目を覚ますと、目の前には眩しく光る蛍光灯があった。どうやら眠っていたようだ。あたりを見ると、壁にかけてある時計は14時半を過ぎていた。
重い体を起こすと、右横から声がした。
「あ、徳姫さん!陽菜さん目を覚ましましたよ!」
「あ、陽菜ちゃん!」
体を起こすと、徳姫さんと天音さんが椅子から立ち、ベッドへ駆け寄ってくる。
「えっと…ここは?」
「病院だよ。陽菜ちゃん、あのあと疲れてたのかぐっすり寝ちゃったからね」
周りを見ると、初めて戦った日のあとに運ばれた病院と同じ設備があった。
「にしてもびっくりしたよ…丸一日寝ちゃうなんて」
「え、そんなに寝てたんですか…?」
「はい、検査の結果は何もないようでしたが、優地さんがすごく心配してましたよ」
そういえば優地はどこだろうか。
周りを見回すが部屋の中にはいない。
よくよく考えてみれば、私たちは揉めた直後だった。レオとの戦いの最中こそ一緒に戦っていたが、だからといってすぐに仲直りできるわけがなかった。
申し訳なさと寂しさが心を覆った。
己の自分勝手で優地を突き放したことと、優地に会いたい思い。矛盾した二つの思いが心を締め付ける。
「陽菜…」
聞き覚えのある声が聞こえ、声のした方へ向く。
そこにいたのは自分が最も愛している人―――優地だった。
気づけば私は病み上がりなのも忘れてベッドから飛び出して優地に抱きついていた。
少し戸惑う優地だったが、少しすると優地の腕が私の体を抱きしめた。
「…ったく、起きるの遅えよ…」
優地の声は少し上ずっていた。
そのまま私たちは改めて抱きしめ合った。
「…我々は部屋から出ましょうか」
「うん、ラブラブな二人組を邪魔するのは気が引けるしね」
天音さんがくすりと笑いながら言い、続けて徳姫さんも私をからかうと、二人は部屋から出ていった。
二人が去ったあと、私たちは先程まで二人が座っていた椅子に座った。
「…悪かった」
少しの沈黙のあと、優地が口を開いた。
「俺はずっとお前を守る側だと思ってた。陽菜は弱いから俺が守らなきゃいけないと思ってた。だけど、陽菜が魔法戦士になって力を得ても、俺は心のどっかで陽菜は弱いままだと思ってたんだ。実際は俺が力を手に入れたうえで全く敵わないってのに…ったく、最低な彼氏だよなぁ…」
「そんなことないよ」
優地の自虐に私は言い返す。
「私だって、魔法戦士にならなきゃ優地を守ることなんてできないし、日常の私はまだ弱いままだよ。それに、レオとの戦いのだって、優地が土壇場であの力に覚醒しなきゃ勝てなかったよ」
言い終わると、優地が首を横に振りながら言う。
「いーや、お前の方が強い」
「優地の方が強いって!」
「いーや陽菜の方が俺の倍強い」
「なら優地は私の十倍強い! 」
そんな言い合いをしてると、次第に笑いを堪えられなくなり、二人揃って笑う。
「…俺ら、まだまだ弱いんだな」
「そうだね。だからこそ、もっと強くならないとだね」
私がそう言うと、優地が頷いた。
窓の外を見ると、眩しい青空が輝いていた。
時刻は間もなく15時になろうとしていた。
「…入るのは野暮だな」
陽菜の病室の外に、一人の男がいた。
男の名は増田 朧。魔除庁司令代理である。
「…霞ヶ関くん、私だ。今から戻る」
『承知しました、二十分ほどで到着するのでしばしお待ちを』
朧は電話を取り、霞ヶ関に電話すると電話を切り、受付へ向かった。
朧が病院から出ると、正面から一人の男が一人の女性と共に歩いてきた。
男の見た目は真っ白な髪とセルリアンブルーのスーツ、そして青い瞳が特徴的な若い男だった。
「…明王くん、わざわざ来たのか」
「それは勿論。今回のMVPなんだし、お礼くらい言いにいこうかな…とね」
男の正体―――それは魔除庁最高司令、天国 明王だった。
「っていうか“くん”づけってひどくないかな?僕一応君より上の立場なんだけど」
「…年齢的な問題だ」
「確かに、定年のほうが近いおっさんよりは若いと思うよ?」
二人の間の空気は既に最悪だった。
下手すれば一触即発の空気である。
「お偉いさんたちが揃いも揃って集合ですか」
ふと、明王の後ろから声が聞こえる。一同が振り向くと、そこに一人の男がやってきた。
ダークブラウンの髪に金髪のメッシュが入っているのが特徴的で、タバコを吸いながら近づいてくる。
「黄坂くんじゃないか」
明王がそう言うと、その男―――
「ったく…どうしてみんな同じことを考えてるんだよ」
「君も桜庭 陽菜に会いに来た、ということか」
明王がそう指摘すると、黄坂は明王を睨みつけて言った。
「だったらなんか悪いのか?」
「黄坂くん、落ち着きたまえ。…どうしたんだ、いつもより機嫌が悪いじゃないか」
朧がそう言うと、黄坂は持っていたタバコの吸い殻を地面に叩きつけて踏み潰して言った。
「…赤井の奴、今日の会議に無断で欠席しやがったんすよ。この前の出来事でトラウマが再発してずっと引きこもってやがる…それがイライラしてしょうがねえんですよ!」
「気持ちはわかるが、少し頭に血が上りすぎだ。…それに、彼はまだ立ち直りきれて…」
「だからどうした!!」
黄坂が怒鳴り、朧の胸ぐらを掴む。周りを歩いている人々の視線が集中する。
「…失敗なんて誰にだってつきものなんだよ!それなのにお前らが甘やかすからああなったんだ!」
そう言うと黄坂は朧に向けて右手でパンチを繰り出そうとする。
しかし、そのパンチを明王の横にいた明日奈が止める。
「…仮にも公共の場です。場をわきまえなさい」
「チッ…」
黄坂はそう言って朧から手を離す。
そして後ろを振り向くとタバコに日を付けながら立ち去った。
「…話がそれたが、君たちはこのあと陽菜くんに会いに行くのか?」
「そのつもりだったが…今日のところはやめておこう。少々騒ぎになってしまったしね。それに、会おうと思えばいつでも会えるだろう…きっとね」
そう言うと明王と明日奈は後ろを振り向き立ち去っていった。
「…やはり、心の傷とは深いものなのか、赤井くん」
そう言うと、朧はスマホを手にメールを打ち込む。
宛先は赤井 弘志。メッセージには一言だけ書いて送信した。
直後、車が来た。
「少し遅れてしまいました、朧どの」
「構わない、ちょうどいいタイミングだ、霞ヶ関くん」
朧は車に乗ると、その場を去っていった。