美菜は、少しずつ変わっていった。
いや、正確には――
本当の姿が見えてきただけなのかもしれない。
最初は小さなことだった。
「今なにしてる?」
「友達とご飯」
「そうなんだ。楽しんでね」
それだけの会話。
でも、その三分後にまた通知が来る。
「本当に友達?」
「女の子?」
「何人?」
「写真送って」
最初は少し笑った。
「心配性だな」
そう言うと、美菜はすぐに謝った。
「ごめん、ごめんね。私おかしいよね」
だけど、その夜。
スマホに長いメッセージが届いた。
「ねえ」
「やっぱり怖い」
「嫌われるのが怖い」
「あなたがいなくなるのが怖い」
「ねえ」
「私のこと好き?」
「本当に?」
「嘘じゃない?」
「ねえ」
画面いっぱいの文字。
次の日、美菜は普通に笑っていた。
「昨日のこと忘れて」
「気にしてないよ」
「ほんと?」
「うん」
すると彼女は安心したように俺の腕に抱きついた。
でも、そこからだった。
スマホの通知は、一日百件を超えた。
「起きてる?」
「今どこ?」
「誰といる?」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
返信が10分遅れると、電話が来る。
出ないと、またメッセージ。
「どうして出ないの?」
「ねえ」
「事故?」
「それとも嫌いになった?」
「私何かした?」
「ごめんなさい」
「本当にごめんなさい」
そして最後に来る一文。
「お願い、捨てないで」
ある夜。
家に帰ると、玄関の前に美菜がいた。
体育座りで、静かに待っている。
「…どうした?」
彼女はゆっくり顔を上げた。
「会いたくて」
時計を見る。
夜の2時。
「電話すればよかったのに」
「出なかったらどうするの?」
その目は、どこか壊れかけていた。
「ねえ」
美菜は立ち上がって、俺の服を掴む。
「本当に好き?」
「好きだよ」
「じゃあ証明して」
「どうやって」
彼女は少し考えてから、笑った。
「どこにも行かないって言って」
「言うよ」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない」
その瞬間、美菜は強く抱きついた。
「よかった」
耳元で小さく呟く。
「私、あなたがいないと生きられない」
それから彼女は、もっと変わった。
スマホのロック画面は俺の写真。
待ち受けも俺。
SNSの投稿は全部俺。
「今日も大好き」
「私の世界」
「私の全部」
コメント欄には、
「誰にも渡さない」
ある夜、聞いた。
「美菜」
「なに?」
「もし俺がいなくなったらどうする?」
すると彼女は、少し考えてから言った。
「いなくならないよ」
「もしの話」
彼女は首を振った。
「その“もし”はない」
「どうして?」
美菜は静かに笑った。
「だって、逃がさないから」
窓の外では雨が降っていた。
彼女の指は、
俺の服を強く掴んだまま離さない。
まるで溺れる人間が、
最後の浮き輪を握るみたいに。
そして小さく呟いた。
「好きすぎて、壊れそう」
でもその言葉のあとに、
もっと小さな声が続いた。
「壊れてもいいよね?」
彼女の目は、
愛と恐怖が混ざった色をしていた。