猫先生と私   作:げのげすみ

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思いついたんです。それだけなんです。


この詐欺にはきっとなにかしらの名前がついている。

その生徒は、一言でいえば詰んでいた。

 

学園からの退学。学生証の失効。キヴォトスの生徒にとって、この事実はうら若き少女を絶望させるに余りあった。

 

何が悪かったのだろう。

 

もっと勉強すればよかったのだろうか?

もっと身の丈に合った学校に入学すれば?

あるいはもっと、自ら動いていれば?

 

どれか一つが違えば人生は変わったのだろうか?

どれか一つを変えればこうはならなかったのだろうか?

 

契約を利用してこき使われることも、まだ退学になってない生徒から後ろ指をさされることもなかったのだろうか?

 

今となってはもう考えるのも煩わしい。

 

今日もいつもと同じように、ただただ生きるだけだ。

 

 

 

 

 

 

「おい、あいつら出てきたか?」

 

ヘルメットをかぶった少女が話しかける。とはいえ、話しかけられた少女もまたヘルメットをかぶっているので区別はついているわけではない。

 

「いや。さっきからうんともすんともいいやしねぇよ。・・・逃げたんじゃねぇの?」

 

今日の仕事はここら一帯の破壊と、依頼主の援護だ。

 

鬱憤のたまってる連邦生徒会の奴らに嫌がらせができる上に、金まで貰えるうまい仕事だ。

今日は珍しく固形物でも食べられるかと思い、愛銃を持ち直す。

 

「逃げたんにしろなんにしろ、あの狐が戻ってくるまで私たちは待機だ。油断するなよ?」

 

「はいはい、真面目だねぇ。」

 

真面目、か。

久しぶりに言われたような気がする。

そうだ、きっと私は真面目だったのだ。真面目で、真面目だったから、真面目過ぎたんだ。

 

キュラキュラと駆動音が聞こえたのでそちらを流し見る。

 

巡航戦車。

一般的には治安維持組織が(それも余裕のある)持っているような代物だ。

こんなものまで用意できるとはあの狐はよっぽど金に自由ならしい。

きっとあの狐なら私のような思いはしないのだろう。

 

 

「・・・うん?」

 

「どうかしたか?」

 

視界の端で何かが光ったような気がしたが・・

 

「いや、きのせ――」

 

 

 

 

 

瞬間、爆音とともに視界が白に包まれた。

 

 

 

 

 

何も聞こえない。見えない。どこだ?敵はどこに?

 

 

徐々に視界が戻ってくる。周囲の確認を、そう思った私に飛び込んできたのは

 

 

「やられた!脱出しろ!」

 

車体下部から出火して破裂音を響かせている巡航戦車と、

 

「どこだ!どこからっ、うわっ!」

 

すでに地に倒れ伏している何人かの同業者

 

 

なぜ?

 

私はどれだけ目をやられていた?敵はどこから?どうやって戦車を?

 

思考がぐるぐるとまとまらない。

 

 

バンッ

 

近くに着弾した。そう思っていたら地面が迫ってきた。

 

撃たれたのだ。意識が遠のく。仲間が逃げている。負けた?この人数差で?

 

薄れる意識の中、私は悟った。

 

嗚呼、そうか。

 

 

わたしは真面目に愚かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、重要な点として、彼女たちの士気は野次馬程度です。」

 

よくテレビとかで作戦会議みたいな場面が出てくることがあるが、まさか自分がやることになるなんて思いもしなかった。

私の前にはユウカさん、ハスミさん、スズミさん、チナツさん。そして背中のバッグに先生。

 

「いくら量があるといえど、訓練されていない一般人の連携なんてそのレベルです。」

 

「確かにそうだけど、流石にあの量は無理ですよ?」

 

「確かにそうです。ですがそれは正面突破をしようとしていたからです。正面の敵に対して撃つ、ぐらいなら彼女たちでもできます。」

 

前に向かって撃ってくださいぐらいの命令ならサルどころかちょっと賢い鼠でもできる。これは戦場が直線的なものであったからだ。

 

「じゃあどうすれば?」

 

「そこが今回のミソです。さっき、彼女たちの士気は野次馬程度だと言いましたよね?」

 

「野次馬は人が集まっているほど強く、厄介になります。」

 

「集団バイアスってやつですね。」

 

人は群れる生き物だ。

故に人は生まれながらにして集団の中でこそ安心する習性を取得した。

 

「そこで先生が定めた第一目標は、あの戦車です。」

 

「あの戦車ですか?」

 

疑念も当然である。あの戦車がいるからこそこちらは苦戦している。ならば倒せれば、とは思うが。

それができないからここまでてこずっているわけで

 

「まず、スズミさん、チナツさんで閃光手榴弾を2方向から、戦車のあたりに投げてもらいます。」

 

現在、不良生徒たちは戦車を大体の中心に両側に散っている。

二手に分かれ、同時に投擲することでより多くの敵をスタンさせる。

 

「閃光手榴弾は4個余ってますね?」

 

「は、はい。あと予備のものが幾つか。」

 

そういうとスズミさんは懐からコロコロと閃光手榴弾を――多くない?

 

「ま、まぁそれとして、ユウカさんには重要な役目があります。」

 

「なに?」

 

非常に心苦しい。本当に心の底から心苦しいが、仕方ない。腹をくくろう。

女には、やらなければならない時がきっとあるんだ。

 

 

「ユウカさんはこの手榴弾を持ったうえで戦車のなるべく近くまで接近してください。」

 

「わかった。それで?」

 

「お二人が閃光手榴弾を投げたタイミングでシールドを発動させたうえで戦車に接近して、タンクに穴をあけてください。」

 

「・・うん?」

 

 

「その後はタンクの中に手榴弾を投げ込んで離脱してください。」

 

「え、タンクの中に・・?」

 

タンクの中に。

なんともおあつらえ向きに穴があるのだからこれもう誘ってるよね?ということらしい。

 

「さすがにやり過ぎでは?普通に戦車の中に投げ込むだけでも・・」

 

「それに、それだと逃げられてしまうんじゃないですか?」

 

「いえ、それだと意味がないんです。」

 

流石にチナツさんは抵抗感があるのか、難色を示す。・・ユウカさんの発想が怖いのだけど溜まってますか?

 

「いいえ、逃がすことが重要なのです。彼女らは野次馬、もっと言えば烏合の衆です。他の仲間が逃げているとなればすぐに逃げだすでしょう。」

 

戦車を破壊することにはもう一つ意味がある。精神的支柱の破壊だ。今の彼女らには巡航戦車という心強い仲間がいる。何かがあっても最悪戦車で吹き飛ばしてしまえばいい。

そんな甘えた考えを吹き飛ばしてやるのだ。

 

「あの・・私は何をすれば?」

 

ハスミさんがおずおずと問いかける。

 

「ハスミさんには閃光の後に5人前後を気絶させてください。パニックを助長させるためです。」

 

「わかりました。」

 

 

「え、いいんですか?こんなゲリラみたいなやり方を・・」

 

実行役のユウカさんが抗議する。気持ちはわかる。いきなりそんなことをすれなんていわれて抵抗しない奴はいない。

誰だってそうする。きっと私もそうする。

 

「現状、これ以上に有効な策がありません。やるしかないのです。」

 

「く、う~っ!」

 

ユウカさんは凄い不服としか言いようがない顔をしながら、急いで支度を始める。

 

 

「それでは、作戦開始です!チナツさんとスズミさん、ユウカさんは所定の位置に移動してください!」

 

それにしても、私がさぼってることがばれなくて本当に良かった。

 

"見 て る よ ?"

 

ひい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵生徒、逃走!作戦成功です!」

 

 

ふむ。さすが私というべきか、マユミ達は作戦を成功させたみたいだね。

やれやれ、この程度の作戦ならパッと思いついてほしいものだが・・まぁ子供にとやかく言うのも大人げないか。

 

さて、さっさとあれを回収しよう。

 

 

 

 

 

「うーん・・・・これが一体何なのか、まったくわかりませんね。これでは壊そうにも・・・。」

 

階段を下がっているとなにやら可愛らしい声が聞こえてきた。

たしか、孤坂ワカモだったか?七囚人とか呼ばれていたが・・。

 

「・・・あら?」

 

おっと、ばれちゃったかな?

 

「"こんにちはお嬢さん?それ、私のなんだけど?"」

 

なるべく刺激しないよう、ゆっくりと歩み寄る。

 

「あら、あららら・・。」

 

うん?どうやらワカモの様子が・・。

 

「し、」

 

「"し?"」

 

 

 

「失礼しました―!!」

 

 

 

そういうとワカモは一目散に逃げていった。

 

「"・・失礼すんならかえってやーって、もう帰ってるか。"」

 

さて。

 

ワカモが持っていたものに手を伸ばす。

 

「"再会といこうか?"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生ー!どこですかー!」

 

あの猫、目を離したすきにどっか行きやがったんだけど。

これでもし私に監督責任がどうこう言われたら全部ぶっ壊して逃げてやる。

 

"こっちだよ。そんなに大声を出さなくても聞こえているとも。そこらの粋がった論破好きじゃあるまいし。"

 

「あぁ、そんなとこにいたんですね・・それは?」

 

"うん?これは私の仕事道具さ。"

 

仕事道具にしてはえらくタブレットっぽい形をしたタブレットですね。

 

「・・お揃いでしたか。」

 

「行政官!」

 

"おひさだね。"

 

 

そこに現れたのはさっきぶりのリン行政官。

思えば行政官も凄ぇ乳してますね。

 

「それではシッテムの箱を・・ってあら?」

 

「箱がどうかしましたか?」

 

箱?箱なんて割といっぱいここにもあるが・・。

 

 

「いえ、シッテムの箱というのは会長が読んでいた名前でして・・それですね。」

 

行政官の指さした先には先生が、もっと言えばその先生が乗っかっているタブレットがあった。

 

「そのタブレットが、ですか?」

 

「はい。・・・起動できたのですか?」

 

 

"うん。サンクトゥムタワーの制御権も移しておいたよ。"

 

「あ、開けたし、タワーの制御権も移したそうです。」

 

それを聞くと行政官は何やら端末を操作して誰かに連絡を取った。

しばらくして、

 

「・・確認しました。・・・本当に先生だったのですね。」

 

 

"失敬な、猫が先生をやってはいけない決まりはないよ。"

 

「あはは・・。」

 

 

 

 

 

 

「そのタブレット・・シッテムの箱は会長が先生のものだ、と言っていたものです。今まで我々にはどうやっても電源すらつきませんでした。」

 

「それの電源をつけ、そして操作したとなれば、貴女が先生であることは疑いようがありません。」

 

そういうと行政官は深々と頭を下げた。

 

「謝罪を。先ほどまで大変失礼しました。」

 

"うぅん。気にしてないからいいよ。"

 

「気にしてないそうです。」

 

「そうでしたか・・ありがとうございます。」

 

 

 

 

「それでは最後にシャーレの案内をさせていただきます。」

 

 

 

 

 

「ここが、シャーレのメインロビーです。・・長らく空っぽでしたが、ようやく主人を迎えることができますね。」

 

行政官はそっと扉を開き、歩みを進める。

 

「そして、ここがシャーレの部室です。先生にはここで仕事をしてもらいます。」

 

 

先生が職場に到着した、ということは。

 

「それでは私もこの辺で・・。」

 

 

「何を言っているのですか?」

 

「へ?」

 

 

何だろう。途轍もなく嫌な感じがする。例えるなら、うっかり地雷ふんじゃったあの時のようなあの感覚がする

 

 

「現在、連邦生徒会長は行方不明です。」

 

「はい、さっき聞きました。」

 

冷汗が止まらない。

 

「私たちは彼女の捜索に全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起こる問題に対応できる余力がありません。」

 

普通逆じゃない?

 

「今も連邦生徒会に寄せられてくる苦情。具体的に言えば、支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど・・。」

 

目が笑ってない。笑ってはいるけどこれは違う。獲物を見つけた時の猛禽類の目だ。

 

 

「もしかしたら、シャーレのお二人なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね?」

 

 

「いや、私入るなんて言ってない!」

 

"あ、入る入らないは私の自由だから。あと助手はもう入れておいてあるよ。"

 

「助手って!ていうか入れたんですか!?」

 

「あら、やる気いっぱいですね。頼もしいです。」

 

ダメだ話が通じない。逃げなければ、逃げて、

 

「ヴァルキューレの方には防衛室長に頼んで話を通しておきます。それでは。」

 

「ちょっ!?」

 

 

 

 

 

 

こうして私は完全に不本意ながら、シャーレの生徒1号生となったのであった。

 




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