猫先生と私   作:げのげすみ

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猫先生はマユミのバッグに入れられています。


特別給とかってでないんですか?

生活安全局の仕事というのは退屈である。

 

主な業務はパトロールや交通整理、軽犯罪の取り締まりなどであり、一般にお巡りさんとか呼ばれるのが私たちである。

 

確かにキヴォトスの治安は海外サーバーのフリーのFPS並みではある。

 

しかしながら、荒事の多い重大事件などは公安局の管轄であり、私たちは精々雑用に駆り出されることがあったら珍しい程度である。

 

あぁ、もうそろそろ現実に戻らないといけないだろう。

見たくはない現実というのは呼んでもないのに来るものである。

 

 

 

 

「ゴルァ!出しゃばってんじゃねぇぞボゲがぁ!」

 

「すっぞコラ!あぁ!?」

 

「今日のニュースはお前だゴラァ!!」

 

 

 

鳴り響く爆発音。止まらない銃声。今日も彼女たちは元気に声を出しています。

 

なぜ彼女たちはあんなにも元気なのだろうか。

少しはその元気をこちらに分けるか、あるいは巷で話題の爆発物の撤去にでも使ってほしいものである。

 

ちなみにヴァルキューレによると模倣犯含めて先月で3ケタを超えた。

 

 

「クソッ!キリがないわね。」

 

そう悪態をつくのは青髪ツインテ、じゃなくて早瀬ユウカさん。

あんなに太ももを出して寒くないのだろうか?

 

「すいません、ユウカさん。私がこんな時代遅れの銃使ってるばかりに迷惑かけてしまって・・。」

 

「大丈夫です。それよりも今は一人でも減らすことに集中してください。」

 

フォローを入れてくれたのはボンキュッボンの・・じゃなくてスタイルのいい黒髪の羽川ハスミさん。何度見ても凄ぇ乳。

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちがなぜ元気な生徒たちと戦っているのか、それこそがまさにリン行政官より命じられた私たちのやること、らしい。

 

曰く、サンクトゥムタワーの制御権を取り返すためには現在占拠されているシャーレの部室、その地下にあるものが必要だとのこと。

 

なので私たちは仕方なく不良生徒との戦闘を開始したわけだが・・。

 

 

「いっ、痛っ!あいつら好き勝手撃ってきて~!」

 

「伏せてください!」

 

文字通り際限なく湧いてくる敵。

 

 

「っ!砲撃来ます!退避!」

 

 

どこから仕入れたかわからない巡航戦車。

 

「ひぃっ!」

 

ついでに足手まといが一人と一匹。

 

容赦ない砲撃から身を隠す一行。

状態は見るまでもなく最悪の一言に尽きるだろう。

そもそもここにいるのもトリニティのお二人を除けば別に荒事に慣れているわけではない。

というより警備局は何をしているんだ?

あいつら普段はこっちを見下してくるくせにこういう時に使えないとか何の意味があるんだ?

だからヴァルキューレは腑抜けだとか言われるんだ。

 

「どうしましょう・・。私はもう弾がないですし、皆さんも満身創痍ですし・・」

 

「ですが、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すにはあの部室しかないわけですから」

 

「だからって・・。」

 

 

手詰まりだ。

物資もない、増援も望めない、相手はまだぴんぴんしているうえに巡航戦車まであるのだ。

どうしようもない。

 

「一度帰還しませんか?それからもう一度装備を整えて戻って来るというのは」

 

「それはお勧めできませんね」

 

ハスミさんは憎々し気に目をやる。

視線の先では、不良達が手当たり次第に破壊の限りを尽くしている。

 

「我々の目的はシャーレに先生をお連れすること、そして地下の部屋にあるものを使ってサンクトゥムタワーの制御権を取得することです。」

 

「建物ごと壊されそうな勢いですね。」

 

「それをされてしまっては取り返しがつかなくなります。」

 

言われずともわかってはいる、わかってはいるのだが、実際それができるかは別問題だ。

さてどうすれば・・・いっその事、こっちも戦車で・・

 

"やれやれ、黙って聞いていればなんとも辛気臭い。"

 

そういうと先生は私のバッグからするりと降りた。

 

「ちょっと先生!危ないですから入っててください。」

 

"しかし君たちにまかせっきりじゃぁ時間がかかり過ぎというものだからね。いっちょまえに銃なんて撃ち合ってるから戦術のほうもさぞ洗練されたものだろうと思っていたが・・"

 

先生は目元を細めこちらをやや見下し気味に、一般的に煽ってると表現される表情で見渡し。

 

"なんとも年相応にお粗末なものじゃないか!ハハッ、なんとも面白い。"

 

お?表情だけでなくちゃんと煽ってきたぞこの堕猫。ねこまんま(意味深)にしようかな?

 

「えっと・・。先生は何か言っていますか?」

 

こちらに来る途中に先生のことは話している。

当然というか、主にかわいそうなものを見る目で見られたのは限りなく悲しい。

 

「・・・君たちの戦術は発展途上であり、改善の余地がある。と言っています」

 

「なんか上から目線ですね・・。」

 

これでもオブラートなんだから誉めてほしい。

 

"ふむ。人の発言を捻じ曲げるのはジャーナリストと政治家の仕事だぞ?椰子君。君はたしかお巡りさんだったろう?市民の意見もそうやって捻じ曲げてきたのかな?"

 

「うっさい!そこまで言うんならあなたが指揮すればいいじゃないですか!」

 

流石に腹も立ってこよう。

この大人(広義)はさっきから私の背でくつろぐ以外の仕事をしていないのだ。

弾が残っていたら撃ってやりたい。

 

"ん~?人に頼むときはどうするかもわからないのかな?これではヴァルキューレとかいう学校も程度が知れるというものだね。"

 

「っ!言うに事欠いて!」

 

掴みかかりそうになった私を、スズミさんが止める。

 

「お、落ち着いて。」

 

「落ち着いていられますか!なぁにがヴァルキューレはクソ雑魚口だけわんわんだ!」

 

"そこまでは言ってない。"

 

「変わらないでしょう!ていうか、そもそもこれは先生の仕事でしょうが!」

 

"まぁ、それもそうだね。"

 

先生はフム、と一息をつく。

 

"なぜあの不良生徒たちが暴れまわっていると思う?"

 

いきなり質問しないでほしい。

 

「なんで暴れまわってるか?そんなの・・」

 

少しうつむいて考える。

 

「・・連邦生徒会長がいなくなったから?」

 

"ふむ。少しはあっている。"

 

「少しですか?でも実際そうでしょう?」

 

" いや、その少しが違うんだ。時に、あの生徒たちは巡航戦車が買えるような集団かね?"

 

「・・・いえ、違います。彼女たちにそんな収入はないはずです。」

 

キヴォトスにおいて子供は基本的に学校などに入る。

それは勉学のためのみならず、自らの身分証明の意味合いもある。

その象徴ともいえるのが学生証だ。

 

キヴォトスで働く際、まともな店であれば必ず学生証の提示を求めてくる。

最低限、学校にいられるだけのモラルと学力を持っていることの証明となるからだ。

 

しかし、彼女らのように退学している生徒はそうもいかない。

学生証を持てない彼女らはまっとうな仕事にありつけず必然的にアングラな、後ろ暗い仕事に流れ着くことになる。

当然、そんなことをしている奴らが契約を守るはずもないので、彼女らは搾取される。

具体的に言えば契約金を払わない、こちらに金を払わされる、事前に聞かされていないことを強要される、といった具合である。

 

これでは生徒に非ずば人に非ずとも言えてしまうのではないだろうか?

そのような環境であればあのように荒んでしまうのも理解できるかもしれない。

 

彼女らは学生証が欲しくとも、入学するにはある程度の金が必要になる場合がほとんどだ。

さらに言えば、彼女らはそのような環境なので一般的教養を身に着けていない場合が多い。

 

結果、彼女らはいつまでも終わることのなき搾取の渦に飲み込まれているのだ。

 

そのような彼女らが巡航戦車を持ち出すなんて、やっぱり違和感がある。

 

「確かに、不良生徒が持つには高すぎる装備ですね。」

 

「どこからか略奪してきた可能性は?」

 

「それはないでしょう。」

 

ハスミさんが否定する。そういえばハスミさんは治安維持組織の人だったか。

 

「私の所属している委員会でも戦車は保有しています。ですが、かなり厳重に管理されていて、持ち出すのはほぼ不可能です。そもそも、戦車を持っているような組織からその戦車を壊さずに持ち出せるような戦力があるのなら、普通に戦車を買った方が現実的です。」

 

"だろうね。まぁ一部のイレギュラーは無視するとして、あの戦車は異物としか言いようがないわけだ。"

 

いきなり真面目にならないでほしい。温度差で風邪をひく。

 

「えっと・・つまり?」

 

"その頭は飾りかね?考えたまえよ。彼女らは戦車を手にできる環境に非ず、戦力も有らず。ならばあの戦車はどこから来た?"

 

「・・外部から。誰かが彼女たちに渡した?」

 

"その通り。つまりあれは借り物の力というわけだ。"

 

本当にこの人は猫なのだろうか?

同じ情報を共有しているはずなのに、この人は私たちが思いもしなかったことを考えていた。

今からでも敵にしたくないと思えてくるほどに。

 

 

「今はあの戦車が来たかなんてどうでもいいでしょう?」

 

ユウカさんがビっと戦車を指差す。

 

「今考えなければいけないのは!どうやってあの不良を全員残らず鎮圧するかでしょう!?」

 

ユウカさんの指摘に対し、先生はふふんと機嫌よさげに笑う。

 

"全員倒す必要はないよ。精々三分の一かな?"

 

 

三分の一を倒したところで何になるというのだ?

残り三分の二でもこちらを蹂躙するに余りある勢力だというのに。

 

 

"さて、そろそろ指揮をしようか。"

 

うーんと伸びをしながらそうつぶやく先生。

まったく緊張感のない姿とは別に、その小さな身にまとう雰囲気は先ほどとは別物だ。

 

「指揮って・・無理じゃないですか。」

 

"おや?猫差別かね?最近は人権過激派が勢力を・・"

 

「それは解りましたから!だって先生、私以外に声通じてないじゃないですか!」

 

そう、それが問題だ。

指揮はリアルタイムでの情報共有が不可欠だ。

 

"なんだそんなこと。君が代弁してくれればいいじゃないか?"

 

「え、私?」

 

"まぁ君のつたない指令で現場が混乱するのもあれだしね。先に作戦を決めようか。・・全員の装備は?"

 

当事者を一人置いて行ってることに気付いてほしい。

 

  

 

 

 

 

"ふむ。シールド装置に手榴弾に・・まぁこれくらいあれば十分か。"

 

「これだけでですか?」

 

"あぁそうとも。むしろ十分すぎるほどだ。"

 

そういうと先生は私の方によじ登ってきた。意外と重いし爪も立ってるか痛い。

 

"じゃあ、作戦を説明しようか・・。"

 

 

 

「・・マジでやるんですか?」

 

"あぁ、マジだとも。"

 

 

4人に向き直る。

 

「・・これはあくまでも、先生が考案した作戦です。」

 

うなずく。

怪しい小娘が猫と会話しているときにわざわざ待っててくれた優しい人たちだ。

失敗は許されない。

一言一句逃さず話すとしよう。

 

 

「それでは、作戦を説明します。」




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