前略、敵のアジトへカチコミに行ったらめっちゃ泣かれた。
「ぶえぇぇえぇん!もうじまぜんからぁぁ!」
「部下はわださないから!わだざないから!」
目の前には人目も憚らず泣きわめく、おそらくは同年代であろうヘルメット団の少女たち。
いくら襲撃に来たのがあちらで、こっちは応戦してコテンパンにしただけであろうと、ここまで泣かれてしまうとこちらも何か悪いことでもしてしまったのではないかとありもしない罪悪感にさいなまれる。
「……どうする?」
「どうすると言われましても……」
周囲の確認をセリカさん達に任せ、ヘルメット団の監視を任された私はホシノさんと一緒にすっかり暇を持て余していた。
というのも、本来であればヘルメット団はホシノさん達で鎮圧、その後に拠点の調査等をしてから身柄を拘束して矯正局に……という手筈だったのだ。しかし……。
「えっと……ちょっといいかな?」
「ヒィ!」
会話にならないレベルで怖がられるとは思ってもみなかった。先ほどからずっとこの状態だ。とりあえず事情を聴こうと話しかけても怯えるばかりで会話にならない。たしかにアビドスの皆さんはやり過ぎていたような気もするが、それでもここまで怖がられるだろうか?
話かけるだけで悲鳴を上げられてへこんでるホシノさんを放って置いてリーダーと思われる少女に話しかける。
「こんにちは、カタカタヘルメット団の方。私は連邦捜査部シャーレから来ました、助手の椰子マユミです。今回はアビドス高校の支援に来ただけであなたたちに危害を加える気はありません。取り合えず名前を聞いてもいいですか?」
精一杯の作り笑いと穏やかな声、そして優し気に伸ばす手のひら。どこからどう見ても優しい好青年(誤用)だろう。
先ほどまであんなにも怯えていたのはホシノさんが自分たちを蹂躙した集団の一人だったからに違いなく、顔を出さずに引きこもっていた私はそれに該当しない。
「ヒグッ……なんか胡散臭い……。」
なめんな。
「えーとつまり?あなた方はカイザー?って企業の人から依頼を受けてアビドス高校を襲撃していただけで、個人的な恨みどうこうは特にないと。」
少しだけお時間いただいた結果、彼女たちが話したのは割ととんでもないことだった。
「そうだよぉ。弾薬とかも支援してくれるっていうし、給料もちゃんと払ってくれるっていうからやってたんだよぉ。」
一般的に、ヘルメット団等の不良生徒が受けることのできる依頼は大体が悪条件のものだ。弾薬自前は当たり前、給料が低いか減るってだけならまだいい方で、ひどいところだと逆に金を払わせるところだってあるのだ。
そんな中で言えばこの依頼は破格の条件に思える。弾薬支給、日当も
「それにしても、なんでそんなにお怯えてるんですか?それになんで今日はあんな大人数で……。」
「今まで割と拮抗してたから仲間呼べばいけると思ったんだよぉ……。なのにいきなり訳解んないくらい強くなるし身内で撃ち合ってるとこも出てくるしで怖かったんだよぉ。」
「……部下は渡さないっていうのは?」
「今までの仕返しに内蔵とか売りさばかれると思って……。」
失礼な。まるで人を悪魔とでも言いたいのか。こちらはただの無害な一般生徒×6+αだというのに。
にしてもカイザーか……。
「その依頼してきて、報酬を毎回送ってくるっていう人は本当にカイザーの人間なんです?」
「最初に会った時の名刺に書いてあったんだよぉ……」
それを聞いて私はホシノさんと顔を見合わせる。カイザーと言えばキヴォトスで知らない者はいないほどの大企業だ。その事業は幅広く、民間軍事会社から銀行、リゾートやインフラの開発、兵器の販売からコンビ二まで、様々な分野に手を伸ばしている。
しかしその一方できな臭い噂があるのも事実だ。なのだが……。
「それで、なんだってカイザーはアビドスの皆さんを追い出そうとしてたんです?アビドス高校になにか攻め込んでまで欲しいなんらかがあるとは思えないのですが?」
「知らない。」
「……え?」
「だから知らない。」
「……なんか気になったりとかはしなかったんですか?」
「そんなのない。わかってんだろ?私たちは報酬さえもらえればそれで十分なんだよ。それ以外のことなんてどうでもいいんだ。……きにしてどうにかなるわけでもあるまいし。」
知らないとなればより困ったことになってしまった。せめて原因がなにか別ればカイザーに対して調査も……いや、それは無理か。
なにせ証言しているのがつい最近まで学校に襲撃をかけていた学籍を持っているかも怪しい不良生徒なのだ。適当に金をつかませて適当に証言しているとでも言われてしまってはおしまいだ。せめてなにか、カイザーがかかわっているという確たる証拠があればいいのだが……。
「周り見てきたわよ!ほかに人がいる気配はなかったし、ここにいるので全員見たいね。」
そうこうしているとセリカさん達が帰ってきた。ここにいるのでとはいうが、ここにいるのは精々10人程度だ。あの時いた、残りの20人は逃げたのだろうか?リーダーらしきひとは身を挺して部下を守ろうとしていたというのに、なんとも薄情なことだ。
「それじゃぁ……名前なんでしたっけ?」
「フンッ!お前らに名乗る名前なんて――」
「ホシノさんお願いします。」
「種島ミツリといいますよろしくお願いします。」
素直でよろしいことで。
「それではミツリさん。あなたがカタカタヘルメット団のリーダーということでよろしいでしょうか?」
「そうだ。」
リーダーさん……もとい、ミツリの前に立つ。意外と可愛らしい顔を鼻水と涙でぐちゃぐちゃにしている様はちょっといけない欲望を刺激してくる。
「連邦捜査部シャーレの権限においてあなた達を拘束し、身柄をアビドス高校の生徒会から……そういえば生徒会の人っていますか?」
「あ……えっと、」
「生徒会ならおじさんかなー。それでどうしたの?」
「……?……ホシノさんが生徒会ですね。それではホシノさん、連邦捜査部シャーレはカタカタヘルメット団の身柄引き渡しを要請します。許可していただけますか?」
「そうだね〜。私達じゃどうしようもないし許可するよ。」
「ありがとうございます。それじゃカタカタヘルメット団の身柄はシャーレ預かりとなりました。続いて連邦捜査部シャーレの顧問である先生の助手椰子マユミは、種島ミツリ及び10名のカタカタヘルメット団員について、シャーレ入部を許可します。」
「ちょっと、さっきからなにをしてるの?」
「先生からの指示で、人手がいるから増やしておけと言われたんです。」
「……あーそういうことねー。」
ホシノさんはわかったようだが、セリカさんはまだわかってないようだ。わたわたと混乱している様子が可愛らしい。
「現在、シャーレはアビドス高校を支援している状態ですが、現状の人員では問題解決には不足していると判断します。ですので、」
「シャーレは、カタカタヘルメット団をアビドス高校に派遣し、その指示権限をアビドス高校に貸与します。」
少し前、出発する直前。私は廊下で先生に呼び止められて指示を受けていた。
「シャーレに入部させる?ヘルメット団をですか?」
"そうさ。なにせ今は絶賛人手不足であるわけだし、多いに越したことはないと思わないかい?"
「そうではありますが……。」
正直反対だ。彼女達はどう言い繕おうと犯罪者なのだ。アビドス高校に襲撃をかけ、その校舎を在校生から奪おうとした強盗犯だ。
「
"だから彼女たちは見捨てるべきだと?"
「見捨てる見捨てないどうこうじゃないんです。彼女は罪を犯したんです。ならばその報いを受けなければいけない。それが常識というもので――」
"マユミ。"
思わず、全身が強張る。
先生は何もしていない。強いて言えば私の名前を読んだだけ。
しかし、ただそれだけでまるで猛獣の前にいるかのような威圧感が肌を突き刺す。
"……例えば、水を飲むことは罪だろうか。"
質問。先生からの出題。
「い……いえ、罪にはなりません。」
"そうだね。水を飲まなければ死んでしまうからだ。"
先生が歩いて来て、私の隣に立つ。
"同様に、食べることや眠ること、あとは歩くこともかな?これらの行為は特殊な状況を除いて罪には問われない。これらの行為を禁止した場合、正常な生活を送ることが困難になるからだ。"
先生はまだ歩き、私を追い越す。
私には一瞥もくれずに。
「……だから彼女たちは無罪だとでも言いたいんですか?罪を侵さなければ生きていられないならば、その行為を罪とはしないと?」
沈黙。先生は答えない。
「誰が、いかなる理由で犯そうと罪は罪です。情状酌量がどうこうはあれど、強盗犯は強盗で、窃盗犯は窃盗で、暴行犯は暴行で罪に問われる。それが規律のある社会というものです!」
思わず声を荒げてしまう。
しかし納得ができないのだから言うしかあるまい。
先生が言っていることは仲良しこよしの理想論だ。そんなことでキヴォトスが守れるわけなんてない。
"あの子達はさ、マユミ。どんな子達だったと思う?"
「……はい?」
いきなり聞かれたその質問で、私は呆気にとられた。
"カタカタヘルメット団の子たちだよ。あの子達がヘルメット団になる前、あの子達はどんな生活を送っていたと思う?"
考える。ヘルメット団がヘルメット団になる前送っていた生活だと?
ヘルメット団は基本的に学校からドロップアウトした生徒の集まりだ。要するにろくでもない奴らだ。
「今と対して変わらないでしょう。適当にそこらの生徒か誰かを襲って小遣い稼ぎでもしてたんじゃないですか?」
"不正解だよ助手。前から思っていたが君は物事を深く考えないくせがあるね。"
「言い方腹立つな……。」
器用に二本足で立って前足でバッテンを作ってきた。その器用さをもっと別のことに活かしてほしいものだが……。
"自分の見えている世界だけが全てだとは思わないほうがいいぞ、助手。"
そう言うと先生はどこからともなくシッテムの箱を――――いやちょっと待て今どこから取り出した?
そんな私の疑念など関係なく先生は何やら操作をしている。肉球でも反応するとは知らなかった。あのタブレットの開発者は何を考えて猫でも操作できるタブレットを作ったのだろうか?
"あぁあった。ちょっと助手、こっち来てこれを見たまえよ。"
そう言って先生が見せてきたのは先週に捕まえた別のヘルメット団メンバーについての報告書だった。
たしかこのヘルメット団は全員学校を自主退学していたはずだ。
しかし――
「この人たちが今の話と一体何の関係があるっていうんです?」
それを聞いた(たまに聞いていない)先生は、そのまま画面をスクロールして出身校の同級生の証言などの欄に移る。
"この子は学校でいじめを受けていた。なんでもリーダー格の生徒に目を付けられたそうで、かなり陰湿なこともされたそうだ。"
「……え?」
"自主退学についてもその生徒と取り巻きに無理やりって感じみたいだね。本来であればこのケースは手続きが向こうになるんだけどいかんせん証拠がなくてね。……私にはどうもしてあげれない"
"こっちの子は学費が払えなくてって感じだね。なんとか払おうと頑張ったみたいだけど間に合わなくてそのまま、さ。それから――"
突如銃声が響き、年季に軋んだ床板が抉られる。
私の拳銃は先生の額を向き、その銃口から硝煙を登らせている。
まただ。
確実に当てたと思ったのだが、私が放った銃弾は先生を避けて床に突き刺さった。
この前と同じだ。
しかし、今の私にはそんな既知の事実ですら神経が苛立ってしまう。
「だから、なんだって言うんですか。」
銃口は相変わらず先生に向けている。しかし、たとえもう一度撃ったとしても先生には当たらないだろう。
だからこれは意思表示に過ぎない。
最大限の敵意の意思表示。
銃弾一発が致命傷になるであろう先生への、殺意を向けるという意思表示。
すなわち、私が怒っているということの意思表示だ。
「
"ふざけてなどいないさ。私はずっと真剣だよ。"
「真剣?何を言ってるんですか?」
撃鉄を起こす。わざとらしくカチンと音を立て、再度の警告をする。
「じゃあ、あなたは真面目な人が割を食うのを見逃せっていうんですか?」
一歩近づく。銃口は向けたままでそのままに。
「気に食わないんですよ。不良が更生して普通になりましたーだとか、犯罪者がちょろっとした善行を、さも美談めかせて話したりするのが。どう言い繕おうとそいつらは、マイナスからゼロに戻っただけで何も変わってなんかいやしない。どう考えても最初からプラス側にいた方が偉いに決まってる。」
一歩近づく。すぐにでも飛びかかれる位置。
「いかなる理由があろうと、罪は裁かれるべきなんです。裁かれないまま、なぁなぁで済ますなんてあっちゃいけない。裁くべきだ、裁くべきなんだ!何があろうと!じゃないと私は――」
"マユミ。私は、罪は悔いるべきものだと考えているんだ。"
「……何を、」
"自分がやらかした行いに対して、罪に対して、悔いるべきだと考えている。"
「……当然です。罪に対しての罰はそのためにあります。」
"おや、やっと意見があったね。"
先生はフフッと嬉しそうに笑うと、こちらに歩み寄る。左右に揺れる尻尾は先生の上機嫌を見せつける。
"だが、彼女たちにはそれが無い。"
フゥッと息をひとつ付き、悲しげに目を伏せる。
"それはそうだよ。彼女たちがもう一度やり直すためには学籍が必要、そしてその学籍を取るためにはそれなりの金が必要となる。さらに言えばそれなりの身分もね。……どちらもそこまで落ちた彼女たちには逆立ちしたって手が届かないものだ。"
「それは……」
"学園にも戻れない、けれどもお金が足りない。……追い詰められた彼女たちがどういう選択を取るかはよく分かるだろう?そんなギリギリの生活をしているってのに『お前たちの今の環境はお前達のせいなんだから悔い改めなさい』といっても届くはずがないのさ。悔いてもどうにもならないことは、彼女たちがその身を持って知っているからね。"
"私は、そんな彼女たちを正しく後悔させてあげたい。自分の行いを反省し、そして次に活かす機会を与えてあげたい。私は、あの子達の未来を守ってあげたい。"
嗚呼そうか。
先生は優しいのだ。優しいから生徒の味方であろうとし、優しいから救われずにうずくまっている生徒を見て見ぬふりをしておくことができないのだ。
"私は、あの子達の味方でいてあげたい。"
だからこそ私は、それだから私は、
"私は先生で、大人だからね。"
どうしようもなく先生のことが気に食わないのだ。
「……先生は猫じゃないですか。」
"そうとも限らないよ?もしかしたら、ないすばでぇのせくしぃがぁるかもしれないよ?"
「はいはいそうですねー」
"助手が冷たい!"
私は銃をおろし、懐にしまう。本来は護身用のサブウェポンなのだ。しっかりと見えない場所にしまっておこう。
「わかりました。ヘルメット団のシャーレ入部の手続きはこっちでやっておきます。」
"お、いいのかい?"
「えぇ。彼女たちが何事もなくシャーレの業務を遂行すれば、それは『不良生徒にも更生の余地はある』という前例にもなります。そうなれば、先生の言う後悔できない生徒も少しは減っていくかもしれません。ですが!」
私はビシッと指を先生に向かって指す。
「別に、先生に言われたからとかいう理由じゃありません!最近増加している不良生徒の対策の一環としてであって、
そう言い残して、私はその場をあとにした。
珍しくポカンと口を開けている先生を置き去りにして。
"……そういうのを世間一般ではツンデレとか言うんじゃないかな?"
感想など、お待ちしています。