進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百十七話

845年2月13日

 

 

あの日、シガンシナ区の路地裏でとんでもない女神様とぶつかってから、あれこれと数日が経った。

 

 

 

その間、俺はミカサやアルミンと一緒にいても、ずっと上の空だったと思う。

 

 

 

頭の中は、あの黒髪の綺麗なお姉さんのことでいっぱいだったからだ。

 

 

 

街の噂はあっという間に広まっていた。

 

 

 

あの超絶綺麗なお姉さんは「アトラス・ベニア」という名前で、なんとあの調査兵団の英雄、一個旅団を一人でなぎ倒す『鬼神』リーシェさんと一緒にこの街の中央に移り住んできたらしい。

 

 

近所のおばさんたちは、井戸端会議でひそひそと、でもどこか誇らしげに語っていた。

 

 

「本当に綺麗で良い人たちだけど、英雄様たちはゆっくり休養されてるんだから、無闇に近づいていって迷惑かけちゃ駄目よ、エレン」

 

そう釘を刺されたけれど。

 

 

 

……俺は、どうしても我慢出来なかった。

 

 

あの日会ったあの人が本当に実在するのか。ただの白昼夢じゃなかったのか。

 

 

 

もし本当にいるなら、まずはちゃんとぶつかった事を謝りたい。

 

 

あの時は逃げるように走り去ってしまったから、すごく失礼なことをしてしまった。

 

 

 

……いや、分かってる。こんなのは、ただの口実に過ぎないってことを

 

 

あわよくば、もう一度お話して、仲良くなりたい。

 

 

 

あの日鼻先を掠めた、あの信じられないくらい甘くて良い香りを、もう一度間近で嗅ぎたい。

 

 

 

そんな、年頃の男としてのどうしようもない欲望が、俺の背中を力強く押していたのだ。

 

 

 

俺は今、シガンシナ区の中央にある、少し大きめで綺麗な一軒家の前に立っている。

 

 

「ふぅーっ……」

 

大きく息を吸い込み、乱れそうになる心拍を必死に整える。

 

 

緊張で手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。

 

 

 

ズボンの生地でそれをゴシゴシと拭き取り、俺は覚悟を決めて、年季の入った厚い木の扉を数回ノックした。

 

 

コンッ、コンッ

 

「す、すみません! ベニアさんはいらっしゃいますか!?」

 

 

裏返りそうになるのを必死に堪えながら、少し大きめの声で呼びかける。

 

 

すると

 

「はーい」

 

中から、足音と共に小気味の良い声が聞こえた。

 

 

 

ドクンッ、と心臓が跳ね上がった。

 

 

 

あの人だ。昨日から今日まで、寝ても覚めてもずっと俺の脳内で再生され続けていた、鈴を転がしたようなあの人の声。

 

 

 

カチャリ、とノブが回り、扉がゆっくりと、しかし確かに開かれる。

 

 

 

「どちら様で──あっ……君はあの時の……」

 

 

扉の隙間から顔を出したのは、やはりあの『女神様』だった。

 

 

そしてその瞬間、室内の匂いなのか、それともお姉さん自身の匂いなのかは分からないが、中からふわりと、頭が甘く溶けてしまいそうな程に優しい花の香りが漂ってきた。

 

 

 

俺はもう、その瞬間から頭の中が真っ白になってしまった。

 

 

 

だけど、ここまで来て何も言わずに逃げるわけにはいかない。男として、何か言わなくちゃいけなくて。

 

 

「あっ! あの! 昨日はごめんなさい!」

 

俺は勢いよく頭を大きく下げた。

 

 

 

何について謝っているのかなんて主語を完全にすっ飛ばして、とにかく謝罪の言葉だけが弾かれたように口をついて出ていた。

 

 

すると、深く下げた俺の頭の上から、まるで神の啓示の如く美しい声音が降ってきた。

 

 

「ふふっ……良いんだよ。君の方こそ大丈夫だった? 勢い良く尻もち着いてたけど?」

 

 

ああ、なんて優しい人なんだ。

 

 

謝罪の言葉も足りていない怪しいガキを許すどころか、俺の身を案じて心配してくれている。

 

 

 

ただでさえ綺麗な人が、そんな信じられないくらい優しい言葉をかけてくれるものだから、俺はなんだか胸の奥がギュッとなって、涙が出そうになるのを必死に堪えなければならなかった。

 

 

 

「だ、大丈夫です! 俺っ! 頑丈なんで!」

 

 

少しでも格好良く、強そうに見せるために、思わずそんな強がりな言葉が飛び出してしまう。

 

 

本当は尻もちをついたお尻はしばらくジンジン痛かったのに。

 

 

俺が顔を上げると、お姉さんはホッとしたように、花が咲くような柔らかい笑みを浮かべた。

 

「そっか、良かったぁ……」

 

そして、何かを思いついたようにポンッと手を打ち合わせる。

 

 

「あっそうだ。良かったら上がっていって? 今、リーシェとクッキーを焼いたところなんだよね」

 

 

そう言うと、お姉さんは開け放たれた扉の奥に向かって、明るい声で呼びかけた。

 

 

「リーシェー! あの時の子が来たから、家に上げるねー!」

 

「えぇ!?」

 

奥の部屋から、ガチャン! と何か硬いものを落としたような音と共に、ものすごく驚いた様子の、そしてどこか不機嫌そうな女性の声が聞こえてきた。

 

 

(……え? ちょっと待ってくれ)

 

俺は、今の状況が上手く処理できずに完全にフリーズしていた。

 

 

俺、今からこの家に入るのか!?

 

 

 

こんな信じられないくらい良い匂いがする家に!?

 

 

 

こんな超絶綺麗なお姉さんと一緒に!?

 

 

 

その上、手作りのクッキーまでご馳走になるって!?

 

 

呆然と立ち尽くしている俺の右手を、お姉さんの手がそっと握った。

 

 

 

すべすべで、信じられないくらい柔らかくて、それでいてとても暖かな白い手。

 

 

その手に優しく引かれ、俺はまるで夢の中にいるようなフワフワした足取りで、家の中へと引き入れられた。

 

 

 

玄関の土間を上がりながら、お姉さんは俺の方を振り返り、優しく微笑みかけた。

 

 

「私の名前はアトラス。アトラス・ベニアだよ───君の名前は?」

 

 

そのアイスブルーの瞳に真っ直ぐに見つめられ、俺は目を丸くしたまま、最高に情けない、だらしない表情で答えてしまった。

 

 

「エレン……イェーガーです……」

 

俺がそう名乗ると、アトラスさんは花のような可憐な表情でこてんと小首を傾げた。

 

 

 

「エレン君だね。よろしくね」

 

その一言と破壊力抜群の笑顔を前に、俺の脳の処理能力は完全に限界を突破し、ただただ真っ赤な顔でコクリと頷くことしかできなかった。

 

 

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