進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百十六話

「ハァッ、ハァッ……! 早くしろよ、アルミン! この角を曲がって路地裏に入れば、いくらミカサでも撒けるはずだ!」

 

 

「無理だよ、エレン……っ! ぜぇ、ぜぇ……ミカサ、全然足音、遠ざかってないよぉ……!」

 

 

 

シガンシナ区の入り組んだ石畳の路地を、俺は息を切らしながら全力で駆け抜けていた。

 

 

 

背後からは、肺を限界まで酷使して半泣きになっているアルミンの声と……そして、全く乱れのない、一定のペースでひたひたと距離を詰めてくる恐ろしい足音が聞こえてくる。

 

 

 

チラリと後ろを振り返ると、アルミンからさらに数メートル後ろに、マフラーを巻いたミカサが、文字通り『無表情で、一滴の汗も流さずに』こちらを追走してきているのが見えた。

 

 

 

「くそっ、なんだよあいつ! どんだけ体力あんだよ!」

 

 

今日こそは俺の足とシガンシナ区の地の利で勝ってやると思い、勢いで始まった鬼ごっこ。

 

 

 

だが、結果は火を見るより明らかだった。

 

あいつは普通の女の子じゃない。

 

薪を背負ったまま俺より早く走るような、規格外のバケモノなのだ。こんな無謀な追いかけっこ、最初から勝てるわけがなかった。

 

 

 

「でも、今日こそは俺が勝つ……! アルミン、あそこの狭い路地に入るぞ!」

 

 

「えぇ!? ちょっと待ってよエレン、前見て───!」

 

 

アルミンの制止する声が耳に届いたのは、俺が見通しの悪い街角を勢いよく曲がろうと、前を向かずに突っ込んだその瞬間だった。

 

 

ドンッ!

 

 

「わっ!」

 

俺の頭上から、女の子の情けないような、変な声が降ってきた。

 

 

何かに───それも、とても柔らかくて、すごくいい匂いのするものに真正面からぶつかった俺は、弾き返されるようにして勢いよく尻もちをついた。

 

 

「痛っ……!」

 

石畳に打ったお尻をさすりながら、俺は「ごめんなさい」と言おうとして、ぶつかった相手を見上げた。

 

 

 

その瞬間。

 

 

俺の頭の中で、何かが完全にショートした。

 

 

(……っ!!!)

 

目の前にいたのは、目を疑うほど綺麗な人だった。

 

 

 

背中まで伸びる、艶やかな漆黒の髪。空の色をそのまま閉じ込めたような、透き通るアイスブルーの瞳。

 

 

 

俺の母さんも綺麗だと思うし、いつも一緒にいるミカサだって可愛い顔をしてるとは思う。

 

 

 

でも、目の前の人は次元が違った。

 

おとぎ話に出てくる女神様が、そのまま絵本から抜け出してきたんじゃないかと思うくらい、完璧な顔立ちをしていたのだ。

 

 

 

その人は、俺と同じ目線になるようにスッとその場でしゃがみ込んでくれた。

 

 

 

サラリと肩にこぼれた黒髪を、白くて細い指でそっと耳にかける。

 

 

ただそれだけの仕草なのに、心臓がドクンッ、と大きく跳ねた。

 

 

隣には金髪のすごく綺麗な女の人も立っていて、一瞬だけ物凄く冷たい目で睨まれたような気がしたけれど、そんな恐怖すら吹き飛んでしまうほど、目の前の『女神様』の存在感は圧倒的だった。

 

 

 

「大丈夫? 怪我は無い?」

 

 

かけられた声は、信じられないくらい優しくて、甘い響きを持っていた。

 

 

 

至近距離で見つめられ、俺に向けて信じられないくらい綺麗で、優しさに満ちた微笑みを向けられる。

 

 

 

ふわっと、今まで嗅いだことのないような、お花畑みたいな良い匂いが鼻先を掠めた。

 

 

「あ……えっと、その……!」

 

 

言葉が出ない。喉がカラカラに乾いて、呼吸の仕方すら忘れてしまったみたいだ。

 

 

顔がカッと熱くなるのが自分でも分かった。

 

 

耳の先から首の根元まで、一気に血が上って茹でダコみたいになっているはずだ。

 

 

 

差し出されたその白くて綺麗な手を取るなんて、今の俺には絶対にできない。

 

触れたらバチが当たるんじゃないかと思うくらい、彼女は美しすぎた。

 

 

 

「だ……大丈夫……です……っ! ……ご、ごめんなさい!!!」

 

 

俺はパニックになり、ひっくり返りそうな声でそう叫ぶと、弾かれたようにその場から立ち上がった。

 

 

 

そして、逃げるように───いや、完全に逃走する形で、元来た道を猛ダッシュで逆走した。

 

 

「あ、ちょっとエレン!? そっちに戻ったらミカサが─」

 

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

アルミンの戸惑う声を置き去りにして、俺は角を曲がってきたミカサの横を、尋常ではない速度で通り抜けた。

 

 

「エレン? どこへ行くの」

 

「あああああっ!!」

 

鬼ごっこのことなんて、完全に頭から消し飛んでいた。

 

 

ただ、心臓が爆発しそうなほど高鳴り続けている。

 

 

 

あんな綺麗な人が、このシガンシナ区にいたなんて。

 

 

 

俺は真っ赤になった顔の熱を風で冷ましながら、自分の身に起きた突然すぎる出来事に、ただただ混乱したまま走り続けるのだった。

 

 




本日19時にもう一話更新します。
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