【停止中:リニューアル版を再構成・連載中】英霊戦線クロスロード ― 異世界の少女勇者、未来戦争に転移しAIと共に人類を救う ―   作:美風慶伍

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■6:突破者たち

 同じ頃。

 分断された戦場の別の領域で、すでに戦いは形を変えていた。

 そこには、隊列も陣形もなかった。

 あるのは――生き残るための、即応だけだ。

 

「散開しろ! 止まるな!」

 

 怒号と共に、大地を蹴る影があった。

 ケラブノス率いるリザードマン戦闘兵団である。

 彼らは人間の軍とは違う。整然とした陣形ではなく、地形そのものを読み、個々が判断し、そして群れとして動く。

 平坦な草地も、荒れ狂う岩場も、彼らには大差ない。

 その機動は速く、しなやかで、そしてしぶとい。

 

 さらにその背後を、鋼のような一団が突き進む。

 

「牙狼騎士団、右左翼抑えろ! 包囲を抜けるぞ!」

「応ッ!」

 

 ゲオルグの号令が響く。

 彼の率いる騎士団は、リザードマンとは対照的に〝剛〟の集団だった。牙が獲物の体を貫くがごとく、重く、速く、そして突破力に特化している。

 止まることを前提としない突撃戦術。それがこの状況では、むしろ噛み合っていた。

 

 時に敵影が迫る。魔導強化個体。数は三。

 ゲオルグが踏み込む。

 

「正面、任せろ!」

 

 愛用のスクラマサクス刀を抜き、唸りを上げ振り抜き外殻ごと敵を叩き割る。二体目が横合いから襲いかかるが、その瞬間、地を這う影が飛び出した。

 ケラブノスの愛用武器であるショートスピアが敵体内の回路を断つ。

 

「遅い!」

 

 いずれもカリナのアルカナヴァンガードから下賜された、魔導武器であり、優れた威力を持つものだ。

 2人の戦闘力に相応しい優れた武具である。

 

 対して、残る一体は、すでに囲まれていた。

 リザードマン兵が微かに鱗を鳴らし足を絡め、動きを止める。そこへ牙狼騎士団の一撃が唸りを上げて飛びかかり、強力な斬撃が叩き込まれ、完全に沈黙した。

 ゲオルグが戦況を見ながら周囲を見渡す。

 

「数は多くないな」

 

 ケラブノスが頷く。

 

「分断されたな。あの戦場魔法陣の術式――、戦場そのものを切り分けている」

「うむ、そうであろうな」

 

 短い会話だが、それで十分だった。

 理解している。これは敗走ではない。〝切り離された戦い〟だ。

 ケラブノスは鼻を鳴らす。

 

「ならば、やることは一つだ」

「突破か?」

「いや――〝繋ぐ〟」

 

 ゲオルグがわずかに笑う。

 

「他の戦場とか? 気が合うな」

「奇遇だな、俺もだ」

 

 リザードマンと狼獣人、種族はまるで違うが、大地を魂が燃えるが如く駆け抜けるのは同じだ。

 それに二人は勇者カリナの信頼が篤い。共に、最前線へと同行を求められることある。

 それ故に、戦場では行動をともにすることが多い両者だった。

 

――と、その時だった。

 

 遠くで、爆音が響く。

 視線を向けると、別の領域で戦闘が起きているのが見えた。だが、直接の視認はできない。結界の歪み越しに、断片的に感じ取れるだけだ。

 ケラブノスが言う。

 

「他にも〝生き残り〟がいるな」

 

 ゲオルグは即答する。

 

「当然だ」

「確かに――勇者カリナ殿がいる限り、我らが軍は崩れん」

 

 その言葉に、迷いはなかった。まさに信じているのだ。だからこそ彼らも動く。

 

「進路は?」とゲオルグ、

「高地を取る。視界と移動路を確保する」

 

 ケラブノスが指を差す。岩場が連なる起伏地帯。その先に、複数の経路が交差する地点があった。

 

「そこからなら、どこへでも行ける」

「いいな、トカゲと狼――足場は荒れている方がいい」

「あぁ」

 

 ゲオルグはケラブノスに頷いた。

 

「なら、そのまま他の連中を拾う。狼の〝鼻〟で探ろう」

「それは任せた」

「おう」

 

 即決だった。

 

「牙狼騎士団、進軍! 山塊の頂きを駆け抜けるぞ!」

「リザードマン兵団、追従!」

 

 二つの部隊が一つの流れとなって動き出し、その動きに迷いはない。

 そして、なによりも速いのだ。

 

 敵が再び現れるが、今度は迎え撃たない。

 

「雑敵に構うな!」

 

 ケラブノスが叫ぶ。

 

「抜けるぞ!」

 

 ゲオルグが号令を下す。

 真正面からではなく、斜めに切り裂くように進路を取る。リザードマン兵が先行し敵の死角へと潜り込み、注意を逸らす。その隙に牙狼騎士団が刃と牙を振るいながら突破する。

 今まさに彼らは、止まらず、戦わず、一気に突破する方策を選んだ。それが、この場では最も合理的なのだ。

 

「見えてきたな」

 

 ケラブノスが呟き地形が開ける。そしてその先に、魔力の流れの〝歪み〟があった。明らかに他と違う。

 

「ここだな」

「あぁ」

 

 二人は同時に言った。そこは、戦場の中でわずかに重力干渉と結界の薄い領域だった。

 

 つまり――

 

「抜け道か」

 

 ゲオルグが呟く。ケラブノスは低く笑った。

 

「あるいは――合流点だ」

 

 その時、微かに気配を感じた。風の中に、違う流れが混じる。人の気配だ。

 

「……来るぞ」

 

 ケラブノスが槍を構える。ゲオルグもスクラマサクス刀を手に身構える。

 だが、次の瞬間。

 

「――味方です!」

 

 凛とした声が響いた。現れたのは、軽装の兵――斥候だった。ミリアが放った部隊の者である。

 

「カリナ様より伝令! 各部隊、生存確認! 再集結命令です!」

 

 ゲオルグが待ってましたとばかりに笑う。

 

「ほらな」

 

 ケラブノスもまた、牙を見せた。

 

「繋がったな」

 

 斥候が続ける。

 

「ゲオルグ様もケラブノス様も健在で何よりです。なお、集結地点は――ルクセンブルク山塊!」

 

 その言葉に、二人は即座に反応した。

 

「あそこ――いい場所だ」とケラブノス、

「知っているのか?」

「あぁ、魔王城から出張りの防御陣を作るには最適の山地」

「それはいい。攻防、動きやすいぜ」

 

 理解が早い。だから迷わない。

 

「進路変更!」

 

 ゲオルグが剣を掲げる叫んだ。

 

「目標、ルクセンブルク! 合流するぞ!」

「応ッ!」

 

 部隊が応える。

 その声は、確かに力強かった。

 分断された戦場。

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 

 むしろ――

 ここから、繋がり始める。

 

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