UTA-HIME
レオとの戦いが終わり、陽菜たちはようやく日常へ戻った。
無論、魔獣は未だに現れるが、レオとの戦いを経験した陽菜たちにとっては、もはや苦戦するような相手ではなかった。
そうして月日が経ち、気づけば三月になっていた。
ある日のこと、陽菜は少し前に行った期末考査の結果をクラスメイトたちと見せ合っていた。
「だーっ!!優地に三点差で負けたーっ!!」
「残念だったなぁ新一!俺の方が少しだけ上だったな!」
大きな声で騒いでる二人を横目に、陽菜は気まずそうな顔で結果を見ていた。
得意教科の数学や国語はほぼ満点だが、英語と歴史は見るも無惨な数値である。
「赤点ギリギリで先生ドキドキしてたんですからね、来年度からはもっと頑張ってくださいよ!」
「はひぃ…」
担任の真由美先生が頬を膨らませながら言う。
留年は回避したものの、見るも無惨な数字に嘆いていると、真横から優地が考査の結果を覗き見している。
「こりゃひどいな…まあ、今学期は色々あったしな…」
「…むぅ」
優地なりの擁護なのだろうが、それでもひどいものはひどい。
悔しさで少しだけ泣きそうになる。
「ったく、次回の考査は俺がしっかり教えてやるよ」
「…ありがとう」
優地は陽菜の頭を撫でて慰める。
「優地、年齢=彼女いない歴の俺にそんな光景見せるな、殴るぞ」
陽菜を撫で続ける優地を新一が睨みつける。
「少し落ち着け、次の考査の点差が果てしなく大きくなるぞ」
優地は陽菜を撫でつつ新一を煽る。
「んだとぉ!?じゃあ対決だ!次回の考査は俺が大差つけて勝つ!」
「望むところだ新一、逆に俺が大差つけて勝ってやるよ!」
優地と新一の二人が会話をしていると、少し離れたところから音楽が聞こえ始める。
『離れないで なんて言わない
だってもう 離れられないから
私だけを見て
最後まで 私だけを見て』
三人で音のする方を向くと、クラスメイトの女子たちがスマホの音楽を聞いている。
「いい曲…!これなんの曲なの?」
「え、陽菜ちゃん知らねえの?UTA-HIMEの『私だけを見て!』だよ」
「UTA-HIME…?誰だそりゃ」
「マジかお前ら…」
何のことか分かってない陽菜と優地を見て新一がため息を吐きながらスマホの画面を見せる。
スマホに映っているのは腰まで届く長い髪とやや青に寄った青紫色の瞳で高身長の女性だった。
「UTA-HIME。去年の秋頃に突然現れた歌手で、デビュー曲からいきなり爆発的ヒット、MetubeのMVはオール100万回再生、つい最近地球1週ライブをしたところなんだぜ!?」
「へぇー…すごい人なんだね」
「マジで知らねえのかよ!UTA-HIMEはな、歌もすごく良いしかわいいしそれに…」
「新一は体しか見てねえんだろがこの変態!」
「ぎゃひ!」
徐々に鼻の下を伸ばしていた新一を先ほど音楽を聞いていた一人の織原が筆箱を投げて叱る。
「まあ、可愛いのは事実だけどね…」
「…美貌の秘訣を知りたい」
織原に続き、一緒に曲を聞いていた有田と天津の二人も続いて口を開く。
「まだ学校終わってないんですからスマホは触らないでくださぁい!あと筆箱は人に投げないでください!!」
ハチャメチャに騒いでいる一同を真由美先生がなんとか落ち着かせようとする。
「はは…すごい人なんだね、会ってみたいな。優地は好きな歌手とかいるの?」
「歌手か…随分前の人なんだが、如何せん名前がわからなくてな…ああでも、CDはあるから今度聞かせようか?」
「うん!私もその人の歌聞いてみたい!」
それから少し後。陽菜たちは体育館へ向かっていた。本来ならもう学校も終わりの時間だったが、校長先生直々に全校生徒を呼び出していたのだった。
「珍しいね、全校集会なんて。しかもこんな急に…」
「さっさと帰りたいよー」
陽菜たちの近くを歩く生徒が話し合いながら向かっている。
「短く終わってくれねえかな…俺今日早帰りだからってバイト早い時間から入れてるんだけど…」
陽菜の横を歩く優地が小さな声で言う。
そして全生徒が集まり、全校集会が始まった。
校長先生が壇上に上がる。
「前回の記録は15分…頼むからさっさと終わらせてくれ…!」
陽菜の近くにいた生徒の声が小さく聞こえる。
『全校生徒の皆さんこんにちは、今日は特別なサプライズがあります』
校長はそう言うと袖幕の方に手招きをする。
すると、体育館にあるスピーカーから突然曲が流れ始め、そして―――
『みなさーん!準備はいいですかー!!』
突然聞こえたその声に一同がどよめき始める。
陽菜もその声に驚いていた。なぜならその声は、ついさっき聞いたあの―――UTA-HIMEの声だったから。
『それではいきますよー!私だけをー?』
「「「「「愛してー!!!!」」」」」
突然の出来事にも関わらず、ファンであろう生徒たちがUTA-HIMEのコールを返す。
『眩しいライト 弾ける歓声
今日もみんなが 私を呼ぶ
笑顔を振りまいて 手を振れば
ほら 世界は輝き出す』
ちゃんと聞いたことがない曲なのに、周りの熱に乗せられて陽菜も段々リズムに乗っていく。
気づけば曲は既に終盤になっていた。
『離れないで なんて言わない
だってもう 離れられないから
私だけを見て
最後まで 私だけを見て
私だけを見続けて』
曲が終わった。
それと同時に、とてつもない歓声が体育館を包んだ。
『皆さん聞いてくれてありがとうございます!!UTA-HIMEです!!今日は急ですがこのような時間を設けてくれてありがとうございます!』
「UTA-HIMEー!」
「最高ー!!」
生徒たちの熱狂は未だに収まる気配がない。
『みなさ〜ん?盛り上がってくれるのはありがたいですけどぉ〜、これから重大発表があるんですから〜。一旦落ち着きましょ〜?』
UTA-HIMEがそう言うと、先程まで騒がしかった生徒たちが一斉に静かになった。
『この度、おおみやアリーナで単独ライブの開催が決定しました!そして、初日のライブに県内の高校生を一斉に招待することにしました!』
UTA-HIMEがそう言うと、一度静かになった生徒たちが再び騒ぎ始めた。
四方八方、誰もが喜んでいる。
『ここしばらく、ここ埼玉では川越、大宮と相次いで魔獣が大暴れで皆さん不安ですよね…。私、皆さんをどうにか励ましたいんです!』
UTA-HIMEは眩しい笑みを一同に見せながら話を続ける。
『開催日は明後日の土曜日です!皆さん、ぜひ楽しみにしていてくださいね〜!!』
「UTA-HIMEー!」
「愛してる〜!」
UTA-HIMEは手を振りながら袖幕に下がっていった。
『とまあ、今週末の土曜日に県内の高校生がUTA-HIMEさんの招待でライブを見に行けることになりました。つきましては…』
校長先生が再び話し始めるが、生徒たちの熱狂はもう止まらない。
生徒たちは退場したUTA-HIMEを追って体育館を出始めている。
「すごい人気だね、優地…」
陽菜は優地の元へ向かったが、優地はどういうわけか地面に突っ伏していた。
「どうしたの…?」
「土曜日はバイトだぁ…」
優地は突っ伏している顔面の周りを水浸しにするほど泣いていた。
「折角陽菜と一緒に見れると思ったのにぃ…」
「そっか…バイトかぁ…」
陽菜も少し残念に思っていた。優地と一緒に見るのはきっと何より楽しいと思っていたからだ。
「…しょうがないし、また今度一緒に見に行こう?」
「ああ…チケット代は俺が出す」
「流石に自分の分は自分で用意するよ…」
一方その頃、徳姫と天音はUTA-HIMEに殺到する人々の波に巻き込まれていた。
「天音ちゃ…ん、これ…どうしたらいい?」
「徳姫…さん、これは…どうしようもありません…」
人の波があまりにも大きいため、全くと言っていいほど身動きができない。
「あ…天音ちゃん、こっ…ち!」
徳姫はたまたま見つけた隙間に天音を引っ張り出した。
幸い、人混みから脱出はできたが、当分体育館へは戻れなさそうだった。
「UTA-HIME、かぁ…聞いたことはあったけど、ここまで人気なんだね…」
「ええ、私も時々ではありますが聞いてます。いい曲ですよ?」
「へぇ…ライブ楽しみかも」
二人が人混みの方を見ると、人混みの前の方が黒いサングラスをしたボディーガードに遮られ、その後ろにUTA-HIMEがいた。
「UTA-HIMEー!」
「皆さん、気持ちはありがたいですが、この後他の学校も回らないとですからぁ…」
「握手してー!」
すると、UTA-HIMEが突然足を止め、後ろを振り向いた。
「…仕方ないですねぇ。一人一握手限定ですよー?」
UTA-HIMEがそう言うと、UTA-HIMEを追って出てきていた生徒たちが一斉に歓喜した。
それから30分ほど後。
UTA-HIMEは握手会を終え、車に乗って学校をあとにした。
運転している男―――UTA-HIMEのマネージャーがラジオをいじってUTA-HIMEの音楽を流し始める。
「全く…ファンサが断れないとは言え、結構時間食っちゃったわよ?明日に回すと口走った子たちのせいでメディアがうるさいわよ?」
「心配しすぎですよ。回ってる学校の生徒さんたちには他言無用って言ってるんですから。最悪明日に回しても問題ないでしょう♪」
「それはそうだけどねぇ…まあ、できる限り今日中に回りきるわよ!」
UTA-HIMEは窓の外の風景を見る。地平線の端の方は既に夕焼けに染まり始めていた。
「楽しみですねぇ…みんなが私のお人形さんになる時が…」