猫先生と私   作:げのげすみ

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なにげに初投稿


プロローグ
今日もいつも通り


電車の揺れとはかくも眠気を誘うものである。

 

私のたった今考えた出来立ての迷言である。なお【電車】の部分には大体の中型以上の車両が入る。テストには出ない。

 

ガタゴトと揺れる電車の中、窓の外で好き勝手に流れる景色を流し見ながら私はそのようなことを考えていた。

 

人は退屈すると眠くなるそうだ。

ならば、電車で眠くなるのはなんら不思議なことではない。

 

退屈な景色、単調な振動、やることのない暇な時間。

 

もはや眠ってくれと言っているようなものではないか。

10分ほどの乗車で3つは格言を思いついてしまった。

 

なんとも眠くて退屈な時間である。

 

もちろん、一般論でいえばあと2分もすればつくのだから起きていた方がいいだろう。

しかし、いくらヴァルキューレとはいえ私はまだ15である。

 

そのことを考慮すると、よいこが育つためには寝るべきであるという結論がでることは自明の理である。

それを社会が許さないなら、社会の方が間違っているのだ。

 

しかしいくら屁理屈をこねど電車は待ってはくれなかったようだ。

 

 

『次は、能楽町、能楽町、お降りの方は』

 

「・・・はぁ。」

 

 

やる気のない機械音声が目的地を告げる。必要経費とはいえ、毎度毎度こんな遠くまで買い物に来なければならないのは少々不便である。

本来なら通販で済ませたいところだが、今回の買い物は多少高価なものであるから泥棒にでも取られてしまったらたまったものではない。

 

 

『ドア、開きます。』

 

 

ぷあぁんと情けない音を立ててドアが開く。

 

その音を聞いた私は特に考えもせずに足を出し、

 

 

 

 

 

そこで私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、私は(見覚えはあるけどなんとなく思い出せない程度の)見知らぬ部屋で座っていた。

 

それも猫を膝の上に乗せて。

 

自分でも何を言っているかわからない。

 

路上で身包み剝がされていました、とかならまだわかる。

キヴォトスの治安はお察しだ。私が急になにかしらの原因で失神したとかならば適当に路地裏に連れてって身包み剥ぐ絶好の機会だろう。

 

しかしそうではない。

 

私は別にどこか痛むところがあるわけでもなければ失くしているものがあるわけでもない。

極めつけは猫である。

 

なぜ猫?猫はプライドの高い生き物である。なので膝の上でスヤスヤ眠るなど初対面にしては不自然である。

 

 

「・・・アメショとかならよかったのに・・」

 

″それは失礼したよ、しかしあいにく私は黒一色だ。不吉の象徴だとして蔑みたければ蔑みたまえよ。″

 

「フィビっ!」

 

 

変な声出た。ていうかシャベッタァ!

 

 

「え・・?しゃべ・・・」

 

"喋っちゃ悪いかね?先入観に固執するのは感心しないね。私は特に気にはしないが、世の中には過激派とか言われる類の集団もいることだし、もう少しはうまく誤魔化せるようになった方がいいんじゃないか?"

 

 

どういうことだろう。起きて早々、猫に先入観をロジカルに咎められた。

 

 

「え・・と・・猫・・さん?」

 

"なんだね?人間さん。"

 

 

猫の表情については素人だが、なんとなくこちらを馬鹿にしている気がする。

 

 

「猫・・ですよね?」

 

"あぁ、そうだとも。メキシコサラマンダーやらオニヒトデに見えるかね?"

 

「例えが独特・・。」

 

"独特かどうかはどうでもいいだろう。"

 

 

ここで猫は瞬きを一つ。艶めかしい仕草が可愛らしい。

 

 

"重要なのは、君が私のことを猫以外のなにがしかに見えてはいないかだよ。"

 

 

フム、と猫は私を見つめる。

 

 

"まぁ、その顔ではせいぜいお察しといったところだろうがね。"

 

「あ″?」

 

 

売られた喧嘩を買おうとしたその時だった。

 

 

「どちら様ですか?場合によっては警備の者を呼びますよ」

 

 

先ほどまで一人と一匹しかいなかったこの空間に、異物が一つ紛れ込んできた。

 

 

しかし振り返った私はその表現が間違いであることに気付いた。

白い制服に青いネクタイ。そして見覚えのある顔。

 

たしか連邦生徒会だっただろうか?

 

長い黒髪ときつそうな目元に眼鏡。見たのはクロノスの報道だっただろうか?

それを踏まえて周囲を見渡せば先ほどの既視感の正体も思い出した。

ここはサンクトゥムタワー、連邦生徒会のお膝元だ。前に業務で一度だけ来たことがある。

 

 

「もう一度聞きます、あなたは誰ですか?・・・それとも、あなたが先生ですか?」

 

「はい?」

 

「時間もありません、案内します。」

 

 

そういうと黒髪の生徒は出口に歩み出す。

 

 

「ま、待ってください!」

 

"ぐえ。"

 

 

足早に立ち去る彼女に置いて行かれないように急いで立ち上がって駆け出す。次いでとばかりにおしゃべり猫も抱えて。

 

 

"もう少し丁重に扱えないのかね?猫は液体ではないのだよ"

 

「そんなこと知ってますよ!あぁもう、待ってください、先生っていうのは、」

 

 

そういうと生徒はこちらを振り返り、

 

 

「説明は移動中にします、お急ぎください。」

 

 

 

それだけを言うとまた歩き出した。いや早いな?競歩でもしてるのか?

 

同年代と比べても小さめな私には少し早めの駆け足ぐらいの速度だ。

 

 

「先日、連邦生徒会長が失踪しました。」

 

「え?」

 

「急にいなくなるのは今までもよくありましたが、今回のような長期のケースはありませんでした。」

 

 

急に機密情報を言われた。

 

 

「現在、その影響でサンクトゥムタワーが・・」

 

「ま、待ってください!」

 

 

思わず大声を上げる。

 

 

「いきなりそんなこと言われてどうしろっていうんですか!あと私は先生ではありません!」

 

「・・は?」

 

 

そこで初めて彼女は歩みを止めた。

 

 

「連邦生徒会長からなにも聞いていないのですか?」

 

「聞いていないどころが会った事すらないです。大体、生活安全局のヒラがなんでそんな人に会うんですか。」

 

「・・え?」

 

 

目に見えてうろたえている。むしろうろたえたいのはこちらなのであるが。

 

 

"落ち着き給えよ。"

 

「ちょっと黙っててください!あなたがしゃべるともっとややこしくなる!」

 

 

思わず語尾も強くなる。

 

こちらは被害者なのだから別にいいだろうとは思うのだが

なぜか罪悪感のようなものがわいてくるのは私がお人好しだからだろう。

 

 

「ほら、これ学生証です。ちゃんと生活安全局、って書いてるでしょう?」

 

 

黒髪の君は駆け寄って私の学生証をのぞき込む。

 

 

「椰子マユミ、生活安全局・・・確かにそうですね・・」

 

 

落胆した声でぽつりと呟かれ、その態度に腹が立つ。

勝手に決めつけておいて勝手に落胆するとは何様だ。

 

 

「では、あなたはなぜここに?」

 

「こっちが聞きたいぐらいです!」

 

 

私は背中に背負った愛銃の入ったバッグの紐をぎゅっと握りしめる。

 

 

「電車を降りたと思ったら急に知らない場所で目を覚ますし!なんか口が悪い猫もいるし!挙句の果てに先生だとかいう人と間違われるし!」

 

 

嗚呼、私が何をしたというの?

 

 

最近やった悪事なんて屈伸死体撃ちぐらいしかやってないのに・・。

 

 

 

"ちょいちょい。"

 

「なんですか!今取り込み中です!」

 

"まぁまぁ。落ち着き給えと言ってるじゃないか。"

 

 

小脇に抱えられた黒猫は今この状況でも余裕しゃくしゃくとニヤついている。むかつく。

 

 

"一旦自己紹介でもしないかね?まずはそこの無礼な人間さん?"

 

「ひどい言い草ですね・・椰子マユミです。生活安全局のヒラです。」

 

「え?・・あぁ、自己紹介ですね。七神リン。連邦生徒会所属の幹部です。」

 

 

"ふふん。今度からシャーレとかいう組織で先生をやる雨宮だ。よろしく。"

 

「まてい。」

 

 

脇に抱えたド阿呆を宙に放り投げ、そのまま脇に手を差す。猫はこうされるのが嫌である。

 

 

「先生ってあんたですか!なんで言わなかったんですか!」

 

"いやぁ。だって聞かれなかったしぃ?"

 

「あんたは職質断るクソ市民か!先生探してるってわかるだろうが!」

 

"君が聞かなかったのが悪いんだろう?その例でいえば君は職質をしなかったんだよ。"

 

猫・・もとい雨宮先生はふふんと鼻を鳴らすと、 

 

"ま、慌てふためく君を見るのが楽しかったのは事実だがね。"

 

 

この猫爆破していいだろうか?

 

そうして私が殺意マシマシで先生をぶん回していると

 

 

「すいません。」

 

 

少し苛立ちが感じられる声が聞こえてきた。リンである。

 

 

「は、はい。」

 

 

流石に騒ぎ過ぎたか?

 

 

「なぜ、猫を振り回してるのですか?」

 

「あ、あの、」

 

「・・・。」

 

 

 

 

「いやすいませんこの猫がなんか先生だったらしくてなんか黙ってたんですよ本当に困っちゃいますよねあはは」

 

 

沈黙には耐えられなかった。

しかしこんな話を信じてもらえるだろうか?

仮に自分なら信じない。相手の正気を疑うだろう。

 

「・・・・・」

 

 

さらなる沈黙がより痛い。

 

 

「そうでしたか・・・。」

 

「・・疑わないんですか?」

 

「あの人ならやりかねません。・・・はぁ。」

 

 

明らかな落胆が見て取れる。なぜか申し訳ない。

 

 

「・・いいでしょう。それならば」

 

リンさんの眼鏡がギラリと光る。

 

 

「こちらにも手があります。」

 

 

 

 

 

 

「連邦捜査部、シャーレ。連邦生徒会長が設立をお決めになった超法規的機関。その業務は大雑把に言えば学園における問題の解決です。」

 

 

エレベーターのモーター音が響く室内で、七神リンは淡々と語る。

 

 

「生徒たちの個人的な依頼、または、学園や連邦生徒会としての依頼。さらには不良達等の制圧のための戦闘、そして、それらを解決するために、キヴォトスに存在するすべての生徒たちの勧誘を可能とし、各学園の自治区で制約なしに戦闘活動を行うことができます。」

 

 

気まずい。すっごく気まずい。あちらとしては求めていた人材が来たと思ったら人違いでした、だもん。

 

 

「先生には本来、シャーレの顧問としてこれらの業務にあたってもらう予定でした。会長曰く、先生は信じられる大人である、とのことでしたのでこちらとしてもそれなりの期待をしていたのですが・・。」

 

「・・すいません。」

 

"なぜ謝る必要があるんだい?まるで何かやましいことを隠しているようじゃないか?"

 

「ちょっと黙って・・あぁ。いやこっちです。」

 

 

はぁっ、とため息が一つ。

 

 

「謝罪は不要です。」

 

 

謝るなって言ってる奴は大体謝んないと駄目なやつだってバッチャが言ってた。嘘だけど。

 

 

「それで・・私はなぜここに・・。」

 

「言ったでしょう?手があると。」

 

 

リンさんは窓に目をやる。

ここのエレベーターはガラス張りになっており外の景色が見えるようになっている。

階下には私たちが暮らすキヴォトスの街並みが広がっている

いつも思うのだが、本当に見かけだけはきれいなのだ、この都市は。

 

 

「その猫が先生であり、貴女だけがその声を聴きとれる・・・にわかには信じがたいですが、今はそんなことを言ってる場合じゃありません。」

 

 

"猫の手も借りたいってことだね"

 

「やかましい。」

 

 

「現状、貴女の言っていることを信じます。そのうえであなた方にはやってもらうことがありますので。」

 

 

チン、という子気味の良い音と共にエレベーターが止まる。

 

 

「あぁ、面倒な人たちがいますね。」

 

 

どこか恨めしそうにつぶやくリンさん。その視線の先には4人ほどの装いの異なる生徒たちが行政官と思われる生徒に詰め寄っているのが見えた。

 

その内の一人、青い髪をしたツインテの生徒がこちらに気付く。

 

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!って・・ヴァルキューレと・・猫?」

 

 

やっぱ気になりますよねそうですよね。

 

 

「主席行政官。お待ちしておりました。」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」

 

 

黒髪のたっぱとケツだけじゃなく胸もデカいの、あとは桃髪の眼鏡の人も詰め寄ってくる。ていうかリンさんって行政官だったんだ。

 

 

「皆さん落ち着いてください。皆さんが現在発生している混乱についての追求でわざわざいらっしゃったのはわかっております。」

 

「わかってるならなんとかしなさいよ!連邦生徒会でしょう?だいたい、連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を――」

 

 

 

「連邦生徒会長は行方不明になりました。」

 

 

 

「ーっ!」

 

「・・・え!?」

 

 

「これによって、現在の連邦生徒会は行政制御権を失いました。サンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったためです。」

 

 

ざわめく一同。

無理もないだろう。一度聞いてる私ですら驚いたのだから。

 

 

「こちらでも認証を迂回できる方法を探っていたのですが・・・残念ながら先ほどまで見つけることができませんでした。」

 

「それでは、今は見つけたのですか?」

 

 

「はい。」

 

 

そういうとリンさんはこちらへ向き直り・・・こちらへ向き直り?

 

 

「こちらの方々こそが、フィクサーとなってくれるはずです。」

 

 

 

「「「「・・・は?」」」」

 

 

 

何それ聞いてない。

 

 

「ちょっと待って。そもそもなんでヴァルキューレがここに?」

 

「今回の件とこちらの生徒が関係あるのですか?」

 

「はい。そちらの生徒は椰子マユミさん、それで猫のほうが・・・」

 

 

"雨宮だよ。"

 

 

「雨宮だそうです。」

 

 

「・・雨宮先生。こちらの雨宮先生はこれからキヴォトスで先生として働く方でありー」

 

 

 

「ちょっとまってちょうだい!」

 

 

 

青髪ツインテが声を上げる。

 

 

「そんな猫が先生だなんて・・・本気ですか?」

 

「にわかには信じがたいですね。」

 

 

ですよねー。

 

 

「・・私としても信じがたくはありますが・・・連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」

 

「人物って、猫じゃないの!」

 

 

真にごもっともな意見です。

しかし実際どうしよう。

雨宮を名乗るこの猫の声は私以外には聞こえていないらしいし・・。

 

 

「大体、その生徒が嘘をついている可能性だってあるでしょう!」

 

「それに関しては疑いは晴れています。」

 

 

「え?」

 

 

いったいいつの間に?

 

 

「どうしてそんなことが言えるのよ?」

 

「名前です。」

 

 

そういうとリンさん・・いや、リン行政官は一枚の紙を取り出した。

 

 

「これは失踪前に会長が残した雨宮先生向けの雇用契約書です。」

 

 

リン行政官はその紙を広げ、名前の欄を指さす。

 

 

「ここに、確かに雨宮リナ、と書いてあります。私は彼女を見つけてからここに来るまでの間、一度も先生の名前を呼んでいません。さらに言えばこの書類は私以外には誰にも見せていません。にも拘わらず彼女は先生の名前を言い当てました。」

 

「つまり、この場で雨宮という名前を出せるのは私と会長以外ならば本人しかいません。」

 

 

あの時そんなことされてたんだ・・・。

 

 

「・・うう、信じたくはないけど・・証拠まであるんじゃ・・。」

 

「あ、あの・・・。」

 

「どうしましたか?マユミさん。」

 

 

そろそろしゃべっておかないと完全に空気になってしまう。

 

 

「それで・・私は何をすればいいですか?」

 

"具体的に言えば、どうすればサンクトゥムタワーの行政制御権とやらを行使できるのかだね。"

 

「あ、雨宮先生がサンクトゥムタワーについても聞いてます・・。」

 

「あぁ、つい話過ぎてしまいましたね。」

 

「手短に話しますと、今からお二方にはシャーレの部室、その地下に行ってもらいます。」

 

「今、ヘリを用意しますので。」

 

 

ヘリとな。一般ヴァルキューレの私にはヘリなんてほとんど無縁のものだよ。

いつもやってることと言ったら挨拶運動とゴミ拾いくらいだし・・。

 

 

「・・はい?大騒ぎ?」

 

 

まぁそうはいっても挨拶は返ってきたためしがないしゴミは毎日増えるばかりなんだけどね。

・・・自分で言ってて悲しくなってきた・・。

 

 

「・・・うん?」

 

 

それにしてもリン行政官はどうしたのだろう。

さっきから眉間の濃い皺がより濃くなっているのだが・・。

 

 

 

バキン!!

 

 

室内にいきなり破砕音が響き渡る。

音のした方を見てみると、リン行政官が鬼の形相で携帯を握りつぶしていた。

 

 

「・・えっと、なにかありましたか・・?」

 

 

さきほどまで騒いでいた青髪ツインテもたじたじになっている

 

 

「問題ありません。多少の問題が発生しただけです。」

 

 

多少の問題では携帯を握りつぶしたりしないと思うんですが。

 

 

「軽微の問題が発生しまして、ヘリでの移動が困難になりました。」

 

「え、じゃぁどうやって移動を・・・。」

 

「マユミさん、最低限の自衛は可能ですね?」

 

 

「え?あ、はい。これでもヴァルキューレなので。」

 

 

リン行政官の目がギラリと光る。

 

 

「あ、あの?」

 

「ちょうどここに、各学園を代表する立派で暇そうな方々がいて、私はとても心強いです。」

 

 

「「「「え?」」」」

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。」

 

 

にこりとほほ笑むリン行政官。

 

 

「さぁ、行きましょう。」

 

 

 

しかし、その目は死んでいた。




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