木の
未来はそれをじっと見つめていた。
部屋の壁に据え付けられた木製の棚。
重量物に耐え得るようしっかりとした作りと大きさになっているその下には、ある物が存在していた。
やはり木製の、背負い袋程度ならすっぽりと入ってしましそうな大きな箱――冷蔵箱。
その箱に未来の目は釘付けだった。
「やはり、気になる」
足組して椅子にどっかと座りこんでいた未来がすっと立ち上がる。
そしてつつつとおもむろに箱に近づいた。
「ぱっと見は単なる木の箱だが」
高さは一メートル強、幅は大体六十センチ程度か。
電化製品で言うなら一人世帯向け小型冷蔵庫に近いサイズだった。
作りもやはり冷蔵庫に近しい。
前面は扉状になっており、ぱかりと開く作りとなっていた。
扉横にはボックスラッチが三つ備え付けられており、がっちりと扉を閉じている。
「このパッキンは……ゴムではないな」
本体と扉の間の隙間を埋めるパッキンは、軟質の素材が使われていた。
しかしそこに使われているものは未来にとって未知の物質だった。
「弾性はゴムに劣るが、耐久性はこっちの方が有りそうだ」
指で軽く押しながらその感触と硬度を確かめ、ふむふむと頷く。
こんなところで異世界を感じるとは何とも奇妙だな、と未来は思った。
次に扉に手をかける。
左端、ラッチの付いている側に取手が一つ。
パチンと小気味よい音でラッチを解放し、取手を掴んでゆっくりと引く。
隙間から懐かしい冷気が漏れ出てくるのを未来は感じた。
「これは確かに冷蔵庫だな」
ひんやりとした心地よい感触が、未来の手を撫でる。
ほんの少し火照った手の甲に丁度良い、ちょっとした風の悪戯に心が踊る。
箱の断面を見れば、単なる大きな木製の木箱が立っているだけのように見えた。
こつんと軽く表面を叩く。
間に断熱材の類が使われている様子は無い。
そういう素材が無い為、熱が伝わりにくい木製なのだろうと未来はあたりを付ける。
「ふむ」
内側の底面。
そこに、四角く区切られた部分を見つける。
何かの蓋のようになっているそこは、四方の角がビス止めされていた。
「ここに魔石が嵌っているのかな?」
魔導具が魔石で動くという知識は未来にも存在していた。
外部に収められている部分が見当たらないのであれば、ここが第一候補という事になるだろう。
「流石に無理矢理開けるわけにも行かないか」
興味は有るが、こじ開けて破損させるのは不味い。
仕方ないのでここはスルーする。
「冷気は……全面から出ている?」
冷蔵庫のように、冷気の吹き出し口から冷たい空気が出る構造ではない。
まるで躯体そのものが熱を奪うかのように、その箱の表面が冷たくなっている。
同じ冷やす道具ではあるが、似て非なるものだなと未来は思う。
冷たい空気を送る冷蔵庫に対し、内部の熱自体を奪っている冷蔵箱。
同じ結果を得る為、各々が別のアプローチを取っている。
「興味深いな」
取れる手段の違いによる、結果の相違。
そこに知的好奇心を刺激されずにはいられなかった。
「ただいまです」
宿の周囲を見て回って、トトが帰ってきた。
ドアを開けると誰も居ない?
あれ?と思うのも束の間。
トトはそれを見つけた。
未来が、冷凍箱にみつしりと詰まっていた。
体全体をそこに居れ、べたりと張り付くようにしている。
「何やってるですか、おめえ」
唐突な奇行に、トトはちょっと引いた。
子供でもやらねえですよこんなの。
箱に詰まっている未来は、頬を箱の内面に擦り付けたまま、一言答えた。
「好奇心の、充足かな」