一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】   作:カウン

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忘れない、忘れたくないから。


昔あった夢のなかで

私はツクヨミにて走っていた。前方に逃げる犯人を捕らえるために。通行人を押し退けながら逃げていく犯人に不快感を抱きながら、さっきの被害者を思い返す。

 

「突然、持っていた銃に連れが撃たれて、煙が晴れたらこいつ動かなくなって……」

 

広場にいたアバターが突然銃で撃たれたらしい。撃たれた本人は声を掛けたが反応がなかった。犯行理由は分からないが、犯人の持つ銃は恐らく、撃たれた人の意識を奪うウィルスが込められていると思われる。

副管理人である前に、ヤチヨの作ったこのツクヨミで巫山戯た真似はさせないと言う気持ちを一心に追い掛ける。奴は逃げるためか路地に向かっているようだ。そこで私は一緒に追い掛けているヤチヨにアイコンタクトを取る。

 

(ヤッチョが回り込むから、レンゲはそのまま追って!)

 

(わかりました!)

 

概ねこんな内容の筈。そう思いつつ、私は犯人をそのまま追い込むために路地に入った。すると想定外の事が起こった。何故か犯人はこちらに銃を向けて待っていたのだ。

 

「……ホームページで見たが、副管理人のお前、上條の娘だろ」

 

両親の関係者だろうか。両親ではなく私に用があるのが腑に落ちないが、警戒は解かない方がいいか。

 

「お前の母親のせいで!おれは会社で全部失った!だから俺はお前に復讐するためにここに来た!」

 

「復讐……母ではなくて私に、ですか?」

 

「そうだ!指摘するなんて揃いも揃ってクソムカつくなぁ!!それに前にバラ撒いた仮想通貨を集金するウィルスもてめぇのせいで台無しだ!!」

 

こいつ、あの時のウィルスの作者か。私は武器を構えつつ、隙を晒したらアンチウィルスソフトを叩き込む準備として現実でキーボードを引っ張り出していた。そうこうしていると、後ろにヤチヨの髪が見える。2人なら、距離を詰めればどうにか制圧出来るはず。仮に私に撃たれたとしても、自身の前にファイアウォールを展開すれば問題ないはず。

 

「だからてめぇに復讐する。この俺の作ったウィルスでなぁ!!」

 

だが、犯人の取った行動は私の考えていたものではなかった。180°回転し、ヤチヨに銃口が向き、その表情が固まる。ヤチヨに直撃した場合、何が起こるか分からない。そもそも目の前で友達をそんな目に合わせる訳にはいかない。私は気がついたら目の前に飛び出していた。

 

「ヤチヨっ!!」

 

だが、それは罠だった。こちらに振り向いた犯人の歪んだように吊り上がる口角と銃口が視界に映る。放たれた光をモロに受けた私は視界が定まらなくなった。

 

「レンゲっ!?このっ!」

 

目の前で犯人がヤチヨに壁に叩きつけられ、捕らえられる。ヤチヨの後ろからかぐやが来たのを確認した私は、ウィルスに巻き込まないためにも、覚束ない足取りで路地を後にした。

 

 

 

 

 

 

「レンゲ……どこにいっちゃったの?」

 

ヤチヨから連絡を受けた。内容は、蓮夏に未知のウィルスソフトが撃ち込まれ、本人は所在不明となっている、とのこと。おまけにヤチヨがユーザーの位置情報を探っても見つからないらしい。彩葉も一緒に捜索しているが、成果は出ていないようだ。

 

「ロカにも手を貸してほしいの……お願い」

 

そうヤチヨに頼まれた私は、事件現場の路地周辺を私も虱潰しに見て回った。今、現実ではかぐやが家に向かい、本人の安否を確認しに行ってくれているらしい。とにかく、ツクヨミ内でも保護しなければ。そう焦る気持ちで一杯だった。ふと、目の前をアバターの尻尾が過る。それはとても見覚えのあるものだった。

 

「レンゲっ!」

 

慌てて肩を掴んだアバターはレンゲよりも一回り小さかった。そして振り向いた少女(・・)は私を見上げながら首を傾げた。

 

「お姉さん、どなたですか?」

 

いやまさか、そんな筈は。他人の空似だろう。でも可能性を考えて、私は口を開く。

 

「お嬢さん、お名前は?」

 

「私は、上條蓮夏です」

 

やっぱり蓮夏だった。小学生位だろうか。こんな状況じゃなければ、子供の頃の蓮夏を見れたと喜ぶところだが……。さっきの反応を思い出して、恐る恐る質問する。

 

「私の事、覚えてる?」

 

小さな蓮夏は首を振った。途端に怖くなって一歩後ず去ってしまう。今までの思い出が消えてしまったのでは、そんな思いが胸を支配した。とにかく、ヤチヨに連絡をと思い通話を繋ぐ。

 

「ロカ!レンゲは!?」

 

「それが……」

 

カメラを下に向けると、幼いレンゲが映る。ヤチヨが混乱したように首を捻っているが報告する事がある。

 

「どうやら、今までの事を覚えていないみたいで……」

 

「……わかった。一応他の被害者にも同様の症状が発生してるみたい。今犯人の銃を解析してるから、それが済めばもとに戻せるかも」

 

犯人は気絶している隙に警察へ通報済みらしく、現在はこのウィルスについて調べている最中の様だ。今はヤチヨに任せるしかない。

 

「そしたらレンゲに異常が発生しないか、見守ってて。こっちは私が何とかするから」

 

そう言い残して、ヤチヨは通話を切った。残されたのは、小さくなった蓮夏と私。流石にこのままだと気まずいので、どこか行こうと思ったら、蓮夏が口を開いた。

 

「あの……このばしょってパソコンの中なんですか?」

 

遠慮する様に、少女は私に質問をしてきた。そう言えば、蓮夏は幼い頃はパソコンをしていたということを思い出した。しゃがんで視線を合わせてから優しく言う。

 

「まぁ、平たく言ったらそうかな」

 

それを伝えた途端、蓮夏は目を輝かせた。それを見て、パソコンが唯一の遊び相手だった少女に少し夢を見せてあげるのも悪くないと思えた。ただ、現状分からないことが多すぎるので、ヤチヨにはコメントを残しておいた。それと一緒に蓮夏を探していた彩葉にも。

 

「そしたら私が案内してあげるね」

 

小さくなってしまった友人の手を握り、案内の為に私は前へ進もうとする。が、蓮夏が手を引いてきた。

 

「……お姉さん、おなまえは?」

 

「そうだよね、私は綾紬芦花。貴女の未来の友達」

 

「未来の……!」

 

その一言に嬉しそうに身体を震わせる蓮夏。昔から感情の表現方法は変わってないんだな。そう微笑ましく思っていると、蓮夏から手を握って来た。

 

「行きましょう、芦花お姉さん!」

 

本当に、事件じゃなければ可愛すぎて悶えてた自信がある。そんな気持ちを抑えつつ、手を引かれながら私達は歩き出した。

 

 

 

「ここがパソコンの中……!しんじられません!」

 

それから蓮夏と色々と見て回った。ツクヨミの空を泳ぐ魚や、行き交う人々、ポリゴンで出来た火や水。それを見るたびに蓮夏は目を見開き、喜んでいた。本当に可愛すぎて、今にも連れ去りそうだった。そんな事をしたら第2の事件になってしまうのでどうにか抑えている。

 

「はい、パフェだよ」

 

「……貰っていいんですか?」

 

「いつも色々貰ってるから大丈夫」

 

今は少し休憩として、並んで座ってパフェを食べている。さっきの空飛ぶ魚などから、本当に電子の中だと理解した後に、味のするパフェときた。蓮夏は目を白黒させながら、口が閉まらなくなっていた。愛らしく思いながら私もパフェをつつく。すると、誰かの足音が近づいてきて、聞き慣れた声が耳に入る。

 

「ロカっ!レンゲは!?」

 

曲がり角から息絶え絶えで彩葉が飛び出してきた。彩葉は聞いてはいたが実際に目にして、蓮夏は知らない人が名前を呼んできたからか、お互いに驚いた表情をしていた。そして、さっきと同じ様に蓮夏が口を開く。

 

「お姉さんも、芦花お姉さんの友達ですか?」

 

「う、うん。私は酒寄彩葉」

 

「彩葉お姉さんですね。よろしくおねがいします」

 

そう言いながら立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。彩葉もつられて頭を下げてから、私の横に座った。

 

「本当に小さくなってる……」

 

「一応、今のところ異常は見られてない。それで、レンゲの希望でツクヨミを少し回ってた」

 

彩葉に心配をかけない様に、今までの事を話しておいた。そのまま、事件の話になる。私の話を聞いた彩葉は顎に手を当てて、考えながら呟いた。

 

「……犯人の目的が掴めない」

 

「レンゲの母親が関係してるんだよね」

 

「復讐って言ってたらしいけど、小さくする事が復讐になるのかな……」

 

パフェを夢中で頬張る蓮夏を他所に話は進んでいく。犯人の目的が蓮夏目的だとしたら、このウィルスが相当な技術がないと解除できないとか、下手すると現実の方にも影響が及ぶかもしれない。ただ、蓮夏にこれ以上の不幸は要らない、どうか無事に終わってほしい。そんな気持ちでいっぱいだった。すると、そんな蓮夏が思い出したように割って入ってきた。

 

「……私のお母さんの話ですか?」

 

蓮夏の表情が影を落とした様なものに変わる。子供の頃からの話は部分的には聞いていたが、まさか今の蓮夏は感情を殺す前の蓮夏なのだろうか。言われてみれば、さっきから感情が上手く表に出せていない感じがした。

 

「今は、お母さんもお父さんも私を見てくれません。しごとの方が大切ですって」

 

蓮夏は美味しそうに食べていたパフェすら、味にしないものの様に食べ進める。それを見て、私と彩葉はショックを受けてしまった。蓮夏の言っていた子供の頃はここまで辛そうなものだったとは。彼女の両親はここまでの事をしてしまったのか、と。

 

「前に遊んでってお願いしたら、お父さんにくらい所にとじこめられたんです。しつこいって。それからはお父さんとお母さんとは話せてません」

 

昔、蓮夏が暗闇でネガティブになっていた事や、遊園地でやけにお化け屋敷で怯えていたのが蘇ってきた。それが原因で怯えていたようだ。そんな悲劇を大したことじゃないように語る蓮夏を私は抱きしめてしまった。悲しすぎる。泣くことすらできないなんて。

 

「……だから分かりません。お母さんがだれかにおこられてるかは」

 

「そっか、よく話してくれたね」

 

申し訳なさそうに頭を下げる蓮夏を撫でながら私は考えてしまった。犯人は蓮夏の心を過去に戻して再び心を殺そうとしてるのでは?と。

 

「そうなると、もう蓮夏の笑顔が見れない……?」

 

うわ言の様に呟き、彼女の思い出がフラッシュバックしていく。かぐやの前で嬉しそうに跳ねる様子や、水着選びで恥ずかしがってた事、3人のライブを見て皆で泣いた事、そして蓮夏が自ら閉ざした重い扉を真実とこじ開けた事。この大切な思い出が全部なくなる……?身体が震え始め、蓮夏を抱きしめる力が強くなってしまう。嫌だ、離したくない、行かないでほしい。親が恨まれて蓮夏がそんな目に遭うのは間違ってる。

 

「……彩葉、どうしよ、蓮夏が」

 

「落ち着いて、一旦ヤチヨに進行状況を確認してくる」

 

私の表情を見てか、彩葉がヤチヨに連絡してくれた。最初は緊迫した様子だったが、途中で息を吐くと段々、明るいトーンで連絡の内容を聞いていた。そして、柔らかい声で私に話してくれた。

 

「かぐやが蓮夏のお母さんに伝えたら、昔犯人が使ってたウィルスソフトが分かったって。そこからウィルスの解析が終わったみたい」

 

それを聞いた瞬間、安堵から涙が溢れてしまった。良かった、これで蓮夏はもとに戻る。すると、蓮夏のログアウトの手続きが自動で行われていく。ヤチヨが上手くウィルスを除去出来たからだろうか。すると、泣いている私を蓮夏が腕の中から不思議そうに見てくる。やがて、困惑気味に口を開いた。

 

「私なんかの為に、泣いてくれてるんですか?」

 

「私なんかじゃいよ……君のために泣いてくれる人が、いつか絶対来てくれるから。だから待ってて」

 

その一言を伝え終わる頃には、蓮夏はツクヨミからログアウトしていた。

 

「イロハ、ごめん私も行ってくる」

 

私も居ても立ってもいられず、彩葉に断りをいれて、ログアウトの手続きをし、ツクヨミから離脱した。

 

「頑張ってね、ロカ」

 

優しい彩葉の声を聞きながら。

 

 

 

 

 

 

「っう……いった」

 

私はぼんやりとする頭を床から上げる。何をしていたんだっけ、随分と懐かしい夢をみた気がする。やけに髪留めが主張してくる気がした。目をゆっくりと開くと、かぐやが目を腫らしながらこちらを見ていた。

 

「蓮夏っ!よかった……!」

 

目が合うやいなや、かぐやが飛び込んできた。記憶が曖昧で何があったか混乱している私の耳に、慣れ親しんだ、でもなじまない声が耳に入る。

 

「……なんとかなったのね」

 

「お母さん……?」

 

そこには、母の姿があった。昔よりは話すようになったが、何故ここに。そう思っていると、母は私に向かって頭を下げた。

 

「ごめんなさい。まさか昔会社で不正をした部下が貴方に復讐をするなんて……」

 

母の謝罪は事務的で、それでもどこか愛を感じた。そもそも今はリモートで仕事をしていたのでは?なんて私の疑問はすぐに解消される。

 

「でも、蓮夏のお母さんすごかったよ〜。かぐやが事情を話すや否や、リモートの会議蹴っ飛ばして、直ぐ様昔の資料を探して教えてくれたんだ」

 

「会議は蹴っ飛ばしてないわ。離席はさせてもらったけど……」

 

相変わらず少しズレているが、私のためにそこまでやってくれたのか。昔では考えられない変化だった。意外そうに母を見つめる。

 

「なんでそこまでしてくれたんですか?」

 

「娘のため……なんて今更言って信じてもらえるかしら」

 

自分自身に呆れたように言う母の姿は、本当に母親の様で、私も同じ様に呆れて笑った。

 

「遅すぎますよ。本当に」

 

すごく昔に、母の腕のなかで子守唄を歌ってもらった記憶が、何故かよぎった。母も事情があって、私を見れなくなってしまったのかもしれない。私は母の前で久しぶりに、心の底から笑えた気がした。そんな私を見て、かぐやも嬉しそうに笑った。

 

「蓮夏、よかったね」

 

「はい、結果オーライってやつですかね」

 

その後、何が起きたかをかぐやから詳細に聞き、思い出した。だが、犯人もまさか母が動いてくれるとは思っていなかったのだろう。それ故の計画に感じた。そうしていると、インターホンが鳴ると同時に、誰かが駆け込んできた。

 

「蓮夏っ!!!」

 

母の横をすり抜け、芦花が胸に飛び込んできた。目元を見るとかぐや同様、泣き腫らしていた。

 

「また無茶して!なんで自分を大切にできないの……!」

 

心配をかけてしまった事を申し訳なく思いつつ謝罪した。その時、ふと昔あった夢のなかで、聞いた言葉が思い浮かんだ。

 

「確かに、泣いてくれる人がいましたね。ごめんなさい、芦花」

 

芦花はそれを聞いて満足そうに優しく微笑むと、ゆっくり私を抱き締めてきた。

 

「だから言ったじゃん……いつか来てくれるって」

 

周りを見ると、かぐやも泣いてくれていた。やっぱり私は恵まれているな。そう感じていると、芦花と目が合う。そして、至近距離で私の目を見つめながら芦花はこう言った。

 

「これから私も、蓮夏の事……推しても良いかな」

 

「えっ!?」

 

「へ?!?」

 

かぐやと私が動揺する中、芦花だけは頬を赤らめ、嬉しそうに笑っていた。




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