進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リヴァイ視点です


第百十話

(……チッ、何が悲しくて休日にこんな茶番に付き合わなきゃならねぇんだ)

 

 

俺は忌々しい気分で舌打ちを漏らし、腕を組んで大樹の幹に寄りかかっていた。

 

 

クソメガネの思いつきに巻き込まれ、エルヴィンの命令で連行されたこの森。

 

 

視線の先には、いつもあの狂犬(リーシェ)にまとわりつかれている、世間知らずで頼りなさそうな美少女──アトラスが立っている。

 

 

だが

アトラスが、腰の妙な円盤に手を当てた、その瞬間。

 

 

 

俺の全身の産毛が総毛立ち、脳内の警鐘が狂ったように鳴り響いた。

 

 

 

空気が、変わったのだ。

 

 

 

今までただの『保護されるべき無害な少女』だと思っていたその立ち姿が、瞬きをする間に全く別の何かへと変貌した。

 

 

 

正規の訓練など一度も受けたことがないはずの素人の身体が、まるで超精密なからくり人形のように、あるいは殺戮のみを目的として設計された兵器のように、極限まで『最適化』されていく。

 

 

 

無駄な力みが一切消え、どの角度から斬りかかっても瞬時に反撃されるという、絶対的な死の気配。

 

 

 

背中越しに、エルヴィンやミケが息を呑む音が聞こえた。俺もまた、腕を組むのを忘れ、無意識のうちに腰のブレードの柄に手をかけていた。

 

 

 

次の瞬間

 

 

────ドゴォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

鼓膜を破るような凄まじい爆音と共に、アトラスの足元の地面がクレーターのように陥没した。

 

 

「なっ……!?」

 

 

俺の口から、間抜けな声が漏れた。

 

 

 

俺の目は、地下街の泥底を這いずり回っていた頃から、常人とは構造が違うと自覚している。

 

 

 

どれほど高速で動く物体であっても、その軌道を正確に捉え、先回りして斬り伏せることができる。

 

 

 

あの狂犬の理不尽な超音速機動でさえ、今なら目で追い、互角に渡り合うことすら可能なはずだった。

 

 

だが、見失った。

 

 

 

今、俺のこの眼球が、空中に射出されたはずの華奢な少女の姿を、完全にロストしたのだ。

 

 

 

──────ズバァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

視界の上方で、直径数メートルはある訓練用の大樹が、突如として斜めに両断され、轟音と共に滑り落ちた。

 

 

 

そこに、一瞬だけ彼女の姿がブレて現れる。

 

 

両手にブレードを逆手で構え、高速回転しながら巨木の幹を抉り取るその動き。

 

 

(……俺の、回転斬り……だと?)

 

一目見ただけで、俺の動きを完全にトレースしやがったのか。しかも、威力も速度も、次元が違いすぎる。

 

 

 

人間が立体機動であの速度で回転すれば、遠心力で骨が砕け、内臓が破裂して死ぬ。

 

 

 

だが、あいつは自身の皮膚の表面に何やら極薄の膜を展開し、物理法則の限界を力技でねじ伏せているのだ。

 

 

 

ガシャン、というワイヤーの射出音や、ガスのバルブを開く機械音など一切ない。

 

 

 

音を置き去りにして放たれる透明な硬質化の糸と、爆発的な蒸気の噴射だけが、静寂の森を暴力的な騒音で蹂躙していく。

 

 

シュンッ! シュガァッ! バァァンッ!!

 

 

再び姿が消えた。

 

 

森のあちこちで、大気が弾けるような破裂音が連続する。

 

 

 

俺の動体視力をもってしても、ただ森中を黒と銀の閃光が乱反射し、それに遅れて木々がなぎ倒される暴風が襲いかかってくる、その「結果」しか認識できない。

 

 

 

今度は、あの狂犬の動きだ。

 

 

 

一切の無駄を省き、最短距離で空間を削り取る絶対零度の機動。

 

 

 

それを、オリジナルの何倍、いや何十倍もの出力でやってのけている。

 

 

もし、俺が今、あいつと殺し合いをしたらどうなる?

 

 

……秒だ。瞬きをする間に、俺の首は胴体と泣き別れになっているだろう。

 

 

では、あの人類最強の鬼神、完全武装のリーシェが相手なら?

 

 

(……駄目だ。あの狂犬が束になっても、手も足も出ねぇ……)

 

 

背筋を、冷たい汗が伝い落ちていく。

 

 

あのリーシェでさえ、アトラスが本気で牙を剥けば、ただの無力な赤子に等しい。圧倒的な、絶対的な暴力の頂点。

 

 

 

それが、あの雪のように白い肌を持った美少女の正体なのだ。

 

 

 

───ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

最後に、森の上空から隕石のように落下してきたアトラスが、俺たちの数十メートル手前の地面へと着弾した。

 

 

 

爆心地から土煙と暴風が巻き起こり、俺は腕で顔を庇いながら、その土煙が晴れるのをじっと睨みつけた。

 

 

 

やがて、巨人の蒸気が晴れた後。

 

 

そこには、息一つ乱さず、しかし微かに額に湿度を纏わせるアトラスが、小首を傾げて立っていた。

 

 

 

「……こんな感じで、どうでしょうか?」

 

 

少し照れくさそうに、はにかみながら放たれたその言葉。

後方では、更地と化した森の惨状を見たクソメガネが、興奮のあまり地面に這いつくばって奇声を上げている。

 

 

 

俺は、ブレードの柄を握る手にジンジンと痺れを感じながら、極限まで見開かれた目で目の前の『怪物』を見つめていた。

 

 

 

(……冗談じゃねぇ)

 

 

何の訓練も受けていない。兵士としての心得もない。

ただの、温厚で世間知らずな美少女。

 

 

それが、人類の限界を遥かに超越した俺や、あの鬼神すらも足元に及ばない、次元の違う絶対的強者だという事実。

 

 

 

俺は、この壁の中という小さな鳥籠に、神か悪魔か分からない『真のバケモノ』が紛れ込んでいることを、この日、骨の髄まで思い知らされたのだった。

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