数分ほど前。
優地は魔獣のいるすぐ近くまで来ていた。あの叫び声が聞こえてからしばらくは目立った音がしなかったが、もうすぐ着く頃になると地面の揺れとともに再び大きな音が聞こえ始めた。感覚としては地震に近い揺れで歩くのに苦戦したが、なんとか魔獣がいたであろう場所にたどり着いた。
壁越しに見た魔獣の姿はとてつもないものだった。
いろんな動物をごちゃまぜにしたような歪な姿。今まで見てきた魔獣とは明らかに違う「怪物」だった。
あんな怪物を相手にして陽菜は無事なのか?そう思った優地は壁から身を乗り出して周りを見る。
しかし、周囲には何も見えない。
何処かに隠れているのか ?そう思い近くの建物まで見ると、怪物のすぐ横の建物の割れた窓に何かが二つ見える。見た感じ人のようだが―――そう思い、目を凝らしてよく見る。
「…あれは…まさか…!」
青い髪と金色の髪…そこまで考えて優地は気づく。あれは―――徳姫さんと天音さんだ。
顔までは見えない以上、断定はできないが、あの二人と早々似ている魔法戦士がいるとは思わない。
仮にあれが本当に二人だった場合、陽菜はどこにいるのか?
俺はは隠れることをやめてあたりを見回した。幸い、魔獣はこちらに気づいていない。
見回した限り、陽菜のような影は見えなかった。何処かに潜んでいるのか…そう考えた。
「ごめん、ね…」
ふと、何処かから声が聞こえる。
間違いない。陽菜の声だ。俺は声のする方を見る。
そこにいたのはあの魔獣と、でかい穴―――まさか、あそこにいるのは―――
「あばよ…!」
気づけば体が動いていた。自分じゃどうしようもできないのはわかっている。それでも、いかなくてはいけない。
危険なんて顧みずに走り出す。届くはずのない手を、必死に伸ばしながら。
一人にさせない。俺が守る。あの時、そう約束したのに…!
魔獣から放たれたレーザーが陽菜へ迫る。
「頼む…頼む!」
どんな力でも良い。陽菜を…陽菜を助ける力を―――!
奇跡は―――起きた。
優地の手から、魔力の波が起こる。
波は光より早く、陽菜の元へたどり着く。そして、陽菜の体が浮き、優地の手元へと向かっていく。
優地のが気づいた時には、既に陽菜は優地の目の前まで近づいていた。とっさに優地は飛んできた陽菜を両腕でキャッチする。優地は陽菜をキャッチした衝撃でそのまま地面に倒れる。
「優…地?」
陽菜はぼんやりとした声で俺の名を呼ぶ。
俺はそれに答えることなく、陽菜を抱きしめる。
「良かった…陽菜…!」
何が起きたのかはわからない。それでも陽菜が助かったのだ。
―――そう思っていたが、現実は甘くない。
「お前も来ていたのか…!」
一旦は回避した危機だが、まだ終わっているわけではない。魔獣が再びレーザーを放つ。
俺はとっさにレーザーに向けて右手を向け、目を瞑る。
「なっ…!」
レーザーが当たるのを覚悟していたが、レーザーに焼かれる感覚は一向に来ない。瞑っていた目を再び開けた時、レーザーは寸前のところで消滅していた。
魔獣はレーザーの威力を強めるが、それが俺たちに届く気配はまったくない。
まもなく、魔獣のレーザーが止まる。魔獣はどうやら体力切れのようだ。
優地は困惑していた。陽菜を助けたいと思ったら陽菜がこちらに来て、レーザーに手を向けたらレーザーが目の前で消滅した。一体何なのか、そう思っていると―――
「優地…そんなことできたの?」
―――陽菜の力じゃない。そうしてやっと気づいた。これは陽菜の力でもなければ他の誰でもない。
そう思った優地は試しに魔獣に向けて手のひらを向ける。
「はあっ!」
手に力を込めると、レオの体が突如後ろに傾いて倒れる。
レオの体は大きく、起き上がるのに苦戦している。
そして、近くにある石に再び手のひらを向ける。すると石は優地の手に飛んでいき、手の中に収まる。
大体理解した。自分が手に入れた力は二つ。物を引き寄せる力と、反対に物を押しのける力だ。
待ちに待った戦える力だ。しかし―――
自分と陽菜を守るくらいなら可能だろうが、それ以上のことは不可能だろう。
第一、今手に入れた力だ。一体この力の上限がどのくらいなのか、どのようなレベルで使えるのか。その他一切のことがわからない。
今でこそなんとか抑えているあの魔獣だが、あちらのほうが先に慣れてしまえば元も子もない。今、このどちらも分かってない状態でとどめを刺すしかない。
考えた末に、陽菜の方を見る。
おそらく、陽菜をアタッカーに、自分がサポートに回るのが良いのだろう。しかし、陽菜は今までの戦いでかなり傷を負っている。見たところ、足の骨は折れてしまっているようだ。その上、どれくらいかはわからないが、魔力にも限界がある。相当長い時間戦っている陽菜が、今どれぐらい戦えるのかがわからない。だが、これ以上思いつくこともない。
「…陽菜、まだ戦えるか?」
無茶振りなのは分かっていた。それでも、今は陽菜に賭けるしかない。
陽菜は少し考えたあと、優地の手を握り、立ち上がろうとする。無論、折れた足では立つことなどできない。
「…足が折れてるから動くことはできないね」
予想通りだった。むしろ、その状態で立つことのほうが難しいだろう―――しかし、陽菜の話は終わっていなかった。
「だから、お願いがあるの。優地が私の足になって…!」
陽菜の作戦は単純だった。
俺が反発する力で飛び回り、陽菜がその隙に攻撃する。
先程まで天音たちも同じような戦法で魔獣を追い詰めていたらしい。―――その時は魔獣が放った咆哮によって失敗したらしいが、一度くらった戦法ならある程度は対処のしようがある。
「なるほど…確かに、ものは試しだ、やってみよう!」
そう言うと陽菜も頷いた。直後、倒れていた魔獣―――否、レオが立ち上がる。
「二人揃って、よくも俺をコケにしてくれたな…!」
再び立ち上がったレオは怒りの眼差しでこちらを見る。
「いくよ…優地!」
「ああ!」
そう言うと俺は陽菜を背負い、そして地面に手を向ける。
優地は先ほどレオを吹き飛ばした感覚を思い出し、今度はその力を地面へ向けて放つ。
「行くぞ!」
そして二人は一気に上空へ飛び出し、レオとの決着をつけに再び立ち上がるのだった。