陽菜は驚いていた。
子どものような姿だったレオがあんな巨大な怪物になれるとは予想していなかったからだ。
隣の徳姫も同じ事を考えているようで動揺しているのが表情からわかる。
「はは、本当に俺なのかって感じだな。せっかくだし教えてやるよ、俺の力は
そう言うとレオの足が人のような二足歩行から馬のような四足歩行へ変わり、すぐに戻った。
「俺はこの星にいる生物だったらどんな姿にでもなれる。それを応用すると、こんな感じに良いところを集め尽くした究極の生物にもなれるの…さ!」
言い終わるとすぐ、レオは四つの腕の爪から斬撃の雨を繰り出す。
隙間のない攻撃を二人は先ほど救助した魔法戦士を抱えながら必死にガードする。しかし、攻撃の一撃一撃の衝撃が体中に響いてくる。
「これじゃ攻撃できない…!」
絶え間なく浴びせられる斬撃。防御を一瞬でも抜かせばどうなるかは想像に難くない。
そんな事を考えていると、レオの左右の頭部の口が明るくなり始める。
「
そしてレオの口からレーザーが二発放たれる。
間一髪のところで避けはしたが、レーザーが着弾した場所には大きな穴が空いていた。
「よそ見してんじゃねえよ」
二人が地面に見とれているうちに、レオは再度斬撃を放つ。
反応が遅れた二人はギリギリのところでガードするが、斬撃の後ろからレオの拳が襲いかかる。
「どうにか…なれっ!!」
徳姫さんがハイドロ・ストリームで勢いを抑え、陽菜がフィリア・シールドを複数展開することで威力を抑えようとする。しかし、勢いはほとんど減らないまま、重ね掛けしたフィリア・シールドを粉砕してレオの拳が直撃する。
苦悶の声をあげる間もなく、地面へと叩きつけられる二人。地面に激突した衝撃で体が思うように動かない。そんな二人に向けて、レオはまたしてもレーザーを放とうとする。
「終わりだ…!」
レーザーが二人に直撃する―――その直前。
「迅炎!」
二人の体が誰かに持ち上げられ、レーザーを回避する。
「…天音さん!」
「すみません、遅くなりました」
二人を持ち上げたのは天音だった。二人を降ろした。
「…司令、こちらの状況見えているでしょうか?」
『ああ…見えている』
天音の持っている端末から赤井の声が聞こえる。
『デカすぎませんか!?都内のビルでもあそこまでは…!』
『過去事例から見てもトップクラスです。…これはレベルの格上げもありえるかと』
青田の動揺の声、緑谷の分析の声も聞こえる。
「火急の事態なので渡しそびれてしまいましたが…これが大宮支部の端末です」
「…まだ端末の統一終わってなかったんだ…出張の時不便だからどうにかしてほしいのに…」
天音と徳姫がそう言いつつ、三人は端末を胸元にセットする。
『先程、本部部隊にも支援要請を出した。本部までくれば倒せるはずだろう。それまで、自分の命を第一に動いてくれ』
赤井の指示を聞いた天音が陽菜、徳姫に言う。
「私はこれから攻撃をしつつ戦闘不能な方を救出しに行きます。お二人はあの魔獣の足止めを…」
「させねえよ!」
話している最中にもレオは攻撃を放つ。
なんとか攻撃は回避するも、レオは絶え間なく攻撃を繰り出してくる。
「司令!今動ける大宮支部の方はどれほどいますか!」
『…確認したところ、六名ほどだ』
「…もしかしなくても結構マズイね…大宮支部って四十人近くいたはずだよね…」
それはつまり、今九割近くの人たちが戦えなくなっているということだろう。おそらく、さっきの人みたいな状態の人がそこら中にいるのだろう。
「…予定を変えます。司令、大宮支部の方に付近の戦闘不可な人を退避させるように言ってください。このままだと命に関わります」
『わかった。大宮支部の者は…』
「だからよそ見すんじゃねえ…よ!」
レオの拳が地面に命中し、通信の音が聞こえなくなるほどの轟音が響く。
「聖炎!」
「ハードヴァッサー!」
「プラグマ・ルーチ!」
三人が立て続けに攻撃を繰り出すが、レオはびくともしていない。
「そんなもんかよ…ゴミが!」
陽菜と徳姫に向けてレオのパンチが向かってくる。徳姫はなんとか水流でいなしたが、陽菜は回避しきれなかった。レオの拳が命中し、背後にあった壊れかけのビルを突き破りながら弾き飛ばされる。
弾き飛ばされた陽菜を、天音がなんとか受け止める。
「癒炎…!」
すぐさま天音が陽菜の回復を行う。
しかし、衝撃がまだ残っているのか、陽菜の足取りがおぼつかない。
「…正面突破は不可能と見ていいですね。」
「はい…」
とてもじゃないが、あのレオの強さは尋常じゃない。徳姫ですら、ギリギリいなすのがやっとなのだ。真っ向から突破は至難の業だろう。
「…あまり良い作戦とは思いませんが…陽菜さんと徳姫さんに捨て身で戦ってもらい、体力を削り切ってもらうしかないかもしれません」
「あんな攻撃を何度も食らうのはごめんなんですけど…」
しかし、それ以外に勝つ方法も思いつかない。
「私は援護に回りつつ、お二人の回復を行います。徳姫さんも、大丈夫ですか?」
「…私もあれはあたりたくはないけど、天音ちゃんの回復力に賭けてそれで行こう!」
徳姫が宣言するとともに、陽菜と徳姫はレオの周囲を高速で動きつつ、攻撃を続ける。
攻撃に当たればすぐに天音が回復し、地道にだがレオの体力を削っていく。
「ちょこまかと…!」
当初は放っていたレーザーも、次第に回数、威力共に僅かだが減っていく。
耐え続けて数十分が立つと、陽菜と徳姫以外の攻撃も目立つようになり始めた。おそらく、負傷者を避難させた大宮支部の魔法戦士たちが援護にまわっているのだろう。
そして遂に。レオの動きが明確に遅くなる。先程までは高速で飛んできた爪の斬撃も、半分程度のスピードまで落ち、パンチも地面にあたる音が先程までより明らかに小さいうえ、当たったとしてもさっきまでのパンチよりいくらか痛くない。
地道な作戦だったが、確実に追い込むことに成功していた。しかし―――
「…天音ちゃん、そろそろこっちもマズイかも…」
天音の顔が引きつる。
レオの体力を削るため、陽菜と徳姫は長時間ノンストップで戦闘を続けている。おそらく、二人の魔力はもう虫の息に近いだろう。これ以上の遅延は、かえってこちらが不利になる可能性が高くなる一方だ。
「陽菜さん、徳姫さん。これ以上の遅延はかえって不利になるだけです!残りの魔力でケリを付けましょう!」
「「はい!」」
そう言うと、三人は己が出せる最高火力の技をかまえる。
「アガペリオ・ストライク!」
「ハイドロ・ストリーム!」
「聖炎!」
それぞれが出せる最高火力の必殺技をレオに浴びせる。
攻撃をくらったレオが膝をつく。
「もう一回!」
陽菜がそう言うと、三人は再度かまえる。
「これで…!」
「終わらせます… !」
そして三人は再び必殺技を繰り出す。
攻撃がレオに当たる直前。
「舐めるんじゃ…ねえぞ!!」
突如レオが腕を振りかざし、陽菜のアガペリオ・ストライクを弾き、徳姫、天音の技を打ち消す。
「てめえらにわからせてやるよ…散々罵って来た奴らの怨みを…なぁ!」
そう言うと、レオは突如大きく息を吸い込む。
そして吸いきった途端―――
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」
とてつもない雄叫びがあたり一帯に響く。とてつもなく大きな声に、一同は耳をふさぐ。
雄叫びは十秒もしないうちに止んだ。周囲になにか起きていないか、周りを見るが、特におかしな様子はない。
とどめを刺そうとした。が―――
「あ…れ…?」
陽菜の足が―――突如として、力を失った。