東方×ホロライブ(幻想郷の人妖やホロメンが現代入りしたり幻想入りしたり) 作:Sano / セイノ
そんな世界を守るホロメン達の日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。
『レミリア・スカーレットの異世界侵略』の裏番組的な話になります。
時はVtuber文化真っ盛りの現代日本。
その遥か上空、天界の一隅に秘されたとある組織の隠し砦があった。
湊あくあは、青いマリンメイド衣装の上から羽織った黒いマントをしげしげと見つめた。それは暁《あかつき》と呼ばれる、ホロメン達からなる組織の証。
暁、それは人々に希望という華やかな輝きを与えるアイドルから、その温かかい光を舞台裏で守るヒーローへと至った者たちだ。表舞台から退いた彼女らは、今や世界の守護者として活動している。なぜならホロメン達は、それぞれの世界で一線級の実力を有していたからだ。
あくあは傍らで、呆けたような表情の麗しい金髪の娘に視線を向けた。
彼女の名は夜空メル、魔界で天才と称されるほど秀でたヴァンパイアである。その身に数多の生命を宿し、長い時を渡り続けてきた万命者《ノスフェラトゥ》だ。
今宵、ついにこの世界に侵略者の脅威が訪れるとの計器予測が出た。
それを迎え撃つべく、あくあはメルと二人で転移陣に待機していたのである。二人にとっては初めて異世界からの侵略者を相手取ることになる。予測による相手方の強大さから、この両者が抜擢されたのであった。
「メルさん、あくあさん、準備はいいですね? この座標を転移陣のコンソール打ち込んで下さい」
モニター越しにオペレーターの友人Aが眼鏡を光らせる。その隣では、春先のどかと紫咲シオンが送り出される二人を鼓舞するかのように拳を握っていた
〝えーっと……〟と座標をぽちぽちと覚束ない手つきで入力するのはメルである。
「よし、いこう!」
ヴァンパイアの娘が喜色を浮かべて転移ボタンを押すと、足元の魔法陣が起動して輝き始めた。
高まる緊張に裾を握るあくあ。
何かの前には必ず落ち着かなく思ってしまうのが彼女の性である。だがその張り詰めた空気を破るように、慌てたオペレーターの声が差し挟まれる。
「……ちょっと待って、メルさん! 間違えてますよ⁉」
「あれぇ?」
可愛らしく小首を傾げたメルの傍らで、〝えぇ!?〟とあくあは目を剥いてしまう。
画面の向こう側で、友人Aとシオン、のどかの三人がパニックにてんやわんやし出し、あくあの方も取り乱して〝メルちゃんッ!?〟と、ヴァンパイアの肩を強く揺する。だが、そんな女たちの狂態を無視して、魔法陣は漏れ出る魔力光を強めていくばかり。
「ちょっと、どうす――」
反響したマリンメイドの絶叫とともに、起動した転移陣の光に二人は飲み込まれたのである。
残されたのは光を失った魔法陣と寂しい無人の空間である。
それを見たオペレーターの女たちは、頭を抱えて顔を見合わせたのであった。
× × ×
視界が大きく開け、眼下に広がる大海をあくあは凝視する。
そこは太平洋の遥か上空。空気抵抗を受けながらも、急速に落下していく恐怖があくあに悲鳴を上げさせる。
「ひッ、落ちちゃうぅぅぅぅぅうううう⁉」
「ッ大丈夫!」
海面が迫る中、恐懼するメイド少女のお腹に手を回して抱きかかえたのはメルだった。
ヴァンパイアは背の黒翼を広げて、あくあを抱えたままパタパタと中空に浮いたのである。
(…………ふぅ)
だが、一難去ってまた一難なのである。
これから二人は座標で定められた地点へと移動しなければいけないのである。桃色のツインテールを海風に揺らしながら、あくあは腕に付けた通信機器に表示された数値のズレを見て溜息を吐いた。
〝メルちゃん、こっちだよ〟と方向を示して誘導しようとするマリンメイドの少女。だが相方の天才ヴァンパイアは〝何かあっちなが気がする!〟と無類の奔放さを発揮して、全くお構いなしなのである。
――――だが結果的にそれが正しかった。
侵略者たる標的の方が予測を裏切って、移動したのである。
大都市東京、そこでメイドのあくあとヴァンパイアのメルは、異界から訪れた二人組と出会ったのである。奇しくも両者ともに吸血鬼とメイドの組み合わせ。それは幼い容姿と裏腹な強大なる吸血鬼レミリア・スカーレット、そして殺気を隠そうともしない佳麗なるメイド長十六夜咲夜であった。
天界では両者の接近を観測して、友人Aが結界のスイッチを押し込んだ。
暁の居城の尖塔から放たれた大きなエネルギーが、あくあとメルの周囲に結界を創り出し、その帳が無関係な人々を締め出したのである。
× × ×
陽炎のように揺らめく冷ややかな殺気に、湊あくあは瀟洒なメイドを見出していた。そして十六夜咲夜も同様に、青い侍女服の少女に百戦錬磨の不穏さを見定めていた。
互いに手に取るのは、ガンオイルの艶に濡れ光るリボルバーの銃身、そして精緻に退魔紋を刻まれたシルバーナイフ。
抜き身のナイフを構えたまま、疾駆する紅魔館のメイド長。
風を巻いて迫る咲夜の姿に、あくあはリボルバーの照星を据える。だが、その姿が一瞬にして搔き消えた。
(ッどこ⁉――――)
迂闊にも視線を動かしたあくあ。
咲夜は生じた死角に姿を現し、その手の白銀の刃が世闇に躍る。
それをあくあは矮躯を旋転させて辛うじて躱した。
まさに幾多の戦場を経て培われた、第六感に突き動かされた結果だった。
(――――あっぶなッ⁉)
だが、目を剥いたのはあくあだけではなかった。
必殺を期していた咲夜の方こそ、相手の尋常ならざる反射速度に舌を巻いたのである。目を怜悧に細めたメイド長は、そのまま流れるような動作で小刀を投擲した。
それすらもひらりと避けて、あくあはお返しとばかりに再度マグナムの虚ろな銃口を向ける。だが、またもや咲夜の姿が搔き消えたのである――――
――――代わりに現れたのは、頭上より落下する3本の小刀と前方から迫る4本の白刃。
重力に引かれたナイフの描く放物線が檻のように背後を囲っていると気づき、あくは咲夜の策を知る。そして残る四本は互いを追い抜き絡み合うようにして襲い掛かる幻惑の投擲だった。
(……動きを縫いに来たか)
対するあくあの動きは軽捷の極みであった。
空を切る刃の間で体を躍らせながら、マリンメイドの少女の銃は正確無比に標的を狙って吼えた。
――――――――――――(side咲夜)――――――――――――
銃口が向ける敵意を咲夜は嘲笑った。
彼女にとって銃は与しやすい相手でしかない。予備動作と射角から弾丸の軌道は筒抜けで、その予測に基づいて躱せば迫る銃弾を確実に避け得るからである。
だが、発砲の直後だった――――
――――虚空の弾丸が急激に向きを変えたのである。
回避したと踏んでいた銃弾によって、咲夜のスカートの裾が穿たれた。
その常識外れの現象に、咲夜は瀟洒なメイドには不釣り合いな舌打ちと共に、答えを弾き出した。
(チッ、能力で弾丸の軌道を変えたのね)
どうやら自身と同じく、相手のメイド少女もまた異能の使い手であるらしい。その力は弾丸の軌道を操作する類、そう咲夜は一連の事象から分析したのである。そして、それは正しかった。
湊あくあ、彼女こそは弾丸を操る『魔弾の射手』。
銃を手に幾多の戦場を渡り歩いてきたメイド少女は、間違いなく人類の中では最強の一角。単身で前戦へ飛び込む姿は歴戦の兵士らをして狂犬と恐れられ、無骨な戦場で咲いた一輪の徒花はかつて畏怖を以てあくきんマスターと呼ばれた伝説のメイドである。
だが家事能力がイマイチ過ぎるのが、メイドとして玉に瑕であった。
(出し惜しみしてられる相手じゃないわね。殺人ドール!)
連続的な能力発動の負担を顧みず咲夜は時の流れを断って、右へ左へと走りながらナイフを投げては虚空へ敷き並べてゆく。時が動き出せば、銀光が描く刃の綾がメイドの少女に襲い掛かるのである。
――――――――――――(sideあくあ)――――――――――――
網目を描く小刀の軌道をマリンメイドの少女は即座に見切り、その隙間に体をねじ込ませた。そして鋭い刃の嵐を潜りながら駆け抜ける。青いメイド服が縦横無尽に走るナイフに切り裂かれるも、ただの一刃もその身に受けることない。肌すれすれを擦過していったナイフへの恐怖も、あくあの意中にはなかった。
あるのは、銃弾へ込める無言の闘志のみ。
くるくると踊るように刃を躱して、その手中のリボルバーが銃撃音を轟かせる。
まさに早業。だが、少女の真なる妙技はこれではない。
一つの銃撃音、だが射出された弾丸は二つ。
銃撃後の刹那の間に、あくあはもう一度撃鉄を起こし、狙い、そして引き金を引いたのである。あまりにも速すぎる一連の動作は、人間の知覚ではそれを一度としか認識できない。それは回転式小銃を高速に弾く早打ち技術の極致であった。
その凶弾がタイミングをずらして、時を操るメイドを追う。
――――――――――――(side咲夜)――――――――――――
異能で時を止めて回避した先にすら、待ち構えている次弾に咲夜は歯噛みする。
時間停止の濫用に燃える体を酷使して攻撃に転じれば、相手方の少女もナイフを躱しながら異能の弾丸を放ってくるのである。
(……このままだとマズイわね。ここで決める、ルナクロック!)
断ち切られた時間の間隙に、咲夜は投擲した幾重もの刃の網目を織り上げ、回避不能な銀光の壁を作り出した。
――――――――――――(sideあくあ)――――――――――――
あくあは自身を取り囲むように押し寄せる無数の刃を仰ぎ見る。
そしてマリンメイドの少女は立ちどころに理解したのである、これに回避の余地はないと。
スカートをたくし上げ、腿に巻いていた弾帯をあくあは素早く外して放り上げた。
無数の弾丸が虚空で炸裂音を響かせ、弾けた鉄砲玉の軌道が迫るナイフへと異能により歪められる。
刃と弾丸が衝突して、夜空に無数の火花が狂い咲いた。
ただ無作為に見えた弾と刃の乱舞。
実はそのことごとくが、メイド二人の体裁き統べられていたことを、果たして誰が見破れただろうか…………
それすらも計算にいれ、互いが互いへの動きを予測し合っていたのである。
銃弾で弾いたナイフ同士がぶつかり合い、軌道を変則的に変える。それは導かれるようにあくあの腕を掠め、ひらひらと舞うスカートを裂いた。そしてナイフを弾いた銃弾が、今度は向きを変えて、咲夜を狙うのである。
実力は伯仲し、素早い動きは互いにステップの定まったダンスでも踊っているかのように拮抗した。メイド同士の高速の舞踏には、弾丸とナイフが発する金属音の甲高い協奏が添えられ続ける。
能力の多用に、あくあの意識が沸騰していく。
同時に咲夜の方も、繰り返す時間停止に体を燃え上がらせていた。
それは決定打を互いに紙一重で回避しながらの、異能同士の削り合い。
崖っぷちで踊る舞踊は、まさに闘いはどちらが根を上げるかという勝負になっていたのである。
死線の際にいた二人には、吸血鬼同士の戦いの趨勢など気づく由もなかった。
大きな爆発による閃光がメイドの二人を襲い、次いで到達した爆風があたりに吹き付けた。
巻き起こされた颶風《ぐふう》に、彼女らもまた一片の木の葉さながらに弄ばれる。
体のあちこちに傷をつけながらも舞い上げられた瓦礫を足場に跳び渡り、それぞれ形を留めたビルに軽やかに着地を決める。
眼下を覆う漆黒の海を見て、あくあは息を呑んだ。
それはメルによる『生命の海』、究極的な攻防一体の形態である。どうやら吸血鬼同士の戦いも激闘だったらしい。
向こうの高層建築では、傷だらけの咲夜が新たに抜き放った刃の銀光を瞬《またたか》せた。だが彼女は身構えたあくあを警戒しつつも、幼い吸血鬼の声にナイフを納めた。どうやら主ととも異世界へと帰ってくれるらしい。後腐れなく退いてくのはまさに戦闘のプロだ。
異界へと帰っていく二人の背中を見送って、あくあはパタンとコンクリートへ寝転がった。
肩で息をしながら、徐々に解けていく戦闘用の魔術結界を見上げる。
結界が完全に解除されれば、そこはもう日常へ回帰した世界である。この世界を守ることができた実感に、彼女は大きく息を吐き出した。
「はあ、強かったー」
思えば、激闘だった。
相対したメイドの女は、短い刃物が得物であるにも関わらずこれまで戦ったどの人間よりもやりづらかった。それほどまでの難敵だったのである。
取り留めのない考えに耽っていたあくあ、彼女の腕のデバイスが光って中空に紫咲シオンの顔を映し出した。
「あくあちゃん、ボロボロだけど大丈夫?」
こちらを心配そうに覗き込む魔女っ娘に、あくあはぎこちない笑みを返すのだった。
「……シオンちゃん、あてぃしのこと好きすぎ」
了