一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
それからお気に入り、誤字報告ありがとうございます!
それと最後にお知らせがあります。
周りの行き交う人の喧騒を聞きながら、私は何度目かになる時間の確認をした。さっきから緊張で無駄に時間を確認してしまうためか、ろくに進んでおらず一分しか経っていなかった。気を紛らわそうと、通行人に目を向けつつ今日の発端を思い出していた。
それは芦花とコラボした後の出来事。いつも通り配信を切った後、芦花と雑談していた時のことだ。
「そうだ、今度の休日さ、水族館行かない?この前、チケット譲って貰ってさ」
ふと思い立った様に、芦花が提案してきたのだ。私も予定はなかったので了承すると、芦花は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ふふっ、デート楽しみだね。蓮夏」
その一言以降、約束の日までずっと落ち着かなかった。服装はどうしよう、何分前に行くべきか?と、色々考えてしまい、当日は緊張から45分も前に到着していた。そもそも、友達と出掛けるのにデートだなんて、からかってるのでしょうか。それとも……もし本気なら……。
「蓮夏っ、お待たせ」
「ひゃいっ!?」
妄想に耽っていると、背後から声が掛かってきて驚いてしまった。慌てて振り向くと、そこには暗めのトップスにスリットの入ったグレーのロングスカートを格好良く着こなした芦花の姿があった。変装も兼ねてか、掛けているサングラスも相まってメロすぎる。犯罪になるだろ……。と呆然と見つめていると、芦花は嬉しそうに笑って言った。
「どうしたの?あ、もしかして見惚れてたり?」
私はそれを聞きながら反射的にこくん、と頷いてしまった。芦花はそれを聞いた途端、顔を赤くしながら下を向いてしまった。そして私も同様に頷いてしまった事から恥ずかしくなり、俯く。やっぱり眼鏡があるからちょっと落ち着く。そんな事を考えていると、芦花が私の手を握って引っ張る。
「ほ、ほら行くよ」
照れの混じった彼女の表情は、新鮮で、それでいて可愛くて、また見惚れてしまうところだった。私は引かれる力に身を委ねて、歩を進めた。
合流した私たちは、チケットを買って水族館に入館した。休日だったからか、結構な人がいる。都心のビルの上に水族館を作るなんて誰が考えたんだか。そう感心しながら、芦花の横を歩く。それと例に漏れず、水族館も初めてなので、内心わくわくしている。すると、芦花が私の顔を覗き込んできた。
「蓮夏、水族館も初めてなんだ。顔に楽しみって書いてあるよ」
「だから毎回表情から読まないでくださいよ……恥ずかしいんですから」
見るだけでちゃんとバレてしまうからプライバシーもへったくれもない。まぁ、芦花に隠したい疚しい事なんて一切ないから問題ないんだが。そう考えながら顔を背けた。
「わかりやすい蓮夏が悪いと思います!」
「ふふっ、なんですかそれ」
そうやって笑いながら水族館を進む。先には水槽に色とりどりの魚達が楽しげに泳いでいた。館内も静かで、見ていると癒される気がする。
「なんかヤチヨのライブみたいですね」
「そうだ、今度ヤチヨ達も一緒に来ても良いかもね」
確かに、ヤチヨも水族館は初めてのはずだ。次は私が案内するのも、面白いかもしれない。ならしっかり今日は予習しなければ。心の中で気合を入れて、水槽へと目を向ける。あ、私でもあの魚は知ってるぞ。
「私でも見覚えある魚がちらほら居ますね。映画に出てました」
「あぁ、カクレクマノミか。可愛いよね」
芦花は水槽に顔を近づけて、クマノミを見ながら優しく微笑んだ。いや、貴女の方が可愛いんだが!?表情から悟られないように顔を背けて悶える。気になって横目で見ると、その仕草が、表情が、まるで映画から切り取られたようで美しく見えてしまう。むずがゆくなってしまった私は芦花の手を握った。
「わ、私次が気になります!」
「ちょ、蓮夏!?」
私は誤魔化すために、手を引いて、次の水槽へと向かった。
その後、何個か水槽を見ていくと外へと繋がっていた。水族館特有の暗い空間からいきなり太陽が目に入り、視界を細める。段々と目が慣れてきて、多くの人が足を止めて見上げるそれに私は唖然とした。
「すごい……ペンギンが空を飛んでるみたいです」
その水槽には、天井が抜き取られたように青空が映っており、その青いキャンパスの上をペンギンが滑るように泳いでいた。私自身、ペンギンを初めて見たのに、こんな芸術的に見せられてしまって感動してしまっていた。
「ここはこの水族館でもかなり有名な所だからね。感動してくれたみたいでよかった」
そんな私を見て、芦花も嬉しそうに笑う。だが、有名だからこそ人気な水槽なのか、かなり人が居るな……。
「ねぇ、あっちでペンギンの餌やりがやるみたい!」
誰かの声が聞こえて、人混みが大きく動き、流されそうになってしまう。芦花に何かあったら大変じゃないか?と心配になって、芦花を守るように抱きしめた。身長のせいで他の人のバックが頭に当たるが、芦花に当たらないならそれでいい。
「蓮夏……もう大丈夫そう」
ある程度、人が出ていったからか人混みが落ち着いた。声をかけられた私は小さく息を吐いて、芦花から離れた。
「……芦花?」
そうして見上げた芦花の表情は、なんとも形容しがたいものだった。頬を赤らめているのに嬉しそうに笑っている。過去にかぐやとヤチヨをみているときに彩葉が浮かべていたような……なんて思っていたら、芦花が正気に戻ったようで、頭を軽く振ってから、手を握り直してくれた。
「よしっ、次の所行こ」
それを心地よく思いながら、水族館を回っていく。その先には同じ様に空を泳いでいるようなアシカやカワウソが見れた。どれも可愛くて満足感を思いながら、先へと進む。
それから建物内に戻り、私達はクラゲの水槽に訪れた。ゆらゆらと漂うクラゲを眺めていると、横から芦花が話しかけてくる。
「今日さ、誘ったはいいけど、水族館ってちょっと子供っぽいかなって思ってて。でも蓮夏、別の水槽の前に行くたびに目キラキラさせてくれて、誘ってよかったよ」
まぁ実際初めて来る場所だから楽しかったのは事実だが、私は胸に感じていた思いを芦花に零す。
「私は、芦花と一緒ならどこでも楽しいですから」
「そ、そっか。ありがと……」
私の言葉を受け取った芦花は口元を抑えて、笑みを堪えていた。あれ……てかこの発言とんでもないこと言ってないか私。
「……もしかして今私とんでもなく恥ずかしいこと言ってませんでした?」
「うん、かなりね」
私は芦花と顔を合わせられなかった。こんな顔から火が出そうな状況で目を見ることは出来ない。うぅ、まだ熱い……。そんな私達を気にかけることなく、クラゲは静かに舞っていた。
「今日は誘っていただきありがとうございました」
そんな楽しい時間はあっという間で、気がついたら帰り道になっていた。水族館から出ると、空にはもう星が煌めいている。私のお礼を聞いて、芦花は顔を綻ばせながら言った。
「私も蓮夏と出掛けたからったから大丈夫」
水族館から出ても握り続けていた手は帰路へと向いていく。人々が流れて駅に吸い込まれているのを見ていると、心に思うものがあった。この後は電車に乗って家に帰る。何故かそれが寂しく思ってしまい、駅に向かう階段の前で芦花の手を引いた。
「あの、良ければですが……少し飲みませんか?」
私は、このまま帰るのが惜しいと思っていた。今日をこのまま終えるのは惜しいなんて感じて、出てしまった言葉が恥ずかしくなり耳まで赤くなるのを感じる。でも、手を握る力が強くなり、芦花の息遣いが聞こえた。
「うん、私も同じ事思ってた」
帰ってきた返答は了承。まだ一緒に居れる事実が嬉しくて、私も手を強く握り返した。私達は帰路から背を向けて歩いていく。
「いいお酒飲めるところあるんだ。日本酒の専門店なんだけどね」
今日はまだ終わらないでくれるらしい。
言っていた居酒屋に着くと、芦花が一言目を穏やかに口にする。
「まさかあの蓮夏が引き留めてくれるなんてね、私は嬉しいなぁ」
「今思い返すと恥ずかしいんで掘り返さないでください」
何度目かの赤面をしながら机に突っ伏した。確かにもっと一緒に居たいと思ったが、まさか口から出てしまうとは……思い返しただけで顔が熱い。
「ま、気を取り直して、飲もっか」
お猪口を私の前に置きながら上機嫌に注文する彼女を見て、さっきの行動は間違ってなかったなと思えた。
少し待つとお酒が届けられた。芦花が言う位だから確かに美味しい。ある程度飲み進めていると、話は自然と昔の話になっていた。
「だから何度も思ったもん。彩葉に嫉妬してるなぁって。何かしてたらひっぱたいてたよ?」
「だって……そんな努力してたこと知らなかったですし。大体、隠すのうますぎるんですよ彩葉は!」
「そう!それなんだよ!だからずっと心配だったの!!」
美味しい料理にお酒が合わさって結構酔いが回っていた。以前飲んだ時の悪酔い程ではないが、心地よさを味わいながら、お酒を煽る。すると、芦花が目を見つめながら呟いた。
「でもね、蓮夏のことも同じくらい心配になってた。あんな事されたら誰だって不安に思っちゃうから……」
「その件は……本当に反省してます」
涙を溜めながら話す芦花に頭を下げながら、申し訳なさで一杯になる。この前の事件といい、芦花を困らせてばっかだ。何かお詫びできないだろうか。
「芦花、何か私から返せませんか?出来ることならですが」
私の言葉を聞くと、芦花は少し悩んだ後優しく笑い掛けながら言った。
「そしたら、これからも一緒に出かけてほしいな。蓮夏との思い出、増やしていきたいし」
そんな彼女を見ていて、胸の中で感じていた思いが溢れてしまう。愛おしい、好き、可愛い、尊い、これらを私が言葉で表すなら一言しかない。私は慣れ親しんだ言葉を口にしていた。
「私……芦花の事が好きです。やっぱり推させてください」
目の前の芦花は口を開け、驚いた表情で固まった。何か間違えてしまっただろうか。そう不安に感じていると、芦花は噴き出して笑った。突然笑い始めたのでオロオロしていると、収まったのか芦花が話し始める。
「あー笑った。そっか蓮夏は好きって感情はそうなっちゃうよね。だったらいいよ。私がもっと好きにさせて上げる」
芦花は机に前屈みになってこちらに身を乗り出し、顔を寄せてくる。何をするのか分からないでいると、突然唇が塞がった。心臓がありえない速度で脈打つ。理解できずにいると、感じていた柔らかい感覚が離れる。
「酔っててよかったよ。これが私からの答えだから」
視界で揺れるその彼女の表情は、やっぱり推せると思えてしまうくらい、綺麗だった。
お知らせです。今後私生活が忙しくなってくるのに伴って不定期投稿(5日おき)が本当に不定期投稿になります。実際、このまま書き続けても超かぐなのか?って疑問もあるので、少しだけ作る時間も頂きたいって部分もあります。申し訳ないのですが、気長に待っていてもらえると嬉しいです。