「
その言葉とともに天から大量の斬撃が降り注ぐ。
「うっ…!」
「ぐあ…っ…!」
攻撃に集中していた二人はその斬撃をまともに食らってしまう。
二人が攻撃の放たれた方を見ると、先程まで優地を抱えていた少年が背中から翼を生やして飛行していた。手も虎のような爪になっている。
少年は翼を消し、仮面の男を睨みつけた。
「チンタラ相手してるんじゃねえよ。お前ならさっさと殺せただろ」
「余興というやつさ。…レオごときにはわからないだろうけど」
すると少年―――レオは仮面の男の腹部に爪を突き立てる。
「…喧嘩売ってるのか?」
「さあね?」
…よくはわからないが仲間割れなのだろうか?徳姫がそう考えつつ、反撃の機会を伺う。しかし―――
「優地を…返して!」
ダメージがまだ残った状態の陽菜がよろめきつつ攻撃を仕掛けようとする。
しかし、技を放とうとした直前で優地を地面へ投げ捨てたレオが飛びかかってきて陽菜を取り押さえる。
「っ!離して…!」
「断る。死にたくなけりゃじっとしてるんだな。あいつもあの男も、少しは長く生きられるだろ」
そう言われると陽菜は仮面の男は睨みつつも、反撃の構えをやめる。
「やっと落ち着いてくれたか。それじゃあ、まずは実験の方からしようか」
仮面の男はそう言うと、徳姫を引きずって陽菜の横に投げ捨てる。
そして、二人の顔に向けて手をかざすと―――
「ドミネーション」
その言葉とともに、二人の頭部に激しい痛みが生じる。
人生で一度も感じたことのないような、脳を裂かれるような痛み。
二人の声にならない悲鳴が響き渡る。
裂けるような痛みのせいだろうか。陽菜の意識は途切れかけていた。
意識は朦朧とし、気を抜いてしまえば気を失ってしまいそうだ。
―――君はやつの下僕だ。
ふと、脳裏にそんな言葉が聞こえ始める。幻聴だろうか。
―――君はやつの下僕だ。
―――君はやつの下僕だ。
―――君はやつの下僕だ。
初めの方は幻聴のようにぼんやりとした声だったが、それは次第にはっきりとしていく。
最初はそんなはずがない、そう思っていたが、声が強まると同時に、もしかしたらそうだったかもしれない。そう思い始めた。
意識が虚ろになる。空っぽになる。
その直前だった。
突然冷たい何かが私を包み、流し飛ばした。
正気に戻ると、徳姫さんが左手を掲げていた。どうやら私を水流で吹き飛ばし、無理やり正気に戻したらしい。
しかし、徳姫の目は虚ろになっており激しく痙攣している。おそらく私と同じ状況だったのだろう。
すぐさま、低威力のプラグマ・ルーチを放って徳姫さんを弾き飛ばす。
体の痙攣等は収まっていたが、意識は失ってしまったようだ。
「…やはり、完全に戻ってはいないか」
正気に戻った私を見て仮面の男が言う。
「私の能力はいわゆる洗脳でね。本来はどんな相手だろうがすぐに支配できるが、今は諸事情で時間がかかる上にはっきり拒否されるとできなくて…まあ、万全の状態ではないんだ」
あれで万全じゃない…その事実に陽菜は戦慄した。徳姫さんの助けがなければ私は確実にあの状況を脱すことができなかった。そのうえで万全ではない。その事実だけで、私を絶望させるには十分だった。
「まあでも、もう体力の限界で動けないみたいだね。動けるなら話してる最中に一撃入れるくらいできるはずだろうし」
仮面の男の言う通りだった。先程徳姫さんへ放ったプラグマ・ルーチが私に残ってた最後の魔力だった。今、私には指の一本すら動かす力がない。
「ならさっさと殺せよ」
レオが歯ぎしりしつつ言う。
「まあ、それでもいいが、それじゃつまらないね。…そうだ、そこの彼を貸してくれ。」
そう言うと仮面の男は倒れている優地を指差す。レオは優地の胸元を持って仮面の男の方へ投げ飛ばす。
仮面の男は投げ飛ばされた優地の胸ぐらをつかみ持ち上げる。
「私はね、人の苦しむ顔が好きなんだ。悲しみや絶望…そういった顔を見るのがたまらなくてね」
そんな彼の言葉に私は身震いしながら言う。
「何を…する気…?」
「簡単さ。彼を使って魔獣を生み出すんだよ。そしてその魔獣で君を殺すのさ」
眼前まで近づいてきた仮面の男からあふれる狂気に、辛うじて保っていた威勢が恐怖で塗りつぶされはじめる。
私の顔から表情が消えていくのを見て、仮面の男はレオの方を見る。
「最高だと思わないか?」
「…知るか。俺からしたら目の前にいる魔法戦士と
―――優地が死ぬ。
何を言ってるのかわからない。いや、わかりはするが受け入れたくなかった。
「…まあ確かにここまで衰弱していたら魔獣を生み出した時の反動で死ぬだろうね…でもいいじゃないか。二人仲良く死ねるし、なんなら最愛の人が目の前で死ぬところを見てから死ねるのだから。本望だろう?」
「…下衆が」
レオの方を向いてた仮面の男が再びこちらを向く。
「と・い・う・わ・け・でぇ…意識はないけど彼に最後の一言くらいかけてあげなよ、ほら」
そう言うと仮面の男は私の眼前に優地の顔を近づける。
「…やめて…お願い…」
私は絞り出すようにそう言った。
嫌だ、一人は嫌だ。
優地がいないのは嫌だ。
お願い。お願いだから―――
そんな願いを叩き壊すように仮面の男は眼前にいた優地を引き離す。
「いい言葉だね!天国で彼もきっと喜んでくれるよ!それじゃあ…」
そう言うと彼は優地の胸元に手をかざす。
「…さあ、生誕の時だ」
そう言うと優地の体から黒い瘴気が溢れ出す。
「はは…これはすごい!とんでもない魔力だ!これはいい魔獣が生まれるぞ…!」
仮面の男は興奮し、荒い息をあげながら言う。
「やめて…お願い…やめて…っ」
手を伸ばそうとするが、体は動かない。
そうしている間に、優地の体から黒い影が見え始める。
「もうすぐだよ…ほら、しっかり見たまえ。魔獣が生まれる瞬間を!」
「…が…あっ…」
私の耳に小さい優地の苦痛の声が聞こえる。
「やめて…やめて…」
「嫌だね★」
大きくなる黒い影。徐々に大きくなる優地の苦痛の声。
「やめてーーーー!」
陽菜の悲鳴が響き渡るとともに、あたりを黒い瘴気が覆うのだった。