猫先生と私   作:げのげすみ

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先生はマユミをからかって遊んでいる節があります。


戦闘を終えて。

 どうも、つい30分ほど前にそれはもう元気よく「それでは、戦闘指揮を始めます!」な~んて言っちゃった椰子マユミちゃん(15)です。

 

 失敗は許されないだのなんだの言った私が、戦闘開始から5分もしない内にわんぱくお面ガールズ(カタカタヘルメット団)の皆さんの罵声が絶叫を含んだ叫び声へと姿を変えたのを見て抱いたのは罪悪感でした。

 私の想定よりもホシノさん達が強かったんです。

 私がジットリとした視線を送っているのがばれたのか、シロコさんがこっちに向かってきた。

 

「さっきの指揮はマユミがやったの?」

「あ……まぁ、はい。」

 

 なんか距離感近い感じがする。シロコさんは基本的にグイグイ来るタイプらしい。

 

「すっごくよかった。いつもよりも動きやすかったし、あいつらもわたわたしてて倒しやすかった。」

 

 ふんす、という効果音が聞こえてきそうなほどに目をキラキラさせて指揮の感想を言うシロコさん。やめてくれ、それほとんど貴方達の力だから。私ほとんど何もしていないから。

 

「あ、でも指揮は先生が考えてたので……私はそれを皆さんに伝えてただけですから」

「それでもすごいことには変わりない。指示だけじゃなくて情報伝達だって早かった。それは間違いなくマユミの凄いところ。」

 

 そこまでべた褒めされるとさすがに罪悪感がわいてくると言いますか……。

 

 「シロコちゃんの言うとおりだよ?誉め言葉は素直に受け取った方がいいと、おじさんは思うな~。」

「そうですね☆噂通りの実力でした!」

 

 ホシノさんとノノミさんが悪乗りしだした。褒め殺しは本当に勘弁してほしい。

 嗚呼、サトシってこんな気分だったのかなぁ……。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 私がマユミちゃんに抱いた第一印象はどこにでもいる不思議ちゃん、だった。

 ただの猫を先生と呼び、あたかも会話しているように接する。気味悪くはあるものの、キヴォトスではそこまで珍しいわけではない、そんな不思議ちゃん。

 

 実際、マユミちゃんの言動からはなにも危なげな様子は見えなかったし、目覚ましにショットガンを持ち出すところ以外は普通の生徒だった。だからこそ、私はマユミちゃんが指揮を執るといった時に反対しなかったのだ。あとになって、後悔するとも知らずに。

 

 マユミちゃんが伝えてきた指揮の内容は相手を同士討ちさせるものだった。死角から攻撃して仲間割れを引き起こし、過度にストレスを与えて撤退の選択肢を奪った。たかだか30人程度のヘルメット団を相手にするにしてはやり過ぎとしか言えない。精々半分ぐらい削れば後は勝手に逃げていくのだから、ここまで徹底的にやる必要はないはずなのだ。

 

 何よりも私が恐ろしく思ったのは、この一連の作業(・・)を私たちに勘付かせることなく終わらせたということだ。

 

 場慣れしている私ですら途中まではなんか言い争ってるな?ぐらいにしか思わなかった。

 マユミちゃんを見る。黒い髪を後ろに束ね、黒猫(先生)とショットガンを担いでいる普通(・・)の少女。

 

 シャーレの助手。生活安全局の生徒。冷徹な指揮官。そのどの肩書にも彼女の姿が重ならない。

 どれかが違うのか?それともどれもが違うのか?

 判らない。

 でも、判らないなら判らないなりにやれることはあるはずだ。

 せめて、後輩たちだけでも守らなくては。

 

 

 本人の考えなどいざ知らず。自問自答と疑心暗鬼の中でホシノは勝手に不信感を募らせていった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

  "やれやれ、いいご身分じゃないか。世の中にはただ食事に誘うだけで何万も払うもの好きだっているんだぞ?"

 

 戦闘が終わり後片付けをしている最中、机の上でくつろいでいた先生が限りなく失礼なことを言い出した。

 

「なに絶妙にセクハラに引っ掛かりそうなこと言ってるんですか。」

 

 昨今は何かとハラスメントだコンプライアンスだと騒がれる時代なのだ。うっかり失言でもしようものならよくて懲戒免職、悪くてお縄だ。私しか聞けないからよかったものの、もし他の誰かが聞こえていようものなら無職に……猫ってコンプライアンスどうこうは適用されるの?

 悶々と悩む私を気にせず、先生は音もなく降りてくる。

 

 "いやなに、助手がいまいち賞賛を素直に受け取っていない感じがしてな?教師としてこれは放っておくわけにはいかないと使命感に燃えた次第さ。"

 

 教師として当たり前だろう?と笑う先生。

 使命感なんかで燃えたのならそのまま燃え尽きてしまえばいいのに。

 自分の仕事もしないような大人が使命感を語るな。

 

「別にいいでしょう。今まで賞賛なんてされるような人間じゃなかったんですから。」

 "ふむ。まあ私と会う前の助手は筆舌に余りあるほどにひどいものだったからね。賞賛など送られるような立場でないと認識は、自己分析がよくできていた証拠でもある。誇っていいぞ?"

「なんでいきなり刺したんです?」

 

 いちいち罵倒しなければまともに褒めることもできないのかこのお猫は。

 褒めるなら褒めるでそのまま褒めてくれればいいのに。

 意地でも褒めたくないのか褒めるのが下手なのかあるいは両方なのか。

 今のトレンドは褒めて伸ばすだぞ?

 

 "まあ頑張ったじゃないか、マユミ。これからも頼りにしているぞ?"

 

 そういうと先生は教室のドアをこじ開けてどこかへ行ってしまった。

 頑張ったじゃないかって、どこまでも上から目線だし、これからもこき使われる事は確定したしでちっともうれしくなんかない。頼りにしてるなんて、今まで言われたことなんかないけれど。

 見ていてくれてうれしいなんて思ってない。

 褒めていてくれてうれしいなんて思ってない。

 うれしくないから私は嬉しくなんかない。

 そうだ。だからきっと私は嬉しくなんかないんだ。

 

「えへ、えへへ♪」

 

 ――頬が緩むのを止められない私は、そんな負け惜しみをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追撃……ですか?」

 

 私が部室に戻ると、アビドス高校の皆さんはなにやら物騒な話をしてらっしゃった。

 

「えぇそうよ!ぎったんぎったんにしてやるんだから!」

「先生方もいることですし、攻めきれる時に攻めてしまおうってことですね☆私は賛成ですよ♪」

 

 ついさっきまでわんぱくお面ガールズを蹂躙してたとは思えない雰囲気ですね。

 今しているのはその敗北者達に追い打ちをかけようという話なのだが。

 

「……にしてもホシノさん。寝起きにしては考えることがえげつないですね。」

「うへぇ~。そんなに褒められるとおじさん照れちゃうなぁ~♪」

「褒めてないです。」

 

 聞いて驚いたが、発案者はホシノさんらしい。ホシノさんのことはなんかちっちゃい強い人ぐらいの認識だったが、やはり経験なども詰んでいるからか思い切りもいいらしい。

 しかし……。

 

「シャーレとしては賛成できませんね。まだやることも終わってませんし。」

「やること?マユミちゃんってなんか仕事あるの?」

 

 ホシノさんが怪訝そうな顔でこちらを見る。

 まさかとは思うが私たちが公務で来た事忘れてるんじゃないだろうか?

 

「今回、私たちシャーレはアビドス高校の生徒の皆さんが不良生徒の襲撃にあったのを助ける目的で指揮をとりましたよね?」

「そうね。あ、指揮よかったわよ!ありがとう!」

 

 だからなんで私を褒めるんだ。まぁそれは置いておくとして。

 

「シャーレは連邦生徒会の所属です。なのである程度は連邦生徒会の規範に基づいた行動をする必要があります。……ここまでは理解できましたか?」

 

「ん。よくわからない。」

「なんとなくは分かりましたね!」

「え……えっと?」

「セリカちゃんはちょっとこっち来ようね……。」

 "教師の真似事とは可愛らしいものじゃないか。素人質問は必要かな?"

 

 おっと理解が絶望的?いつの間にか混じっていた堕猫も加わって頭の頭痛が加速しだしたぞ?

 

「つまり、マユミちゃんが言いたいのは戦闘の事後処理がしたいってことかな?」

「……はい。はいそうですホシノさん。」

 

 わかってくれる人がいるだけでこんなにも心強いとは思わなかった。さっきは電気鼠扱いしてごめんなさい。

 

「鎮圧した不良生徒は基本的にその場所を自治している学園の治安維持組織の預かりになりますが……アビドス高校にはあの数の囚人を収容する能力はないですよね?」

「……そうだねぇ。自分たちで手一杯だって言うのにこれ以上は抱えきれないかなぁ。」

 

 ……少し罪悪感がする。事実確認をしただけとはいえ、私がやったのは「貴方達って規則違反者を制御する程度の能力も持っていませんよね?」と聞いたのだ。ホシノさんが苦い顔をするのは当然といえよう。

 

 「この場合、アビドス高校は彼女たちを手に負えないと判断され、彼女たちは矯正局送りになります。……まぁ今回はそこまで(・・・・)重大な犯罪というわけでもないのですぐに出てくることになるとは思いますが、それでも形式上は収容する必要があります。ご協力をお願いします。」

 

 シャーレはさまざまな特権を有している。万が一、シャーレが暴走したときに止められる存在が今のキヴォトスには限りなく少ない。誰から見ても危険な存在だ。そう思われない為にも、規則は守り続けなければならないのだ。

 

「……う~んと……。」

「……?」

 

 なんだ?さっきから皆さんからの視線がなんというか……生暖かいというか……?

 

「……とりあえず私たちは、一旦彼女たちを連れ帰る必要があるのでその作戦には参加できませんね。できれば協力したいところなんですが」

「……えっと、マユミ。」

「どうしました?」

 

 気まずそうにこちらにシロコさんが歩み寄る。……なぜだか嫌な予感がする。

 そう思っていると先ほどまでほとんどしゃべっていなかった先生が心底愉快そうに声を上げる。

 

 "さて、遅刻魔の助手よ!一度グラウンドを見てみるといい!"

 「……グラウンド?」

 

 グラウンドになにかあっただろうか?グラウンドにはさっき戦って蹂躙したわんぱくお面ガールズの死体が……。

 

 その瞬間、私は駆け出して窓からグラウンドをのぞき込む。少し前まで戦闘が行われていたグラウンド。そこには多少の戦闘の跡があれど、最初にここへ来た時と同じ光景が広がっており、何もなかった。

 

 そこに横たわっているはずの彼女たちの身柄すらも。

 

「き!きえっ!?」

 "消えてなどいないさ!ただ単純にさっきぐらいに起きて勝手に逃げてっただけだとも。"

「なんですと!?」

 

 私はショットガンを取り出して先生に向かって発砲する。しかし私の撃った弾丸は不自然に軌道がそれ、先生には当たらない。

 

「なんで逃したんですか!鎮圧した生徒は収容しなければならないって、この前上司にネチネチ言われたばっかりなんですよ!」

 "何を言っている助手よ。君の上司は私だろう?無い胸を張って光栄に思うといい。"

「だぁれが貧乳へぼ警官だ!」

 "そこまでは言ってない。"

「一緒でしょうが!ぶっ殺してやる!」

 

 何発撃てど先生に私の弾が当たることはなくひらりはらりと交わされ続け、この後3分もしないでホシノさんに鎮圧されました。

 

 

 

 

「それじゃ!カタカタヘルメット団の拠点にしゅっぱーつ!」

「「「おーっ‼‼」」」「……おー。」

 

 しばらくして装備も整えて。私たちはカタカタヘルメット団の拠点へと足を進めていた。

 アヤネさんのドローンによる偵察によると、あいつらはいっちょ前に補給所だの弾薬庫だのを用意しているらしい。なんと憎たらしいことか。

 

「マユミちゃん大丈夫?思ったより抵抗されたからさ、おじさんちょっと強めに殴っちゃったよ。」

「いえ大丈夫です。こちらこそ勝手に熱くなって申し訳ないです。」

 

 まさか銃持って暴れてる私を素手で鎮圧するとは思ってもみなかった。

 やはりアビドス高校の生徒の強さは頭1つ抜けているが、そのなかでもホシノさんは別格のように思える。

 これでも一応ヴァルキューレなんですけど……。

 

「にしてもマユミちゃん言ってたよりも強かったじゃん。」

「ん。ホシノ先輩の動きも目で追えてた。」

「そりゃぁヴァルキューレですので……。」

 

 強者の余裕が憎たらしい。大体、強いといったってそれは弱い民衆相手には強いぐらいといった話だろう。ヴァルキューレが相手しなければならないのはそんな連中なんて比べ物にならないような連中ばっかりだ。そんな奴ら相手に歯向かってケガするぐらいなら私は堂々と逃げる。私はそういう人間だ。

 

『皆さん!そろそろカタカタヘルメット団の拠点です!相手も襲撃に気付いている可能性があります!皆さん気を付けてください!』

 

「わかったよ。……ところで今回は先生の指揮は無いの?」

「はい。別に指揮無くても勝てるだろうし、私無しでも戦えるようにする訓練だと思ってやってきな、だそうです。」

「……先生って思ったよりもいい加減なのね……。」

 

 

 

 

 

 臨戦態勢のままヘルメット団の拠点に忍び寄る。見た感じはスラムにありがちなチーマーの拠点に似ている。もとは公民館などだったのだろう。建物の周りの塀は高く、中の様子はよく見えない。

 バリケードが置かれている入口の方にまわる。

 いやに静かだ。今頃てんやわんやで大騒ぎしていると思っていたがそうではないらしい。

 

 まだ進む。すると奥の方からすすり泣く声が聞こえてくる。私たちの間に緊張が走る。

 

 どうしようかと迷ってる私たちを見て、ホシノさんが先に行くと合図を出した。

 ホシノさんがドアを開けて中に入る。

 そこにいたのは――

 

「ごべんなさい!もうしないからゆるじでぐださい‼」

「わだしたちやとわれてて!おかねなくて!」

「もうじまぜん!もうじまぜん!」

 

 

 べそべそと顔中から汁を垂れ流している推定ヘルメット団の皆さんだった。

 

 

「……えぇ?」




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