進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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百十二話

「んんぅ……アトラス、アトラしゅ……すっごく、すっごく生きてる匂いがするぅ……っ」

 

 

俺の胸元に顔を埋め、信じられないほどの力で腰をホールドしながら、フンスフンスと荒い鼻息を立てて匂いを貪り続けるリーシェ。

 

 

 

そのあまりにも公然とした、しかも壁内トップ層たちの目の前で繰り広げられる過剰なスキンシップに、俺の顔は文字通り火が出るほど真っ赤に染まっていた。

 

 

 

「ちょ、リーシェ! ほんとにストップ! くすぐったいってば、離して!」

 

 

なんとか彼女の頭を引き剥がそうと試みるものの、異常な膂力の前では俺の抵抗など無に等しい。

 

 

 

俺は半ば諦め気味に、助けを求めるようにエルヴィン団長たちの方へと視線を向けた。

 

 

 

……そして、自身のしでかした『結果』を、ようやく客観的な視界に収めることになった。

 

 

 

「…………え?」

 

 

そこには、まさに『局地的な自然災害』が通り過ぎたかのような、凄惨な惨状が広がっていた。

 

 

 

数十メートルにわたって地表が抉れ、深い轍が刻まれている。

 

 

その延長線上には、俺が仮想シミュレーションで切り刻んだ十数本もの巨大な訓練用の大樹が、あるいは斜めにスパッと両断され、あるいは無残にへし折られて、ゴロゴロと乱雑に転がっていた。

 

 

 

宙には未だに木屑が舞い、切り口からは微かに摩擦熱の煙すら上がっている。

 

 

 

完全に、森の景観が一つ消滅していた。

 

 

「…あぁっ…!どうしよう…!私…勢いでめちゃくちゃにしちゃったッ!!!」

 

 

俺は両手で顔を覆い、情けない悲鳴を上げた。

 

 

 

やばい。テンションが上がってやりすぎた。

 

 

 

ここは訓練兵団が所有する大切な立体機動装置の練習場だ。こんな広範囲の自然破壊、器物損壊で憲兵団に突き出されても文句は言えないレベルのやらかしである。

 

 

 

「す、すみませんエルヴィン団長! 弁償します、私、森の植林からやりますから……っ!」

 

 

俺が半泣きで謝罪すると、地面にへたり込んでいたハンジ分隊長が、泥だらけの顔をバッと上げて猛烈な勢いで首を横に振った。

 

 

 

「弁償!? なにを言ってるんだいアトラスちゃん! 謝る必要なんてどこにもないよ!!」

 

 

ハンジは千鳥足で立ち上がると、両断された巨大な木の切り口に頬ずりせんばかりの勢いで駆け寄り、うっとりとした表情を浮かべた。

 

 

「見てよこの芸術的な断面! 摩擦熱で木材が焦げている! 立体機動の速度とブレードの硬度が、物理的限界を遥かに突破している証拠だ! あぁっ、素晴らしい……! 私もこの木みたいに、アトラスちゃんの暴力で真っ二つにされてみたい……ッ!!」

 

 

「いやハンジさん、発言が色々とアウトです! 木が羨ましいって何!?」

 

 

ドン引きする俺をよそに、倒木を跨いでエルヴィン団長が静かに歩み寄ってきた。

 

 

 

彼の顔には怒りなど微塵もなく、むしろ恐ろしいほどの熱を帯びた、深い満足感と計算高い光が宿っていた。

 

 

 

「気にするな、アトラス殿。ハンジの言う通りだ。訓練用の木など、我々調査兵団の予算……いや、王政から巻き上げる追加予算でいくらでも誤魔化しが利く」

 

 

(……今、サラッと横領か予算の不正請求みたいなこと言わなかったか、この人?)

 

 

エルヴィンは俺の装備(腰の射出機)を食い入るように見つめながら、重々しく頷いた。

 

 

「木を十数本失った代償で、君という『戦術の枠を越えた戦略兵器』の真の価値をこの目で確認できたのだ。これほど安い投資はない。

……アトラス殿、君のその力は、間違いなく人類の夜明けを決定づけるものだ」

 

 

「そ、そうですか……? 怒られないならいいんですけど……」

 

 

俺がホッと安堵の息を吐き出した、その時。

 

 

「そうよ、アトラス。エルヴィンの言う通りだわ」

 

 

未だに俺の胸元に顔を埋めていたリーシェが、ぬるりと顔を上げ、花が咲くような満面の笑みで俺を見つめてきた。

 

 

 

そのアイスブルーの瞳は、危険なほどにトロンと蕩けている。

 

 

「この木たちはね、私の愛するアトラスの美しい剣舞の的になれたんだから、本望に決まってるじゃない。むしろ光栄に思いなさいって感じよね。……ふふっ、それにしてもアトラス、本当に格好良かった。

……すぅぅぅぅ……はぁぁっ、動いた後のアトラスも、極上のいい匂い……っ」

 

 

「だから! もう嗅ぐのやめてってば! 人前で恥ずかしいから!!」

 

 

再び俺の胸元にダイブし、フンスフンスと深呼吸を始める狂犬。

 

 

その後方では、ハンジが木の切り株を愛おしそうに撫で回し、エルヴィンが今後の兵器転用に向けてブツブツと独り言を呟き始め、リヴァイ兵長が「……チッ、どいつもこいつもイカれてやがる」と頭を抱えていた。

 

 

 

(……ああ、やっぱり今日も、俺の周りはカオスにしかならない運命なのか……)

 

 

 

俺は破壊し尽くされた森の惨状を前に、胸元にすがりつく美しき狂犬の頭を撫でながら、ただただ遠い目をして現実逃避するしかなかった。

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