一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
ギア2です。
事件のあった日から1週間がたったが、日常生活は大きく変わることはなかった。
いつも通り、学校で勉学を励み、自宅では予習復習。そしてツクヨミでの情報収集。何の変哲もない、平坦な……。
「ってそんな風に行く訳ないです!!」
そんな訳なかった。至近距離で脳が焼かれた(比喩表現)のだ。登下校、学校、自宅、何をしていてもかぐやさんが頭から離れない。
ちなみに事件の翌日、私はパソコン2台を駆使して彼女のチャンネル登録4人目を勝ち取ることができた。
思わず人生で初めてガッツポーズをとってしまったが、誤差だろう。
それ以降は推し活をする毎日。配信を見たり、ツクヨミに行ったり、推し活とはどのようにするのか調べたり……。もうずっぷりと抜け出せなくなっている。
勿論、勉学自体は疎かにしていない。むしろ、推し活を始めてから勉強の効率が上がっている気がする……本当か?
そんなこんなで予習復習終わり!今日は20時からツクヨミ内で路上ライブをするって話がポストされていたので慌ててスマコンを取り出す。今日は何を歌ってくれるのだろうか、今から胸が躍りそうだ。
ログイン地点に降り立つ。やっぱり眼鏡がなくても、視界が確保できるのは、素直に羨ましい。そんなくだらないことを考えつつ、路上ライブの予定地まで小走りに移動する。
隙間を縫うように大通りを抜け、少し入り組んだ路地の入り口に立つ。ここが本日のメインステージ。見つめていると期待のせいか、やけに背後の尻尾が落ち着かない。
そんな尻尾を気にしていると、背後から声がかかる。
「おや、まさかもう人が居るとは……貴方もかぐや目当てですかな?」
振り向くとそこには犬耳のアバターが腕を組んで立っていた。どうやらお目当ては一緒のようだ。
「はい、今日はここで路上ライブをする話ですよね?彼女の歌が楽しみで、待ってても落ち着かないんですよ!」
ゲーム内のインベントリからペンライトを取り出し、かぐやさんのカラーに設定して軽く振ってみる。うん、いい感じだ。そんな準備を横から見ている犬耳の人は自身を指差しながら、戸惑ったように尋ねてきた。
「あのー、私に見覚えとかないかな?ほら、NEWS TSUKUYOMIってライブとかに出てるんだけどー……リアクションなしは初めてだな……そんなに私って有名じゃないのか?」
にゅーすつくよみ?この仮想世界でのニュースだろうか。初めて聞いた。申し訳ないが、私のツクヨミでの脳内はプログラムのデータとかぐやの情報しか仕入れていない専門店と化している。なので素直に謝っておこう。
「……私が無知なだけですかね、すみません」
「いやいや謝らなくていいって!一応こういうチャンネル持ってるから興味があるなら是非!」
忠犬オタ公さんか……色々やっているみたいだが、今はかぐやさんの事しか興味がわかない。ペンライトでバツを作りながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、私かぐやさんにしか興味がないので……」
「まさかの単推し!?まだ開設から1週間しかたってないよな!?」
「自身がイカロスだと気が付くのに遅れたが故に……」
「すごい詩的に言ってるけどただ近距離で脳を焼かれただけでは!?」
この人打てば響くな……これがライバーの実力ですか。感心からいつものクセで目元を撫でて空を切る……眼鏡がないデメリットもあるんだなぁ。そんな事を考えていると1週間前から聞き慣れた声が。
「あれ、まだ10分前なのにもういるー!かぐやっほー!!」
「ミ゜ッ」
私は倒れた。突然の供給は聞いていない。倒れるしかなかったんだ。
「ちょ、マジで倒れる人初めて見た!?大丈夫か!」
オタ公さんの肩を借りながらどうにか起き上がる。ふぅ、痴態を晒すところだったな(致命傷)。
「あの人ヤチヨが来た時のイロハみたい」
「えっ嘘、私あんな風になってた?と言うかファンに失礼でしょ!」
「あれ、お手伝いさんか?前回居なかったよな」
顔を上げるとキツネの着ぐるみがかぐやさんと話していた。確かに前来たときはいなかった記憶がある。オタ公さんも同様に疑問に思っていたようだ。
「この人はかぐやのプロデューサー!曲も作ってくれるし、頼りにしてるんだー!」
……めっちゃ頭を左右に振っているが、本当に同意しているのだろうか。でも、かぐやさんに振り回されるのは羨ましい。
「それじゃあ、少し早いけど待たせてても悪いし、いろP!1曲目行ってみよう!」
すると、スピーカーから音楽が流れ始める。少し前に流行った曲をカバーするようだ。
「〜♪」
やっぱり、真っ直ぐで、心に直接響かせてくる。そんな印象を感じた。少しぎこちないダンスも、彼女らしい努力の跡が見て取れる。これが推せる、って感情なのか。そう思いつつ、両手のペンライトを掲げて左右に振った。
それに答えるようにかぐやさんの歌も踊りも力強くなる。まるで私もライブの一部になれている、そんな一体感が心地よくて、気がつけば私も笑顔になっていた。
「〜っ!1曲目終わりっ!楽しかった!じゃあ2曲目だけど〜……いろP!演奏して〜!お願いっ!」
1曲目が終わるや否や、かぐやさんは素早く、後ろを振り向き、紙吹雪を投げていたプロデューサーこといろPに手を合わせて頼み込む。
「……面倒事には巻き込まないでって言ったじゃん」
「でもさ〜私の人気が爆発する前に練習しておいたほうが良いんじゃない?」
「そもそもそんな事起きないし、そこまで手伝わないし……」
いろP、あまり乗り気ではないようだ。そんな事を考えていると、かぐやさんが突然こちらを向く。
「ねぇ〜いろP〜!お願い〜!あ、ファンの人もそう思うよね!?」
は、私か!?私なのか!?気絶しそうになるのを気合いで耐え、どうにか声を振り絞る。
「っ……!私からもお願いします。彼女のライブを盛り上げられるのは、プロデューサーをしてきた貴方をおいて、他に居ないはずです」
つい勢いで頭を下げてしまったが、顔を上げると、頭を上げてくれと、いろPがジェスチャーをしていた。その手にはキーボードが握られていて、私の説得も無駄ではなかったな、とかぐやさんの笑顔を見て思った。
「ファンの人もいろPもありがと!それじゃあ行っくよ〜!」
2曲目が始まった。やっぱりかぐやさんの歌も良いが、曲を担当しているいろPの腕前も中々だ。狂いなく、綺麗な旋律が耳に届く。と、この感想を抱いた瞬間、脳裏に過るものがあった。
似てる、と。
ペンライトを振る腕だけは止めずに脳を回す。でも演奏だけで決めつけるのは早計か。そう思ってはいたものの、節々にあの時ほどではないが、淋しさを感じる。根拠はないが、関係性があるのでは。私はそう結論付けつつ、
「ん←ん↙ん↓ん↘ん→!!!!!」
限界化していた。
あのライブの途中で倒れそうになった私をオタ公さんが支えたり、オタ公さんにペンライトを渡して二人で掲げたりなどしたが、無事に(?)ライブは終了した。
「ところでさ、ファンの人って呼ぶのも距離感じるから名前教えてよ!かぐやのファン2号なんだからさ!」
な……まえ?出過ぎたマネじゃないか?だってそんな推しに認知されるなんて……!
「なぁ私のことは?」
「オタ公の事は知ってるから大丈夫ー」
何か後ろで話しているがこれは逃げるしかない。逃げるは恥だが◯に立つ、って昔のドラマでも言ってたはずだ!
「逃げちゃ駄目だぞー私も名前聞きたいしな!」
と、床をけろうとした瞬間、オタ公さんに腕をつかまれる。振りほどこうとするも目の前に移動してきたかぐやさんが……。
「ねぇ、お願い!」
「レ……レンゲですぅぅ……」
「わぁ!液体化!」
夏休み直前、みんなが浮き足立つ教室の隅で、私は昨日の疑問を解消すべく、ここではめったに開かない口を開く。
「さ、酒寄さん、かぐやさんとの関係性を教えてください……!」
「……昨日のレンゲってもしかして!?」