【停止中:リニューアル版を再構成・連載中】英霊戦線クロスロード ― 異世界の少女勇者、未来戦争に転移しAIと共に人類を救う ―   作:美風慶伍

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■12:総攻撃前夜 ―ダークフォージ攻略作戦―

 ルクセンブルク山塊の制圧を終えた報は、瞬く間に各戦線へと伝わった。

 

 やがて、山塊の麓に広がる平原へと、各方面から部隊が集結し始める。

 ルミナリア騎士団は整然と陣列を組み、獣人たちは傷を負いながらも誇り高く歩を進め、モントクラウド山岳連邦の兵士とドワーフ戦闘工作団は重装備のまま合流し、アクアリスの民は静かに水の気配をまとってその場に立った。

 異なる文化、異なる戦い方、異なる価値観。

 それらすべてが、今この一点に集約される。

 

 カリナはその中央に立っていた。

 かつては一人の勇者として戦場を駆けていた少女は、今や無数の命と意思を束ねる存在へと変わっている。

 

 カリナは一歩、前へと進み出た。

 高地に吹き抜ける風が、その金色の髪を揺らす。

 その視線の先には、国も種族も異なる無数の軍勢――それでも今、同じ戦場に立つ者たちがいた。

 

 彼女は静かに息を吸い、そして告げる。

 

「――ソルスター自由連合軍、点呼を行う」

 

 その一言で、空気が変わった。

 ざわめきは消え、ただ〝応えるべき瞬間〟だけが残る。

 

「アルカナヴァンガード!」

 

 その声にエルリックが、ソフィアが、ミリアがカリナの側に並び立つ。代表してエルリックが答える。

 

「アルカナヴァンガード、全兵――ここに!」

 

 短く、だが揺るぎない応答。

 その中心に立つのは、勇者にして団長――カリナ自身である。

 

「光国ルミナリア王室聖騎士団、ルミナス・ガーダー」

 

 ――ギィン、と一斉に剣が鳴る。

 

「騎士団長セリアス・ダースブレイズ、ここに」

 

 その声は鋼のごとく、揺るぎない秩序を体現していた。

 

「海洋国アクアリス国防海軍・海兵軍」

 

 ――さらり、と水が流れる音が広がる。

 

「軍団長オーシア・ウェイウォークス、陣容内にて展開完了」

 

 その一言で、戦場そのものが掌握されていることが理解できた。

 

「穀倉国グレインリーフ王国・国防兵軍」

「全軍統帥将軍エルビス・アルシェ、兵站・補給線ともに維持済み」

 

 静かだが、軍を支える〝背骨〟のような声だった。

 

「モントクラウド山岳連邦軍」

 

 ――ドン、と地を打つ重音。手にしているのは重く重厚な大口径の雷粒式の野戦小銃だ。

 

「戦場総司令官ヘレナ・ストーンハート、全重装部隊展開完了」

 

 山を動かすような存在感が、その言葉に宿る。

 

「ガルガンダイン騎馬騎士団」

 

 ――蹄の音が連なる。

 

「騎士師団総長ローラン・サンストライダー、突撃準備、いつでも可能だ」

 

 風を切るような声だった。

 

「ヴァルハイト正騎士団」

「騎士団総長アルトゥール・シルバリオ、全騎士、誓約完了」

 

 その一言に、信念と忠誠が凝縮されている。

 

「魔法国エーテルノヴァ国家近衛軍」

 

 魔力の確かな気配に、微かに空間が歪む。

 

「総軍総長シルヴィア・ミスティ、魔導戦術展開可能域にて待機中」

 

 理性と魔法が融合した、冷徹な声音。

 

「ネルガル解放義勇軍」

「代表レグナント・ウーセント、全義勇兵、ここに」

 

 その声には、過去を背負った者たちの重みがあった。

 

「国際魔法アカデミー機関、ウィザーズ・オブ・ワールド」

 

 ――風が巻く。

 

「エーテルウィングス筆頭魔導士、ルクレティア・ベーリー・オルクス、航空魔導戦力、展開済み」

 

 空を駆ける者の、軽やかながら鋭い声。

 

 カリナは、わずかに視線を巡らせる。

 

「続いて、異種族連合」

 

 その言葉に、空気が変わる。野生と力と誇りが、一斉に応じた。

 

「牙狼騎士団、総長ゲオルグ・ハーグマン――参陣」

 

 低く、唸るような声。

 

「獣人戦闘軍団、総長アーンスランド・スノウクロウ――応じます」

 

 本能と理性の境界にある声。その頭上の見事なる角は鹿獣人の誇りだった。

 

「ケンタウロス戦闘兵団、ヴェロス・ヴァニスタ――駆ける準備は整っている」

 

 疾走そのものの声。

 

「リザードマン戦闘兵団、ケラブノス・ストーンバック――鱗の兵はいつでも行ける」

 

 堅牢な守りの意思。

 

「グローム戦闘兵団」

 

 ――ズン、と空気が沈む。

 

「総長ブルータス・サブルム、今こそ忠義を果たす」

 

 それは〝力そのもの〟だった。

 

「ドワーフ戦闘工作団」

「総長アルブレヒト・バルゲルズ、工兵・破砕・構築、全て任せろ」

 

 地を制する者の声。

 

「エルフ部族連合」

「代表ヴェネラ・モンテカルロ、森はすでにこちらにある」

 

 静かで、だが逃れられぬ支配。

 

「グラスランナー部隊」

「総隊長アルデン・レスピーロ、斥候線、展開済みです」

 

 風のように捉えどころのない声。

 

「トロール部隊」

『ドゥロックだ』

 

 短いが、それだけで十分だった。

 

「ゴブリン部隊」

「ギャッ!」

 

 ゴブリンは声帯が無いため声を発することが出来いない。小さいが確かな存在だ。

 

「巨人種族代表、オーガ族長バルグジン」

 

 ――大地が震える。

 

『ここに在る』

 

 その一言で、戦場の重心が変わる。そして――

 カリナは、一瞬だけ沈黙した。

 視線が、空へと向く。

 

「総員確認、他には?」

 

 その問いに答える者は、地上にはいなかった。だが、次の瞬間――

 

 風が裂ける。

 空が翳る。

 巨大な影が、戦場全体を覆い尽くした。

 轟音、そして、降臨――

 先頭に立つのは、巨大な黒き竜――マルセウス。

 その背後には、幾体ものドラゴンが編隊を成し、空を覆い尽くしている。

 

――マルセウス・ドラコニウス――

 

 位階竜将――、高位の上級格ドラゴンだ。さらにはその背後に連なる無数の竜の影、

 女性の麗しき飛竜たるラピデス嬢もその隣りにいた。

 そう、今こそ空が、味方についたのだ。

 兵たちの間にどよめきが走る。

 

 恐怖ではない。

 畏怖と、そして――高揚。

 

 マルセウスはゆっくりと高度を落とし、カリナの前へと降り立った。

 その巨躯が地に触れた瞬間、空気が震える。

 黄金の瞳が、まっすぐにカリナを捉えた。

 

「遅れたな、勇者カリナ」

 

 低く、重い声。だがそこに、敵意はない。むしろ、確かな意思と、選択があった。カリナは一歩前に出る。

 

「今宵は、いつもの分離体(ドラゴニュート)では無いのですね」

「当然であろう! かかる戦乱の終局、我が竜たる体で赴いてこそ意味がある!」

 

 ドラゴンの者たちは、その巨躯ゆえに本体ではなかなか姿を表さない。その膨大な魔力の一部を駆使して作る分離霊体――ドラゴニュートで等身大の体を用いて人間と交流を行うのが常。

 だが、覚悟を決めてその翼を広げた時、ドラゴンは人びとの前にその巨大な正体を表すのだ。

 

「来ていただけると思っておりました」

 

 その言葉に、マルセウスはわずかに口元を歪めた。

 

「貴様が呼んだのではない。我らが、応えたのだ。そなたたちとの〝信頼〟の下に」

 

 その背後で、ドラゴンたちが翼を広げる。

 風が唸り、大地の草を揺らし、空そのものが支配されていく。

 地上。空中。水域。山岳。

 

 すべての戦力が、ここに揃った。エルリックが静かに息を吐く。

 

「これで、本当に〝全部〟だな」

 

 ソフィアは空を見上げたまま、小さく呟いた。

 

「やっと、まともに戦えるって顔してるじゃない」

 

 ミリアが笑う。

 

「制空権、確保ね!」

 

 セリアス卿が剣の柄に手を置く。

 

「ならば――あとは、進むのみ!」

「はい!」

 

 カリナは、ゆっくりと周囲を見渡した。

 人間、エルフ、ドワーフ、リザードマン、獣人諸種族、ケンタウロス、グラスランナー、ゴブリン、そして、ドラゴン。

 すべてが、彼女を中心に繋がっている。

 

 それは支配ではない。

 命令でもない。

 意思だ。

 

――共に戦うという、選択の積み重ね――

 

 今こそ彼らの前に立ち、その左腰に下げた聖剣レギオンブレイドを抜刀する。

 

――シャッ!――

 

 その白銀の刃は、今こそ、ルクセンブルクの高地の台地の上に輝き、その威容を示している。

 全員の視線が集中する中、カリナはその胸に大きく息を吸い込み、強く声を発した。

 

「皆さん! 征きましょう!」

 

 静かに、しかし確かな声で告げる。

 

「今宵こそ、魔王を――魔族を――魔王軍を終わらせます!」

 

 その一言に、全軍の気配が変わった。

 誰もが理解する。

 これは、防衛ではない。

 これは、反撃でもない。

 ――終戦のための進軍だ。

 

――グォオオオオオオッ!――

 

 ドラゴンが咆哮を上げる。

 

「おおおおっ!」

 

 兵たちが応じる。

 大地が、震える。

 その中心で、カリナは前を見据えていた。

 すべてを背負い、すべてを導く者として。

 

 そして――

 戦いは、最終局面へと進む。

 

「これより! 魔王ヴァルガリアスが居城にして、魔王軍総本山、ダークフォージ城攻略戦を開始します! 各自戦闘準備を命じます!」

「応ッ」

 

 すべての声が一つに重なった。そして、今こそ彼らは唱える。

 ソルスター自由連合軍の総意となるあの掛け声を。

 カリナは心から大声で叫んだ。

 

「すべての命に自由を!」

 

 個々に集うすべての人々の声が返る。

 

「すべての命に自由を!」

 

 今こそ、魔族大戦、最終ステージ。

 

「行動開始!」

 

――ダークフォージ城攻略戦――

 

 ここに始まる。

 

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