進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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過剰戦力
第百七話


 

 

844年10月中頃

 

 

あの一泊二日の地獄───第23回壁外調査という名の「狂気の実践訓練」から、約半年という月日が流れた。

 

 

 

結論から言うが、あの日を境に、壁内の情勢、並びに調査兵団の戦力は大きく……いや、『指数関数的』に向上したと言っても決して過言ではない。

 

 

まず、目に見えて異常なのがその人員数だ。

 

 

「死者ゼロ」の快挙と、英雄として持て囃される圧倒的な社会的ステータス。

 

 

それが起爆剤となり、他兵団からの移籍希望者や、血の気と野心に溢れた訓練兵が雪崩を打って押し寄せてきた。

 

 

 

現在、調査兵団の総人員は遂に500人を突破し、来年の春の新兵入団時期には1000人を超えるという、かつてない試算が出ている。

 

 

(……いや、過剰戦力だろ)

 

 

俺は本部の訓練場を埋め尽くす大量の兵士たちを窓越しに眺めながら、心の中で盛大にツッコミを入れた。

 

 

俺が知っている原作の調査兵団は、常に慢性的な人手不足で、300人前後を維持するのがやっとのブラック極まりない死地だったはずだ。

 

 

 

しかも恐ろしいことに、あれから月に1回から2回という超ハイペースで壁外調査が行われているにも関わらず、依然として『死者0名』の記録が更新され続けている。

 

 

 

もちろん、巨人を相手にする以上、四肢の欠損や再起不能の重傷を負って前線を退く者たちは一定数存在する。

 

 

 

だが、その引退したベテラン兵たちがどうなるかというと、その殆どが訓練兵団の教官として移籍しているのだ。

 

 

 

結果として、訓練兵団のトップであるキース・シャーディス教官を筆頭に、本物の地獄と「死なない戦術」を知る歴戦の猛者たちが、次世代の若者たちを徹底的にしごき上げるという『新兵を更なる化け物に仕立て上げる循環』が完全に完成してしまった。

 

 

現在の調査兵団は、もはや死にに行く烏合の衆などではない。

 

 

 

全体が高い連携力と生存能力を併せ持つ、壁内人類における最高峰の『特殊精鋭部隊』の様相を呈していた。

 

 

 

そして、個人の戦力もまた規格外の領域へと足を踏み入れている。

 

 

リヴァイは、俺の知る原作通り、調査兵団において彼だけが冠することを許された特別階級『兵士長(通称:リヴァイ兵長)』へと昇格を果たした。

 

 

 

彼の刃には着実に磨きがかかっており、立体機動装置での空中戦はもちろんのこと、装備を除いた純粋な『素の戦闘力』においても、ついにリーシェに比肩しうる文字通りの化け物へと成長を遂げた。

 

 

 

リーシェの理不尽な動きを間近で見続けたことによる、アッカーマン特有の限界突破の賜物だろう。

 

 

 

ちなみに、圧倒的な戦果を上げ続けているリーシェにも、当然「兵士長」と同等の地位を与えるという話が上層部から回ってきていた。

 

 

しかし当の彼女は、「私はアトラス以外を守る気も、アトラス以外から命令される気も一切ないわ」と満面の笑みで一蹴し、依然として俺の直属上官である『特別班長』という独自の肩書きに留まっている。

 

 

相変わらずのブレなさだ。

 

さらに、兵団を取り巻く政治的な環境も激変していた。

 

 

 

キース教官率いる「訓練兵団」、そして南側領を統括し、多大な影響力を持つピクシス司令を筆頭とした「駐屯兵団」。

 

 

 

彼ら各方面の最高責任者たちと、我らがエルヴィン団長との関係は極めて良好に推移している。

 

 

 

現在、四つの兵団の内、憲兵団を除く三つの兵団が、強固なパイプで結ばれているのだ。

 

 

 

この連携により、調査兵団の物資や予算に関わる部分はかつてないほど大きく優遇されている。

 

 

 

当然ながら、中央の王政や憲兵団は内心穏やかではないだろう。

 

 

 

彼らにとって、圧倒的な武力と民衆の絶大な支持を集め、他兵団とも結託し始めた調査兵団は、体制を脅かす最大の癌だ。

 

 

ただ、既に形成されたこの強固な三軸は、そう容易く崩すことができない。

 

 

なまじ民衆からの支持が宗教レベルで絶大であるため、王政が下手に手出しをして調査兵団を潰そうものなら、途端に民衆の不満が爆発し、内部崩壊・クーデターは避けられない事態となっているのだ。

 

 

(……なんかこれ、845年に超大型巨人に壁が壊される前に、王政の方が先に壊されそうなんだが……)

 

 

 

俺はエルヴィン団長の鮮やかすぎる政治手腕に戦慄しつつ、密かにそんな危惧を抱いていた。

 

 

 

ただ、俺の個人的な見解としては、「まだ王政打倒はやらない方が良い」と考えている。

 

 

 

せめて、エレンの父親であるグリシャ・イェーガーのおっちゃんが、レイス家から『始祖の巨人』を簒奪するまでは、だ。

 

 

正直なところ、俺自身が歴史にどこまで介入し、動くべきかについては、夜も眠れないほどに迷っている。

 

 

 

始祖の巨人をグリシャが手に入れるということは、つまり、壁の真実を知るフリーダ・レイスが殺されるということだ。

 

 

 

そしてその後、グリシャが自身の寿命と使命を悟り、幼いエレンに自身を喰わせるという、あまりにも重すぎる業を背負うことになる。

 

 

 

俺が今すぐ礼拝堂の地下へ乗り込み、硬質化能力でレイス家を制圧して始祖を奪うことも物理的には可能だ。

 

 

 

だが、それをすれば「進撃の巨人」という未来へと進む強烈な意志と因果が失われ、不戦の契りの呪縛など、予測不能なバタフライエフェクトを引き起こす危険性がある。

 

 

 

だから、まずは順序を守る。

 

 

最優先すべきは、ウォール・マリアの突出区であるシガンシナ区の壁の破壊を止めることだ。

 

 

もしかしたら、あそこで壁が破られず、カルラが死なないという未来に分岐すれば、その時点で歴史が大きく変わり、グリシャの行動やその後の悲劇的な連鎖も変わるかもしれない。

 

 

 

……問題は、相変わらず俺の原作知識がガバガバで、「845年の何月何日に壁が壊されるのか、正確な日程が分からない」ということだ。

 

 

いつ来るか分からない以上、対処法は一つしかない。

 

 

最悪の場合、来たる845年に入った直後から、俺とリーシェは本部を離れ、シガンシナ区の支部、あるいは民家を借りて長期間住み込みで生活し、24時間体制で待機しようと考えている。

 

 

そして、運命の日──────

 

超大型巨人のベルトルトと鎧の巨人であるライナー、そして周囲の無垢な巨人を呼び寄せる女型の巨人のアニが出現した瞬間に、俺が巨人体となって即座に介入。

 

 

 

壁が蹴破られる前に彼らを「捕獲」するか、あるいは硬質化の糸でグルグル巻きにして、そのまま島の外の海までデリバリーという名の強制送還する方法でいこうかと思っている。

 

……

……………

……………………

 

 

(…あー、でも待てよ)

 

 

ただ力ずくで彼らを追い返したり、捕獲して地下牢にぶち込んだりしただけでは根本的な解決にはならない。

 

 

 

任務を失敗したとなれば、焦ったマーレ国が今度は軍艦や飛行船を率いて、本気でパラディ島を殲滅しにやって来る可能性が高い。

 

 

 

彼らマーレの戦士たちをただの敵として排除するのではなく、「交渉し、こちらの仲間に引き入れる路線」でいくのが最善か。

 

 

実は最近、俺の持つ独自の『道』の運用方法について、暇を見つけては色々と研究と実験を重ねていた。

 

 

 

その結果、とんでもない仮説……いや、確信に行き着いたのだ。

 

 

始祖ユミルの束ねる既存の『道』とは完全に切り離された、俺という巨大な独立サーバー。

 

 

もし、既存の九つの巨人の継承者、ライナーやアニたちを、俺の独自の『道』のネットワークへと強制的に再接続し、上書きすることができたなら。

 

 

 

彼らを縛り付けている「ユミルの呪い」や、巨人の力に伴う身体的な制約といったものを、俺の管理者権限で色々と「とっぱらえる」可能性があることが分かったのだ。

 

 

 

13年で死ぬという恐怖と、故郷の家族を人質に取られているという絶望。

 

 

 

それが彼らを壁破壊という凶行へと駆り立てる根本的な原因だと俺は勝手に考えている。

 

 

 

ならば、俺がその「死の呪い」を解き放つ救世主となれればどうだ。

 

 

──────『こちら側につけば、お前たちの寿命の呪いを解いてやる。故郷の家族も、マーレの支配から解放してやる』

 

 

 

この条件を提示すれば、彼らを味方へと引き入れる強力な交渉のカードになるはずだ。

 

 

 

運命の845年まで、残された時間はあとわずか。

 

 

俺は、来たるべき世界線の分岐点へ向けて、自分自身の持つ規格外の能力をいかに平和的に、そして確実に運用するかを、静かに、そして着々と練り上げ始めていた。

 

 

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