進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
「ハァッ、ハァッ……! 早くしろよ、アルミン! この角を曲がって路地裏に入れば、いくらミカサでも撒けるはずだ!」
「無理だよ、エレン……っ! ぜぇ、ぜぇ……ミカサ、全然足音、遠ざかってないよぉ……!」
シガンシナ区の入り組んだ石畳の路地を、俺は息を切らしながら全力で駆け抜けていた。
背後からは、肺を限界まで酷使して半泣きになっているアルミンの声と……そして、全く乱れのない、一定のペースでひたひたと距離を詰めてくる恐ろしい足音が聞こえてくる。
チラリと後ろを振り返ると、アルミンからさらに数メートル後ろに、マフラーを巻いたミカサが、文字通り『無表情で、一滴の汗も流さずに』こちらを追走してきているのが見えた。
「くそっ、なんだよあいつ! どんだけ体力あんだよ!」
今日こそは俺の足とシガンシナ区の地の利で勝ってやると思い、勢いで始まった鬼ごっこ。
だが、結果は火を見るより明らかだった。
あいつは普通の女の子じゃない。
薪を背負ったまま俺より早く走るような、規格外のバケモノなのだ。こんな無謀な追いかけっこ、最初から勝てるわけがなかった。
「でも、今日こそは俺が勝つ……! アルミン、あそこの狭い路地に入るぞ!」
「えぇ!? ちょっと待ってよエレン、前見て───!」
アルミンの制止する声が耳に届いたのは、俺が見通しの悪い街角を勢いよく曲がろうと、前を向かずに突っ込んだその瞬間だった。
ドンッ!
「わっ!」
俺の頭上から、女の子の情けないような、変な声が降ってきた。
何かに───それも、とても柔らかくて、すごくいい匂いのするものに真正面からぶつかった俺は、弾き返されるようにして勢いよく尻もちをついた。
「痛っ……!」
石畳に打ったお尻をさすりながら、俺は「ごめんなさい」と言おうとして、ぶつかった相手を見上げた。
その瞬間。
俺の頭の中で、何かが完全にショートした。
(……っ!!!)
目の前にいたのは、目を疑うほど綺麗な人だった。
背中まで伸びる、艶やかな漆黒の髪。空の色をそのまま閉じ込めたような、透き通るアイスブルーの瞳。
俺の母さんも綺麗だと思うし、いつも一緒にいるミカサだって可愛い顔をしてるとは思う。
でも、目の前の人は次元が違った。
おとぎ話に出てくる女神様が、そのまま絵本から抜け出してきたんじゃないかと思うくらい、完璧な顔立ちをしていたのだ。
その人は、俺と同じ目線になるようにスッとその場でしゃがみ込んでくれた。
サラリと肩にこぼれた黒髪を、白くて細い指でそっと耳にかける。
ただそれだけの仕草なのに、心臓がドクンッ、と大きく跳ねた。
隣には金髪のすごく綺麗な女の人も立っていて、一瞬だけ物凄く冷たい目で睨まれたような気がしたけれど、そんな恐怖すら吹き飛んでしまうほど、目の前の『女神様』の存在感は圧倒的だった。
「大丈夫? 怪我は無い?」
かけられた声は、信じられないくらい優しくて、甘い響きを持っていた。
至近距離で見つめられ、俺に向けて信じられないくらい綺麗で、優しさに満ちた微笑みを向けられる。
ふわっと、今まで嗅いだことのないような、お花畑みたいな良い匂いが鼻先を掠めた。
「あ……えっと、その……!」
言葉が出ない。喉がカラカラに乾いて、呼吸の仕方すら忘れてしまったみたいだ。
顔がカッと熱くなるのが自分でも分かった。
耳の先から首の根元まで、一気に血が上って茹でダコみたいになっているはずだ。
差し出されたその白くて綺麗な手を取るなんて、今の俺には絶対にできない。
触れたらバチが当たるんじゃないかと思うくらい、彼女は美しすぎた。
「だ……大丈夫……です……っ! ……ご、ごめんなさい!!!」
俺はパニックになり、ひっくり返りそうな声でそう叫ぶと、弾かれたようにその場から立ち上がった。
そして、逃げるように───いや、完全に逃走する形で、元来た道を猛ダッシュで逆走した。
「あ、ちょっとエレン!? そっちに戻ったらミカサが─」
「うおおおおおおおおっ!!!」
アルミンの戸惑う声を置き去りにして、俺は角を曲がってきたミカサの横を、尋常ではない速度で通り抜けた。
「エレン? どこへ行くの」
「あああああっ!!」
鬼ごっこのことなんて、完全に頭から消し飛んでいた。
ただ、心臓が爆発しそうなほど高鳴り続けている。
あんな綺麗な人が、このシガンシナ区にいたなんて。
俺は真っ赤になった顔の熱を風で冷ましながら、自分の身に起きた突然すぎる出来事に、ただただ混乱したまま走り続けるのだった。
本日19時にもう一話更新します。