一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
9/12 20:55
私は呼吸を整えながら、デスクトップのカレンダーと時間を見た。
よし、最終確認だ。これから始まるかぐやの卒業ライブ、そこで月に連れ去られるかぐやを守り抜く。実質、竹取物語の様な状況に、同じ様にはさせないと気合が入る。
それと、自身の準備したシステムを確認して、セットアップに入れておく。こうしておけば、その時になれば即座に使用可能だ。
2台のパソコンでそれを行ってから、隣の棚からかぐやのぬいぐるみを手に取り、それを胸元で抱きしめた。私の光だ。酒寄さんにとってはそれ以上の、いわば太陽のような人なんだろう。友達のためにも、負けられない。
私は、大切な髪留めを付け直して、スマコンを装着する。
「やってやりますか」
自分を奮い立たせるように呟き、私は仮想の世界へと落ちていった。
ログイン後、私達はKASSENに参加する全員での打ち合わせをしてから、待機室で考えを巡らしていた。
酒寄さんからの説明を思い返す。今回行うルールは8対8のバトルロワイヤル。残機は全員共通の3つ。事前の打ち合わせで、戦闘能力が高いブラックオニキスの3人か、酒寄さんが残機を使うと言う風に話はついている。
細かいルールは私が初めてKASSENを教わったSOUJINに近い。とにかく相手の天守閣を取るか、全員倒せばいい。
と、確認を終えた私は待機室を見回す。
気がつくと、オタ公さんのナレーションが聞こえてきた。どうやらそろそろ開幕のようだ。
「みんな、行くよ!」
酒寄さんの返事に各々が返答する。そのまま私達はライブ会場へと飛び込んだ。
「今日でお別れだけど、悲しくはしたくないんだ」
そんなかぐやの悲痛な挨拶を聞きながら、私達は上空から大地に落とされる。
着弾して、煙の中から立ち上がる。かぐやを見上げると、大きく目を見開いて、こちらを見ていた。いつも驚かされてばっかりだからか、なんか新鮮だ。
「ライブの余興!私達だって精一杯やるから、万が一勝っちゃったら、買い出ししてパンケーキ作ろう!」
そんな酒寄さんの説明を否定するように、帝さんが髪をかき上げながら、前に出る。
「万が一じゃねぇ……だろ?」
そんな言葉を聞いてか、嬉しそうに声を震わせて、目尻に涙を溜めながら、かぐやが叫ぶ。
「そっか……みんな、自由だ!!」
時間になったのか、正面に光が集まり、月が形を成す。私はその様子を見て、生唾を飲み込んだ。
その月が形を歪ませ、中から人型の得体のしれないアバターが出てくる。あれが月人。その大型の月人が手を開くと、中からこの前のライブの個体がわらわらと溢れてくる。加えて、その大型を守るように8体の中型月人が姿を現す。
「盛り上げていこうぜ!」
みんなを鼓舞するように帝さんが声を上げる。そのお陰か、神々しいのに不気味さがある月人を前に、恐れずに前を向ける。
皆が一歩を踏み出す中、耳に聞き慣れた声が入る。どうやら新曲のようだ。こんな時じゃなければ、しっかり歌詞まで聴けたのに……。眼前に居る月人を怨めしく思いつつ、アイコンタクトを皆と交わしながら、敵との交戦位置まで走った。
乃依さんの弓が前方に刺さり、開戦の狼煙を上げた。
敵まで向かう途中で自然と帝さん達と別れ、酒寄さんと綾紬さん、諌山さんの3人と月人を目指す。
前へと進む中、かぐやのアップテンポな曲に合わせて私達も戦闘にはいる。
視界が暗くなり、中型の月人が私の頭上に現れ、太刀を振るう。私は薙刀でそれを反らし、反撃として体ごと回転して斬りつける。が、直前で月人が後ろに飛び引いたからか、浅い。
瞬時に視界を巡らせ、味方の安否を確認する。すると、綾紬さんの上空から中型の月人が奇襲を仕掛けていた。
「ロカ!上っ!!」
バッと上を向いて絶望に顔を染める綾紬さんを見て、私は思いっ切り石突を突き立て、前に飛び出し駆ける。そのままの勢いで、手を伸ばして綾紬さんを抱き抱える。
「飛ぶよ!」
綾紬さんを抱えたまま、横に先程と同じ要領で飛躍する。直後、真横で爆炎が登る。転がりながら、どうにか姿勢を立て直し、武器を構えながら安否を問う。
「ロカさん、体力は大丈夫ですか!?」
「まだ行ける!ってマミ!!」
安心したのも束の間、爆炎の向こうで諌山さんの背後に中型の月人がシンバルの様な物を構え、挟み込まんと目を光らせていた。
「っ!!マミ、しゃがんで!!」
いつも出さないような大声を出しながら、武器の切っ先をその月人に向ける。その先端から閃光がほとばしり、爆炎を突き抜け、中型の月人を吹き飛ばす。
どうやら、花が舞ったのを見るに、今の一撃で倒せた様だが、銃口から火花が散って焦げていた。もうこの戦いで狙撃が使えることは無いだろう。走って諌山さんの元に向かう。
「お〜、怖かったぁ。助かったよ、レンゲ」
「無事で何よりです……さて、どうしましょうか」
酒寄さんは帝さんと合流できたのか、この場には居なかった。変わりに中型の月人が3体。私達を取り囲むように立っている。
「……大ピンチだね」
「むしろ燃えるシチュエーション、ってやつですか?」
「お、レンゲも言うようになったね〜」
虚勢を張りながら、周りを睨む。太刀と、扇のような奴が2体。まぁ誰が相手であれ関係ない。
「少しでも数を減らしてから、やられますよ!」
「道連れ上等!」
「じょうと〜う!」
皆となら、どんな敵が相手でも怖くはない!!
「来ますっ!」
扇を持った中型が左右からこちらを挟み込むように、武器を振るう。それを綾紬さんと私がそれぞれ武器を差し込み、受け止める。
「うぉりゃあ!」
諌山さんの気合の入った掛け声と共に放たれたフルーツ状の投擲物は太刀を持った中型に真っ二つに切り捨てられる。
「うそぉ!全力で打ったよ!」
「マミっ!後ろに来て!」
ショックを受けている諌山さんの襟を掴み、こちらに引っ張る。すると先程まで居た場所に斬撃が走る。
「あっぶな〜レンゲ何度もありがと〜」
諌山さんからの感謝をまた受けつつ、歯痒さを感じる。月人同士の連携が地味に取れていたため、攻めあぐねている。だったらまずは一体をどうにか倒さなければ。
「ロカ、マミ。一瞬でいいです、2体の攻撃を受け止められますか?」
私のお願いを聞いた2人は頼もしく頷きながら、武器を握り直す。
「行きます!」
もう一度同じ様に扇を振るう中型2体。今度は綾紬さんと諌山さんが武器でそれを受け止める。
「レンゲ!決めて!」
正面から太刀を持った中型が踏み込み、上段から下に向かって振るう。私はそれを見切って、左に体を反らし薙刀で一撃を見舞う。が、まだ浅い。即座に相手は下からの斬り上げを敢行しようとした。
「今……!これでっ!!」
私はその隙を見逃さなかった。私の薙刀に隠していたもう一つのギミック。薙刀を捻り中央で分割、逆手に持った片手の刃先で攻撃を反らし、隠し刃を伸ばした片方で月人の身体に深々と刃を突き立てた。それと同時に月人から花弁が舞う。
「まずは一体です!」
そのまま意気揚々と振り向くと、諌山さんの身体に扇が突き刺さっていた。さっきと月人と同じように花が舞う。
「ごめんね〜あとは頼んだ」
奥歯を噛み締めながら、綾紬さんを守る為に諌山さんが対峙していた月人の前に立つ。すると、先程よりも激しく月人の武器が振るわれる。HPも大きく削られ、綾紬さんと背中合わせで敵と見合っていた。
そんな中、綾紬さんからこちらに提案が入る。
「……私が隙を作るから、レンゲなら一体持ってける?」
「任されました!」
私の返答と同時に、綾紬さんが爪型の武器を引き裂くように振るい、片方の月人を引き離す。対する私も、思いっ切り武器を叩きつけ、月人との距離を作る。その隙に、2人で同じ敵に向かって走る。だが月人もただではやられない。持っている扇形の武器を構え、抵抗する。
「弾くよっ!」
綾紬さんの合図とともに、振り下ろされた月人の武器が片方の武器で弾かれる。弾いた隙に、綾紬さんのもう片方の武器に乗り、切っ先を月人に向ける。
「いっけぇ!」
綾紬さんの武器から私は射出される。まるで人間砲台だ。風を切りながら、すれ違いざまに月人を斬りつけようとすると、柄の部分で斬撃が逸らされた。
砂ぼこりを起こしながら着地して振り向くと、綾紬さんが月人からの攻撃で花弁を散らす。頼む、と動く口元を見て、歯を食いしばりながら、私はコントローラーを思いっきり捻り、全力で薙刀をぶん投げた。
「吹っ飛べ!」
私の投げた薙刀は青緑の光を纏い、中型の月人に突き刺さる。そのまま月人から花弁が溢れ、消え去る。
「2体なら……上々ですかね」
私は笑いながら、月人の攻撃を受け入れた。
復活を選ばなかった私はかぐやの歌う、天守閣下の牢屋に入れられた。先に来ていた2人が手を上げる。
「レンゲごめんね〜。でどうだった?」
「何とか2体持ってけました……!」
「さっすが、レンゲも結構上手いよね」
互いの健闘を称え合いながら全員かぐやを見上げる。悔しそうに、綾紬さんは手を握りしめる。
「……ここからはイロハ達に任せないとだね」
そんな姿を見て、私は勢いよく立ち上がった。
「……いえ、まだ
「でも、復活も使えないのにどうやって……?」
2人が驚いた顔を向けてくる中、私はインベントリから
「ここから、月側にクラッキングを仕掛けます!」
かぐやの卒業ライブ、2曲目が流れ始めた。
「サーバーのアクセスコードを教えて下さい」
「正気か!?そんなの許すわけないだろ!!」
あの時に頼んだのはサーバーへのアクセスコード。ヤチヨさんから託されたUSBにはそれが入っている。自分でも馬鹿げたお願いだと思う。管理している仮想空間のサーバーに見ず知らずの人間がアクセス出来るようにだなんてお願い。
それでも、ヤチヨさんは笑って託してくれた。
「そしたらヤチヨはレンゲを信じるよ」
このアクセスコードで出来ることは具体的に2つ。1つは私のPCを使って、ツクヨミのサーバーに管理者でログイン出来ること。もう一つは、サーバーにアクセスしているアカウントへ逆アクセスする権利だ。
私は現実と仮想のキーボードを叩きながら、月側のアカウントを確認する……やっぱりヤチヨさんの言う通り、アクセス元は確認できない。それでも、こちらが作ったウィルスでバックドアを無理矢理作れば……!
現実のCPUのファンが激しく動き出す。どうやら接続は成功したらしい。手早く、ファイアウォールを起動すると、過剰に機能し始める。どうやら月側はかなりのオーバーテクノロジーらしい。私のPCが持つかどうか……頼むぞ。
「瞳映る 静かな世界
何を見てたんだろう」
かぐやの歌が聞こえる。今までの生活の楽しいを詰め込んだような曲が私の心を揺さぶる。戦っている乃依さんと雷さんがやられる。
私はもどかしさを感じながら、キーボードを叩く速度を上げる。
月側のアカウントに接続した私は、直接そのアカウントを引っ掻き回す。プログラムの改ざん、私の作ったウィルスの設置、システムの破壊、それを現実のPCから行う。
同時並行で、ツクヨミのサーバーには負担をかけないように、ツクヨミ側でファイアウォールを展開して、私のPCのみに負担がかかるよう調整する。
私の脳が悲鳴を上げているが、さしたる問題ではない。私の引きこもってた心を無理矢理引っ張り出してくれた恩人なんだ。私が死ぬ気で頑張らないでどうする。
「わがままになって 遊び過ちゃって
どこにもないカラフル捕まえよう……さぁ!」
隣で2人が私と皆のことを心配そうに見ている。だが、このリタイアした牢屋なら敵も直接手出しは出来ない。むしろここのほうが安全だ。大型の月人がノイズを走らせながら、動きが固まる。私は、曲の盛り上がりに釣られるように、更にキーボードを叩く速度を上げた。
「この一瞬が最高のパーティなんだ
全部ぎゅっと憶えてようよ まぶしい日も」
帝さん達のチートツールは無事使用できたみたいだ。速度と攻撃力、体力が極端に上昇する。私の攻撃もまだ効いているのか、定期的に動きが鈍くなる。
だが、PCの方が先に限界が来た。1台目が激しい音を立てながら、画面が消える。すぐさま2台目のPCにキーボードを接続し直し、同様にクラッキングを再開する。絶対返さない。本人が望まない事なんて、させる訳には行かない。
「推しの悲しむ顔なんて、見たくないっての!!!」
叫びながら、両方の世界でプログラムを打ち続ける。ファイアウォール更新っ!ツクヨミ側も同じく変更!相手のアカウントのシステムを滅茶苦茶にしてやる!
私のPCから聞いたこともない様な音が響く。画面がどんどん得体のしれない記号に侵食されていく。2台目なので適応されたのか、さっきよりも速度が早い。歯軋りをしながら、それでも手は動かす。
綾紬さんが祈るように両手を合わせる。帝さんたちが何体か中型の月人を倒すも、際限なく小型が湧くので、数が多すぎる。私のクラッキングも効果が出なくなってきた。鼻から何かが垂れる。手の甲で拭うと、赤い。鼻血か。ツクヨミと現実での同時並行は脳への負担が大きすぎたらしい。そんなの構ってられるか、回らない頭で手を動かす。
「ねぇもっとはしゃいで アンコールないのって
おねだりしてとびきり、キラめいてうたおう」
曲が終わりに差し掛かる。酒寄さんがこちらに向かってきた。天守閣、つまりはかぐやの防衛のためだろう。帝さん達もチートが使用不可になったようで、息も絶え絶えだ。
そして、私のPCも1台目と同じように、変な音を立てながら操作を受け付けなくなった。つまり
「ここまで……なんですか……?」
曲が終わりを告げると、かぐやの周りをおびただしい数の月人が取り囲む。酒寄さんも、どうにか近くまで来るも、月人に阻まれ、かぐやの元へは向かえない。武器が酒寄さんの手から滑り落ちる。月人がかぐやの前に赴き、頭を下げた。
「はるばるようこそ、逃げちゃってごめん!」
言葉を交わすと、かぐやは前の足場に乗り、ゆっくりと
「まって……まってよ……!」
地面から手を伸ばすも、そこからじゃ、届くことは無い。手を伸ばしていたかぐやを掴むことは出来ない。
「最高の卒業ライブでした!いっぱいお土産貰っちゃった!」
最後の最後まで嬉しそうに、私の大好きな声で笑う。その事実に涙が止まらない。
「バイバーイ!」
その一言を最後に、羽衣を掛けられたかぐやは事切れたように、あの日と同じように、表情が無くなる。そこで私は、3台目のお古のノートパソコンの存在に気づく。疲労が溜まった脳で、覚束ない足で、どうにかノートパソコンを手に取ると、震える手で動かなくなった2台目に接続する。まだ、可能性が残されているなら、一縷の望みに縋るように、私はPCを立ち上げる。
それでも無慈悲に、私の目の先で、推しは、友達は、光の粒となって消えた。
PCが立ち上がった頃には、もう既に、
「皆、お疲れ様でした。本当にありがとう」
辛そうなのを必死に隠して、息を吐きながら、先にログアウトする酒寄さん。ボロボロと泣きながら、何も我慢できていない私と比べられているようで、今までの様に、無理をしているのが見え透けで、とても苦しい。
「私も、ごめんなさい」
涙を流しながら深々と頭を下げ、震える手でログアウトを選択し、現実に戻る。部屋に戻ると、静かに動くノートパソコンに嫌気が差して、拳を振り上げ、叩き下ろそうと振るう。
でも、そんな事をしても、何も変わらない。何も出来なかった、推しも、友達も、守ることが出来なかった。
そんな事実を噛み締めながら、私は静かな部屋で一人、膝を抱えて泣いた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
髪留めが外れて、床に音を立てて落ちる。私の謝罪を聞いてくれる人なんて居ないのに。謝る事をやめられなかった。
私は、無力だ。