一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
それと感想、誤字報告ありがとうございます!
とある日の昼下がり、私は芦花と会う予定があった為、とてとてと歩き慣れた道を進んでいた。都内ということもあり、いつも通り込み合う道を縫うように進んでいく。人混みが億劫になり見上げると、モノレールが静かに先を行った。
それをぼんやりと見送りながら、お目当てのカフェまでの階段前にたどり着き、一段ずつ登っていく。運動、最近してないなぁなんて思いつつ、額に軽くかいた汗を拭って、入店する。
「あっ、蓮夏こっち」
すぐに芦花が私を見つけて、小声で呼び掛ける。今や有名人だもんな、私からするとそんな気はしないが。
「お待たせしました。少し道が混んでまして」
謝罪しながら席に着くと、良いよ私もさっき来たばっかりだし、と優しく言ってくれる。テーブルの上にあるコップに水滴が付いているのを見るに気を使わせたかな。店員にコーヒーとパンケーキを注文して、本題に入る。
「それで、なんで今日は呼ばれたのでしょうか。事前に教えられてないですし」
それを聞いた芦花は申し訳なさそうに声を漏らすと、手を合わせて頭を下げてきた。
「ごめん!私とコラボしてほしい!」
「えっ?コラボ?」
そのタイミングでコーヒーがテーブルに届く。私はストローを咥えながら、芦花の話を聞いていく。
「いやさ、蓮夏って今もあんまりメイクしてないでしょ?それで昔かぐやとコラボしたときみたいにメイクさせて欲しいなって」
あ〜、あの回か。かぐやが芦花のメイクを受けてとんでもなく可愛くなった動画だ。確かに言われてみれば今も、芦花から教わった最低限のメイクしかしていない。正直、自分に価値を見出だせないからやる必要は感じないが、友人がせっかく提案してくれているんだ。乗っかるのも悪くない。だが、その前に一つ。
「良いですよ。ただし、本当の理由を教えてもらいましょうか」
その一言にギクリと芦花の動きが止まる。なーにか隠してそうな気がする。私に気を使ったり、仕草が多かったり、違和感を感じる。私はいつの間にか届いていたパンケーキをナイフで切りながら口に運ぶ。美味ですね。そんなことをしていると、芦花が恥ずかしそうに口を割った。
「れ、蓮夏とヤチヨがコラボしてるのが羨ましくて……」
私は、コラボ配信を見られていたと言う衝撃よりも、それに羨ましさを感じている友人を微笑ましく思いながら返答する。
深掘りした判断は間違っていなかったらしい。
「わかりましたよ、しましょうか。コラボ」
にしてもなんで私の周りの友人全員コラボ配信見てるんですかね。
配信は芦花の家で行うようで、家にお邪魔した。何度か遊びに来たが、やっぱりお洒落な部屋だ。私が部屋をみている間に芦花はてきぱきと配信の準備を整えていく。
「よし、準備出来たよ」
どうやら突発でアーカイブに残らない形で行うらしい。私が出るって事への配慮だろうか。芦花の隣に座り、配信が始まるのを待つ。
「どうも、ROKAです。今日は急なんだけど突発でコラボやっちゃいます」
「ど、どうもレンゲです」
配信が始まった。急に始まった配信とは思えない速度でコメントが流れている。流石は芦花だ。
「レンゲは私の友達でさ、せっかくだからメイクを教えてる様子を配信しようと思ってね」
どうやら本当の理由は話さないようだ。いたずら心が芽生えたが、恥ずかしい思いを大衆の前でさせるのもどうかと思ったので、やめておく。それよりも、これから始まる配信に気合を入れて、両手を胸の前で握り込む。
「メイク素人なので頑張ります」
ふと、コメントを見てみると私の見た目の話で話題になっていた。【眼鏡と三つ編み可愛い!】や【ワンピースが似合ってる!】、【この可愛さでメイク素人……?】と言ったコメントが流れている。首を傾げていると、芦花が一つのコメントを拾った。
「ん?【その髪留めは何処で買ったんですか?】って、あーこれね」
すると、芦花は私の頭を軽く撫でるように手を動かし、髪留めを私の髪ごと持ち上げると誇らしげに言った。ぱらぱらと私の黒い髪が重力に従い、芦花の指の隙間から落ちる。
「こっちは私のなんだ。いいでしょ」
余談だが、私の身長は真美と同じ程度なので、座っても変わらず芦花の方が高い。なので頭を簡単に撫でれるって訳だ。
気がつくと、コメントが爆速で流れている。芦花がぱっ、と手を離して、説明をしながらメイクの準備に移った。そんな中、少し手が離れるのを寂しく感じていた自分に驚く。
こっちの気も知らないで芦花は黙々と準備を進める。恥ずかしくなり三つ編みを弄っていると、芦花がパフを持ってこちらを向く。
「レンゲ。そしたら、ファンデ塗るから眼鏡外して目瞑って」
何故か意識してしまって、軽く心臓のペースが上がるのを感じる。少し息を吐きながら、眼鏡をたたみ、意を決して目を閉じる。顔に柔らかいパフが押し当てられるのを何度も感じる。私がやるよりも丁寧なので、技量の差を感じていると手が止まる。
「おっけ、まだ目瞑っててね。次はアイシャドウとか引いちゃうから」
その言葉の後に瞼に硬いものが押し当てられる。でもそこまで力が入っていないのは私を思ってくれてのことなのだろうか。そんな、丁寧に塗ってくれているであろう芦花の動きを暗闇で感じた。
「次はビューラーだけど……蓮夏はまつ毛長いし、マスカラを軽くつけるだけで大丈夫そうだね」
まつ毛が上げられ、マスカラが塗り込まれる。すぐに終わったのか、肩を叩かれ、呼ばれる。
「レンゲ、目開けて良いよ」
芦花が眼鏡を私の耳に掛けてくれる。眩しさから、ゆっくりと目を開けると、芦花の顔が目にはいる。次に机の鏡を見ると、いつもの5割増位可愛くなっている私がそこに居た。
「……私じゃ無いみたいです」
やっぱりプロなんだなぁと芦花の腕前をしみじみと感じていた。コメントも爆速で流れる。コメントの内容を読もうと顔を近づけると、芦花から声がかかる。
「レンゲ、ちょっとこっち向いて」
顔を向けると、唇に何かが接触する。何が、と慌てて視線を動かすと、リップが塗り当てられていた。唇を沿うように弧を描き、私のものを染めていく。
「あ、私の使っちゃったけど……いっか。それとチークも要らなそうか」
油断していたらとんでもない爆弾発言が飛んできた。いつもだったら間接キスは友達同士だっらノーカン(かぐや調べ)なんて思ってるんだが、今日の私は何かがおかしい。変に意識しながら、軽く唇に触れる。芦花の使ったものと一緒と考えるだけで、顔から火が出そうだった。
動揺して、化粧水に手がぶつかり、下に転がってしまった。配信中だったため、芦花は小声であとで拾うよ、と伝えてくれる。
「とまぁ、こんな感じ。どうかな、レンゲ」
「じ、自分でやるのと大違いですごいと思います!」
突然振られたので、返答が小学生みたいな感想になってしまったが、私のせいじゃないはず。そんな私を、芦花は笑いながら配信で話を進めていく。
「……とまぁ、レンゲのメイクの時に意識したのはそこかな。元の顔はかなり良いから、素材を活かしてメイクさせてもらった感じ。後は眼鏡の邪魔にならない様なアイシャドウとか、髪色にあったリップとかね」
私は呆然としながら、芦花の言葉に相槌を打つ。われに返ると、もう芦花が配信の締めの挨拶をしていた。
「というわけで、突発だったんだけどROKAと〜」
「レンゲでしたぁ〜」
芦花がパソコンを操作して、配信を閉じる。それと同時に、心配そうに芦花が覗き込んできた。
「蓮夏、大丈夫?途中から、反応薄かったけど。何かあった?」
芦花のせいです、なんて素直に言えるわけ無いので片言になりながら嘘の言い訳を並べる。
「キノセイデスヨ……キノセイ」
「まぁいっか。この後予定無かったよね?ゆっくりしてって。飲み物持ってくるね」
疑問に思われてそうだったが、芦花は飲み物を取りに台所に向かって行った。
〜
「蓮夏、どうしたんだろう」
飲み物を注ぎながら私、綾紬芦花は顎に手を当てていた。私のメイクで変化があり過ぎて戸惑っていた、とかだろうか。自分に自信のない彼女ならやりかねない。
そう結論付けて、お盆にお菓子と飲み物を乗せて、リビングへ戻る。
にしても、最近の蓮夏には困らせられる事が多い。かぐやの影響なのか、やけに〈好き〉と言う単語をよく使ってくる。意識するなっていうほうが難しい。10年前、知り合ってからは心配させられる事が多く、彩葉と同様に気にかけることが多かった。
彩葉程ではないって思っていたが、
そう関わるうちに、蓮夏を目で追っていたのは勘違いだと思いたい。心配なだけ……心配なだけだ、そうやって言い訳をしている。さっきも、自分のメイクした顔が可愛すぎてびっくりしてしまったが、どうってことない……はずだ。
そんな事を考えながら、私はドアを開ける。そこには、座布団にちょこんと座っている蓮夏の姿が。あんなにも小さい背中なのに友達の為、推しの為となると、突飛な行動をする度胸は何処から出てくるんだろうか。そんな蓮夏が、私が帰ってきた事に気が付き、振り向く。
「あっ……オカエリナサイマセ……」
明らかに動揺している蓮夏を他所に、お盆を机に置きながら座って、急遽コラボしてくれた事について、お礼を述べようと口を開いた。
「蓮夏、今日は私のわがままで急に配信出てもらってありがとう」
そう述べると、何時もの調子が戻ってきたのか、表情がほんのり自然に戻る。
「でもまさか羨ましいから誘ってくれるなんて……ちょっと嬉しいかもです」
それを聞いて、恥ずかしい思いをしたが本音を伝えてよかった、なんて考えた。私はお菓子を摘みながら、話を進める。
「まぁ、実際コラボしたことなかったからしてみたいってのはあったからね。で、どうだった?私のメイク」
「見違える様です。私なんかがこんなに可愛くなるなんて……」
蓮夏の自身を卑下する様な発言にムッと感じた私はすぐさま、口を挟む。
「私なんかが、じゃないから。蓮夏は全然可愛いよ」
「アッ……アリガトウゴザイマス」
またさっきの調子に戻ってしまった。どうしたものか、と考えた私はかぐやがコラボした化粧品の試供品が手元にある事を思い出した。これを見せれば、いつもの蓮夏に戻るはず。そう思って立ち上がろうと、足を下ろす。が、なぜかぐらりと前方に傾いた。そこで、さっき落とした化粧水を拾い忘れていた事に気がついた。
やってしまったと言う後悔と共に、勢いよくつんのめる私。その視界に蓮夏が飛び込んでくる。あぁ、またこの子は無茶して……そう思いつつ私は蓮夏に身を委ねた。
「芦花っ!」
柔らかい蓮夏の身体が、私を受け止めてくれたので痛みは無かった。床に手を付きながら、蓮夏の安否を確認しようと、身体を起こす。
「っ……蓮夏、ごめんね。大丈夫だった?」
三つ編みが床にこぼれ落ち、眼鏡の奥に大きく見開かれた青緑の瞳が私を見据えている。
今思うべきじゃないが、これ床ドンってやつではないか?恥ずかしさが込み上げる中、蓮夏が頭を打ってないかを確認した。どうやら、私の座布団が敷いてあった様で問題は無さそうだ。
だが蓮夏は言葉を失った様に黙っている。まるで何かに見惚れている様な……そう考えていると、なぜか蓮夏の手が私の頬に伸びる。そして頬を軽く撫でると、穏やかに笑みを浮かべて、こう呟いた。
「推しても、良いですか?」
「……ふぇっ?!」
押す……私を退かすと言うことか!?取り敢えず慌てて起き上がった。次いで、蓮夏も顔を真っ赤に染めつつバッと起き上がると、引ったくるように荷物を掴み取り、立ち上がった。そのまま急いでドアに向かいこちらに頭を下げる。昔、かぐやを連れてカフェを飛び出した彩葉みたいだ。
「ぉ、お邪魔しましたぁ!」
数分後、蓮夏から突然帰ってしまった事への謝罪と、さっきの事は忘れてください、と連絡があった。何だったんだろうか。私は部屋で一人、首を傾げた。