の表情が、昔の私の様に、平坦なものになっていたから。

 

「っ!!」

 

私は武器を呼び出し、構える。既に酒寄さんとかぐやさんは包囲されている様で不利なのは目に見えて分かりきっていたから。

前の客席に足をかけ、奥歯をかみしめながら震える手を抑えて、狙いを定める。かぐやさんにあんな表情させて良いはずがない。許せない。私が、やらないと。

 

が、私の狙っていた個体は突然横に弾き飛ばされる。それどころか、酒寄さん達を取り囲んでいたアバターが次々に飛ばされる。何事か、と思って、周りを見ると、ヤチヨさんが指を振るいながら近づいていた。

 

彼女が近づくと、そのアバターは頭を下げ、煙となって消えてしまった。

 

「今のは一体、何が起こってしまうんだ!?続報を待て!」

 

その言葉で客席の殆どは演出と勘違いし、席につき直していた。でも私は、武器を構えたまま動けなかった。手が震えて、コントローラーを落とす。今まで調べてきたデータにない、あいつらの目的は、色々な憶測が脳内を飛び交うが、それは私の恐怖を隠すため。

 

「そんな顔、したら、駄目です……」

 

私の憧れが、大好きが、光が、消えてしまうようで、怖かったから。

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