一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】   作:カウン

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初めて身近な人を亡くした時、人は周りが見えなくなる。


分岐点の先、行き止まりを乗り越えて

あの日から、1日、2日、と過ぎていった。すべてに絶望した私は、ただただ時間を貪る生物になっていた。

あの日以来、学校にも行ってない。2階からも出ていない。なのに両親は心配すらしてくれない。

その事実すらも私を苦しめる。

 

私も悲しいのは勿論だが、酒寄さんはどうなんだ。私よりも辛い人が居るのに、苦しむなんて、そんな権利私には無いんじゃないか。そう思っては、涙があふれた。

私だけのせいじゃないのは分かってる。そんなのは傲慢だ。それでも、私ならどうにかできたんじゃないかって、思わずにはいられなかった。

 

そんな苦しみを紛らわせるために、かぐやの動画を見る。それで悲しくなって、悲しむ自分が嫌になって、負のループから抜け出せない。

 

謝罪のために、リストカットに走ろうともした。でも出来なかった。勇気がなかったのもそうだが、それで許されようとしている自分が愚かで、心配されたくて、やろうとしている様に感じた自分が惨めで、それすら出来ない自分が情けなくて、嫌になって頬を殴った。

 

こんな事も出来ない。当たり前だ、友達も守れないんだから。何が護りたいだ、私にはそんな資格もなかったのに。こんなゴミクズは、静かに一人で死んでいけばいい。

 

でも、それを考えるとかぐやの言葉が過る。

 

『これからも、もっと笑ってよね』

 

『私の最高のファンで、友達だよ!』

 

約束も守れない。何を考えても、自分が嫌になる。それでまた、腕を切る変わりに頬を殴る。そんな事をしても、私の心の大きな穴が塞がることなんてないのに。

 

 

 

 

 

 

「ここが、蓮夏のお家……」

 

「大っきいね〜」

 

私、綾紬芦花は真実と一緒に蓮夏の家を訪ねていた。

かぐやが帰ってから、3日が経っていた。あの戦いのあと、彩葉と蓮夏は、学校に来なくなった。

以前熱が出た時のように、家に踏み込もうとも考えたのだが、気持ちを整理する時間も必要かもしれない、と考えた私達は少し待ってみることにした。

 

正直、気が気じゃなかったから、今日来なかったら突入しようと考えていた所、彩葉は学校に来てくれた。今まで通り、辛い部分を隠してはいたものの、涙ぐむ彼女を見て、取り敢えず無事を喜ぶことにした。

 

だが、蓮夏は登校していなかった。彩葉の元にも、連絡が行ってないらしく、私は真実と2人で家を訪ねる事にした。彩葉は進路の相談と先生への謝罪で来れなかったものの、心配そうにしていた。

 

「よし、じゃあ呼び鈴押すよ?」

 

「お、おっけ〜ばっちこい」

 

そんな彩葉の思いも背負った私達は緊張しながら、チャイムを鳴らした。すぐに、はい、と女性の声が聞こえる。

 

「あ、あのすみません、上條蓮夏さんのお母さんですか?私、蓮夏さんの友達でして、学校に来れてないから心配で訪ねてきました」

 

要件を伝えると、少し待つように言われて、玄関が開く。そこには蓮夏とよく似た、壮年の女性が立っていた。

 

「……あの子の友達ですか?」

 

疑う様な目でこちらを見定めるその目には見覚えがあった。昔の蓮夏にそっくりだ。懐かしく思いつつ、話を進める。

 

「はい、ですから元気かどうかを……」

 

だが、言葉を言い切るより前に、蓮夏のお母さんがピシャリと言う。

 

「知りませんよ」

 

私は理解できなかった。実の娘の様子を知らない?混乱する私の代わりに、真実が話していた。

 

「れ、連絡も取れなくて、お母さんなら知ってるかなって……」

 

「仕事が忙しいので失礼します。学校でもあの子の事よろしくお願いします」

 

形式上の挨拶。足早に去ろうとするお母さんを見て、私は今までの蓮夏の寂しそうな顔を思い出し、閉められそうになった玄関を掴んだ。

 

「……重要なプロジェクトがあるので、やめていただいていいですか?それとも、なにかあります?」

 

蓮夏に似た顔で、本人は絶対しないような冷たい目がこちらを見つめる。それでも、私は怯まずに目を見つめ返しながら、頭を下げた。ここで引いちゃ駄目だ。かぐやが彩葉にしたように、一歩踏み込まないと、心までは伝えられないと知ったから。そんな私を見てか、真実も意図を読んで下げてくれる。

 

「会わせて下さい。私の大切な友達なんです」

 

「お願いします」

 

蓮夏のお母さんがどんな表情をしていたか分からないが、小さな溜め息と共に、玄関を閉める力が弱まる。

 

「あの子の部屋以外には行かないように。その約束を守れるなら、上がって結構です」

 

私と真実は体を起こすと、顔をほころばせた。そんな様子を見ながら、蓮夏のお母さんは、目を伏せながら呟く。

 

「あの子に友達なんて、信じられません」

 

それを聞いて私は、笑顔で私の思いを伝える。

 

「もっと信じて上げてください。蓮夏は、本当にすごい私達の自慢の友達ですから」

 

「そう、善処するわ」

 

少し、蓮夏のお母さんの口元が緩んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

「……もう夕方」

 

机から、体を起こした。飲まず食わずで過ごしているからか、気を失うことが多くなってきた気がする。いっそこのまま誰からも忘れられて、朽ちるのを待つのも良いか。

 

点きっぱなしのスマホで、元気よく踊るかぐやが流れている。それを見て、また自分に嫌気が差して、流れるように拳を自身に向ける。すると、珍しく家のチャイムが鳴り、少し後には家の階段を駆け上がる音が聞こえた。

 

普段、家では絶対聞かない音だったので、驚きから扉を凝視して固まる。別の部屋に行く事を望んだが、冷静に考えればどうなっても良いんだから怯える事なんてない。そう考え直して、落ち着くとドアが勢いよく開かれた。

 

そこには3日前、仮想世界で最後に会った友達2人が息を切らしながら立っていた。

 

「えっ?」

 

困惑する私を他所に、綾紬さんは駆け寄って私を抱き締めた。

 

「馬鹿っ……!心配させて!」

 

私の視界が綾紬さんでいっぱいになる。状況が分からず、諌山さんを見つめると、私の顔を見て、顔が歪んで涙が溢れそうになっていた。そのままゆっくりと近づいて来て、反対側から私を抱き締める。

 

「……顔、アザだらけ。何したのさ」

 

その言葉に反応して、綾紬さんも私の顔を見つめる。その直後、綾紬さんは唇を噛みながら、目を潤ませた。

 

「何も食べてないでしょ……こんな事もして……死んじゃったらどうするつもりだったの!」

 

それを聞いて、私の心に溜まり続けた感情がとめどなく溢れてしまった。

 

「……死んで、死んでよかったんだ!!かぐやはもう居ない!1人残された私は!!何に……縋れば……」

 

私は初めて、怒りという感情を抱けたのかもしれない。誰が悪いわけでもない、行き場のない怒りがここで爆ぜてしまった。でも、私の怒りを聞いて、綾紬さんは同情でも、慰めでもなく、間違った私のために怒ってくれていた。

 

「私達が居るじゃん!かぐやが帰っても!私達の関係が変わることはない!!」

 

「何かあったら言ってよ……友達じゃん私達……」

 

2人はいっそう力強く抱き締めながら、私のために涙を流してくれた。私は友達と言う言葉を噛み締めながら、大声で泣いた。馬鹿な私だ、星にまで願った想いを忘れるなんて。あの大切な日を無かったことにしていたなんて。寂しいが、かぐやが居なくても、私を支えてくれる人は居たみたいだ。

 

「そんな事にも気付けないなんて、やっぱり馬鹿だなぁ……」

 

そう呟く私を撫でながら、2人は抱擁を続けてくれた。ふと、綾紬さんが足元から何かを拾って、私の頭に戻してくれる。

 

「二度と無くさないでね」

 

綾紬さんから貰った大切な髪留めだ。それを見た諌山さんも自分の付けている髪留めを、その横につける。

 

「じゃあ私のも……はい、これで私達のこと忘れないでよね〜」

 

申し訳なさと喜び。悲しさと嬉しさ。相反する感情を抱きながら、私達は泣きながら笑っていた。

 

芦花(・・)真実(・・)ごめんね、こんな私で。

ありがとうね、こんな私と友達になってくれて」

 

「私達こそ、遅くなってごめん、蓮夏」

 

「それとありがと、私達は、蓮夏と友達になれて、後悔は無いよ」

 

頬の痛みは、すっかり消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、無理矢理お風呂に入らされたり、頬の傷の手当てをして、2人は帰っていった。かぐやはもう居ないけど、私は芦花や真実、酒寄さん達と進んでいけそうだ。夕焼けの空を見上げながら、これからのことに思いを馳せて……お古のノートパソコンに何やらログが届いている。

どうやら何かのソースコードの様だ。何のプログラムだろうか、そう思って読み解くと、私は仰天した。

 

 

function kaguyaTalks() {

const kaguya = new Kaguya();

const message = kaguya.speak("あーあ、月に帰ってきてから娯楽が何もなくてクソつまんねー");

 

 

かぐやからのメッセージがソースコードとして、届いていたからだ!原理は恐らく、最後にノートパソコンを接続した際にバックドアが有効になり続けていたからだと思うが……まぁこの際どうでもいい!どうにかして連絡を、とキーボードを叩くも、パソコンはうんともすんとも動かなかった。

 

「パソコンがお釈迦になった!?」

 

取り敢えず芦花と真実には連絡しておいたものの、酒寄さんは既読がつかなかった。何かに熱中してるのか、2人の連絡も届かなかったらしい。それと、何度もうちの母と接触させるのは気が引けたので、今は私がかぐやの発言を見守ることにした。

 

通学も再開して、定期的に確認していると、(疲れた)や(仕事めんどくさいー!)と言った愚痴や(彩葉に、みんなに会いたい)と言った嘆きが、ソースコードに混じって届いてきた。来る時間は必ず月が見えているとき。それから、時差でもあるのか、少し届くのに時間がかかっているようだった。

 

ちなみに、酒寄さんは連絡が取れないものの、先生が最後に会った時は元気そうだった、とのことで芦花達2人に任せている。

 

そんなかぐやの発言を見守り始めてから5日が経った頃。帰宅してパソコンを見ると、思いもよらない言葉が届いていた。

 

function kaguyaTalks() {

const kaguya = new Kaguya();

const message = kaguya.speak("彩葉からの歌だ!もう一回地球に行く!");

 

私は目を見開いた。帰ってくる……?かぐやが?理解できずに混乱していると、今度はスマホが鳴り響いた。慌てて画面を見ると、電話番号が書かれていない。不審に思いながらも、恐る恐る、着信を押した。

 

「おい、レンゲの電話で合ってるか?」

 

その声の主は、私があの世界で怒られた声とよく似ていた。

 

「FUSHI……さん?」

 

「そうだ、よく分かったな。それよりも!イロハが大変なんだ!レンゲならアクセスコードから住所を特定できるだろ!そこに来てくれ!鍵は空けておく!」

 

あたりだった様で嬉しそうに反応したのも束の間、取り乱した口調で話を続ける。その様子から、相当な一大事と判断して、私はカバンを掴み取り、スマホで住所を特定しながら家を飛び出した。駅に向かう途中で住所が明かされる。

 

「……電車なら数十分で行ける場所ですね」

 

私はそのまま電車に飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

電車に揺られながら真実達に連絡を済ませて考えた。かぐやが帰ると宣言したこのタイミングで酒寄さんに異常事態。更にその電話をしてきたのはFUSHIさん。

 

なにか、引っかかる。まるで喉に魚の骨があるような感覚。そもそも、かぐやは本当に帰ってきたのだろうか。あのソースコードが送られてくるのにラグがあるなら、もう既に到着していてもおかしくはない。

 

「もう既に……?」

 

その言葉と共に何故かヤチヨさんの顔がよぎる。

懐かしい笑顔……ヤチヨさんが笑った顔に既視感があった。ヤチヨさんの感情はAIとは思えないほどの複雑なものを抱えていた。ならAIじゃないとしたら?その前提条件なら……この仮定が当てはまる。

そうか、彼女に繋がるピースは、既に散りばめられていたんだ。私が気がつけなかっただけ。後は、思い出して、繰り返して、記憶を読み解く。

 

「そっか……だから信じてくれたんですね」

 

私は、駅に着いた瞬間、走り出していた。フォームもひどい有様、息も絶え絶え、何度も転びそうになる。それでも、早く彼女に伝えてあげなきゃいけない。そのマンションに着くと、階段を必死に駆け上がり、ドアを押し開け、縺れるように部屋に入った。

 

「えっ、上條さん?」

 

そこには疲弊した様子で座り込む酒寄さんの姿とサーバー等の機械類と水槽に浮かぶ不思議なたけのこ。私は、酒寄さんの疲れ切った様子から何があったのかを察する。流石プロデューサーの鑑だ。なら私もやる事は決まっている。私は一切の迷いなく、バックに入っていたスマコンをつける。

 

「ちょ、レンゲ!?」

 

途端に酒寄さんが慌てた声を上げるが関係ない。躊躇うことなく、起動する。

水面を登るような感覚とともに、接続が完了する。そこには最近まで見慣れた表情をしているヤチヨさん。いいや、ヤチヨさんでもあるが、今は呼ぶべき名前がある。私は泣くのを必死に堪えながら、呼び慣れた名前を口にした。

 

「おかえりなさい、かぐや」

 

目の前の推しは、卒業ライブの様に、豆鉄砲を食らったような顔で驚いていた。そしてうわ言のように呟く。

 

「な、なんで?レンゲには伝わる様には……」

 

「私の特技、忘れたとは言わせませんよ?」

 

私は自信満々に告げる。今までは不気味がられるから要らないとまで思った特技。他人の気持ちが分かるからこそ、気がつけた。今は、感謝しかない。

 

「そっか、レンゲだから気づけたんだ……やっぱりレンゲは、私の最高のファンだね」

 

ヤチヨは涙を頬に伝わせながら、私を静かに抱き締めた。私も腕を回して、抱き締め返す。

 

「気がつくのが遅れてすみませんでした。それでも、ここまで生きてくれて、ありがとう」

 

ヤチヨは私の一言を皮切りに、しゃくりあげながら泣いていた。私は背中を擦りながら、あの時のように歌う。

 

「君がいることをきみに伝えたい

 そうやって始まったんだよ」

 

それを聞いて、嬉しそうに、ヤチヨ(かぐや)は笑った。

 

「蓮夏、ただいま!」

 

 

 

 

 

 

「そうじゃん、蓮夏が居れば、私のやりたい事がもっと実現しやすいかも」

 

落ち着いた頃に、酒寄さんは思い出したように、口にした。やりたい事?と聞き返すと、いたずらな笑顔でこう呟いた。

 

「ねぇ、蓮夏はさ、かぐやをもう一度、この世界で生きれるようにするって言ったら、乗る?」

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