一人くらい彩葉のクラスメイトにかぐやに脳を焼かれた人が居てもバレない説【完結】 作:カウン
どうやら私の予想が嫌な方で当たってしまったらしい。
学校にて、夏期講習を受けていると後ろの席から肩を突かれる。振り向くと、今にも泣き出しそうな顔の綾紬さんが。
「ねぇ、上條。彩葉が熱でたってかぐやちゃんが」
「風邪ですか!?」
驚いて講習中と言うことを忘れて、大声を出しながら立ってしまった。お前まじか、みたいな視線を向けてくる先生に謝罪を述べながら頭を下げつつ席に座る。
少し時間を空けてから、軽くうしろに視線を向けつつ会話を続ける。
「それで、彩葉さんの状況は?」
「取り敢えず今は寝てるって」
私は顎に手をつつ考える。あのかぐやさんがついていることと、寝ているなら慌てる必要はないのかもしれない。
「そう言えばバイトの連絡は?彩葉さん一番気にしそうですが……」
「それは大丈夫、かぐやちゃんに真っ先に伝えておいたから」
バイトが一番気にしそうと思われているというのも、どうかと思うが……とにかく最初に連絡が行ったのが綾紬さんで良かった。酒寄さんの事を分かってるから的確に指示が出せたようだ。それでも綾紬さんは心配そうにそわそわしている。これはもう直接行って、無事を確認するしかないようだ。
「そしたら講習後に諌山さんも誘ってお見舞いに行ってみましょうか」
「ぇ、でも迷惑じゃないかな……」
迷惑と心配の感情に揺れ動く珍しい綾紬さんを見つつ、私は微笑みながら呟く。
「静かにしてれば大丈夫ですよ。それに、私の推しなら行くはずですから」
かくして、講習が終わった私達は諌山さんに事情を説明した。諌山さんは二つ返事で了承してくれて、急いで荷物を纏めてドラッグストアに駆け込んだ。
「取り敢えず、経口補水液と〜……後プリンとかも買っとく?」
「どうしよう……ネギ巻けば良いんだっけ……?」
「綾紬さん!?それは鼻詰まりに効くとされている民間療法です!」
綾紬さんが心配の余り、熱自体には効かない事をしようとして、ネギを手に取っているので、慌てて止める。
「うぅ……でも彩葉熱なんで出した事なかったから……どうしよ」
「芦花、一回落ち着いて〜、な?」
そう言う諌山さんも、プリンを2パックも手に持っているので、一旦プリンを手放させようと声をかける。流石に2人暮らしに2パックは多すぎだ。
「2つも!?諌山さんも一回落ち着いてください!」
2人を鎮めつつ、どうにか買い物を済ませる。恐らく食材は、料理上手のかぐやさんが色々と買ってあるものがあると思うので、冷却シートや経口補水液、プリンなどを手に、私達は酒寄さんのアパートに足を運んだ。
「ここ……ですね」
かぐやさんに位置情報から教えてもらった住所を元に、私達は酒寄さんのアパートに辿り着いた。すでに隣の2人は気を揉みすぎて挙動不審気味だ。早いところ、安心させてあげよう。
そう思いつつ、金属の音を響かせながら階段を上がる。そして、部屋のベルを鳴らすと、5秒もせずに扉が開かれる。
「みんな!来てくれてありがとう!」
不安と喜びが入り交じった、かぐやさんがそこから飛び出してきた。
「そっか、さっき起きておじやは食べてくれたんだね……」
綾紬さんは安堵の息を吐きながら、今は眠っている酒寄さんを見つめていた。酒寄さんにかかった布団は規則正しく上下しており、寝顔も苦しそうではなく、安心した様なものだった。
「かぐやちゃんが一緒でよかったよ〜」
諌山さんもその様子を見て、安心できたのか、いつものように笑う余裕も出てきたようだ。だが、諌山さんの言葉を聞いたかぐやさんが申し訳無さそうに、下を向く。
「かぐやが、無茶させすぎちゃったのかな……」
そんな様子のかぐやさんを見て、綾紬さんが近くに寄って、静かに抱き寄せる。そのまま優しく頭を撫でた。
「かぐやちゃんが来てからの彩葉、すごく生き生きできてると思うんだ……だからさ、そこまで罪に感じる必要は無いよ」
かぐやさんは目を細めながら、心地よさそうに、頭を撫でられ続けた。いつも一緒だった人が急に熱で動けなくなってしまったんだ。それは不安で仕方なかっただろう。
「大丈夫だよ、何かあったら私達みんなで彩葉とかぐやちゃんを支えるからさ」
諌山さんもかぐやちゃんに寄って、撫でていた。私がその光景を眺めていると、諌山さんがちょいちょいと手招きをしている。私に来いと申すか。推しを、撫でろと。私はおずおずと近づき、かぐやさんの頭に手を置く。
「かぐやさんが酒寄さんを思っているように、逆もあると思うんです。だから、心配要らないはずです。だって酒寄さん、よく私にかぐやさんのお礼と称して、色々教えてくれますし」
私のどうにか紡いだ言葉に満足気に頷くと、かぐやさんはみんなに感謝をしながら、ハグをしてくれた。
「ん〜!ありがとう!来てくれてよかった!」
それから余り長居しても、二人に迷惑だろうと思い、帰路についた。帰り道で、二人とも行きの不安は消えていたので、私としても安心だった。
「にしても蓮夏、よく推しの部屋に行って大丈夫だったね〜」
あっ。
突然過る先程の記憶。初配信にも使われた部屋、動画で使われた道具の数々、ダメ押しの推しからのハグ。私のキャパは唐突にぶっ壊れた。
「ちょ、真実。そんな事思い出させたら……嘘、立ったまま気絶してる」
「なんて穏やかな顔なんだ……」
その後、ほっぺたをぺちぺちされて、どうにか起こされた。
数日後、ツクヨミでみんなで集まって、酒寄さんの無事を確認していると、かぐやさんがランキングの話をしていた。
曰く、ヤチヨカップなるものでの優勝を目指しているらしく、それを達成するためには、諌山さんの推しである【Black onyX】を破らなければならないらしい。
……もしかして私、何も事情を知らずに応援してた感じですか?しかも、説明された場に居たと……。
私が恥ずかしさで塞ぎ込んでいると、かぐやさんの手元に一通のメールが。
それを見た、酒寄さんも私の横にしゃがみ込んでくる。ようこそ、しゃがみ仲間だ。
「よっしゃぁ!大物釣れたぁ!!」
どうやら件の【Black onyX】からのKASSENの申し込みだったらしい。しかも負けたら向こうのリーダーさんから結婚が申し込まれると……私の推しは、やはり常に騒ぎの渦中にいるらしい。
と、会場でここまでの事を振り返っていた。現在、KASSENの観覧席にて、綾紬さんと2人で始まるのを待っている。ここに不在の3人は、出場するために会場入りしている。
えっ、なぜ私が出なかったかって?そんなの、推しと同じ場所で戦うなんて気絶するに決まってるじゃないですかやだ。
そう言えば、綾紬さんと二人きりというのは、なんだかんだ初めてだな。ちらりと横を見ると、綾紬さんもこちらを見ていたのか、目があってお互いに笑い合う。
そのまま話になり、私達は自然と初めて会った時の会話をしていた。
「でも、初めて知り合ったのがあんな形なのに、今はこうして一緒に試合を待ってるなんて、何が起こるか分からない物ですね」
私がカフェ裁判を思い出しながら笑うと、綾紬さんは心苦しそうに、話を続ける。
「ごめんレンゲ、実は初めて声かけた時、嫌なやつだなって思ってた」
私はあの時、綾紬さんの感情を読み取ってはいた。だが、それは本人に止められたため、答え合わせができていなかった。
「わかってますよ、言ったじゃないですか。私は感情がなんとなくわかるって」
「そうだね。あの時はバレてるって思ってた」
私の予想通りだったか。そう思っていると、予想外な事を綾紬さんに言われた。
「……でもさ、感情をあまり表に出さなかったってことはレンゲも顔に出るってことなんだよ」
「えっ、もしかして出てました?」
自身では気づかなかったので顔を触るが、それでは分からない。そこで私の酒寄さんへの感情は、綾紬さんにはバレていたと悟った。
「うん、それはもうしっかり
羨ましいって顔に書いてあったよ」
「す、すみません」
気まずくなり、意味もないのに綾紬さんに謝る。謝るべきは酒寄さん本人にだろうに。
「彩葉に対して、彩葉の苦労も知らずに、上辺だけ見てて。変わって苦しんだらいいのにって、思ってることもあった」
私は以前、酒寄さんの努力を知らなかったから、表面の優等生な部分しか見れていなかった。バイトで1人暮らしをし、学費も生活費も自らで補う。そんな努力に気づかず嫉妬していたのか、私は。
自分の考えが浅はかで悲しくなり、下を向く。現実で貰った髪留めが額に当たるのを感じる。それにつられて視線を上げると、綾紬さんが覗き込む様にこちらに顔を寄せてくる。怒ってはいない、とても優しい顔だった。
「でもね、それはレンゲの事を知らなかったから思ってたんだなって」
「レンゲも悩んで、苦労して、頑張ってた。しかも1人で」
それを聞いて、私は苦笑した。私なんて、酒寄さんに比べれば些細なものだ。
「でもそれで酒寄さんに嫉妬向けてるのはおかしな話なんですけどね」
「そうだね」
「ごめんなさい」
「私こそごめんなさい」
互いに謝罪して、2人で笑い合った。
「これでお互いさまですね」
「ふふっ、そうなるね
ようやく、心から友達になれたのかな。そう思えた。
話し込んでいたら、お相手チームが入場してきた。あれ……そう言えば諌山さんの推しって……。
「あっ、うぇへ、名前ぇ〜……」
あっ、あくる日の私じゃん。
「マミ!?ちょ、気絶してるじゃん!どうするの!?」
「どうするって!今から参加って間に合うんですか!?」
「わかんないよ!」
2人でてんやわんやしていると、お助けヤチヨなる物が発動したらしく、いろかぐチームにはヤチヨさんがついてくれるらしい。よかった……。私達は2人で観客席で胸をなで下ろしていた。
結果、ヤチヨさんがついてくれた事により、酒寄さんの士気が上昇。お相手のリーダーが酒寄さんのお兄さんという驚きもあった。互いに1点を取り合う接戦となり、兄対妹と同居人と言う熱い対戦が繰り広げられ、2人の連携でお兄さんは討ち取られた。
私は自慢げに腕を組んでドヤ顔で言う。
「やはりうちの推しは最強ですね!!」
「そだね〜」
いつの間にか帰ってきていた諌山さんが苦笑いしながら2人を応援していた。
その後、心から楽しそうに笑う酒寄さんを見て、綾紬さんも涙を浮かべていたりと、いいシーンもあったが、ラストにかぐやさんが地雷を踏んでしまったために、ヤチかぐいろチームは負けてしまった……。
「えっ、あそこから負けれるんですか???」
これヤチヨカップ不味いのでは……?私は背筋が凍る思いを感じた。
本編の話をカットすべきか……書き込むべきか……でも蛇足にしかならない気がして……。