「結果はどうでしたか?」
赤井に呼び出された天音は、医療室の奥にある遺体安置室に来ていた。
そこにあったのは、昨日天音が遭遇した謎の少女の遺体であった。
「結果は…限りなく一般人に近いレベルの魔力だった」
赤井はそう言いながら悩ましげな顔をする。
「そして死因は―――急性心不全だ。原因は…完全に不明だ」
「そうですか…」
あの日、少女は何故突然死んだのか。勘ではあったが、あのメイオウという人物が少なからず関わっているのは間違いないと感じていた。
「それで…このあと遺体はどうなるんですか?」
「明日早朝、本部の担当者が回収することになっている」
天音はそう聞いた後、遺体に歩み寄る。
「あなたにどのようなことがあったのかはわかりませんが…せめて、安らかにお眠りください」
天音がそう言うと、二人は部屋をあとにした。
二人はそのまま司令室に戻る。司令室には青田と緑谷の二人がパソコンをひたすら打っていた。
「あの…お二人は何を?」
そう言うと蒼だが振り返って言う。
「報告書ですよ!ほ、う、こ、く、しょ!」
「先の騒動のせいで上から報告書の提出を命令されていて…」
「説明することが多すぎて二轍してるんですよ!」
天音は驚いた。たしかにいろんな事があったが、そこまでたくさんあるのかと…
「何しろ、組織のNo,2である増田さんが直々に求めているんですから」
「増田って…魔除庁の司令代理の、増田 朧さんでしょうか?」
天音も知っている名だった。何しろ、魔除庁のNo,2であり、防衛の要とも言える人物だったからだ。
「だからって…全部の詳細を書いて三日以内に出せってのは流石におかしいですって…!」
青田がそんなことを言ってる、その時だった。
部屋の扉が開き、二人の中年の男が入ってくる。
「私の話でもしていたのかね?」
振り返ると、先程まで話していたあの増田 朧が後ろにいたのだ。
皆呆然としており、青田に至っては完全に固まっている。
益田に気づいた赤井は増田に向かって礼をした。続けて、緑谷と天音も礼をした。
「すまないね、急に訪問してしまって」
そう言うと、増田は司令室の席の一つに座る。
天音は驚いた。ニュース等で見る増田の顔は強面であったことはないが、勝手に怖い人と考えていたからだ。実際の彼は、思いの外優しい口調だった。奥にいる白い髭の男も、見た感じは優しそうな雰囲気だった。
「流石に三日で資料を作れなんて大変だろうと思ったのでね。実際に見に来たところだ」
そして増田は青田に近づいていった。
「すまないね、私の派閥の者たちが早急に報告をさせろと言うものでね…自分の派閥の人間くらい、私がまとめ上げられればいいのだが」
「い、いえ、とんでもございましぇん!」
青田は緊張のあまりまともに喋れていない。
増田は続いて赤井の方を向いて話し始めた。
「ご苦労だった、赤井司令。予期せぬトラブルはあったが、結果として犠牲者は出さずに済んだのだ」
そう言うと、赤井の顔が暗くなる。
すると増田はハッとなって慌てて頭を下げた。
「すまない、この話は流石にTPOが足りていなかった。申し訳ないね、そこのお嬢さんも」
そう言うと、増田は天音の方を向いて言う。
青田と緑谷は理由がわからず首を傾げている。
「そうだ、君らに大事なことを伝えたくて今日はここに寄ったのだった」
増田はさっきまでの表情とは一変して、真剣な顔になった。
「二日後、
すると全員の表情が変わった。
「天国って…魔除庁トップの!?」
青田はまたしても驚きのあまり声が震えている。
「ああ昨日の会議で彼が言っていた。『直に見たほうが良いだろう』と」
「…急ですね」
天音も驚きのあまり、冷や汗を垂らしている。
すると赤井が一歩前に出て増田に問う。
「…要件は一体なんなのですか?」
「…新入りの魔法戦士を見たい、とのことだ」
新入り―――おそらく陽菜のことだろう。
「聞いた話では、近年稀に見るレベルの強さを誇る魔法戦士とのことではないか。私もあの男も興味津々だ。折角なら今日会いたかったが…まあ急に来た以上、仕方ないだろう」
増田は腕を組みながら話す。
天音も天国という男のことはよくわからない。魔法戦士になってからというもの、度々名前は聞くが、実際知っているのは彼が天国コーポレーションという大企業の社長を兼ねていることくらいだろう。一体どんな人物なのだろうか。
「…さて、私は次の用事を行うとしよう。実は、別件で秩父に行く用事があってね。予定まで空きがあったからついでで寄り道しただけなんだ」
そう言うと増田は席を立ち、部屋の入口へ歩いていった。
「赤井司令、今日はいない二人の魔法戦士にも伝えておいてくれ、『期待している』と」
そう言って増田ともう一人の男は部屋を出ていった。
増田と白い髭の男―――霞ヶ関は出口へ繋がる通路を歩いていた。
「赤井司令、まだ立ち直りきれてはいなさそうですな、朧さん」
「まあ仕方がない。あんなことがあれば誰だって多少なりとも心の傷を負うだろう」
会話をしている二人の反対側から、二人の少女がすれ違う。
増田は声をかけようとするが、気づけば二人と増田たちの距離は大きく開いていた。
増田は少し考えたあと、再び出口へと向かい始めた。
霞ヶ関は戸惑いながら聞く。
「よろしいのですか?あれはおそらく…」
「問題ない」
増田は歩きながら言う。
「時間はある。また何処か出会えるさ」
そう言って二人は北支部をあとにした。
夕暮れの廃墟の中。そこに二人の人物がいた。
「おい、メイオウ!いい加減にしろ!」
そのうちの片方―――レオは近くにあった瓦礫をメイオウに向かって投げつける。
「だからまだ早いと言っているだろう?君の理想を実現するにはもっと下準備を整えてからと…」
「もういい!」
そう言うとレオは振り向く。
「俺の力ならそんなのすぐにできる!第一お前と組んでいるのは利害の一致だ!お前が魔獣を生み出したいと言うから協力していたが…もう我慢ならない!」
「まあ、もうこっちで生み出せるようになったし組む理由はないね…だが、それでも私の力は必要だと思うよ?」
メイオウはそう言うが、レオは止まらない。
レオは廃墟から飛び出し、そのまま姿を消した。
「全く、短絡的なのは彼らしいというか…まあ、彼はまだ使えそうだ。しばらく見逃してあげよう」
メイオウはそう言うと先ほどレオが投げてきた瓦礫に腰掛け、不敵に笑うのであった。