一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
振り注ぐ日差しの中、肌にジリジリとした熱を感じながら私は耐えていた。気を紛らわそうと、周りを見渡す。そこには視界に収まらない位の人。皆、同じ様に暑さを堪えているものの、目には爛々とした生気を宿している。
(こんなに人が集まるのは初めて見ましたね……)
今日何度目かの汗をハンカチで拭い、隣の逆三角形の建物を見上げた。今日は、同人即売会だった。
皆さんは《同人誌》はご存知だろうか。私は最近知った。ファンが自分の好きな作品やキャラクターへの愛をぶつけた本だ。そんなファンメイドの本を売る場所、それこそが同人即売会。
あれは数ヶ月前だったか……いつもの日課としてかぐやの情報をSNSで集めていたときだ。ふと、あるイラストが目に飛び込んできた。
「な……なんですかこのイラストは!」
そこにはかぐやがバニーを着る姿が!!破廉恥です許せません!!!私が保護します!!!!
と、興味を持って調べ始めてしまった。そしたら出るわ出るわと多くの情報が溢れてきた。帝さんと乃依さんの描かれた本や、ヤチヨと彩葉の描かれた本、更には私とかぐやの本まで……。
元々この手の文化は知らなかった為、許可とかその辺はどうなんだ?って疑問にもなったが、考えない事にした。買えるならそれでいいやの精神だ。
そんなこんなで、直近近場で一番ビックな即売会に参加したのだが、夏なのが悪かった。進まない列、容赦なく照りつける太陽、削れていく体力。
あっ、今にも視界が揺れ始めた。慌てて水筒を取り出そうとするも、手元が覚束なくなり落としてしまう。どうにか手を伸ばそうと前屈みになった時、それに手を伸ばしてくれる人がいた。
「大丈夫か?ほら、落とした水筒だぞ」
「あ、ありがとうございます……」
水筒を手渡されてから、身体を起こすとその人と目が合う。女性で自分より年上だろうか。かっこいい見た目でTシャツとジーパンが似合っている。私も同じような動きやすい格好をしているが、着こなしているって感じはお姉さんの方が高い。
「ってか、ふらついてないか!?ちょっと待ってな!」
お姉さんを見ながらふらふらしていると、慌てた様子でリュックをあさり始めた。すぐに、何かを取り出して、私に差し出してきた。
「これ、瞬間冷却パックってやつで、叩くとすぐに冷たくなる優れものだ。タオルに巻いて使ってくれ。それと、塩飴。嫌いじゃないなら舐めておくといいぞ」
優しく寄り添いながら、分かりやすいように説明してくれた。お礼を言って受け取ろうとした時、やけに献身的にしてくれる姿と解説する様子がある人と重なった。疲労困憊していたからか、つい口からその名前が出てしまう。
「オタ公……?」
眼鏡を通して映る瞳が大きく見開かれる。どうやら当たってしまったらしい。バレて騒ぎになることを考えたのか、オタ公はすぐ距離を取ろうとした。だが、私の髪留めを見ると向こうも恐る恐る確認のために名前を呼ぶ。
「もしかして……レンゲか?」
「はい!そうですよ」
当ててくれたので嬉しくて笑いながら答える。それを聞くと、オタ公も笑顔で私の手を握ってきた。
「いやー世間は狭いな!まさか声かけたのが友人だなんて!」
そう言いながらぶんぶんと私の手を上下に振る。嬉しくて忘れていたが、体調悪かったんだ。オタ公の握手に目を回しながら振り回されていると気がついたのか、さっきの冷却パックを使えるようにして、首元に当ててくれた。
「悪かった、熱中症気味だよな。ちょっと首元冷やすぞ。」
ひんやりしてて気持ちぃ……。そのままオタ公のハンディ扇風機を浴びて、促されて水筒を飲んだ。そうしてなんとか話せる程度まで回復できたので、今回の事情を説明した。
「初見で夏の即売会に参加とは……やっぱりレンゲは行動力の化身だな」
「いきなり夏って良くないんですか?」
「いや、事前知識とか準備があれば大丈夫なんだが、如何せん冬と比べたらかなりハードだからな」
オタ公が細かく説明してくれた。冬は着込めばある程度調節できる点や、日が出てくれば意外と辛くないと、楽をできる部分があるらしい。だが、夏は常に体力を奪われ、飲み物は無くなるなど、こちらのリソースが持っていかれる速度がかなり速いとのこと。
「着替えはあったほうがいいし、凍らせたペットボトルとかもあると良いぞ。後は日傘とかだな!」
オタ公の説明を聞きつつ、私は若干の後悔を感じたが、少し戻ってきた体力で気合を入れ直した。これもすべてバニーかぐやを確保するため……!そんな私を見て、思い出したようにオタ公が口を開く。
「そう言えばレンゲ、何か目当ての本があるのか?」
「実はですね、この本なんですけど」
そう言いながら、保存しておいたスマホの画像を見せた。すると、見覚えがあったのか、オタ公は納得したように首を立てにふる。
「お、それは最近噂になってる絵師じゃないか。長いこと、SNSでしかイラストをあげてこなかったと思えば、ここに来て急に即売会参加だもんな!気にならない訳がない!」
「へぇ、そうだったんですね」
やけに生き生きしたかぐやを描くこの絵師だが、オタ公に説明されながら見せてもらうと、ヤチヨだったり彩葉も描いているようだ。私が細かく調べていなかったのを分かってか、オタ公は嬉しそうに画面を操作してこちらに見せつける。
「そこまでは知らなかったんだな。なら自分が描かれているのはみたか?」
「えっ……私のアバター?」
勝ち誇ったような表情で見せられた画面にはあざといポーズや破廉恥なポーズをした私のアバターが描かれていた。普段の振る舞いからそう言う風に見られていたのかと思うと、顔に熱がたまるのを感じる。
「どうやらこの絵師はレンゲも推しみたいでな、定期的に描いてるんだぞ」
うぅ……ファンが居るのは分かっていたが、こうも描かれてしまうとは……恥ずかしい。そんな風に思っていると、周囲から突然拍手が上がり始める。何事かと、俯いていた顔を上げるとオタ公も拍手していた。遅れて、同人即売会の開始時間を告げるアナウンスがあり納得する。
「恒例行事なんだ。やっぱこういうイベントは団結力あるよな〜!」
私も合わせて拍手をしていると、列が段々と動き始めてきた。どうやら開戦間近らしい。私がオタ公の方を向くとオタ公もこちらを見ながら頷く。
「それじゃあ、私はこれで。レンゲ!健闘を祈る!」
オタ公が拳を突き出してくれたので私の拳を合わせて、笑いかける。
「ありがとうございました、オタ公。このご恩は必ずいつかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「レンゲがすごい勢いで流されて行ったぁぁあ!!って実況している場合じゃない!そっちは別ジャンルだ!!レンゲぇ!戻ってこーい!!」
その後、私の足腰の弱さを考慮してか、オタ公は同行を申し出てくれた。頭が上がらない……。
「ここが会場なんですね、すごい熱気です……!」
オタ公と手を繋いで建物の中に入ると、人の濁流が流れていた。もう、比喩とは思えない勢いで。そんな中を流されるように進んでいく私達。本当にオタ公が居なかったら、私はもみくちゃにされて、そのへんの床にへばりついていただろう。
「レンゲ、この先からが会場だ。しっかり手を握っておけよ!」
「はいっ」
大きな入り口をくぐると、そこには並ぶ机に見たことのない本、それを求める人、それがところ狭しと繰り広げられていた。これが同人即売会、その熱量。私はそれを肌で体感していた。だが、目的のサークルまではかなりの距離と人。どうするのだろうかと視線を向けると、オタ公は力強い笑みを浮かべる
「例の絵師のサークルは壁だ!このまま突っ切るぞ!」
オタ公は空いている手を立てて、人の間を切り開くように進んでいく。流石の練度と言うべきか、人の波に飲まれる事なく、歩を進めた私達は目的のサークルにたどり着くことができた。
「す、すごいです……!オタ公が居なかったらここまで来れなかったと思います」
購入の列に並んだ私は素直に感嘆の声を出していた。あれ程の人を掻き分けながら、まるで海を渡るかのごとくスムーズに来れたのだ。驚かない訳がない。
「ま、経験の差だな!」
オタ公は鼻の下を擦りながら、笑った。そのまま、私達は購入の時を静かに待っていた。
「どんな人が描いてるんでしょうか」
「どんな人でも不思議ではないからな。楽しみだ」
わくわくした気持ちを抑えながら、一人ずつ進んでいき、ついに私達の番になった。前の人がはけて、机の前に立つ。サークル主が笑顔で出迎えて……。
「次の人〜何をご所望かな……えっなんで」
「……や、ヤチヨ?」
明らか動揺した声を上げる友人が、目の前に座っていた。かなり完璧な変装はしているみたいだが、私の目は誤魔化せなかった。2人の間に気まずい静寂が流れる。まさかヤチヨが私やかぐやを描いていたとは……。
「……取り敢えず、新刊一冊下さい」
「アッハイ」
誰が描いていようと欲しいものは欲しいのでかぐや本を購入させてもらった。バックに買った本をいそいそとしまっていると、ヤチヨから声がかかる。
「勝手に描いたこと、怒ってない?」
「まぁ恥ずかしいですけど、配信してるならあり得る話ですからね」
私の回答にヤチヨは胸をなで下ろして息を吐いていた。そんな和やかなムードも束の間、即売会のスタッフが息を切らしながら、こちらにやってきた。
「すみません!待機列がかなりの長さになってまして……サークル主さん、他に売り子さんは?」
それを聞いた私はヤチヨの目を見ながら、口角を上げた。
「私が手伝います。友人なんです」
「蓮夏……!ありがとうね!」
サークルを手伝うためにテーブルの反対側に回ると、オタ公が何かを察したのか、お金を私に差し出した。
「新刊一冊!それから、さっきのお礼はコラボでいいぞ!」
「はいっ!」
オタ公がサークルを離れてからは怒涛の展開だった。次々と押し寄せる人に新刊を押し付け、お金を受け取り、列を整備し、そうしているうちにヤチヨの刷った同人誌はあっという間になくなってしまった。まさか初めての即売会で買い手も売り手も経験するとは……疲れてぐったりと座っていると、机にお茶が置かれた。
「はい蓮夏、今日は助かったよ〜」
「いえいえ。でもまさか、ヤチヨが絵も描けたなんて……なんで教えてくれなかったんですか?」
お茶を飲みながら、ふと感じた疑問をヤチヨにぶつけてみた。するとヤチヨは苦虫を噛みつぶしたような表情に変わって目をそらした。
「時間はあったからねぇ、極めるのは楽しかったよ〜。言わなかったのは……勝手に描いてたのが気まずかった、からかなぁ」
「ふふっ、ヤチヨらしいですね」
そうやって落ち着いて話していると、ヤチヨがこちらを見ながら尋ねてきた。
「蓮夏、初めての即売会はどうだった?」
「初めてって、ヤチヨもじゃないですか。勿論、楽しかったですよ」
「まぁね〜。それじゃあ蓮夏、他のサークルの同人誌を見に行こっか!」
ヤチヨが元気に立ち上がったのを見て、私もゆっくり立ち上がる。
「本人が見に来てるって知ったら、皆驚くんでしょうね」
そんな冗談を言いながら、サークルを離れようとした時、一人の参加者が机の前で止まった。
「えっ、嘘。もう売り切れてる!あ〜……欲しかったのに」
そんな悲しげな声を出す人を見てヤチヨは居た堪れないからか声をかけた。それが間違いだと気付かずに。
「ごめんね〜またの機会にお願いしま……彩葉……?」
「……なんでヤチヨがここに、まさかこの絵師って」
何か不味い気配を感じたので、その場から立ち去ろうと後ず去る。なぜなら、この本にはイロハのバニー姿も「もしかして蓮夏も共犯?」
スーッ……終わった。
お説教の後、私達は即売会を楽しんだ。私は誤解を解けたのだが、ヤチヨは終わるまでずっとしょんぼりしてた。
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それと……一ヶ月も投稿出来ず申し訳ないです!中々納得したものが作れず、忙しいのも相まって、時間がかかってしまいました……。まだ話は考えておりますので、次も気長にお待ちください。
それと、ムビチケ彩葉可愛すぎて買いました。