進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
俺は内心で覚悟をキメながら、今までのリーシェの動き、そしてリヴァイ兵長の華麗な回転斬りを無駄に超ハイスペックな脳で自身の肉体との神経接続を強化していく。
段々と立ち姿から最適化され、誰の目から見ても雰囲気が変わったことが分かる。
ましてや、今ここにいるのは壁内人類の命運を決める者達だ、背中越しに息を飲む音が聞こえる。
俺は脳内で5m級から15m級の巨人が100体以上この森に出現し、無防備な彼らを指一本触れさせずに守りながら殲滅するという地獄の仮想ミッションを作り出した。
(……さあ、始めようか)
意識を、両腰に生成した手のひらサイズの硬質化円盤へと集中させる。
視界に映る鬱蒼とした訓練用の大樹。
そのさらに奥、仮想の15メートル級巨人がエルヴィン団長に向けて巨大な腕を振り下ろそうとしている幻影を、俺の脳が完璧な解像度で描き出す。
カッ……!
トリガーを引く動作など必要ない。「飛べ」と念じたその瞬間、円盤から極細かつ絶対に切断不可能な硬質化の糸が、音を置き去りにして射出された。
糸の先端が数十メートル先の大樹の幹に深々と突き刺さる。
同時に、筒状の硬質化ケース内に限界まで圧縮されていた巨人の超高温蒸気を、ブースターとして一気に解放した。
────ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
落雷のような爆音が森を揺らし、俺の足元にあった地面がクレーターのように陥没する。
凄まじい衝撃波と土煙を置き去りにして、俺の華奢な肉体は文字通り『砲弾』となって空中へと射出された。
「なっ……!?」
「速……ッ!!」
後方で誰かが驚愕の声を上げたが、それはすぐに風切り音にかき消された。
視界が線になって流れる。重力という概念が完全に消失したかのような、圧倒的な浮遊感と推進力。
俺は空中で態勢を整えると、両手に生成した特製の硬質化ブレードを逆手に構えた。これはリヴァイ兵長のスタイルだ。
仮想の巨人が、空を飛ぶ俺に向かって無数の腕を伸ばしてくる。
(遅い)
俺は硬質化の糸を巻き取る速度と、蒸気の噴射角を思考のみで微調整した。
ガシャン、ガシャンという機械的な操作ロスが一切ない。まるで自分に新たな手足が生えたかのように、糸は俺の意思通りに森の中を三次元的に駆け巡る。
空中で急ブレーキをかけ、直角に軌道を変える。
常人なら内臓が破裂するであろう凄まじい重力加速度を、皮膚表面に展開した極薄の硬質化外骨格で完全に相殺する。
そして、仮想の巨人のうなじに見立てた太い枝へ向けて、リヴァイ兵長の動きをトレースした『超高速回転斬り』を放つ。
────ズバァァァァァァァァァンッ!!!
遠心力と蒸気圧を上乗せした絶対に砕けない刃は、直径数メートルはある訓練用の大樹の幹を、まるで豆腐でも切るかのように何の抵抗もなく両断した。
轟音と共に、巨大な樹木が斜めに滑り落ち、地響きを立てて倒伏する。
(よし、次! 右方に10体、左方に15体!)
仮想ミッションは続く
俺は空中で次々と硬質化の糸を射出し、まるでピンボールのように大樹から大樹へと跳弾しながら加速していく。
今度はリーシェの動きだ。一切の無駄を省き、最短距離で命を刈り取る絶対零度の機動。
俺の脳は、彼女が先日の壁外調査で見せた「音速の蹂躙」を完璧にシミュレートし、自身の肉体で再現していく。
シュンッ! シュガァッ! バァァンッ!!
森のあちこちで、大気が弾けるような破裂音が連続する。
俺の動いた軌跡には、白い蒸気の飛行機雲が幾重にも交差して幾何学模様を描き、その線が通過した場所にある大樹の枝や幹が、次々と爆発したかのように粉砕されていく。
彼らの目から見れば、俺の姿など到底目で追えていないはずだ。
ただ、森中を黒と銀の閃光が乱反射し、それに遅れて木々がなぎ倒される轟音と暴風が襲いかかってくる、まるで局地的な台風か災害を見ているような気分だろう。
(残り50体……一気に殲滅する!)
俺は森の最上部、樹冠を突き抜けて上空へと躍り出た。
眼下に広がる森に、仮想の巨人の群れが密集しているのを幻視する。
俺は空中で身体を反転させ、地上に向けて両腰の射出機から、今度は二本ではなく、六本の硬質化の糸を扇状に放った。
糸がそれぞれ別々の大樹の根本に突き刺さり、強固なアンカーとなる。
「シリンダー、全開放……ッ!」
俺は巻き取りの力と、残る蒸気の推進力をすべて『下方向』へのベクトルへと集中させた。
六本の糸が俺の身体を強烈な力で地上へと引きずり込み、同時に背中側から噴射された超高圧蒸気が、隕石のような落下速度を生み出す。
全身を硬質化の装甲で覆い、両手のブレードを前方に突き出し、俺自身が巨大な『ドリル』となって森へと突撃した。
───ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
俺の身体が通過した空間の空気が削り取られ、プラズマでも発生しそうなほどの凄まじい衝撃波が森を突き抜ける。
仮想の巨人50体を一瞬で貫き、同時に射線上にあった巨大な木々を根こそぎ粉砕しながら、俺はエルヴィンたちの数十メートル手前の地面へと着弾した。
────ズドォォォォォォォォォンッ!!
爆心地からもうもうと土煙と巨人の蒸気が舞い上がり、暴風が彼らのマントを激しく煽る。
仮想ミッション、クリア。生存者、全員。
「……ふぅ」
俺は全身の硬質化外骨格をスゥッと解除し、土煙の中からゆっくりと歩み出た。
両手のブレードを消散させ、腰のシリンダーから「プシューッ……」と余剰な蒸気を排出しながら、見学席(という名の安全地帯)にいる五人の元へと戻る。
激しい運動をした後だというのに、巨人の超回復力とスタミナのせいで、息一つ乱れていない。
ただ、美少女フェイスの額に微かに汗が滲んでいる程度だ。
「……こんな感じで、どうでしょうか? 従来の立体機動装置みたいにガスや刃の補充もいらないし、思考と直結してるから小回りも利くんですけど……」
俺は少し照れくさそうに、できるだけ控えめな声でそう報告した。
……が。
目の前に立つ壁内人類の命運を握るトップ層たちは、誰一人として言葉を発さなかった。
森の中は、倒木が重なり合うギシギシという音と、舞い散る葉の音だけが虚しく響いている。
俺が暴れ回った前方の空間は、木々が完全にへし折られ、まるでそこだけ巨大な獣が喰い破ったかのように『更地』と化していた。
「あ……あ、ああ……」
最初に動いたのは、やはりハンジ分隊長だった。
彼女は、両膝から崩れ落ちるように地面にへたり込み、血走った両目で俺の腰の射出機を凝視していた。
口の端からは一筋の涎が垂れており、興奮のあまり過呼吸になりかけている。
「な、なんて……なんて美しい……そして、おぞましい機構なんだ……! 物理法則が、質量保存の法則が、すべて泣いて謝るレベルの暴力……! あぁっ、今すぐその装置を解剖したい……!!」
「……おい、クソメガネ。それ以上近づいたら、その薄汚ぇ頭蓋骨をかち割るぞ」
ハンジの背後で、リヴァイ兵長がギリッとブレードの柄に手をかけていた。
だが、そのリヴァイ自身も、額には滝のような冷や汗を浮かべ、俺を見るその三白眼は極限まで見開かれている。
俺が彼の回転斬りを、彼以上の速度と威力で(しかも空中で何度も軌道を変えながら)再現してみせたのだ。
純粋な戦闘者としての本能が、目の前の「圧倒的上位の捕食者」に対して警鐘を鳴らして止まないのだろう。
ミケ分隊長に至っては、鼻を覆って数歩後ずさっていた。
「……匂いが、ない。あれだけの破壊と暴力を振りまいておきながら、恐怖も、殺意も、高揚感すら全く匂わない。……ただの、無機質な災害だ」
そして、我らがエルヴィン団長。
彼は微動だにせず、ただ真っ直ぐに俺を見据えていた。
その青い瞳の奥では、今見せつけられたデタラメな戦力を、今後の壁外調査や政治闘争にどう組み込むかという、恐るべき速度での計算が行われているのが分かる。
彼は胃のあたりをギュッと押さえながら、ひきつったような、歓喜のような、複雑怪奇な笑みを浮かべていた。
「アトラスぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」
そんな重苦しい空気をぶち破り、俺の視界の端から弾丸のような速度で飛び込んできた影があった。
リーシェだ。
「あ、ちょ、リーシェ───」
ドスッ! という良い音を立てて、俺の腹部にリーシェが全力でダイブしてくる。
彼女は俺の腰に両腕を回し、顔を俺の胸元にグリグリと押し付けながら、完全に昇天したような甘ったるい声を上げた。
「はぁぁぁ……っ! アトラス! アトラス、アトラス!! すっごく、すっごく格好良かったわ!! 私の動きを真似してくれたのね!? ねぇ、そうよね!? あぁもう、あんな幻想的な動きを見せられたら、私、愛おしすぎて頭がおかしくなっちゃいそう……っ!」
「いや、もう十分おかしいから! ていうか苦しい、離して!」
俺が必死に彼女の頭を引き剥がそうとするが、擬似アッカーマンの異常な膂力で抱きつかれているため、ビクともしない。
顔を真っ赤にしてフンスフンスと俺の匂いを嗅ぎまくる狂犬と、それを呆然と見守る人類のトップ層たち。
(……やばい、結局いつものカオス空間になっちゃったじゃないか……)
俺は、更地になった森の惨状と、泣き叫ぶように俺の能力を讃えるハンジの声をBGMにしながら、ただただこの場から一刻も早く逃げ出したいという一心で、助けを求めるようにエルヴィン団長へと視線を送るのだった。