陽菜が目を覚ます半日ほど前。
優地は市内の別の病院で目を覚ました。状況確認のために起き上がろうとするが頭の上からつま先まで、全身が痛い。
そこでやっと思い出した。自分は子どもたちを助けるために単身乗り込みはしたが結局失敗して瓦礫に潰されたのだと。
「あー……」
我ながらに恥ずかしい。せっかく意気揚々と陽菜にカッコつけて行った挙句、肝心の陽菜の前で無様なさまを晒すとは…
…陽菜…?
そこでやっと気づいた。あの場所には陽菜もいた。そういえば陽菜はどうなった?怪我をしてしまっただろうか?それとも最悪…
そう思いつつ、自分の記憶を必死に掘り出す。
瓦礫に潰されてる間、朦朧としてはいたが何度か意識を戻していたタイミングがあった。青髪と金髪の魔法戦士が助けていたところやピンク髪の魔法戦士が戦っていた所。
……待て。
ピンク髪の魔法戦士。
あの顔、陽菜にそっくりだった、なんてレベルじゃない。
ほとんど――いや、どう見ても同じだった。
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。
そんな馬鹿な、と思う。
無論、確証はない。だが、俺が陽菜の顔を見間違うはずがない。
少し考えた上で、一旦考えることを放棄して自分のことを考えることにした。
まず、状況として俺は今この病院に入院させられている。
今後、多少なりとも治療やリハビリは行うことになるのだろう。
だが、俺には金がない。
入院費だの治療費だの、後から請求されたら洒落にならない。
動けるうちに出るしかない。
総合的に見て、俺が取る選択肢は一つである。
足に走る痛みを堪えつつ、俺は立ち上がる。そして―――
全力で病院内を駆け回り、病院から逃げ出すのであった。
こうして病院から出たはいいものの、この後どうすれば良いのか、とは思った。
病院内を見て回った限り、陽菜はあの病院内にいなかった。市内の病院を片っ端から当たれば見つかるかもしれない。だが、今の状態でそれをやるのは流石に無理だろう。
そう悩みつつ歩いていると、
「あれ、優地くんじゃない。」
横から聞き覚えがある声が聞こえ、俺は目を向ける。
陽菜のお母さんだ。
「優地くん、無事だったんだ!お母さん安心した〜。」
……陽菜とはずっといい関係を築きたいとは思ってるけど、まだ“お義母さん”なんて呼ぶ段階じゃない。だいぶ先だ。
そう心のなかでツッコミつつ、俺は聞く。
「陽菜は…大丈夫ですか?」
「…大丈夫…と言ったら嘘になるかもしれないねー。さっきまで意識失ってたのよ〜。」
その言葉を聞いて胸が痛む。俺のせいで…
そんな考えを察したのか陽菜のお母さんが言う。
「もしかして俺のせいで怪我させちゃったーとか思ってる?」
思考を読まれたのに図星で俺は固まる。
「心配しないでいいのよ。あの子、どうせ“優地くんを助けたい”とか考えて無茶したんでしょうし。」
「ですけど…」
「いいの、いいの。陽菜がやりたいと思ってやった結果なんだから。優地くんが抱え込む必要はないのよ。」
確かに、あの場に来たこと自体は陽菜自身の意思だ。だが、その原因を作ったのは間違いなく俺だし、万が一陽菜が本当に魔法戦士になっていたら、きっと陽菜は戦い続けることになるだろう。
その過程で、もし取り返しのつかないことが起きてしまったら…
そんな事を考えていると、
「……もしかして、陽菜心配なの?」
陽菜のお母さんが質問してくる。
「……はい。あと、確認したいこともあるし…」
「じゃあ、一緒に迎えに行こうか。せっかくだし、帰りは家の前まで送ってあげるよ。」
正直、歩きで動くのはやはりきついと思っていたので、助かった。
とりあえず、俺は陽菜の無事を祈りつつ、陽菜のいる病院へ向かった。
そして、現在に至る。
「戦うなって…どうして?大丈夫だよ、それに、今回のは力の使いすぎなだけだったし…」
「そういうことじゃないんだよ。」
怒鳴るように俺は言う。
「もし今後、あれより強い魔獣がでてきたら、陽菜が無事で済む保証なんてないんだ。何より、魔獣との戦いなんて半永久的に続くんだ。そのうち、限界が来るかもしれない。」
無意識に手を握る力が強まっていく。
「終わりのない戦いに身を投じるなんて、絶対駄目だ。そんなので、お前までいなくなったら……俺は――
だからもう、変身しないでくれ…!」
それに対し、陽菜が言う。
「…でも、この力さえあれば優地も、優地が守りたいものも守れる。もう、優地が危ない目に遭うことはないの。だからこそ…私は戦いたい。」
陽菜が戦う理由は、何を隠そう俺のためだったということ。
俺は陽菜が戦わないことを願っている一方で、陽菜も俺が危ない目に合わないことを願っている。
今、ふたりの願いはすれ違ってしまっている。
その事実に、俺はようやく気づいた。
「でも…!」
反論しようとして、喉が詰まる。
違う、と言いたいのに、何が違うのか自分でもわからなかった。
まもなく、車は俺の家の前に着く。
「到着したよー。」
その言葉を聞いて、俺は車から出る。
「じゃあな…」
その一言だけ言って、俺はその場をあとにした。
家に着き、暗い部屋の電気をつける。まだ体は痛むが、幸いにも布団を放置して出てしまったため、敷く必要はなかった。
冷蔵庫から昨日の余りのご飯を取り出し、業務スーパーで買った鮭フレークをかける。
それをかき込むように食べながら、俺は考えた。
―――馬鹿だな、俺は。
陽菜が戦う理由を作り出したのは紛れもなく自分である。その事実がある以上、俺が陽菜の意見を拒否することは本来できない。できるはずがない。
だがしかし、今後彼女が戦っていくうちに、彼女が傷つく可能性があること。それだけはやはり見逃せない。
守りたい。
でも、あいつの意思を踏みにじりたくはない。
なのに、その両方を選べるほど、現実は甘くない。
俺は一体、どうすればいいのだろうか。