東方×ホロライブ(幻想郷の人妖やホロメンが現代入りしたり幻想入りしたり) 作:Sano / セイノ
未知との遭遇はいつだって突然なのである。
霧雨魔理沙は肩掛け鞄に本を押し込んでいた手を止めた。
大いなる蒐集癖を今日もまた発揮し、紅魔館の大図書館に忍び込んでいた魔理沙。彼女の耳が異世界の話を拾ったのは偶然だった。
「ずいぶん、レミリア様ご機嫌でしたね」
「おおかた異世界で好みの強者でも見つけたのでしょう。それにしてもまさか、全力のレミィや咲夜を相手にして、互角に張り合える者がいるなんて驚きね」
パチュリー・ノーレッジは思案気に視線を彷徨わせる。
ここ幻想郷において、レミリア・スカーレットは武威を誇るの妖であり、十六夜咲夜もまた圧倒的な強さを持つ人間なのである。その二人に伍する者が異世界にいるとすれば、そこに通じる次元の裂け目をどうするべきか迷っていたのである。
「発生中のゲートの管理はどうします?」
「どうせレミィはまた行きたいって言い出すでしょうから、引き続き私が管理するわ。流石に美鈴みたいにザルでは困るものね……」
図書館の主と司書の会話、それに遠い本棚の影から盗聴の魔術で耳をそばだてていた者がいたのである。
(――どうやら異世界とやらに繋がる何かがあるようなのだぜ)
魔理沙は二人をこっそりと伺い、自身の存在が露呈していないことを確かめる。
(話の内容から察するにゲートの存在は偶発的なものっぽいぜ。そしてパチュリーが管理するって言いだすっつーことは、この図書館内のどこかあるんだろうな……)
顎に手をあて高速で思考を巡らせると、魔理沙は一つの答えを弾き出した。
にんまりと得意げな笑みを浮かべ、未知なる地の素材や魔法に胸を高鳴らせるのである。
(よし、異世界とやらに行ってみよう!)
× × ×
「ちぇ~、まさかあんなにガードが固いとは思わなかったぜ」
つばの広いとんがり帽を手でくるくると回しながら、魔理沙は舌打ちする。
彼女は大図書館で異世界へ繋がる空間の裂け目を見出すも、それを守るあまりにも堅固な結界魔法には諦めざるを得なかったのである。仕方なしに、いつものように本を数冊に拝借して、図書館を辞したのであった。そして今、まさに不平を垂れながら魔法の森を歩いているというわけである。
ふらふらと歩き回りながら、良さげなキノコを拾い上げて吟味していく。だが魔理沙はつまらなそうに鼻を鳴らして、それらを放っていくのであった。日課としている調合材料探しでさえも、今日は振るわないのである。
(……まったく、今日はツイテないぜ)
まさに今しがた見つけたキノコを、ポイと投げ捨てた時――
――彼女は視界の端にゆらゆらと揺れる次元の裂け目を見出したのである。
それは先ほど大図書館で目にしたものと瓜二つ、まさに自身が求めたゲートに違いないと閃いたのである。
霧雨魔理沙は目を輝かせてその揺らめく裂け目を凝視した。
それは自身をまだ見ぬ世界へと導く扉なのである。
白い歯を見せて、彼女は勢いよく箒へと飛び乗った。そして加速させた箒で、普通の魔法使いは世界の境界を跨いだのである。
× × ×
「――何なんだぜ、ここは⁉」
辺りを見回していた魔理沙は天を衝くかのように屹立する建造物の威容に慄いてしまう。
幻想郷には存在し得ないビル群と無機質な人工空間に息を呑まざるを得ない。そして物珍しさにアスファルトの道路を踏みしめていた彼女に、頭上から声を降らせる影があった。
「へぇ、相手は魔法使い……いや、人間か。まあどっちでもいいわ、帰ってもらうんだから」
空から掛けられた声に、魔理沙は振り仰いだ。
はたしてそこには、小さい三角帽子を頭に乗せた魔女が箒にまたがっていた。子憎たらしい笑みを浮かべた銀髪の少女が魔法の杖を魔理沙に向けているのである。魔理沙は知らないことだが、彼女こそは暁と呼ばれる組織の魔女っ娘、紫咲シオンであった。
それに応じるように、魔理沙も口角を歪めて挑戦的な笑みを返す。
魔理沙とて、相手が人よりも魔術に秀でた魔法使いという種族であることを見抜いていた。だが生来の勝気さが彼女を魔術比べへと駆り立てたのである。
「おいおい、人間が魔術で魔法使いを凌ぐことだってあるんだぜ。知らないなら教えてやるよ! 魔符ミルキーウェイ!」
スペルカードの発動が、二人の闘いの火蓋を切った。
地上から幾重もの螺旋を描く、星を模した魔力弾を生み出していく魔理沙。帳が下りた夜闇を星光の輝きが飾る。
だが宙空に佇むシオンは、〝へぇ、綺麗じゃん〟と呟いただけ。
彼女を守るかのように展開された魔法陣、それに星型の魔力弾のことごとくが吸い込まれていくのである。
結果として魔理沙の魔法はシオンには届かず、代わりにその召喚陣から姿を現したのは無数の黒い触手だった。
鞭のように迫る触手に、魔理沙は慌てて箒に飛び乗った。
触手が叩きつけて出来た路面のひび割れを後目に、彼女は箒の高速機動で躱していく。それでも追いすがる触手を空高く舞い上がることで引き離した。
だが、彼女の速度に並ぶものがいた。
シオンもまた加速し、並んで高速で飛びながら魔理沙にステッキ向ける。杖に込められた揺らめく魔力が、魔理沙に危うさを訴えかけた。そして幻想郷の少女は次なるスペカを切る。
「ッ、彗星ブレイジングスター!」
噴き出した魔力で急加速しながら、星の光を纏う魔理沙。
攻撃のタイミングを逸したシオンは、軌跡に散らされた燦然と輝く星の眩しさの目を細めた。
「なんでこんなド派手なのよ……」
猛スピードでシオンすらも振り切った魔理沙。彼女は彼方で大きくUターンしながら、呆れ気味のシオンに向かって吼える。
「派手じゃなけりゃ、魔法じゃないぜ」
そしてそのまま輝きを増していく光にその身を包んで、魔理沙は相手へと体当たりを狙う。
対するシオンもまた、挑戦的な笑みを浮かべて応じたのだった。
「力勝負ってわけね。いいわね、パワーこそ魔法よね!」
紫色の魔力光を矮躯から溢れさせ、シオンの方も箒を加速させる。そして前方に複数の魔法陣を展開しながら、迎撃の構えをとった。
「はッ、まさか意見が合うとはな。魔法は火力だぜ!」
無論、不敵に笑う魔理沙はそれを目論んでのことだが、二人の軌道は衝突へと向かっていた、
黄色い星の輝きが夜空を奔る、紫の黒魔法の光が夜天を駆ける。
距離を縮めていく二つの光、そしてそれらが正面から激突した。
両者の衝突に、轟と空に花開く大輪の爆光。
耳をつんざく爆音は夜気を揺るがし、炸裂した閃光は夜空すら払わんばかりであった。その余波が大気を震わせ、ビルの分厚いガラスに罅を走らせる。
それは、ぶつかり合った二人が弾かれて離れるまでの短い間の出来事。
魔理沙の肩掛けから、零れ散らばった魔導書。
それらが二人の間を過った。
大きな書物を隔て、次なる一手で杖を魔理沙に向けるシオン。そして魔理沙の方もシオンを睨む。
だがその刹那、シオンの目がその本に吸い寄せられてしまったのである。彼女は驚きに目を見開いたのだ、なぜ異世界からの侵入者がこの本を持っているのだと――
その僅かな差が勝敗を分けた。
シオンの隙を見逃さず魔理沙はミニ八卦炉を取り出して構えた。対するシオンは魔界のケルベロスを呼び出していた。
牙を剥いた猛獣に、魔理沙の極大の魔力を撃ち出されたのである。
「恋符マスタースパーク!」
刹那の内に魔力障壁を張ったシオンも流石だろう。
だが、近距離で放たれた魔理沙の不可避の攻撃は容易くその防殻を打ち砕き、その魔力の奔流がケルベロスごとシオンを飲み込んだのであった。
地上に降り立った魔理沙が目にしたのは、気絶して大地に横たわるシオン、そして彼女の傍に転がる箒と杖であった。魔理沙は傍らにしゃがみこんで、シオンをしげしげと見つめていた。
(これが異世界の魔女か……と言ってもあまり幻想郷の魔法使い共と違いはなさそうに見えるな。だけど、さっきの魔法は全く私が知らないもんだ。ちょっくら研究したいもんだぜ……)
そこで、魔理沙はまたしても閃いたのである。
ここでも蒐集という悪癖を発揮すればいいのではないか、と。
手を打って得意気に微笑んだ魔理沙は、目を回しているシオンを抱え上げた。そして彼女は幻想郷の魔法の森へと戻っていったのである。
× × ×
時を同じくして、騒然となっていたのは遥か上空に秘された暁の居城である。
「……ッシオンちゃん⁉」
青い顔で湊あくあが叫び、それに同調するように悲鳴が飛び交った。
シオンのシグナルが世界からロストしたことに、誰もが信じられないでいたのだ。
彼我の魔力量で言えば、シオンが敗れるはずが無いのである。
彼女はあんなクソガキ然としつつも、メイジ・オブ・ヴァイオレットという通り名で魔界では一目置かれる魔術師だった。だが最後に増大した来訪者の魔力量は確かに大きく、シオンが破られる可能性だってある。
しかし、それとシグナルの消失は別問題なのである。
友人Aは眼鏡を光らせながら、静かに現状を分析した。
「――シオンさんは、おそらく異世界へ連れ去られたということだと思います。そうでなければ説明がつきません」
まるで楽観視できない状況に誰もが口を噤んでしまう。
地の利が無い異世界で捜索活動をするには人の手が必要なのだ。とはいえ、暁の拠点を空にすることはとてもではないが出来なかった。
そんな中、重たい沈黙を裂いてあっけらかんと名乗りを上げる娘がいた。
「じゃあ沙花叉が捜索してきますよ! シオン先輩の良い匂いを辿っていけば、沙花叉なら見つけられます」
そう沙花叉クロヱは嫣然と微笑んだのである。そうして、シオンへの偏愛という狂気を宿した暗器使いの娘は単身幻想郷へ乗り込んでいくのである。
了