一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
「蓮……ちょ……!……なと……で寝……ら風……くよ!」
心地よい微睡みの中、肩を揺すられる。うーん、これからすごく良いところなのに……かぐやのライブが3週目始まるんだけど……。不快感を感じながら、目を擦りながら顔を起こす。
「ぁぃはい、どちら様ですかぁ……」
大きく口を開いて欠伸をしながら眼鏡を探して、机を弄る。あれ……この辺に置いたはずなんだけど、どこだ?そんな事をしていると、後ろからゆっくりと何かが降りてきて、私の視界を確保する。
「もう蓮夏、せめて寝るなら机じゃなくて、ソファに行ってブランケットぐらい掛けなよ」
かけられたのは私の眼鏡だったようだ。横を振り向くと、頬を膨らませながら軽く怒る芦花の姿が。どうやら彼女がかけてくれたらしい。私は平謝りしながら、立ち上がってコーヒーマシンへと向かう。
「あー……ごめんなさい、あともう少しで
「それ、言い訳になってないよ?」
バレてしまったか……私としては納得の理由なんだが。あ、一杯飲みます?へぇ、長居する気はないんですね。
「でも、今日って来る予定ありましたっけ?」
「あー、彩葉達の様子を見にね」
そう言いつつ、私の研究室を興味深そうに眺める芦花の長くなった髪の毛が揺れる。私の髪も長くなったので、ツクヨミと同じように三つ編みにしている。そう、あのヤチヨの正体にたどり着いた日から10年の歳月が流れた。
あの日、私が彩葉にされた提案。それは、かぐやの身体を作るにあたって、プログラムを担当してくれないか、と言うものだった。
あの時の彩葉は、かぐやをツクヨミではなく現実で生きられるように、と考えていた。だが、如何せん普通に大学受験をしようとしていた高校生には荷が重い物だった。そこで、丁度よくヤチヨの真相を知った私が居たからこそ、頼られた感じだ。
私のプログラミング技術は折り紙付きですごい、と言うのをかぐやから散々聞かされていたらしく、咄嗟に口に出てしまっていたらしい。
正直な話、私からしても渡りに船、だった。かぐやともう一度会いたい、推させて欲しい、と抱えた後悔を、晴らせるならありがたいとまで思った。
そこから、私達の野望の実現が始まった。手始めに、私達は志望する大学の変更を親に伝えた。彩葉は何とかなったらしいが、私の両親はどちらもプログラマーで働いている。なのでプログラマー以外は認めてくれなさそうだ。
実績がなければ、堅実な職業とは言えない研究職。それこそ、私は絶対止められて一悶着あるとまで思い、警戒していた。が、蓋を空けてみるとそんなことは無かった。
『友達……のためなんでしょう?そしたら、やってみたらいいわ』
母の初めて見る顔を見ながら、私は呆けたまま、首を縦に振った。あんなに優しそうな顔が出来るなら、早くやってほしかった。そんな悪態を心でつきつつ、受験校の変更はどうにか終わった。
その後はトントン拍子で事が進んだ。彩葉はヤチヨとコラボもこなしつつ、大学に進学。私も同じ大学で彩葉とは違う学部に入ることが出来た。そこで、アンドロイド等の細かいシステムを学び、卒業。彩葉との共同卒論で、特許を取得できるほどの物ができた。
そして、彩葉と私で研究所を立ち上げる。実績もあったので、人も集まり、気がつけば、10年も経っていた。
「まさかあんなに人見知りだった蓮夏が副所長をやってるなんて、流石自慢の友達だわ」
「私としては力不足にしか思えないんですけどね……」
今ではどうにか副所長をやってる。随分と遠くまで来たものだ。と、思いにふけっていると、廊下から騒がしい足音が3人分聞こえてくる。ドアを心配になるくらいの勢いで開けた張本人は、目をキラキラさせながら私の元へ駆け寄ってきた。
「蓮夏!かぐや達の味覚テストまだ?!」
そして遅れて、パタパタと距離を詰めてかぐやの後ろにもう一人、現れる。
「ヤッチョも楽しみだから、早くお願いね〜」
そう、そこにはかぐやとヤチヨの姿があった。
元々の計画では、ヤチヨの人格をかぐやとして、現実の身体に移す。と言う計画だった。だが、彩葉が「私はかぐやもヤチヨも、どっちも大切にしたいと思ってるから……」なんてスパダリ発言をかましてくれたので、作業量が2倍に増えた。まぁうれしい悲鳴ってやつだ。
ちなみにその時、私含め、あの場に居た全員が赤面して、何も言えなかった……あれがイケメン属性持ちかぁ……。
それから、それぞれの人格の摘出が始まった。手始めに2人のパーソナルデータをコピーする。ヤチヨが分身を多用していたのが功を奏して、案外簡単にやれた。ヤチヨはこれで問題なかったが、かぐやの人格データが中々に難航した。ヤチヨの核たる部分を完全に消してしまうと、それは8000年の時を過ごしたかぐやとは言えなくなってしまう。そのため、ヤチヨの核たる記憶を保持させつつ、人格形成において重要になった細かい記憶を切り取り、かぐやとして確立させた。
この記憶の選別が、主にかぐやへの解釈の話となるため、彩葉やヤチヨと話し合いが過熱し、これだけで半年かかってしまった。
だが、それのお陰でかぐやはここに居る。二人の身体の調整もかなり手間取ったが、必要経費だ。
お姫様2人からの注文を笑いながら、準備していると、息を切らしながら、3人目が入室する。そこには髪を短く切った真実が、肩で息をしながら壁を伝ってこちらに来た。
「ちょ……2人とも足早すぎ〜」
さながら、娘を追いかける母みたいだな、と思いいたずらっぽく笑いながら真美に話しかける。ま、実際そうなのだが。
「あ、お母様じゃないですか」
「その呼び方やめてな〜?」
「ふふっ、冗談です」
そうそう、10年も経過したため、2人にも変化があった。芦花は大人気インフルエンサーになっていた。広告などにもよく写っており、町中を移動すると彼女をみない日はない。そして真実は結婚して、今や2児の母だ。よく、SNSに家族で楽しそうにご飯を食べる様子が上がっている。
そんな事を考えながら、調整を終わらせ、完成した味覚テスト用のプログラムVer.3を2人にインストールしている間、手持ち無沙汰になった。なんとなく、話している芦花と真美の方を見つめる。未だに友達で居てくれて嬉しく思い、私は2人から貰った髪留めを指でなぞり、笑った。
ふと、2人と目が合い、こちらに話が振られる。
「なにどしたの〜?随分嬉しそうじゃん」
「……いえ、友達って良いものだなぁって思いまして」
「やけに素直じゃん」
命の恩人で、大切な友達。髪留めを弄りながら、私の想いを伝える。やり方は、何度も見たから簡単だ。
「芦花、真美。大好き」
「……私もだよ」
「私も〜。ありがとうね」
ちなみに、その後の味覚テストで旨味成分を2人の舌に垂らしたが、失敗していたらしく……。
「「えぇ、なん……クソまじぃ……」」
素直に謝罪した。やっぱりもう少しだけ、2人には待ってもらうことになりそうだ。
「所長、ご準備できました」
「うぉい、外でその呼び方やめや。普通に慌てちゃうから」
それから数日後、私はライブドームに居た。なんと!今日!ここで!ヤチヨとかぐや、そして彩葉のライブがあるのだ!正直、楽しみ過ぎて本当に眠れなかった。と言うか、10年ぶりのライブだぞ!?寝てられるか!
今は2人が身体を動かす時にエラーが起きないか、最後の調整をしていた。
「蓮夏、ありがとね〜。お礼として、ヤッチョのファンサをあげてしんぜよう」
「ではありがたく受け取っておきますよ」
「いやー、本当に毎度毎度、身体の調整してくれて助かるー。流石ファン2号だね!」
「いや、ここまでやってくれるファンは普通いないから……」
かぐやの感謝に対して、彩葉がツッコミを入れる。その様子から微笑ましさを感じつつ、私は立ち上がった。
「それじゃあ、私は自分の客席に戻りますね。あと、ツクヨミの管理に関しては、ライブ中は私とFUSHIでやっておきますので、心配しないで楽しんできてください」
「りょ、任せたよ!」
そう言いつつ、部屋から去ろうとすると、かぐやに手を掴まれる。顔を見るといつも駄々を捏ねるときと顔だ……不味くね?
「うぇ〜!?蓮夏も一緒に歌おうよ〜!」
「私が歌っても需要は無いですよ」
そう言って、流そうとするもかぐやは、目を光らせながら私を横目で見る。
「蓮夏もたまに歌配信してるくせに」
ギクッと顔を顰めつつ、私はドアへと後退りする。あの一件以降、歌うのが楽しくなり、趣味になった。何故か配信で歌うこともあるが、稀だから!絶対需要ないから!そう脳内で言い訳しつつ、ドアまで下がりきってしまった。すると、右耳側からドアに手をつく音がする。視界にはかぐやしか映っていない。耳元に顔が近づいて、囁く。
「ね、お願い蓮夏」
「……別日コラボならぁぁ……」
「しゃあ!」
「またやってるし」
かくして、私の物語は一旦終わりです。何も知らない私がここまで大きく影響されて、自由にわがままに生きられる様になれたのは、かぐやの、それから皆のお陰だ。
正直、過去の私が見たら驚くだろうな。そういう意味ではやっぱり、未来は、可能性は無限大なんだろう。
ん、この物語のタイトルですか?そんなの適当でいいですよ。そんな事よりもかぐやを見てくださいよ!滅茶苦茶可愛いですよね!ほら貴方もペンライト持って!ライブが始まりますよ!何度食らっても慣れないっ!あ〜また焼かれるっ!
「……やっぱりかぐや最高っ!!」
どうも作者です。あ、くだらない自語りタイムなので興味のない方は飛ばしてください。
えー、改めてになりますが、本作を読んでいただき、誠にありがとうございました。
勢いで書いて、そのまま投げた作品だったので、あんまり見られなかったら消そうかなーって思うこともありました。でも皆様が読んでくれて、いいねやコメント、評価までくれて……やっぱり超かぐや姫の界隈は温かいなぁって感じました。書いてる間も、主人公がノイズでは……って思うことも何度もありました。でもここまでこれたのは皆様のお陰です。
長くなりましたが、完結まで日程を崩さず走り切れたのは、読んでくれた読者さんが居たからこそです!
まぁ、まだ番外編を書きたいのでもう少し続きますが、重ね重ねお礼申し上げます。本当に、ありがとうございました!