崩界のオブリテレーター   作:エチゼン鏡介

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第6話 解明と対策

「帆がどうやって能力の干渉を受けたか。それをまず知る事が必須だ」

 

 そんな私達の様子を他所に、未来さんが話し続けている。

 

「一番有り得そうなのはハンドルに接触する事が条件になっているパターン。これなら、ハンドルを掴んだ直後に硬直した事に説明が付く」

 

「そうなると敵は事前にこっちの予定を把握した上で罠を仕込んでたって事になるな」

 

 敵。

 

 そう四十八願さんが言うのを聞いてどきりとした。

 

 うん、敵だよね。

 

 自分たちを殺そうとして、恩寵(チート)まで使ってくるような人。

 そんな人を表す言葉なんて、敵しかない。

 

 剣を握って殴り合ってるわけじゃない。

 

 でも今私達は確かに、誰かと戦っているんだ。

 

 それを自覚した時、ちょっとだけ震えが止まった気がした。

 

 まだ怖いよ。

 

 でも、誰かにこうして負かされるのは、なんか嫌だって、そう思った。

 敵が誰かも分からないけど。

 でも具体的な「誰か」が居るのが判ったらなんか、やり返したい気分になってきた。

 

 負けたくないんだ、こんな事する人に。

 

「でもそれなら、もし門が閉まる前にハンドルに触っちゃったら失敗しますよね」

 

 だから自然とそんな言葉が口から出た。

 ふとした疑問が、そのままに。

 

 敵になんて負けてやらないって、そんな気持ちが私を後押しした。

 

「良いところに気づいたね、南那」

 

 未来さんがまるで、正解に辿り着いた生徒を見守る先生みたいに笑った。

 

「そう、この条件だと確実性が低い。誰かが掃除中にハンドルを磨こうとしただけでアウトだ。それに、そのような能力だったらハンドルに限る必要も無い」

 

 だから、と未来さんは続ける。

 

「なので接触が条件とは考え辛い。そうなると、一定範囲に効果を及ぼす恩寵(チート)ではないかという仮定が浮かび上がってくる。一定範囲に入って条件を満たした時に発動するとかね」

 

「でもやっぱり、それでも掃除の最中に偶然発動しちゃうんじゃ?」

 

 そう言ったのは麻美ちゃんだった。

 麻美ちゃんも私と同じ気持ちなのかな。

 ただ待ってるだけじゃ悔しいって。

 そうだとちょっと嬉しい。

 

「だから、これまでの情報を総合すると、条件発動型ではないと思われる。つまり、任意発動型だ。敵はどこからかこちらを認識して、それで恩寵(チート)を使っている。その可能性が最も高い」

 

「どこか、って……そんなとこ有るのか、お嬢」

 

 ここ密室だぜ、と四十八願さんが言う。

 

 確かにそうだよね。

 こんな完全に閉じ込められた場所、どうやって確認してるんだろう。

 日本だったら監視カメラとかが有ったかもしれないけど、ここはファンタジー世界。

 そんなもの有るわけ無いし、有ったとしても私達が使えるとも思えない。

 

 じゃあ、どうやって?

 

「あ!」

 

 そこで麻美ちゃんが、何かに気づいたように声を上げる。

 

「あるじゃん! ここを覗ける場所!」

 

 そう言って、麻美ちゃんは天井を指さす。

 

「あれ、採光窓!」

 

 指の先には、天井に小さく空いた穴のようなものが有る。

 窓、っていうのもちょっと憚られるんだけど、穴っていうより管?なんだよね。

 

 小さい細い管みたいなのが地上に向けて空いていて、そこから太陽光が入ってくる。

 多分採光用兼通気口なんだと思う。

 

 上を向いて採光窓を覗くけど、外はよく見えない。

 隣に灯りが灯っていて、逆光になってる。

 

 だからもし誰かが上から覗いてたとしたら、こっちの事は良く見えるけど、こっちから上の様子はわからない。

 

 なんか上手い事できてて腹が立つなあ……。

 

「でかしたぜ、麻美!」

 

 ばんばんと四十八願さんが麻美ちゃんの背中を叩いた。

 多分本人としては軽く叩いたつもりなんだろうけど、麻美ちゃんは「うひょあ!?」ってびっくりしてた。

 でも、ちょっとだけ嬉しそう。

 

「つー事はあそっから覗いて恩寵(チート)を使ってるって事だよなァ。じゃあ、あそこを塞げば解決か?」

 

「まあ、塞げるなら解決する可能性は高いね」

 

 喜ぶ四十八願さんと対照的に、未来さんは冷静に言う。

 

「塞ぐ手段が有ればだが」

 

「あー……」

 

 上がってた四十八願さんのテンションが、一気に下降した。

 

 確かにあそこを塞げばOKって言っても、その手段が私達には無い。

 採光窓――というか採光管?の大きさは結構有る。

 

 これが小さい穴だったら、雑巾を詰めるとかでなんとかなったかもしれない。

 でも生憎と結構大きい。

 多分直径で20cmくらいかな?

 

 それをぎゅうぎゅうに敷き詰めるくらいの雑巾なんて、ここには無い。

 他に穴を塞げるようなものも私達は持ってきてない。

 

 今来てる服を詰める……も最終手段としては考えなきゃならないのかなあ。

 恥ずかしいけど、死ぬよりはマシだ。

 

 まあそれ以前にもっと切実な問題が有るんだけど。

 

 天井、高いんだよね。

 

 多分五メートルくらいは有ると思う。

 一番背が高い四十八願さんが未来さんを肩車したとしても、採光管までは全然届かない。

 

 つまり糸口は見つかったけど、解決策が無いって事。

 

 採光管が無駄にきらきらしてて、なんか私達を煽ってるように見える。

 

 ちくしょう。

 

 ……ん?

 

 そこで、私は気づいた。

 

「あそこから覗いてる可能性が高いって言ってましたけど」

 

 確かにそうなんだ。

 ここくらいしか外から覗ける場所は無い。

 でも、ここから覗いでも駄目なんだ。

 

「あそこからじゃ、ハンドルの下は見えないですよね?」

 

 そう、あの管になってる場所からじゃ。

 

 真下しか見えないはずなんだ。

 

 そして、ハンドル部分の上に採光管は無い。

 

「だったら、やっぱり違う場所なんじゃ」

 

「いや、あそこからで合ってると私は思うよ」

 

 私の疑問を、未来さんはそう言って否定した。

 

「もう一度、あの採光窓を良く見てみるんだ」

 

 よく……?

 

 私は言われた通り、採光管をもう一度眺める。

 なんか無駄にきらついてて、ちょっと眩しい。

 

「何か光を反射しているように見えると、思わないか?」

 

「あっ!」

 

 そうか、光ってる!

 光ってるって事は、光を反射してる何かが有るって事だ!

 

「おそらく鏡か、それに類する何か。それがあそこには設置されている」

 

「じゃあその鏡を通して帆……ってか、ハンドルのところを見てるんだ!」

 

「そういう事だ」

 

 なるほどぉ~。

 

 感心するしか無い。

 未来さんも良くこんな事スラスラ思い付くなあ。

 

 あれだよね、ゲームだったら軍師タイプって奴だよね完全に。

 

「じゃあその鏡さえ覆ってしまえばいいって事だな」

 

 よっしゃよっしゃと四十八願さんが生き生きしだす。

 

「誰かが踏み台になってくれりゃ、俺が飛んでちょっと手で隠してくるぜ! そしたら帆も動けるようになるだろ」

 

 多分2メートルくらいは飛べるしな!と四十八願さんは言うけど……。

 

 私達は、無言で顔を見合わせた。

 

 筋骨隆々で、明らかに重そうな四十八願さん。

 

 対してか弱い女子の集まりである私達。

 

 

 

 いや無理無理、絶対無理!

 

 

 

 踏み台になんかなったら死んじゃうって!

 

 その事に気づいたのか、四十八願さんはばつが悪そうな表情で頭を搔いた。

 

「そんなん、無理ですよねェ~。すまんかった」

 

「それに帆を助けられたとしよう」

 

 だとしても、と未来さんが言う。

 

「結局あのハンドルに近づけないのは変わりない。一瞬だけ覆っても、なんの解決策にもならない」

 

 確かにそう。

 今旦尾くんを助け出したとして、何も事態は解決しない。

 

 振り出しに戻るだけだ。

 

「とりあえず、せめて敵の視認範囲を知りたいな……それがどの範囲が分からなければ、迂闊に動く事もできない」

 

 悩ましいな、と未来さんが腕組して悩んでる。

 

 とりあえず今居る場所は大丈夫って判ってるけど、どの辺りから危ないのかは確かにわからない。

 もうこっちが攻撃されてるのは敵も気づいてるだろうから、きっと次は効果範囲に入ったら無差別に恩寵(チート)を使ってくると思う。

 

 もし鏡を覆えるアイディアが出たとしても、それを実行する時、その範囲に入っちゃったら。

 

 結局、私達は終わり。

 

 こうして見ると恩寵(チート)ってやっぱり厄介だ。

 どんな能力かはわからないけど、普通に強い。

 そう思うと私達が勇者って呼ばれるのもなんか納得できるけど……。

 

 今はそんな事どうでも良いんだった。

 

 どうしよう。

 

 水も、もう太ももくらいまで溜まってきてる。

 そろそろ動き辛くなってきた。

 

 少しづつ、死ぬかも、って気持ちが浮かんできた。

 

 早く、早くなんとかしないと。

 

「あ~~~~~」

 

 私はすごい焦ってるのに、四十八願さんはなんか気の抜けた声をあげてる。

 

 今、緊張感が高まってる状況じゃないの?

 この人、もしかして頭のネジが緩んでるんじゃないだろうか。

 

「いや、なんかさあ、俺もいきなりの事でなんて言ったらいいのかわかんねえんだけどさ」

 

 こう、ちょっと困った様子で。

 四十八願さん自身も良くわかってないような素振りで、なんか言い始めた。

 

「確かに範囲は知りてェなって、俺も思ったのよ。んでさ、そう思ったらさあ」

 

 あれ、と四十八願さんは旦尾くんの方を指さす。

 

「なんかさ、()()()()()()()()()()()()()()()が判っちゃったのよ、俺。なんでか知らねえけど」

 

「……そこまで出来るのか」

 

 未来さんが珍しくちょっと驚いたように、やはり旦尾くんの方を見つめている。

 

「視認できていない、概念的なもの。しかも、それがなんだか本人は理解してすらいないものすら、測れるのか? まさにチートだな」

 

「えっと、どういう事です?」

 

 未来さんが何を言いたいのか、私にはちょっと良くわからなかった。

 

「琉覇の恩寵(チート)だよ」

 

 四十八願さんの恩寵(チート)

 それは、私も知っている。

 

「ものの中心を測る能力。私達は単純に対象の中心までの距離を測る程度のものだと考えていた。だが、違った」

 

 そう言われてる四十八願さんは、ちょっと良く判っていないようだった。

 

「文字通り、あらゆるものを測る事ができるんだ、この能力は。おそらく重さや波長、その他この世に存在する全てのものの中心を測る事ができる。()()()()()()()()()()()()()()

 

「つまり、今四十八願さんが相手の見えてる範囲を測りたいって考えたから、それも測れたって事ですか?」

 

「そういう事だ。伊達に恩寵(チート)などと言われていない、破格の能力だ」

 

 未来さんは驚いているけど、私にはちょっとピンと来なかった。

 とりあえず、そうなんだーとしか感じない。

 

「良くわかんねえけど、これを利用すりゃ相手の見えてる範囲はなんとかなるな」

 

 多分四十八願さんも、何が凄いのか良くわかっていない。

 麻美ちゃんもそうじゃない?

 

 でも、今知りたい事がわかった、それだけは理解した。

 

「俺が感じた半分のとこを倍にすりゃ、実際の範囲が分かる」

 

 あの辺りか、と四十八願さんはあたりをつけているようだった。

 それを見る限り、思ったよりは広くないみたい。

 

「でもなァ~、これ、俺にしかわかんねえんだよな」

 

 どうすっか、と頭を抱える四十八願さん。

 確かに大体はわかるんだろうけど、ちゃんとした範囲は知りたい。

 

「南那」

 

 いきなり声をかけられて、どきりとした。

 

 未来さん?

 

「今見た通り、この恩寵(チート)って奴は大分解釈が広い。だったら、君の能力もそうなんじゃないか?」

 

 いきなりそんな事を言われて、ちょっと混乱した。

 えっと、どういう事?

 

「君の恩寵(チート)は、()()()()()()()()()()()()()()()()()って事」

 

 そう言われて、はっとする。

 

 ものに文字を書き込む能力。

 

 確かに、水だって()()だ。

 

 すうっ、と水面に指を走らせて線を引いてみる。

 

 ……引けた。

 

 薄く輝く光の線が、そこには浮いていた。

 水面をぷかぷかと、揺れるボートみたいに。

 

「どうやら行けたみたいね」

 

 その様子を見て、未来さんもにっこり笑った。

 

「君のその能力で、敵の視認範囲ぎりぎりに線を引いてくれ。情報の共有化ができるだけで、大分助かる」

 

 

 

 南那はメモ帳をポケットに仕舞うと、琉覇の方を向いた。

 

 琉覇は無言で頷くと、水面をざばざばと歩いていく。

 

「この辺りからだ」

 

 琉覇が指さした部分に、南那が指をすべらせた。

 

 まるで水面を切り分けるように、黄金の線が走る。

 そして帆の周りを囲むように、ぐるっと線を描いた。

 

「よし」

 

 南那が水面に引いた境界線。

 それは決して消える事無く、淡い光を放っていた。

 

「やはり引いておいて正解だった」

 

 未来が、頷きながら言う。

 

「上の採光窓の範囲に割とギリギリだ。下手したら、相手の効果範囲に入りかねなかった」

 

 もしこの範囲を知らずに動いていたら、他の誰かも能力の餌食になっていたかもしれない。

 それを回避できた事に、未来もほっと胸を撫で下ろす。

 

「後は上をどうにかだが」

 

 水を掻き分け戻ってきた琉覇が、上を見ながら呟く。

 

「プランは有るのか、お嬢」

 

「有る」

 

 未来は皆ににやりと笑いかける。

 

「次の活躍者は君だ、麻美」

 

「へ?」

 

 突如指名された麻美は、呆けた顔をしていた。

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