猫先生と私   作:げのげすみ

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ここのアロナちゃんは先生の代わりにタブレットの操作もしてくれます。


アビドス廃坑対策委員会
残業代は出ないんですかそうですか。


理不尽極まりない異動から一週間。

私は書類に埋もれていた。

 

「トイレ洋式便座廃止・・・却下・・・ペロロジラ?の捜索及び捕獲・・・却下・・。」

 

リン行政官から面倒な苦情とは言われていたが、まさかここまで面倒なものとは思わなかった。

シャーレ入部の翌日、私に襲い掛かってきたのは大量の環境改善要請・・・という名目の大喜利大会だった。

 

「飲酒可能年齢を15歳までに引き下げる?・・・却下・・・DU地区内での外壁の解放?・・グラフィティ?・・・保留・・。」

 

来る日も来る日も無制限に送り付けられてくるおふざけにいちいち付き合わなければならない。本当だったら全部着拒して破棄したいところだが、シャーレの性質上本当に助けが必要な場合が微塵に存在する。

 

「悪質飲食店への破壊行為の合法化・・・却下。」

 

そのわずかの声を聞き逃さない為にも、この作業は続けなければならない。そう、例え――

 

"やぁやぁ!今日も元気に仕事してくれてご苦労!"

 

本来やるべきであろう人物が悠々自適にくつろいでいたとしても。

日向ぼっこから帰ってきたのだろうか?先生とか呼ばれている堕猫が帰ってきた。

 

「先生。何度も言います。何度も言いますが、これは本来先生が、自ら、やるべき仕事ではないですか?」

"何を言うんだね?これは君こそ、やるべき業務なんじゃぁないかと思うんだがね?"

 

そっちこそ何を言ってるんだごくつぶしの癖に。

 

「どういうことですかヒモニート。」

"失礼な。・・・まぁ、というのもね。確かに、私がやればそれらの業務は滞りなく、そして迅速に終わることだろう。"

 

先生はデスクに飛び乗り、こちらに向き直る。猫でいえば美人な容姿をしている。

 

"しかしそれだと、万が一私が何らかの原因で業務が困難になったときに混乱が生じるだろう?"

「それはまぁ・・・そうかもしれませんが・・。」

 

言っていること自体は事実だから腹が立つ。一週間前のシャーレ奪還戦の時のみならず、私だけで対処できない案件の時などで見せた実力は本物だ。先生は優秀な人間なのだろう。

猫だけど。

 

猫の先生は満足げに頷く。喋らなければ可愛いのにというのはこういう時にこそ使うべきなのだろう。

 

"そうだろう!そうだろう!つまり私がやっているのは、私ほどではないにしろ、私が不在の時に近いぐらいの働きのできる生徒を育てる、人材育成というやつなのだよ。"

"大体、私は先生なのだから生徒を教え導き、より高度な技能や経験を身に着けさせることこそ真の業務と言えるのではないかね?"

「うぐぅ・・ごもっともな意見です・・。」

 

言ってることはまともだ。まともであるからこそ私は口を出したいのだ。

 

"わかってくれたね?じゃあこれ今日の分の仕事なんだけどね"

 

これだ。ただでさえシャーレには大喜利メールが届くというのに先生はそれに加えてさらに仕事を持ってくる。これのせいで最近私はろくに眠れていないのだ。

 

「先生いい加減にしてください!」

"助手の寝顔写真をシャーレの公式HPに乗せてる奴かい?"

「そうじゃな・・って、何してくれてるんですか!?」

"隙だらけだったものだからね?"

「だからね?じゃぁ無いんですよ!」

 

この人は私を困らせることが趣味なんだろうか?

 

「ともかく、必要以上に仕事を持ち込んでくるのはやめてください。流石にキャパオーバーです。」

"そうか。では新規で仕事を持ってくるのはしばらくやめておくとしよう。"

 

あれ?思ったよりもすんなり行ったな?

 

"代わりと言っては何だが・・・"

 

そういうと先生は持ってきた書類・・というか手紙を咥えて持ってきた。

・・・嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

"出張だよ。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッゴホッ、す、砂煙がすごい・・。」

 

出張と言われた私はスクーターに乗ってアビドス高校へと向かっていた。

 

先生が持ってきた手紙。その差出人はアビドスという学校の生徒だった。

曰く、地元のならず者に学校が襲われているので物資の支援などをしてほしい、というもの。

 

シャーレへの依頼にしては珍しくまっとうなものであったので、二つ返事で引き受けたはいいものの・・・

 

「うーん・・この地図間違ってるのかな・・」

 

ものの見事に迷った。

 

"アビドス高校は全校生徒5名の過疎地域だからね・・・更新も不要と思われたんじゃないかな?"

「だったら先に言ってくださいよ・・・。」

 

背中のバッグから後出しの情報をのたまう堕猫。いつ焼こう。いまじゃない?

 

「物資も結構な量持ってきましたし・・もうすぐガス欠ですよ?どうします?」

"どうしますもこうしますも、だれか住民を見つけるしかないんじゃないかな?別に帰りますって言ったら帰れるわけじゃないんだし。"

「そうですけど・・あれ?」

"どうかしたかね?"

「えーと・・・あー。」

 

悪いこととは畳みかけてくるものである。

 

「・・ガス欠です。エンジンもかかりません。」

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、どこなんでしょうね・・。」

"君がわからなければ私もわからないよ。何分、キヴォトスには先週来たばかりなんでね?"

 

 

スクーターがガス欠になった私たちは、大きめの鉄の塊となった我が愛車を押しながらえっちらほっちら歩いていた。

暑いというよりも熱い。ぎらぎらと照り付ける太陽は私たちの体を遠赤外線でじっくりと焼き上げ、もうそろそろミディアムレアの蒸し焼きステーキが完成されることだろう。

 

「先生大丈夫ですか?先生毛深いから大変でしょう?」

"女性に向かって毛深いとは失礼だね。"

「・・先生って女性だったんですか?」

 

ていうか性別あったんだ。

 

"失敬な。雇用契約書に雨宮リナと書いてあったのを忘れたのかい?それとも、この暑さで脳みそがボイルされたのかな?"

 

グロいこと言わないでほしい。ただでさえ吐きそうなのにもっと吐きそうになる。

 

 

「え、えーと・・・」

 

突然声をかけられて後ろを振り向く。するとそこには銀髪犬耳の少女が自転車にまたがってたたずんでいた。

 

「あー。・・怪しいものでは・・」

「うん。それは見てわかってる。・・・どこかへ行く予定なの?ここには特に何もないけど・・。」

 

なんとも親切なお嬢さんだ。最近のキヴォトスにおいてここまで優しい人はかなり貴重だろう。どうかそのままゆがまずに育ってほしい。

 

「私は―・・おおっと。」

 

流石に熱中症にでもなったのだろうか。ふらっと立ち眩みをしてしまった。

 

「大丈夫?・・・これ、スポーツドリンク。」

 

それを見かねたのかお嬢さんは水筒を差し出してくれた。なんだこのお嬢さんは。女神か?

 

「ありがとうございます!」

 

水筒を受け取り、一気に飲み干す。まさに命の味だ。自分の水筒はもう飲み切ってしまっていたから喉は乾ききっていたのだ。

 

「いや、あの、コップ・・。」

 

なにか言っている気がするが一気に飲んだせいで頭がくらくらしている。

それにしてもお嬢さんはどこの生徒なのだろうか?

 

"なぁ、私にも飲ませてくれないか?"

「貴方猫でしょう?猫ってスポドリ飲んでもいいんですか?」

"大丈夫だよ。私は先生だからね。"

 

先生なら仕事してほしい。

 

「・・・猫?」

 

しまった忘れていた。

 

「あ、私は連邦捜査部シャーレから来ました、椰子マユミです。んで、こっちのが雨宮先生です。」

"よろしくー。"

「・・・先生が猫って噂・・本当だったんだ・・。」

 

お嬢さんは私から水筒を受け取った。

 

「私はアビドス高校の砂狼シロコ。・・学校、来る?」

 

やはりこの子は女神かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、本当にシャーレの方に来ていただけるなんて思ってはいませんでした。シャーレのうわさを聞いてすぐに手紙を出してよかったです。」

 

女神・・・もといシロコさんに連れられて私たちはようやく校舎にたどり着くことができた。

 

「いえ、こちらも遭難しかけていたので、シロコさんが声をかけてくださって助かりました。」

「お手柄ですね☆シロコちゃん!」

「ん。」

 

出迎えてくれたのは黒髪眼鏡の奥空アヤネさんミニガン持ってるぺぇのでかい十六夜ノノミさん。

他の生徒は後から来るということなので、一旦持ち込んだ物資の検品をしてもらっていた。

 

「それで・・こちらが先生の・・」

"雨宮だ。よろしくね?眼鏡ちゃん。"

「あ、よろしくだそうです。」

「わ~☆可愛いですね!チョール食べます?」

「先輩!失礼ですよ!」

"今食べたら吐いちゃうからまた今度ね。"

 

ついでに先生との顔合わせも。最初の内は変な目で見られることも多かったが、業務で連れまわされるうちに段々と浸透したそうで、最近のDUでは黒猫に話しかける不審者が増加しているそうだ。

ちなみに本物は首からカードをぶら下げている。

 

「ただいま~・・・って、お客さん?」

 

そういって部室に入ってきたのは黒髪ツインテで猫耳の生えた女の子。たしか、黒見セリカさんだったか。

 

「お邪魔しています。連邦捜査部シャーレの椰子です。こっちは先生の雨宮です。」

"その言い方だとピカピカ言った方がいいのかな?"

「・・本当に来てくれたんだ・・。」

 

その言い方に、というよりは先ほどからの皆さんの反応に少し違和感を覚える。先ほどから来てくれるとは思わなかったという趣旨の発言を繰り返している。その言い方ではまるで、自分たちが要求した支援が届かないと思っていたようではないか。

 

"助手。君はもう少し隠す努力というものをした方がいいと思うぞ。"

「え?」

 

そんなに顔に出ていただろうか?

 

"地図の更新すらされないような過疎地域だ。きっと支援要請自体は今までもしてきたんだろうさ。"

 

そうか。言われてみれば当然の話だ。今まで何の助けもしてくれなかったというのに、いきなり助けが来るなんて都合が良すぎる話だ。

疑り深くなるのも当然だろう。挨拶が返ってこなくなれば挨拶もしなくなる。きっとこれはそういう話なのだ。

 

 

 

「オイゴルァ!!出てきやがれ!!」

 

 

突然、一週間まえからよく聞くようになった類の声が聞こえてきた。

それに続いてつんざくような発砲音も。

 

「っ!あいつらまた来やがったわね!ホシノ先輩連れてくる!」

「・・ノノミさん。あれが手紙で言っていた不良集団ですか?」

「はい!カタカタヘルメット団です!」

 

うわぁだっさぁい。しかしヘルメット団か。つい一週間前まではほとんど縁もゆかりも無い存在だったが・・・。

私は窓からちらりと様子をうかがう。見る限り、同じような格好をした生徒たちが意気揚々と集まってきている。

なるほど。別にヘルメット団という特定の集団がいるわけではなく、ヘルメットを被って集まっている不良が勝手に某ヘルメット団を名乗っているだけか。

いわば珍走団と似たようなものを感じる。となれば、珍走団の時と同じ手が使えるのではないだろうか?

そうだな・・例えば・・・

 

「わんぱくお面ガールズ・・・。」

"君は何を言ってるんだい?"

 

聞かれてたよ。そんな妄想をしていると、セリカさんが桃髪の少女を連れて戻ってきた。

これがホシノ先輩という生徒だろうか?1年で小柄な方の私からしても小さい方だな。

 

「ホシノ先輩連れてきたよ!ほら先輩!起きて!」

「むにゃ・・おじさんはもうちょっと寝ているよ・・」

「ホシノ先輩襲撃です!またあいつらが攻めてきたんです!」

「うへぇ~。それは大変だねぇ~。」

「大変だね~、じゃないのよ!早くあいつらを撃退しないと!」

 

・・おじさん?とてもじゃないがおじさんと言えるような歳も姿もしていないように思えるが?

ていうかこいつなんで起きないんだよ。・・起こすか。

 

「セリカさんセリカさん。起こすの手伝いますか?」

「え?じゃあお願いしま――」

 

そうセリカさんが言い終わるが早いか、私はホシノさんの耳元で愛銃をぶっ放した。

瞬間、鳴り響く爆音。

 

「うわっひゃぁ!」

 

ホシノさんは間抜けな声を上げて床に転がった。

ざまあみろ。

 

「ちょっと!何してるのよ!」

「すいません。さっさと起こしたかったので手荒な真似をしました。けど空砲ですし安全ですよ?」

「いやそういうことじゃなくて!」

 

ふむ。なにかおかしかったろうか?ここ最近よく使ってる目覚ましなのだが。

ちなみにこれで起きなかったら実弾が入る。

耳がきーんとしているのか、まだへたり込んでいるホシノさんに近寄ってしゃがみ、目線を合わせる。

 

「小鳥遊ホシノさんですね?シャーレの方から来た椰子マユミです。先生と一緒に物資を届けに来ました。」

「シャーレの?・・うへぇ。ちょっとみっともないとこ見せちゃったかなぁ。」

「みっともないのはこの際いいです。早めの準備をお願いします。」

「・・・マユミちゃんも戦うの?」

「いえ、私は戦闘に関してはクソ雑魚もいいところなので、ここで先生の護衛をします。」

 

言ってて悲しくなるが私の戦闘技術は壊滅的だ。持っている愛銃も、最低限の自衛用でしかない。

 

「わかったよ。それで、その先生っていうのはどこに・・」

"ここだよ"

「あ、足元です。」

 

いつの間に近寄ったのかは知らないが、ホシノさんの足元に忍び寄った先生。

 

「・・猫?」

「猫っぽいというか、実際猫ですが・・そちらが先生です。」

"よろしく。"

「・・ふぅん。」

 

あれ?ホシノさんから疑いの眼差しを感じるぞ?何でかは解らないなー。

 

「それでは皆さんは出撃してください!私はここでオペレートしています!」

「はぁい!出撃ですよ☆」

 

そうこうしている間に準備が終わっていたようで、アビドスの皆さんは続々と出撃を始める。

 

「・・それじゃあマユミちゃん。アヤネちゃんを守ってあげてね。」

「がってんです。」

 

 

 

 

 

 

 

「・・いつもよりも多い、ですか?」

「はい。本当に体感程度なんですけど・・」

 

皆さんの戦闘が終わるまで暇なのでアヤネさんのサポートに入ることにしたのだが、アヤネさんが妙なことを言い出した。

 

「・・あいつらは基本的に寄せ集めなんですよね?」

「は、はい。退学したり、学校についていけなくなったり、そういった生徒たちが集まったものですね。」

 

そんなやつらが大勢集まってひたすらに一つの施設に対して攻撃を加え続ける?

 

"おや、助手。君も気づいたかね?"

「・・どれのことですか?」

"とぼけるんじゃないよ。君は顔に出やすいといったばかりだろう?"

 

しまった。またもや顔に出てしまっていたか。

先生はアヤネさんの端末をのぞき込みドローンの映像を見つめる。

 

"さてアヤネ嬢。この学校は長期的に攻撃してまで奪いたいような魅力があったりするのかね?"

「っ!ちょっ!」

"助手。通訳。"

 

アヤネさんはこちらを見て怪訝そうな顔をしている。無理もない。あちらからすれば、私が突然騒ぎ出しているのだから。

 

「・・その、先生が、この学校を占領したときの利点はあるのか、と。」

「利点、ですか?」

 

気まずい。だってこの質問は暗に、お前の学校って価値あるの?と聞いているようなものだからだ。

 

「自分で言ってて悲しくはなりますが・・そういったものはこの学校には無いですね・・校舎も砂まみれですし、それに・・・貯蓄もそれほどありませんから。」

"--やはりね。"

「やはり?」

 

先生は得意げに鼻を鳴らす。

 

"彼女たちが攻撃してくる理由がわかったよ。"

「え。」

"それはそうと、今いる敵を排除しないと何も始まらないからね。・・おい助手。シッテムの箱持ってきて。"

「は、はい。・・・まさか。」

"あぁまさかとも。アヤネ嬢。助手に通信をつなげてくれ。"

「あ、すいません。私にも通信をつなげてください。」

「え?・・はい。・・えっと、何を・・」

 

先生がシッテムの箱を起動させる。私には見せてくれないが、あのタブレットには優秀なサポートAIとやらが入っているそうで、それなり使える代物ならしい。

 

"よし、じゃあ助手。準備。"

「・・はい。すいません、アヤネさん。戦闘指揮を一旦こちらに預けてくれませんか?」

「え?ですが・・。」

『いいんじゃない?現状こっちもジリ貧だしさ。』

「ほ、ホシノ先輩!」

『私も賛成。』

『私もですね☆なんでも、先生とその助手さんの指揮はすごいと聞いていますし。』

 

アビドスの皆さんがある程度ノリのいい人たちで助かった。

しかし油断はできない。アビドスの人との初陣だ。今後の信頼関係のためにも失敗は許されない。

 

「うぅ、そこまで言うなら・・。」

「すいません。ありがとうございます。」

 

敵を確認する。およそ30名、武器はARがほとんど、練度は低く、士気もそこまでではない。

勝って見せようホトトギス。

 

 

 

 

「それでは、戦闘指揮を始めます!」




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