進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百二十五話

 

 

 

 

どれくらいの間、あそこで涙を流していただろうか。

 

 

 

ひとしきり泣き晴らした私の顔は、酷く情けなく、ひどく腫れ上がっていたはずだ。

 

 

それでも、あのアトラスという名の女性は、最後まで慈愛に満ちた微笑みを崩さず、伴侶であるリーシェと共に玄関先まで私を見送ってくれた。

 

 

「お気をつけて、グリシャさん。またいつでも遊びにいらしてくださいね」

 

「坊やによろしくね。また良い絵が描けたら見せに来るよう伝えてちょうだい」

神のような美貌を持つ二人の女性に手を振られ、私は何度も深く頭を下げてから、ベニア邸を後にした。

 

 

シガンシナ区の石畳を歩く。

 

 

空はすでに茜色から深い藍色へと移り変わりつつあり、初夏の心地よい夜風が、涙で濡れた私の頬を優しく撫でていった。

 

(……軽い)

ふと、自身の足取りの軽さに驚愕する。

 

 

比喩ではない。物理的に、そして精神的に、私の全身を縛り付けていた鎖が跡形もなく消え去っていたのだ。

 

 

『進撃の巨人』を継承して以来、私の体内には常に残酷な時計の針の音が響いていた。

 

 

ユミルの呪い──13年という絶対的な寿命の制限。

 

 

残された時間の中で、壁の王から始祖を奪い、復権派の悲願を達成しなければならないという強迫観念が、私の胃を、心を、絶えず削り続けてきた。

 

 

それが今、完全に沈黙している。

 

 

彼女の手が私に触れたあの数秒間。

 

 

巨人の血がもたらす重圧も、すべてが幻であったかのように消え失せた。

 

「第十の巨人化能力者……独自の『道』……」

 

 

呟いた自分の声が、夜風に溶ける。

 

 

エルディアの長い歴史において、九つの巨人以外の存在など聞いたこともない。

 

 

ましてや、始祖ユミルの座標そのものを無理矢理介入し、対象を自分の管理下に上書きするなど、神の御業としか言いようがなかった。

 

 

彼女は一体何者なのか。

 

その正体は依然として謎のままだが……一つだけ確かなことがある。

 

 

彼女は、私たち家族を『凄惨な運命』から救い出してくれた恩人だ。

 

 

(エレン……)

息子の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 

本来であれば、私は壁が破られた日、王族を惨殺して始祖を奪い、何も知らない幼い息子に巨人化の注射を打ち、自身を食い殺させるつもりだった。

 

 

それが、未来の記憶が示す唯一の『進撃』の道だったからだ。

 

 

そんなおぞましい業を、愛する息子に背負わせる恐怖と罪悪感に、私は毎夜苛まれてきた。

 

 

だが、未来は変わったのだ。

 

 

『彼、きっと将来歴史に残りますよ──天才画家として』

 

 

アトラスの言葉が、脳内で温かく反響する。

 

 

確かに最近のエレンは、人が変わったようにカンバスに向かい、猛烈な勢いで筆を走らせている。

 

 

 

王都の貴族から贈られたという高級な画材を手に、何かに憑りつかれたかのように『美』を描き出そうとするその姿には、

 

かつての「壁の外に出たい」という危うい憧れは消え失せ、純粋な情熱だけが満ちていた。

 

 

私には、息子が具体的に何を描いているのか(なぜか完成した絵を絶対に見せてくれないのだ)は分からない。

 

 

 

だが、あのアトラスが『天才画家』と太鼓判を押すほどの才能を開花させているのなら、親としてこれほど喜ばしいことはない。

 

 

血塗られた自由の闘士ではなく、人々の心を打つ芸術家としての道。

 

 

彼がそんな平和な未来を歩めるというのなら、私は喜んで彼を応援しよう。

 

 

(カルラも……死なずに済む……)

マーレの戦士たちによる壁の破壊。

 

 

その日を、アトラスは未然に防ぐと断言した。

 

 

あの彼女の瞳には、一切の迷いも嘘もなかった。

 

 

私の愛する妻が巨人に喰われる未来は、もう来ない。

 

 

気がつけば、私の足は自然と早歩きになっていた。

 

 

早く帰りたい。早く彼らの顔が見たい。

 

 

『先ずは…グリシャさんの妻と子供達を目一杯、愛してあげてください』

 

 

アトラスのその言葉が、私の胸の最も深い部分を温かく満たしている。

 

 

エルディア復権派としての使命や、偽りの王政との闘い。

 

 

それは確かに残っているし、いずれ私が彼女の隣で果たすべき役割があるのだろう。

 

だが、今は

 

 

今だけは、ただの「父親」として、そして「夫」として、取り戻した長い人生を彼らと共に歩むことが許されたのだ。

 

 

見慣れた我が家の明かりが見えてきた。

 

 

 

扉の向こうからは、カルラが夕飯の支度をする温かい匂いと、エレンやミカサの微かな話し声が漏れ聞こえてくる。

 

 

 

私は、目尻に滲んだ涙を袖で乱暴に拭い、大きく深呼吸をした。

 

 

 

そして、これまでのどの瞬間よりも軽やかな手つきで、我が家の扉を開け放った。

 

「……ただいま。カルラ、エレン、ミカサ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長きにわたる呪いから解放された男の、本当の意味での『新しい人生』が、この穏やかな夜から静かに幕を開けたのだった。

 

 

 

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