【停止中:リニューアル版を再構成・連載中】英霊戦線クロスロード ― 異世界の少女勇者、未来戦争に転移しAIと共に人類を救う ― 作:美風慶伍
「カリナ様、お呼び及びでしょうか?」
カリナは布団をはねのけながら、シュミーズ姿でベッドから降りる。手にしていたレギオンブレイドは再びベッドの枕元に横たえた。
「着替えます。いつもの魔法剣士装束の用意を」
3人の戦場侍女たちは凛とした姿勢でカリナに向き合う。
「承知いたしました。お体とお顔と髪の毛のお手入れをして、衣装をご用意いたします」
そこからは双方手慣れているのか素早かった。
寝台の脇に、折りたたみの寝椅子が置かれる。そこにシュミーズ姿でカリナが横たわると、侍女たちはまたたく間に手入れをする。
お湯で濡らした清潔布で体を拭き、顔の汗や汚れを落とす。髪の毛は銀の櫛で丁寧に梳いて、ほつれや乱れを整える。
化粧は戦場なのでしないが、日頃の手入れ故に、カリナの素顔はいつでも美しかった。
体の手入れが終われば、侍女たちの手でカリナは静かに戦支度を整えられていく。
すでに身につけた白いシュミーズの上から、体に沿う下衣が重ねられ、背の留め具がひとつずつ留められていくたびに彼女は少しだけ肩をすくめた。
こうして誰かに着付けてもらうのは、何度経験してもあまり慣れない。くすぐったいような、なんだか落ち着かないような気持ちになる。やっぱり自分は、こういうことをしてもらうより、エリュシオと共に剣を振るっているほうが気が楽だ――そんなことを、つい考えてしまう。
次に肩へかけられたのは、白を基調としたサーコートだ。陽の光を受けた布地は真っ白というより、つるりとした磁器みたいなやわらかい艶を返している。侍女たちが丁寧に形を整えてくれるあいだ、カリナはなんとなく居心地が悪くて小さく息をついた。こんな立派な服、自分には少し立派すぎるんじゃないだろうか。そんな気持ちが、つい胸の奥をかすめる。
けれど、肩に重みが馴染んでいくにつれて、不思議と背筋も伸びていく。
さらにその上から、白銀の胸甲が当てられる。脇の留め具が留まり、背の帯が締められると、かすかな金属音が室内に響いた。少し重い。少し息が詰まる気もする。けれど、その重みが体を包むと、気持ちまですっと定まっていくようだった。戦うのが怖くなくなるわけじゃない。でも、ちゃんと立たなきゃいけない時なんだと自然に思えた。
さらに――腰に剣帯が添えられ、足元に装甲付きのグリーブブーツが履かされる。
そして最後に、白磁のマントが肩を包んだ。
「カリナ様、出来上がりでございます」
鏡の中の自分を見て、カリナはほんの少しだけ目を見張る。
この衣装を着るたびに緊張が体をめぐるような気分になる。だが、一つ一つ重ねていくことで心が引き締まっていく。
「聖剣の巫女様、これを――」
最後に銀のサークレットが額に載せられて衣装が出来あがる。彼女の名は――
――勇者カリナ・ウィングス――
そう呼ばれる者として前に立つのだと、白と銀の装いが、静かに教えてくれていた。
手慣れた手付きで、ベッドの枕元に置いたレギオンブレイドを鞘ごと拾い上げ、剣帯に下げる。
そして、数歩歩けばもう心のなかに迷いはなかった。嘆きも、愚痴も、ベッドのぬくもりの中に置いてきたのだから。
「ありがとう、みんな」
カリナのその言葉に戦場侍女たちは頭を垂れる。
「巫女様――、ご武運を」
「お気をつけて」
その言葉を背に歩き出す。そして、聖剣に向けて声をかけた。
「行くよ。エリュシオ!」
『はい、カリナ様』
カリナは意気揚々と天幕の外へと向かうのだった。
§
白磁の天幕の入り口を開けてカリナはその日の第一歩を踏みしめた。
空から降り注ぐ朝の太陽の光を受けて少しだけ目をしかめる。
太陽の光が広がる青い空の下、今日という戦いの日の幕開けを迎える準備が始まっていた。
風に混じって、人々が歩く音、物資を運ぶ音、武器がぶつかり合う音、人々の喧騒の声、それぞれの部隊や軍団が点呼する声も聞こえた。伝令の駆る馬が走る音も聞こえる。
戦場ならではの音に満ちていた。
「カリナ!」
敬称ではなく呼び捨てで呼ぶ声がする。
「エルリック!」
彼の仲間にして側近のエルリックだ。足早にカリナのところへと駆け寄ってくる。
「お目覚めですか」
「ええ、ようやく。ごめんなさいね遅れてしまって」
「なんの、昨夜は遅くまでご公務で奔走してらっしゃったとお聞きしました」
「ああ、戦闘糧食の問題ね。大丈夫それはもう解決したから。それより魔王軍の暗殺部隊の方は?」
「それでしたら牙狼騎士団のゲオルグ卿が全て仕留められたと」
「処刑も済んでるのね」
「その場で」
明確な回答にカリナは満足げに頷いた。
「極めて特別な情状酌量の理由がない限り、悪意ある魔族は全て処分してください」
「心得ております。それより――」
エルリックはカリナと視線を合わせた後、野営地に並ぶ大軍団の方を見ていた。
「これより出陣の儀式を行いたいと思います」
「準備の方は」
「すでに進めております」
そして再び、エルリックはカリナを見つめてくる。その視線の意味がよくわかる。
「あとは私ということね」
「皆が待っております」
カリナは無意識に左手でレギオンブレイドの柄を握った。
「行きましょう!」
カリナは力強く声を上げた。
天幕の設置された野営地から離れるように、大軍隊の展開可能な開けた平原へと歩いていく。そこにカリナが率いる全ての部隊が集結するのだ。
風が吹き抜けカリナの金色の髪と純白のマントが大きくたなびいた。
そしてカリナは右手を掘り振り上げてマントの裾を払う。白いマントが風をはらんで大きく広がった。
その彼女の左腰には、カリナにとって友であり、師であり、母親にも等しい存在である精霊のエリュシオが宿る聖剣レギオンブレイドが光り輝いていた。
カリナが歩いた先には、各国軍指揮官や、各種族の代表たちが集まっている。
彼らに向けて凛とした声を響かせた。
「全員、欠け無く揃っていて重畳です。これからさらに皆の奮起を期待するものです」
居並ぶ彼らの前に立ち、カリナは毅然とした姿勢で力強く叫んだ。
「これより対魔王軍、最終討伐作戦の出陣式を行います」
カリナはその胸に大きく息を吸い込んで力強く叫んだ。
「総軍集結!」
「はっ!」
そして、カリナの号令と命令のもと、8つの国家の正規軍と、10の種族の軍隊が、1つの場所へと集結することとなる。
ソルスター自由連合軍の、魔王軍支配領域への進行作戦、出陣式の始まりであった。