進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百六話

844年5月3日、昼

 

 

我々調査兵団の部隊は、誰一人欠けることなくウォール・マリア南端、シガンシナ区の壁門前へと帰還を果たした。

 

 

 

壁の上で警戒に当たる駐屯兵たちに向け、私は手綱を引きながら鋭く開門の指示を飛ばす。

 

 

 

「第23回壁外調査部隊、帰還した! 開門を頼む!!」

 

 

ゴゴゴゴ……と、地鳴りのような重低音を響かせながら、我々を外界の地獄から隔絶していた何十トンという巨大な扉が、ゆっくりと引き上げられていく。

 

 

 

薄暗い門の通路を抜け、陽光の降り注ぐシガンシナ区のメインストリートへ足を踏み入れると、そこには今か今かと我々の帰還を待ちわびていた大勢の住民たちが押し寄せていた。

 

 

前回の「死者ゼロ」という奇跡がまぐれではなかったのか。

 

 

彼らの顔には期待と、そして兵士の家族たちの祈るような不安が入り交じっている。

 

 

 

私は部隊の行進をメインストリートの中央で静かに停止させ、大きく息を吸い込んだ。

 

 

そして、沿道を埋め尽くす群衆の隅々にまで届くよう、腹の底から全霊の声を張り上げた。

 

 

「皆、聞いてくれ!! 本作戦において、我々調査兵団はかつてない戦果を上げた!」

 

 

街のざわめきがピタリと止む。私は言葉に絶対の自信と誇りを込めて、事実を告げた。

 

 

「討伐した巨人の数、およそ二百体!! さらに……十数名の重傷者は出たものの、命を落とした者はただの一人もいない!! 死者・行方不明者、共にゼロだ!!」

 

 

一瞬の静寂。住民たちの脳内で、私の宣言した常軌を逸した戦果が処理された直後────────

 

 

 

 

 

 

『『『『うおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』』

 

 

 

「二百体だと!? しかもまた死者ゼロ!?」

 

「調査兵団万歳!! 人類の希望だ!!」

 

「よく帰ってきた! ありがとう、英雄たちよ!!」

 

街全体を揺るがすほどの、爆発的な大歓声が沸き起こった。

 

 

安堵の涙を流し兵士たちに手を伸ばす者、狂喜乱舞して帽子を空へ放り投げる者。

 

 

 

新兵たちは、その熱狂的な称賛を全身に浴び、照れくさそうに、しかし確かな誇りを胸に背筋を伸ばしていた。

 

 

 

人類史において二連続となる「死者ゼロ」の帰還。

 

 

 

この吉報は、瞬く間にシガンシナ区からウォール・シーナの内側まで、壁内全域へと熱病のように広がっていった。

 

 

 

この歴史的快挙は、我々調査兵団の地位を盤石なものにすると同時に、一つの巨大なうねりを生み出した。

 

 

 

巨人に勝てるという確かな希望が次代を担う若者たちの心を打ち、訓練兵団への入団希望者が爆発的に増加することとなったのだ。

 

 

 

凱旋から数日後。私は休む間もなく、団長執務室で分隊長や班長たちと直接の面談を行っていた。

 

 

 

「ハンジ、ミケ。そしてリヴァイ。先日の作戦で特に光る動きを見せていた新兵のリストアップを急いでくれ」

 

 

 

私は机の上に書類の山を広げながら指示を出す。

 

 

 

来年、壁内全土から野心と希望に満ちた新兵たちが大量に押し寄せてくることは想像に難くない。

 

 

 

彼らを率いるための「器」が圧倒的に不足する。

 

 

 

今回の極限の実践訓練を生き抜き、真の兵士として完成しつつある有望な新兵たちを、早期に班長や分隊長補佐といった上官のポジションに据える計画を立て、来たるべき大増員に備えなければならない。

 

 

 

さらには、兵団外からの問い合わせも私のデスクを占領していた。

 

 

駐屯兵団の最高責任者であるドット・ピクシス司令からは、「壁上固定砲の運用と立体機動の連携について、ぜひ君たちと合同訓練を行いたい」という直筆の誘いが届いた。

 

 

 

さらに、訓練兵団のキース・シャーディス教官からも「現役で巨人を狩り続ける兵士の空気を、うちの訓練兵たちに直接肌で感じさせる交流の機会を設けてもらえないか」という強い要望が寄せられた。

 

 

 

いずれも調査兵団の練度と影響力が壁内組織全体に認められた証拠であり、喜ばしい悲鳴であった。

 

 

 

私は団長として、連日それら各方面への対応や調整に忙殺されることとなった。

 

 

 

だが、光が強くなれば、当然ながら落ちる影もまた濃くなる。

 

 

執務室の窓から王都の奥深くを眺めながら、私は微かに痛む胃を押さえ、静かに警戒心を募らせていた。

 

 

 

中央の王政、そして彼らの手足となる憲兵団の動きが、どうにも怪しいのだ。

 

 

 

彼らにとって、我々調査兵団は「税金を浪費し、適度に数を減らして民衆の壁外への興味を削ぐ」ための便利なスケープゴートでなければならなかった。

 

 

 

それが今や、民衆の圧倒的な支持を集め、巨人を圧倒する武力を持つ英雄集団へと変貌を遂げてしまった。

 

 

 

権力を独占し、壁内の「平和という名の停滞」を維持したい王政にとって、我々の存在はもはや目障りな脅威以外の何物でもないだろう。

 

 

 

先のロヴォフ議員による暗殺計画などは、ほんの氷山の一角に過ぎない。

 

 

 

今後、彼らはより巧妙に、我々の資金源を法的に断ち、あるいは内部から切り崩すための陰湿な工作を仕掛けてくるに違いない。

 

 

 

調査兵団の戦力が充実していくのに比例して、政治的な暗闘はより苛烈さを増していくはずだ。

 

 

巨人を狩る剣は研ぎ澄まされた。

 

 

だが、背後から突き立てられる同胞の短剣にも備えなければならない。私は冷めた紅茶を飲み干し、次なる政治という名の戦場へ向けて、静かに羽根ペンを握り直した。

 

 

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