【停止中:リニューアル版を再構成・連載中】英霊戦線クロスロード ― 異世界の少女勇者、未来戦争に転移しAIと共に人類を救う ― 作:美風慶伍
同じ頃。
分断された戦場の別の領域で、すでに戦いは形を変えていた。
そこには、隊列も陣形もなかった。
あるのは――生き残るための、即応だけだ。
「散開しろ! 止まるな!」
怒号と共に、大地を蹴る影があった。
ケラブノス率いるリザードマン戦闘兵団である。
彼らは人間の軍とは違う。整然とした陣形ではなく、地形そのものを読み、個々が判断し、そして群れとして動く。
平坦な草地も、荒れ狂う岩場も、彼らには大差ない。
その機動は速く、しなやかで、そしてしぶとい。
さらにその背後を、鋼のような一団が突き進む。
「牙狼騎士団、右左翼抑えろ! 包囲を抜けるぞ!」
「応ッ!」
ゲオルグの号令が響く。
彼の率いる騎士団は、リザードマンとは対照的に〝剛〟の集団だった。牙が獲物の体を貫くがごとく、重く、速く、そして突破力に特化している。
止まることを前提としない突撃戦術。それがこの状況では、むしろ噛み合っていた。
時に敵影が迫る。魔導強化個体。数は三。
ゲオルグが踏み込む。
「正面、任せろ!」
愛用のスクラマサクス刀を抜き、唸りを上げ振り抜き外殻ごと敵を叩き割る。二体目が横合いから襲いかかるが、その瞬間、地を這う影が飛び出した。
ケラブノスの愛用武器であるショートスピアが敵体内の回路を断つ。
「遅い!」
いずれもカリナのアルカナヴァンガードから下賜された、魔導武器であり、優れた威力を持つものだ。
2人の戦闘力に相応しい優れた武具である。
対して、残る一体は、すでに囲まれていた。
リザードマン兵が微かに鱗を鳴らし足を絡め、動きを止める。そこへ牙狼騎士団の一撃が唸りを上げて飛びかかり、強力な斬撃が叩き込まれ、完全に沈黙した。
ゲオルグが戦況を見ながら周囲を見渡す。
「数は多くないな」
ケラブノスが頷く。
「分断されたな。あの戦場魔法陣の術式――、戦場そのものを切り分けている」
「うむ、そうであろうな」
短い会話だが、それで十分だった。
理解している。これは敗走ではない。〝切り離された戦い〟だ。
ケラブノスは鼻を鳴らす。
「ならば、やることは一つだ」
「突破か?」
「いや――〝繋ぐ〟」
ゲオルグがわずかに笑う。
「他の戦場とか? 気が合うな」
「奇遇だな、俺もだ」
リザードマンと狼獣人、種族はまるで違うが、大地を魂が燃えるが如く駆け抜けるのは同じだ。
それに二人は勇者カリナの信頼が篤い。共に、最前線へと同行を求められることある。
それ故に、戦場では行動をともにすることが多い両者だった。
――と、その時だった。
遠くで、爆音が響く。
視線を向けると、別の領域で戦闘が起きているのが見えた。だが、直接の視認はできない。結界の歪み越しに、断片的に感じ取れるだけだ。
ケラブノスが言う。
「他にも〝生き残り〟がいるな」
ゲオルグは即答する。
「当然だ」
「確かに――勇者カリナ殿がいる限り、我らが軍は崩れん」
その言葉に、迷いはなかった。まさに信じているのだ。だからこそ彼らも動く。
「進路は?」とゲオルグ、
「高地を取る。視界と移動路を確保する」
ケラブノスが指を差す。岩場が連なる起伏地帯。その先に、複数の経路が交差する地点があった。
「そこからなら、どこへでも行ける」
「いいな、トカゲと狼――足場は荒れている方がいい」
「あぁ」
ゲオルグはケラブノスに頷いた。
「なら、そのまま他の連中を拾う。狼の〝鼻〟で探ろう」
「それは任せた」
「おう」
即決だった。
「牙狼騎士団、進軍! 山塊の頂きを駆け抜けるぞ!」
「リザードマン兵団、追従!」
二つの部隊が一つの流れとなって動き出し、その動きに迷いはない。
そして、なによりも速いのだ。
敵が再び現れるが、今度は迎え撃たない。
「雑敵に構うな!」
ケラブノスが叫ぶ。
「抜けるぞ!」
ゲオルグが号令を下す。
真正面からではなく、斜めに切り裂くように進路を取る。リザードマン兵が先行し敵の死角へと潜り込み、注意を逸らす。その隙に牙狼騎士団が刃と牙を振るいながら突破する。
今まさに彼らは、止まらず、戦わず、一気に突破する方策を選んだ。それが、この場では最も合理的なのだ。
「見えてきたな」
ケラブノスが呟き地形が開ける。そしてその先に、魔力の流れの〝歪み〟があった。明らかに他と違う。
「ここだな」
「あぁ」
二人は同時に言った。そこは、戦場の中でわずかに重力干渉と結界の薄い領域だった。
つまり――
「抜け道か」
ゲオルグが呟く。ケラブノスは低く笑った。
「あるいは――合流点だ」
その時、微かに気配を感じた。風の中に、違う流れが混じる。人の気配だ。
「……来るぞ」
ケラブノスが槍を構える。ゲオルグもスクラマサクス刀を手に身構える。
だが、次の瞬間。
「――味方です!」
凛とした声が響いた。現れたのは、軽装の兵――斥候だった。ミリアが放った部隊の者である。
「カリナ様より伝令! 各部隊、生存確認! 再集結命令です!」
ゲオルグが待ってましたとばかりに笑う。
「ほらな」
ケラブノスもまた、牙を見せた。
「繋がったな」
斥候が続ける。
「ゲオルグ様もケラブノス様も健在で何よりです。なお、集結地点は――ルクセンブルク山塊!」
その言葉に、二人は即座に反応した。
「あそこ――いい場所だ」とケラブノス、
「知っているのか?」
「あぁ、魔王城から出張りの防御陣を作るには最適の山地」
「それはいい。攻防、動きやすいぜ」
理解が早い。だから迷わない。
「進路変更!」
ゲオルグが剣を掲げる叫んだ。
「目標、ルクセンブルク! 合流するぞ!」
「応ッ!」
部隊が応える。
その声は、確かに力強かった。
分断された戦場。
だが、戦いはまだ終わっていない。
むしろ――
ここから、繋がり始める。