【停止中:リニューアル版を再構成・連載中】英霊戦線クロスロード ― 異世界の少女勇者、未来戦争に転移しAIと共に人類を救う ― 作:美風慶伍
ルクセンブルク山塊の制圧を終えた報は、瞬く間に各戦線へと伝わった。
やがて、山塊の麓に広がる平原へと、各方面から部隊が集結し始める。
ルミナリア騎士団は整然と陣列を組み、獣人たちは傷を負いながらも誇り高く歩を進め、モントクラウド山岳連邦の兵士とドワーフ戦闘工作団は重装備のまま合流し、アクアリスの民は静かに水の気配をまとってその場に立った。
異なる文化、異なる戦い方、異なる価値観。
それらすべてが、今この一点に集約される。
カリナはその中央に立っていた。
かつては一人の勇者として戦場を駆けていた少女は、今や無数の命と意思を束ねる存在へと変わっている。
カリナは一歩、前へと進み出た。
高地に吹き抜ける風が、その金色の髪を揺らす。
その視線の先には、国も種族も異なる無数の軍勢――それでも今、同じ戦場に立つ者たちがいた。
彼女は静かに息を吸い、そして告げる。
「――ソルスター自由連合軍、点呼を行う」
その一言で、空気が変わった。
ざわめきは消え、ただ〝応えるべき瞬間〟だけが残る。
「アルカナヴァンガード!」
その声にエルリックが、ソフィアが、ミリアがカリナの側に並び立つ。代表してエルリックが答える。
「アルカナヴァンガード、全兵――ここに!」
短く、だが揺るぎない応答。
その中心に立つのは、勇者にして団長――カリナ自身である。
「光国ルミナリア王室聖騎士団、ルミナス・ガーダー」
――ギィン、と一斉に剣が鳴る。
「騎士団長セリアス・ダースブレイズ、ここに」
その声は鋼のごとく、揺るぎない秩序を体現していた。
「海洋国アクアリス国防海軍・海兵軍」
――さらり、と水が流れる音が広がる。
「軍団長オーシア・ウェイウォークス、陣容内にて展開完了」
その一言で、戦場そのものが掌握されていることが理解できた。
「穀倉国グレインリーフ王国・国防兵軍」
「全軍統帥将軍エルビス・アルシェ、兵站・補給線ともに維持済み」
静かだが、軍を支える〝背骨〟のような声だった。
「モントクラウド山岳連邦軍」
――ドン、と地を打つ重音。手にしているのは重く重厚な大口径の雷粒式の野戦小銃だ。
「戦場総司令官ヘレナ・ストーンハート、全重装部隊展開完了」
山を動かすような存在感が、その言葉に宿る。
「ガルガンダイン騎馬騎士団」
――蹄の音が連なる。
「騎士師団総長ローラン・サンストライダー、突撃準備、いつでも可能だ」
風を切るような声だった。
「ヴァルハイト正騎士団」
「騎士団総長アルトゥール・シルバリオ、全騎士、誓約完了」
その一言に、信念と忠誠が凝縮されている。
「魔法国エーテルノヴァ国家近衛軍」
魔力の確かな気配に、微かに空間が歪む。
「総軍総長シルヴィア・ミスティ、魔導戦術展開可能域にて待機中」
理性と魔法が融合した、冷徹な声音。
「ネルガル解放義勇軍」
「代表レグナント・ウーセント、全義勇兵、ここに」
その声には、過去を背負った者たちの重みがあった。
「国際魔法アカデミー機関、ウィザーズ・オブ・ワールド」
――風が巻く。
「エーテルウィングス筆頭魔導士、ルクレティア・ベーリー・オルクス、航空魔導戦力、展開済み」
空を駆ける者の、軽やかながら鋭い声。
カリナは、わずかに視線を巡らせる。
「続いて、異種族連合」
その言葉に、空気が変わる。野生と力と誇りが、一斉に応じた。
「牙狼騎士団、総長ゲオルグ・ハーグマン――参陣」
低く、唸るような声。
「獣人戦闘軍団、総長アーンスランド・スノウクロウ――応じます」
本能と理性の境界にある声。その頭上の見事なる角は鹿獣人の誇りだった。
「ケンタウロス戦闘兵団、ヴェロス・ヴァニスタ――駆ける準備は整っている」
疾走そのものの声。
「リザードマン戦闘兵団、ケラブノス・ストーンバック――鱗の兵はいつでも行ける」
堅牢な守りの意思。
「グローム戦闘兵団」
――ズン、と空気が沈む。
「総長ブルータス・サブルム、今こそ忠義を果たす」
それは〝力そのもの〟だった。
「ドワーフ戦闘工作団」
「総長アルブレヒト・バルゲルズ、工兵・破砕・構築、全て任せろ」
地を制する者の声。
「エルフ部族連合」
「代表ヴェネラ・モンテカルロ、森はすでにこちらにある」
静かで、だが逃れられぬ支配。
「グラスランナー部隊」
「総隊長アルデン・レスピーロ、斥候線、展開済みです」
風のように捉えどころのない声。
「トロール部隊」
『ドゥロックだ』
短いが、それだけで十分だった。
「ゴブリン部隊」
「ギャッ!」
ゴブリンは声帯が無いため声を発することが出来いない。小さいが確かな存在だ。
「巨人種族代表、オーガ族長バルグジン」
――大地が震える。
『ここに在る』
その一言で、戦場の重心が変わる。そして――
カリナは、一瞬だけ沈黙した。
視線が、空へと向く。
「総員確認、他には?」
その問いに答える者は、地上にはいなかった。だが、次の瞬間――
風が裂ける。
空が翳る。
巨大な影が、戦場全体を覆い尽くした。
轟音、そして、降臨――
先頭に立つのは、巨大な黒き竜――マルセウス。
その背後には、幾体ものドラゴンが編隊を成し、空を覆い尽くしている。
――マルセウス・ドラコニウス――
位階竜将――、高位の上級格ドラゴンだ。さらにはその背後に連なる無数の竜の影、
女性の麗しき飛竜たるラピデス嬢もその隣りにいた。
そう、今こそ空が、味方についたのだ。
兵たちの間にどよめきが走る。
恐怖ではない。
畏怖と、そして――高揚。
マルセウスはゆっくりと高度を落とし、カリナの前へと降り立った。
その巨躯が地に触れた瞬間、空気が震える。
黄金の瞳が、まっすぐにカリナを捉えた。
「遅れたな、勇者カリナ」
低く、重い声。だがそこに、敵意はない。むしろ、確かな意思と、選択があった。カリナは一歩前に出る。
「今宵は、いつもの
「当然であろう! かかる戦乱の終局、我が竜たる体で赴いてこそ意味がある!」
ドラゴンの者たちは、その巨躯ゆえに本体ではなかなか姿を表さない。その膨大な魔力の一部を駆使して作る分離霊体――ドラゴニュートで等身大の体を用いて人間と交流を行うのが常。
だが、覚悟を決めてその翼を広げた時、ドラゴンは人びとの前にその巨大な正体を表すのだ。
「来ていただけると思っておりました」
その言葉に、マルセウスはわずかに口元を歪めた。
「貴様が呼んだのではない。我らが、応えたのだ。そなたたちとの〝信頼〟の下に」
その背後で、ドラゴンたちが翼を広げる。
風が唸り、大地の草を揺らし、空そのものが支配されていく。
地上。空中。水域。山岳。
すべての戦力が、ここに揃った。エルリックが静かに息を吐く。
「これで、本当に〝全部〟だな」
ソフィアは空を見上げたまま、小さく呟いた。
「やっと、まともに戦えるって顔してるじゃない」
ミリアが笑う。
「制空権、確保ね!」
セリアス卿が剣の柄に手を置く。
「ならば――あとは、進むのみ!」
「はい!」
カリナは、ゆっくりと周囲を見渡した。
人間、エルフ、ドワーフ、リザードマン、獣人諸種族、ケンタウロス、グラスランナー、ゴブリン、そして、ドラゴン。
すべてが、彼女を中心に繋がっている。
それは支配ではない。
命令でもない。
意思だ。
――共に戦うという、選択の積み重ね――
今こそ彼らの前に立ち、その左腰に下げた聖剣レギオンブレイドを抜刀する。
――シャッ!――
その白銀の刃は、今こそ、ルクセンブルクの高地の台地の上に輝き、その威容を示している。
全員の視線が集中する中、カリナはその胸に大きく息を吸い込み、強く声を発した。
「皆さん! 征きましょう!」
静かに、しかし確かな声で告げる。
「今宵こそ、魔王を――魔族を――魔王軍を終わらせます!」
その一言に、全軍の気配が変わった。
誰もが理解する。
これは、防衛ではない。
これは、反撃でもない。
――終戦のための進軍だ。
――グォオオオオオオッ!――
ドラゴンが咆哮を上げる。
「おおおおっ!」
兵たちが応じる。
大地が、震える。
その中心で、カリナは前を見据えていた。
すべてを背負い、すべてを導く者として。
そして――
戦いは、最終局面へと進む。
「これより! 魔王ヴァルガリアスが居城にして、魔王軍総本山、ダークフォージ城攻略戦を開始します! 各自戦闘準備を命じます!」
「応ッ」
すべての声が一つに重なった。そして、今こそ彼らは唱える。
ソルスター自由連合軍の総意となるあの掛け声を。
カリナは心から大声で叫んだ。
「すべての命に自由を!」
個々に集うすべての人々の声が返る。
「すべての命に自由を!」
今こそ、魔族大戦、最終ステージ。
「行動開始!」
――ダークフォージ城攻略戦――
ここに始まる。