片や白を思わせる女。
片や黒を感じさせる女。
対照的な二人が、無言で相対していた。
「私を待っていたと言っていたが」
沈黙の中、口火を切ったのは未来。
「あれは一体どういう意味だ?」
「単純な話です」
そういえば、と思い出したように。
エレクトラも口を開く。
「
「未来の?」
その言葉に、未来は眉をひそめる。
「私達にとって、この世界の時間は可逆的なものです」
なんでもないように、エレクトラはそう言う。
「過去も未来も、有って無いようなものです。私達は可能性という大地を自由に歩く事ができる」
「それはまた大きく出たな」
それが本当だとすれば恐るべき事だと未来は心を引き締める。
ならば目の前の相手は完全に自分という単なる人間を超越した存在という事になる。
「あまり大仰に考える事は無いですよ」
まあまあと宥めるように、なんでもないようにエレクトラはさらに続ける。
「未来さんの居た星でも、直に似たような状況には到達していたでしょう。貴方が思う程突出して上位の存在というわけではありませんよ、私達は」
どうでも良い事です、と。
エレクトラは、本題を切り出す。
「私が貴方に会いに来たのは、
すっとエレクトラが立ち上がる。
手に本を握り、すっと優雅にそれを開く。
「貴方はいずれ、世界を滅ぼす。それは変えられない未来です」
ぱらぱらと開いた本を謳うように、エレクトラは歩く。
こつ、こつ。
床を、無いはずの床を靴が叩く音が辺りに響く。
「故に、私達が干渉する必要が出てきました」
「世界の敵認定でもされてしまったのかな」
おどけるように、未来も返す。
世界を滅ぼす、という言に、彼女は欠片も心を動かされなかった。
それを為す可能性は十二分に存在する自覚は有ったからだ。
「つまり、先んじて私を消しにでも来たか?」
「どうにも信用が無いですね」
うーん、とエレクトラが困り顔をした。
「最初に言っておきますが、別に世界を滅ぼす事については特に何も言うことが無いんですよ」
ふう、とエレクトラは溜息を漏らす。
どうにも会話が噛み合っていないと、彼女自身思っているのがありありと見え隠れしていた。
「はっきり言って
そう零すエレクトラは本当に困りきり、嘆いていた。
どうしようもない、と愚痴りながら。
「ここに居るヴェネリサール王国の人類や魔王では貴方に勝てる要素が皆無です。現時点の未来さん相手ならおおよそ互角でしょうが、半年後には逆転し、一年後には圧倒します」
まるで見てきたように――いや、実際見たのだろう。
確定した未来を、白い少女は語る。
「問題はそこです。
「戦争が終わるなら、良い事じゃないのか?」
ふうん、と未来は一言返す。
察するに、魔族を叩き潰して人類が勝つと言いたいようだが――
「この世界は、白と黒の軍勢が覇権を争うただそれだけの為に存在します」
エレクトラはそう一言告げる。
「即ち
その言葉に、未来は僅かに表情を動かす。
「それを知った魔王は白の軍勢を生かさず殺さず、ぎりぎりの所で倒さないように世界を保っています。この世界が滅びていないのは、魔王の調整が上手く行っているからです」
「驚きでもなんでもない真実だな」
未来は既に、この世界のおかれている状況を、朧げながらに理解していた。
召喚されてから大魔将との決戦。
そこまでに得られていた情報が語っていた。
「そんな事だと思ったよ。少なくとも、魔族とやらが三味線弾いているのは明らかだった」
魔将に大魔将。
その戦力は、控えめに言っても
未来の目から見て、戦闘が成立していない事は明白だった。
「そんな魔王でも、貴方には勝てない」
エレクトラはそう断言した。
予測ではない、既知の事実として。
「未来さんが現れるまで、魔王は私達が最も注目する存在でした。期待の新人と言ってよかった」
ですが、と。
「すぐに貴方が現れた。貴方は戦闘力一つとっても、魔王の上を行く。ましてやそれ以外は比べ物にならない」
ぱたり、とエレクトラが本を閉じた。
そして沈痛な面持ちで、スツールにそれを置く。
「せめて、拮抗しないまでも多少粘るくらいはして欲しかったのですが。貴方が本気を出すと、魔王は捻り潰されてしまう。そして魔王が潰れると、連鎖して世界が終わる」
ある意味、今の世界を護っているのは魔王だった。
生かさず殺さず、世界が消えないように苦心している。
その魔王を除いた瞬間、この世界は終わるのだ。
「ですから、ここに来たのです。魔王を倒してしまっても、世界が終わらないようにする為に」
「なんかやたらと物騒な扱いをされているような気がするが」
まだやっていない事であれこれ言われてもな、と未来は思う。
「具体的にはどうするんだ?」
「貴方を第三勢力として設定します」
白と黒、何れかが除かれれば世界は終わる。
「この
ならば、その前提を変えればいい。
「さしずめ、
「私にこの世界の戦争に加われと?」
天音寺未来は別に暴力を好んでいるわけでない。
必要が無ければ永遠にそれを遠ざけたいとすら思っている。
皮肉な事に、人類でも屈指とも言える暴力行使の才能を持ち合わせているのだが。
だから戦争をしろと言われても、御免被りたいと思うのが本音だった。
「別に積極的に介入して欲しいとはこちらも思っていません」
でも、とエレクトラは言う。
「
「まあ、するかな」
未来はこれからの事に思いを馳せる。
牽引派。
彼らに相応しい処理を行うことは、夜に眠るのと同じ程度に彼女にとっては自然な事だった。
「貴方は将来、
エレクトラは既に知っている。
未来がどれだけ恐ろしい存在に昇華されるか、既に理解している。
「まあそれはいいのですけど、それで大体世界が終わるので困るんですよね。世界が終わると貴方も消えてしまうので」
困ったものですね。
そう言いながら、エレクトラは虚空に手を翳した。
「
本当に嬉しそうに、彼女は手を宙に泳がせる。
「未来さんを第三勢力化するにあたり、懸念点が一つありました。
うんうん、とエレクトラは何かを確認していた。
そしてタッチパネルを操作するような、そんな素振りを見せていた。
「私が過去で貴方に干渉できる時期はここだけ。故に、ここまでに
「その
おおよそ予測はつくが、と思いながらも未来は質問をする。
「この
相手の陣営を攻撃し、打撃を与えることで得られる資源。
それが
彼らが殺し合うのは定められたルールであるが、それだけで殺し合う事などできない。
だからこそ、明確なメリットが与えられたのだ。
「これを利用する事で様々な恩恵が得られるはずだったんですけどね」
そこでエレクトラは苦笑する。
「白の軍勢は途中で使用法を失伝してしまって……今では、なんとなくでしか使えていません。この辺りも、黒の陣営に惨敗した理由でしょう」
「何やってるんだこの世界の人類」
そんなに重要なものの使い方をどうやったら忘れられるのか、未来には疑問しか無かった。
だが同時に考えられないような愚かしさを発揮するのも人だと知っている。
何かやらかしたんだろうな、と予想しながら、そこで未来は思いつく。
「……もしかして、
この徳とは、もしかして
「そうですね。本来なら復元要請と言うものなんですけど」
「やはりな」
巫女が使う祈り。
それは元来、
それがいつしか本来の意味を失い、ただ使用法だけが残った。
「この世界の巫女は
「白の軍勢はどうにも身内で争うのが日常で」
多種多様な人種を擁した光の民。
彼らはそれ故に魔族だけでなく互いに争い、征服しあう歴史を歩んできた。
「かつてエルフが一大勢力を築いた時代が有ったのですが、その時に一度宗教勢力が消滅寸前まで行った余波のようです」
「いやほんと何やってんだこの世界の人類」
人は愚か。
特にお前ら。
外様の未来としては、幾らなんでも馬鹿過ぎないかと言いたくもなってしまう。
「敵が居れば人類は団結するなんて、夢物語だったという事か」
「炭素系知性体なんて所詮そんなものですよ」
ふう、とエレクトラが一息つく。
「話を戻しましょう。未来さんは現状、この世界で最も多くの
ゆっくりと、エレクトラは未来へと向き直り、言った。
「貴方が大魔将を倒せるよう、導いた甲斐が有りました」