進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第十話

自分でも分かっている。

 

出会って十数分の、しかも自分を手の平に乗せて運んでいる15メートル級の得体の知れない巨人に「名前をつけてくれ」と頼まれるなど、彼女からすれば控えめに言っても無茶振り以外の何物でもないだろう。

 

ただ、俺は絶望的にネーミングセンスが無いのだ。

 

前世でもゲームの主人公の名前を決める時なんかは、考えるのが面倒になって「ああああああ」みたいな、もはや名前とも呼べない記号の羅列を平気で入力して世界を救うタイプの人間だった。

 

もし自分で適当にカッコつけて名乗った結果、それが彼らエルディア人の基準から激しく浮いていて「えっ、何その名前ダサ……」みたいな空気にでもなったら耐えられない。

 

俺は恥ずかしさのあまり、世界の行く末なんかほったらかして、そのまま硬質化を使って地中深くに潜り、永遠に生き埋めになる自信がある。

 

だからこそ、現地民のセンスで新しい名を貰った方が絶対に良いだろう。

 

それに……手の平の上にちょこんと座るこの人、よく見たらめちゃくちゃ美人じゃないか? 恐怖と疲労で顔色は悪いが、整った目鼻立ちと凛とした佇まいは、原作にネームドキャラとして登場しても全くおかしくないレベルのビジュアルの良さだ。

 

サイズ感から逆算するに、身長は160cm以上はあるだろうか。

 

(まぁ、今の俺も巨人体でありながら、ダビデ像顔負けの中性的で中々のイケイケフェイスなんだけどな)

 

ともかくだ。

 

そんな美人から直接名付けて貰えるなら、たとえダサくても本望。

 

漢として美人に名付けて貰えるなんて、誇り以外の何物でもない。

 

そうに決まっている。

 

若干、俺の脳内が平和ボケした思考で暴走しているのとはうって変わって、掌の上のリーシェは深刻な表情でしばらく深く考え込んでいた。

 

ズシン、ズシンという俺の一定の足音だけが森に響き、2人の間に奇妙な沈黙が続く。

 

すると、リーシェがハッと顔を上げた。

 

「……では、"アトラス" というのはどうでしょう」

 

彼女は俺の顔を見上げ、少し自信なさげに言葉を続ける。

 

「先程の戦いで見せた貴方の強靭な肉体と力が……まるで、大地を支える強固な岩盤を想起させたので……」

 

アトラス……!

 

由来も含めて、最高にカッコいい名前じゃないか!

 

やっぱ美人だとネーミングセンスも美人なんだな(???)。

 

俺は深く頷き、腹の底から響く声で宣言した。

 

「アトラス。……良いな。ではこれからは『アトラス』として、その名に恥じぬよう振舞おう」

 

俺が快諾すると、リーシェは分かりやすいほどホッと肩の力を抜いた。

 

「……気に入って頂けたようで、何よりです」

 

胸に手を当て、安堵からか大きく息を吐き出す。

 

緊張を解くために、俺は努めて穏やかなトーンで言葉をかけた。

 

「そう無理に固い口調で話さなくて良い。君は言わば、私の名付け親のようなものであるからな」

 

「……は……はは、善処します……」

 

突然の巨人のフレンドリーな態度に、どう反応すれば良いのか全く分からないといった様子で、顔を盛大に引き攣らせて乾いた笑いを漏らすリーシェ。

 

そんな彼女の複雑すぎる心境──「言葉を話す未知の怪物に名付け親認定されてしまった恐怖と戸惑い」──には全く気付かず、ただ「アトラス」というイカした名前を貰えたことに大満足し、ご機嫌な表情を浮かべてズシズシと森を歩み進める俺であった。

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